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2004.10.24〜最新更新日2006.08.10
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○ 大判大正1.12.20民録18巻1066頁 (判決要旨) 1 請負工事ノ履行不能カ注文者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ原因シタルトキハ請負人ハ自己ノ債務ヲ免レタルニヨリテ得タル利益ヲ注文者ニ償還スルコトヲ要スルモ請負ノ報酬ヲ受クル権利ハ之ヲ失フコトナシ 2 請負工事ノ履行不能カ請負人ノ責ニ帰スヘキ事由ニ原因シタルトキハ注文者ハ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ルモ請負人ノ既ニ為シタル工事ノ部分ニ対シ報酬ノ幾部ニ相当スル金額ノ支払ヲ免スルコトヲ得ス 3 請負人カ既ニ為シタル工事ニ瑕疵アリタルトキハ注文者ハ其瑕疵ニ付キ損害賠償ヲ請求シ又同時ニ履行ノ抗弁ヲ為スコトヲ得ルモ其抗弁ニ因ラスシテ漫然報酬ノ支払ヲ拒ムコトヲ得サルモノトス |
○ 大判大正3.12.26民録20巻1208頁 (判決要旨) 請負人カ自己ノ材料ヲ以テ注文者ノ土地ニ建物ヲ築造シタルトキハ当事者間ニ別段ノ意思表示ナキ限リ其建物ノ所有権ハ請負人ヨリ之カ引渡ヲ為シタル時ニ於テ始メテ注文者ニ移転スルモノトス (判決理由抜粋) 「請負人カ自己ノ材料ヲ以テ注文者ノ土地ニ建物ヲ築造シタル場合ニ於テハ 当事者間ニ別段ノ意思表示ナキ限リハ 其建物ノ所有権ハ 材料ヲ土地ニ附着セシムルニ従ヒ 当然注文者ノ取得ニ帰スルモノニ非スシテ 請負人カ建物ヲ注文者ニ引渡シタル時ニ於テ始メテ注文者ニ移転スルモノトス 是レ本院判例(明治三十七年(オ)第二八六号同年六月二十二日判決)ノ示ス所ナリ 蓋此場合ニ於テハ 建物ハ全然請負人ノ供給シタル材料及ヒ労力ニ因リテ成リタルモノニ係リ 且請負契約ノ性質上特約ナキ限リハ請負人ハ其建物ヲ注文者ニ引渡スニ非サレハ債務完了セス 之ヲ引渡スニ因リテ始メテ債務完了シ注文者ニ対スル報酬支払ノ請求権発生スヘク 尚ホ建物ヲ引渡スマテハ之ニ関スル危険ハ請負人ノ負担ニ属シ 引渡ニ因リテ始メテ注文者ノ負担ニ帰スヘキ関係等ニ鑑ミ 又建物ハ土地ニ附着スルモ独立シタル別箇ノ不動産ヲ成シ其土地ノ従トシテ附合スルコトヲ認メサル我法制ニ照シテ考フレハ 本院判例ノ旨趣ハ之ヲ是認スルヲ相当トシ 未タ之ヲ変更スヘキ理由アルヲ見ス」 (実友編者:読み易さを考慮し,区切りにスペースを挿入) |
○ 最高裁二小判昭和36.7.7民集15巻7号1800頁,判例解説民事篇昭和36年度264頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求と損害額算定の基準時 (判決要旨) 請負契約における仕事の目的物の瑕疵につき,請負人に修補を請求したが,これに応じないので,修補に代わる損害の賠償を請求する場合においては,右修補事実の時を基準として損害の額を算定するのが相当である。 |
○ 最高裁二小判昭和37.12.14 昭和34(オ)213 損害賠償請求(第16巻12号2368頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 下請負人の被用者の不法行為につき元請負人が民法第715条の責任を負うための要件。 (判決要旨) 元請負人が下請負人に対し工事上の指図をしもしくはその監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場合であつても、下請負人の被用者の不法行為が元請負人の事業の執行につきなされたものとするためには、直接間接に被用者に対し元請負人の指揮監督関係の及んでいる場合に加害行為がなされたものであることを要する。 |
○ 最高裁二小判昭和42.10.27 昭和42(オ)186 譲渡債権請求(第21巻8号2161頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 未完成仕事部分に関する請負報酬金債権の譲渡後に生じた仕事完成義務不履行を事由とする請負契約の解除をもつて右債権の譲受人に対抗することができるとされた事例 (判決要旨) 未完成仕事部分に関する請負報酬金債権の譲渡について、債務者の異議をとどめない承諾がされても、譲受人が右債権が未完成仕事部分に関する請負報酬金債権であることを知つていた場合には、債務者は、右債権の譲渡後に生じた仕事完成義務不履行を事由とする当該請負契約の解除をもつて譲受人に対抗することができる。 (参照条文) 民法468条 |
○ 最高裁二小判昭和44.9.12判例時報572号25頁 (判示事項) 請負契約に基づき建築された建物所有権が原始的に注文者に帰属するものと認められた事例 (参照条文) 民法632条 (判決理由抜粋) 「原審の適法に確定したところによれば,本件建物を含む4戸の建物の建築を注文した被上告人は,これを請け負った上告人甲に対し,全工事代金の半額以上を棟上げのときまでに支払い,なお,工事の進行に応じ,残代金の支払をして来たというのであるが,右のような事実関係のもとにおいては,特段の事情のないかぎり,建築された建物の所有権は,引渡をまつまでもなく,完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと解するのが相当であるから,これと同旨の見地に立ち,本件建物の所有権は,昭和39年3月末以前の,それが建物として完成したと目される時点において被上告人に帰したものとした趣旨と解される原審の判断は正当であって,この点につき,原判決に所論の違法は認められない。」 |
○ 最高裁一小判昭和45.7.16 昭和42(オ)647 損害賠償請求(第24巻7号982頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 請負人が第三者に与えた損害につき注文者の注文または指図に過失が認められないとされた事例 (判決要旨) 請負人の施行した道路開設工事による落石のため第三者に損害を生じた場合において、右損害が注文者の作成した設計図および仕様書自体のかしによつて生じたものではなく、注文者は請負人に対し、落石等により損害を生ずることのないような措置を講ずべきことを要求し、これに要する費用を加算して請負代金額を決定し、請負人も、その趣旨を諒承して、自己の責任において事故防止の措置を講ずることを約して工事を引き受け、注文者の具体的指示によらず、自主的な判断によつて岩石の切捨てをしたものであり、注文者は、請負契約上、工事施行方法について判示のような指示監督の権限を有し、かつ、常時監督員を工事現場に派遣していたが、その目的はもつぱら工事が契約どおりに行なわれることを確保することにあつたなど判示の事実関係があるときは、注文者が、当初から右損害の発生のおそれのあることを予知していながら、損害防止に必要な措置を請負人に具体的に命ずることなく工事を注文し施行させたものであつても、注文者の注文または指図に過失があつたものと認めることはできない。 (参照条文) 民法716条 |
○ 最高裁二小判昭和46.3.5判例時報628号48頁 (判示事項) 請負人が材料全部を提供して建築した建物が完成と同時に,注文者の所有に帰したものと認められた事例 (参照条文) 民法632条 (判決理由抜粋) 「建物建築の請負契約において,注文者の所有または使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権は,建物引渡の時に請負人から注文者に移転するのを原則とするが,これと異なる特約が許されないものではなく,明示または黙示の合意により,引渡および請負代金完済の前においても,建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得するものと認めることは,なんら妨げられるものではないと解されるところ,本件請負契約は分譲を目的とする建物6棟の建築につき一括してなされたものであって,その内3棟については,上告人は訴外会社ないしこれから分譲を受けた入居者らに異議なくその引渡を了しており,本件建物を完成後ただちに引き渡さなかったのも,右3棟と別異に取り扱う趣旨ではなく,いまだ入居者がなかったためにすぎなかったこと,上告人は請負代金の全額につきその支払のための手形を受領しており,それについての訴外会社の支払能力に疑いを抱いていていなかったこと,上告人は,右手形全部の交付を受けた機会に,さきに訴外会社の代理人として受領していた右6棟の建物についての建築確認通知書を訴外会社に交付したことなど,原判示の確定した事実関係のもとにおいては,右確認通知書交付にあたり,本件各建物を含む6棟の建物につきその完成と同時に訴外会社にその所有権を帰属させる旨の合意がなされたものと認められ,したがって,本件建物はその完成と同時に訴外会社の所有に帰したものであるとする趣旨の原判決の認定・判断は,正当として是認することができないものではない。」 |
○ 最高裁一小判昭和47.3.23 昭和42(オ)647 昭和46(オ)126 損害賠償請求(第26巻2号274頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 請負契約の合意解除にあたり請負人が注文主に対し前払金返還債務を負担することを約した場合と請負人の保証人の責任 (判決要旨) 請負契約が合意解除され、その際請負人が注文主に対し請負契約上前払すべきものと定められた金額の範囲内で前払金返還債務を負担することを約した場合において、右合意解除が請負人の債務不履行に基づくものであり、かつ、右約定の債務が実質的にみて解除権の行使による解除によって負担すべき請負人の前払金返還債務より重いものではないと認められるときは、請負人の保証人は、特段の事情のないかぎり、右約定の債務についてもその責に任ずるものと解するのが相当である。 (参照条文) 民法446条,民法447条,民法545条,民法632条 |
○ 東京地裁判昭和48.7.16判例時報726号63頁 (判示事項) 報酬の具体的数額が未定の場合における請負契約の成否(積極) (判決要旨) 「前記認定のように,報酬額の決定等が後日の協議に委ねられていることも,請負契約の成立を否定する理由とはならない。もとより,請負契約は双務契約であるから,一方の仕事の内容は確定されていても,その対価たる報酬につきまったく取り決めがない場合は,請負契約は未成立というほかないが,被告(注文主)において仕事の対価として報酬を支払う旨の合意が明確である以上,その具体的数額が未決定であっても,請負契約の成立を認めて差支えない。この場合,当事者間の協議で後日報酬額の具体的金額が決定されればこの額により報酬支払債務が確定し,もし協議がととのわないときは,客観的に相当と認められる金額を報酬額として請負契約は成立したと解すれば足りる(このように,双務契約による債務の一方が金銭債務である場合,その具体的数額が未確定でも,当事者双方がその対価の支払を確定的に合意しており,単にその具体額の決定を後日に委ねたにすぎないと認められるときは,一般に契約自体の成立を認めてよい。例えば,建物を賃借する旨合意してその引渡を受け,賃料額は後日附近の相場を調査して協議の上定める,としたような場合,後日当事者双方で意見が一致しないため賃料が定まらないようなときに賃貸借契約不成立というのはいかにも不合理であろう。要は,対価の支払の確定的合意の有無によって決せられる。)したがって,原告としては,この段階でも,自らスライドを完成引渡すれば,客観的に相当額の報酬を請求できるわけである。」 (参照条文) 民法632条 |
○ 最高裁一小判昭和51.3.4民集30巻2号48頁,判例時報849号77頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 民法637条所定の期間の経過した請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺と同法508条 (判決要旨) 注文者が民法637条所定の期間の経過した請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺については、同法508条の類推適用がある。 (参照条文) 民法508条,634条2項,637条 (判決理由抜粋) 「おもうに,注文者が請負人に対して有する仕事の目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権は,注文者が目的物の引渡を受けた時から1年内にこれを行使するを要することは,民法637条1項の規定するところであり,この期間がいわゆる除斥期間であることは所論のとおりであるが,右期間経過前に請負人の注文者に対する請負代金請求権と右損害賠償請求権とが相殺適状に達していたときには,同法508条の類推適用により,右期間経過後であっても,注文者は,右損害賠償請求権を自働債権とし請負代金請求権を受働債権として相殺をなしうるものと解すべきである。けだし,請負契約における注文者の請負代金支払義務と請負人の仕事の目的物引渡義務とは対価的牽連関係にたつものであり,目的物に瑕疵がある場合における注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は,実質的,経済的には,請負代金を減額し,請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に等価関係をもたらす機能をも有するものであるから,瑕疵ある目的物の引渡を受けた注文者が請負人に対し取得する右損害賠償請求権と請負人の注文者に対する請負代金請求権とが同法637条1項所定の期間経過前に相殺適状に達したときには,注文者において右請負代金請求権と右損害賠償請求権とが対当額で消滅したものと信じ,損害賠償請求権を行使しないまま右期間が経過したとしても,そのために注文者に不利益を与えることは酷であり,公平の見地からかかる注文者の信頼は保護されるべきものであって,このことは右期間が時効期間であると除斥期間であるとによりその結論を異にすべき合理的理由はないからである。以上の解釈と異なる大審院判例(昭和3年(オ)第644号同年12月12日判決・民集7巻12号1071頁,法律評論18巻(上)民法428頁)は,変更されるべきである。 本件において,原審が適法に確定したところによれば,被上告人乙の上告人に対する本件損害賠償請求権と上告人の同被上告人に対する本件請負代金請求権とは,同被上告人が本件請負契約の目的物の引渡を受けた時から民法67状1項所定の1年の期間が経過する前である昭和45年3月末に相殺適状に達していたというのであるから,同被上告人が本件損害賠償請求権を自働債権とし本件請負代金請求権を受働債権としてした本件相殺の意思表示は,右期間経過後にされたものであっても,有効なものというべきである。」 |
○ 最高裁三小判昭和52.2.22民集31巻1号79頁,判例解説民事篇昭和52年度36頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 注文者の責に帰すべき事由により仕事の完成が不能になった場合における請負人の報酬請求権と利得償還義務 (判決要旨) 請負契約において仕事が完成しない間に注文者の責に帰すべき事由によりその完成が不能となった場合には,請負人は,自己の残債務を免れるが,民法536条2項により,注文者に請負代金全額を請求することができ,ただ,自己の債務を免れたことにより得た利益を注文者に償還すべきである。 (参照条文) 民法536条2項,632条 |
○ 東京高裁昭和52.5.9 判例時報858号62頁 (判示事項) 工事請負人の有する請負代金請求権と注文主の有する瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は,同時履行の関係にあるが,相殺は許される。 (参照条文) 民法505条,634条 (判決理由抜粋) 「ところで,一般に同時履行の抗弁権の付着する債権を自働債権とする相殺は許されないものと解され,本件の右両債権は民法第634条第2項により同時履行の関係にあるものとされているが,右請負代金債権と目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権は同一の請負契約より生ずる金銭債権であり,請負契約における注文者の請負代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであり,目的物に瑕疵がある場合における瑕疵修補に代わる注文者の損害賠償請求権は実質的,経済的には,請負代金を減額し,請負契約の当事者が相互に負う義務につき,その間に等価関係をもたらす機能を有するものであるから(昭和51年3月4日最高裁第一小法廷判決参照),右損害賠償債務と請負代金債務はその全額を相互に現実に履行させなければならない特別の利益があるものとは認められず,右両債務の相互の関係においては,その性質が相殺を許さないものと解するのは相当でない。右の理は,右の自働債権と受働債権の金額を比較して,その大小により結論を異にするものとは解されない。よって,一審被告の相殺の抗弁は理由があり,前認定の一審原告の損害賠償請求権中,右請負残代金61万1,643円に相当する部分は右相殺により消滅したものと認められる。 |
○ 最高裁一小判昭和53.9.21裁判集民事125号85頁,判例タイムズ907号54頁 (判示事項) 相互に債権額の異なる請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権とを相殺することの可否 (参照条文) 民法505条,533条,634条 (判決理由抜粋) 「請負契約における注文者の工事代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであり,瑕疵ある目的物の引渡を受けた注文者が請負人に対し取得する瑕疵修補に代る損害賠償請求権は,右法律関係を前提とするもので,実質的・経済的には,請負代金を減額し,請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に等価関係をもたらす機能を有するのであって(最高裁昭和50年(オ)第485号同51年3月4日第一小法廷判決・民集30巻2号48頁参照),しかも,請負人の注文者に対する工事代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代る損害賠償債権は,ともに同一の原因関係に基づく金銭債権である。以上のような実質関係に着目すると,右両債権は同時履行の関係にある(民法634条2項)とはいえ,相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとは認められず,両債権のあいだで相殺を認めても,相手方に対し抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならないものと解される。むしろ,このような場合には,相殺により清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない,法律関係を簡明ならしめるゆえんでもある。この理は,相殺に供される自働債権と受働債権の金額に差違があることにより異なるものではない。したがって,本件工事代金債権と瑕疵修補に代る損害賠償債権とは,その対当額による相殺を認めるのが相当であり,右と同旨の原判決は正当として是認することができる。」 |
○ 最高裁一小判54.1.25 昭和53(オ)872 家屋明渡(第33巻1号26頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 建築途中の未だ独立の不動産に至らない建前に第三者が材料を供して工事を施し独立の不動産である建物に仕上げた場合と建物所有権の帰属 (判決要旨) 建築途中の未だ独立の不動産に至らない建前に第三者が材料を供して工事を施し独立の不動産である建物に仕上げた場合における建物所有権の帰属は、民法246条2項の規定に基づいて決定すべきである。 (参照条文) 民法243条,民法246条2項 |
○ 最高裁二小判昭和54.2.2判例時報924号54頁,判例タイムズ396号77頁 (判示事項) 請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求と損害額算定の基準時 (判決理由抜粋) 「請負契約における仕事の目的物の瑕疵につき,注文者が請負人に対し,あらかじめ修補の請求をすることなく直ちに修補に代わる損害賠償の請求をした場合には,右請求の時を基準として損害賠償額を算定すべきものであると解するのが相当である。したがって,注文者が瑕疵修補に代わる損害賠償を請求したのち年月を経過し,物価の高騰等により請求の時における修補費用より多額の費用を要することとなったとしても,注文者は請負人に対し右増加後の修補費用を損害として右費用相当額の賠償の請求をすることは許されないものである。それゆえ,所論の点に関する原審の判断は,結論においてこれを是認することができ,原判決に所論の違法はない。」 (参照判例) 最高裁二小判昭和36.7.7民集15巻7号1800頁 |
○ 最高裁三小判昭和54.3.20判例時報927号184頁 (判示事項) 瑕疵の修補が可能な場合に,修補を請求することなく修補に代わる損害賠償を請求することの可否 (判決理由抜粋) 「仕事の目的物に瑕疵がある場合には,注文者は,瑕疵の修補が可能なときであっても,修補を請求することなく直ちに修補に代わる損害の賠償を請求することができると解すべく,これと同旨の見解を前提とする原判決に所論の違法はない。」 (参照条文) 民法634条 |
○ 最高裁三小判昭和54.3.20判例時報927号186頁 (判示事項) 1 対立する債権につき相殺計算をする場合における債権額確定の基準時 2 民法634条2項所定の損害賠償債権の発生時期と期限の定めの有無 (判決理由抜粋) 「相殺の意思表示は双方の債務が互いに相殺をすることに適するにいたった時点に遡って効力を生ずるものである(民法506条2項)から,その計算をするにあたっては,双方の債務につき弁済期が到来し,相殺適状になった時期を基準として双方の債権額を定め,その対当額において差引計算をすべきものである。本件についてこれをみるのに,自働債権である上告人の被上告人に対する債権は,民法634条2項所定の損害賠償債権であるから,上告人において注文にかかる建物の引渡を受けた時(原審の確定するところによれば,昭和48年12月25日である。)に発生したもので,しかも期限の定めのない債権としてその発生の時から弁済期にあるものと解すべく,他方,受働債権である被上告人の上告人に対する損害賠償債権は本件請負契約につき解除の効力を生じた昭和50年3月12日に発生したもので,この債権もまた期限の定めがないものとしてその発生と同時に弁済期が到来したものと解すべきである。そうすると,右両債権は昭和50年3月12日をもって相殺適状となったものであるから,上告人が昭和51年11月8日にした相殺の意思表示により,昭和50年3月12日に遡って相殺の効力を生じたものというべきである。」 (参照条文) 民法506条2項,634条2項 |
○ 最高裁一小判昭和58.1.20判例時報1076号56頁,判例タイムズ496号94頁 (判示事項) 造船の請負契約による建造船舶に比較的軽微な瑕疵があるが,その修補に著しく過分の費用を要する場合において,右修補に代えて改造工事費及び滞船料相当の金員につき損害賠償を請求することが許されないとされた事例 (判決理由抜粋) 「原審の適法に確定した事実関係によれば,本件曳船の原判示瑕疵は比較的軽微であるのに対して,右瑕疵の修補には著しく過分の費用を要するものということができるから,民法634条1項但書の法意に照らし,上告人は本件曳船の右瑕疵の修補に代えて所論改造工事費及び滞船料に相当する金員を損害賠償として請求することはできないと解するのが相当であり,これと結論において同旨の原審の判断は正当として是認するに足り,原判決に所論の違法があるということはできない。」 (参照条文) 民法634条1項但書,2項 |
○ 最高裁一小判62.11.26 昭和59(オ)521 財団債権(第41巻8号1585頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 請負人の破産と破産法五九条の適用 (判決要旨) 請負人が破産宣告を受けた場合には、当該請負契約の目的である仕事が請負人以外の者において完成することのできない性質のものでない限り、右契約について破産法五九条が適用される。 (参照条文) 破産法59条,民法632条 |
○ 福岡高裁判平成2.3.28判例時報1363号143頁 (判示事項) 建築設計管理業者がした設計行為について,商法512条による報酬請求が認められた事例 (判決理由抜粋) (病院建設には農地転用等の手続が必要であり,その条件が成就してから正式な契約を締結する意思であり,) 「本件設計監理に関する本契約締結の合意までは至っていなかったものと解するのが相当である。(略) 四 被控訴人憲朗に対する予備的主張−商人の報酬請求権(商法512条)の主張−について 1 商法512条は,商人がその営業の範囲内で他人のためある行為をしたときは,費用の償還請求のほか,相当の報酬請求権を有することを定める。右行為は必ずしも委託などの契約関係に基く必要はなく事務管理としての行為もこれに含まれるものと解される(尤も,事務管理としてした場合には,他人の委託などがないのであるから客観的にみても他人のためになす意思をもってなした行為と認められる場合であることを要する。)。更に,事務管理が成立するためには,義務なくして他人のために他人の事務の管理を開始すること,その開始にあたり本人の意思に反し,または本人に不利なことが明らかでないことを要件とする(民法697条,700条参照)。ここに他人のためというのは,実質的には他人の利益のためということであるが,しかし,その行為が結果として現実に他人の利益になったか否かは問わないものと解すべきである。尤も,事務管理においても管理者に善管注意義務をもって管理行為をすることが要求されるから,事務管理の開始後,管理行為が他人の意思に反し,又はその他人に不利なことが明らかとなったときは,右管理を速やかに中止すべき義務があることになる(民法700条参照)。(略) 4 以上に照らせば,本件においては,控訴人の本件設計行為は,被控訴人乙ひいては同丙の意思に則って,その利益のためになされたことは明らかであり,ただ結果としてその利益が同被控訴人に帰属しなかったというに過ぎず,従って控訴人の本件病院建築主たる被控訴人丙に対する事務管理ひいては商法512条による報酬請求権の発生は否定し難いものと思われる。 尤も,事務管理は,その継続中そうすることが他人の意思に反し又はその利益に反することが明らかとなった場合には,速やかに右管理を中止すべき義務あるものと解されることは前述のとおりである。本件では,控訴人が被控訴人らにおいて本件建築計画を断念したことを知ったのは,前記事実から昭和58年3,4月ころと推定されるところ,本件建築のため必要とされる実施計画の 本件設計行為が被控訴人らの利益のために,その意思に沿って開始され継続されたものとして,右の問題ひいては事務管理の成立を肯定的(但し,一部否定的であることは後述)に判断するのを相当とする。 |
○ 最高裁一小判平成3.4.11判例時報1391号3頁 (判示事項) 元請企業につき下請企業の労働者に対する安全配慮義務が認められた事例 (判決理由抜粋) 「右認定事実によれば,上告人の下請企業の労働者が上告人の神戸造船所で労務の提供をするに当たっては,いわゆる社外工として,上告人の管理する設備,工具等を用い,事実上上告人の指揮,監督を受けて稼働し,その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり,このような事実関係の下においては,上告人は,下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので,信義則上,右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は,正当として是認することができる。」 (参照条文) 民法1条U,415条,623条,632条,709条 (参考判例) 最高裁三小判昭和59.4.10民集38巻6号557頁 |
○ 東京地裁判平成3.6.14 判例時報1413号78頁 (判示事項) 1 建物建築請負契約において,「仕事の完成」が認められた事例 2 上記契約において,車庫に乗用車を入出庫させることができないこと等の瑕疵があるとされた事例 3 上記瑕疵が注文者の指図に基づく旨の主張が排斥された事例 4 上記』の修補が不能である場合の財産上の損害額の算定事例 5 注文者が除斥期間内に瑕疵の修補請求をしたときは,その期間経過後でも,瑕疵に伴う損害賠償請求をすることができるとされた事例 (参照条文) 民法632条,634条1項,636条,634条2項,637条 (判決理由抜粋) 1について (理由の第二)「二1 本件建物建築工事の完成について 被告会社が,遅くとも昭和62年4月中旬頃までに本件建物の建築工事が完成した旨主張するのに対し,原告は,右工事はまだ未完成であるとしてこれを争うので,以下この点について判断する。 思うに,請負契約の仕事の完成とは,いかなる程度をいうのか,ことに工事の瑕疵との区別について見解が岐れるところではあるが,当裁判所は,建築請負契約の場合,専ら請負工事が当初予定された最終の工程まで一応終了し,建築された建物が社会通念上建物として完成されているかどうか,主要構造部分が約定どおり施工されているかどうかを基準に判断すべきものと解する。 これを本件についてみるに,前示のとおり本件建物の建築工事は最終の工程が終了し,建物として使用し得る段階に達し,独立の不動産(建物)として登記能力を具え,現実にも既に保存登記され,原告もすでに引渡をうけてこれに入居して使用しているのであるから,契約の重要部分が社会通念上約旨に従って履行されているものと考えられ,建物として完成し,原告に引き渡されたものと解するのが相当である(もっとも,目的物の瑕疵が極めて重大であって,いちおう外形的には完成したが,主幹部分に重大な欠陥があり,現状では建物としての使用に堪えないなど,ほんらいの効用を有せず,注文者が目的物を受領しても何らの利益を得ない場合は,仕事が完成していない場合に準じて考える余地もないではないが,本件においてそのように認めるに足りる証拠もない。) すると,本件建物が完成していないことを理由にしては,原告は,被告会社に対し,請負代金の支払を拒むことはできないというべきである。」 2について (理由の第一)「なお,本訴の付調停中に本件乗用車より一回り小さい別の乗用車(コロナ)を使用して本件車庫の入出庫の実験がなされたが,辛うじて入出庫はできたものの,相当の運転技術を要するとともに,やはり車体の底部を擦る結果に終わった。 (証拠判断略) 右認定事実によれば,そもそも本件建物は違反建築であり,敷地面積や前面道路との関係で原告の期待するような車庫を建築することには相当な無理があったものと推認せざるをえないが,建築工事の専門家たる被告大谷は,そうした事情を十分知悉しながら,「本件乗用車が入出庫可能な車庫の施工」という工事内容を原告に対し保証し,結局それを実現できなかったのであるから,本件において設計図書等により本件建物の工事内容が必ずしも完全に明らかにしえないとしても,1階の採光不良の点も含めて,被告会社の実施した本件建物の工事は社会通念上最低限期待される性状を備えているもおんということはできず,この種契約に基づいてなされた工事としては受容されないもので瑕疵ある工事というべきである。 3について (上記に続き)「被告らは,仮に本件建物に原告主張の瑕疵があったとしても,それは発注者たる原告の指示に基づくものであり,被告会社が瑕疵担保責任を問われることはない( 民法636条但書)旨主張する。 しかしながら,ここで発注者の指示とは,拘束力をもつものでなければならず,単に発注者が希望を述べ,請負人がこれに従ったというだけでは,指示によったということはできない。実際問題として,発注者の希望の表明と指示との限界は微妙な問題があり,単に発注者の言動だけでなく,当該工事の内容,当事者の当該問題についての知識,従来の関係,それに至る経過などを総合的に判断して,請負人を拘束するものであったかどうかを判断するほかない。 また,発注者が誤った指示をした場合であっても,請負人がそのことを知っているときは,それを発注者に知らせ,それを改める機会を与えるべきである。それをせず,漫然とその指示に従い瑕疵工事をした場合,請負人は瑕疵担保責任を免れない(民法636条)のであって,請負人が建築工事の専門家として少しの注意を払えば知りえたのに,重大な過失によって知らず,誤った指示により工事をした場合も同様というべきである。 これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,本件乗用車の入出庫が可能な本件車庫の設置について,原告が,被告会社に対し,相当強い希望を表明したことは充分に窺われるけれども,発注者がその住宅である工事目的物に重大な関心をもち,素人なりにこれに関与するのは通常であることを考えると,話合いの結果本件車庫の工事が行われたことだけから指図によって右工事が行われたとは認められないし,仮に原告の右希望の表明をもって発注者の指図とみるとしても,請負人の代表者たる被告大谷は,建築工事の専門家として本件乗用車及び前面道路の位置・形状等物理的客観的に当時判明していた諸事情から,より慎重に本件車庫の設置の可否及びその構造等を決すべき注意義務があったのであり,被告大谷はこれを怠たり漫然と原告に右車庫の設置を安請け合いしたものと言われても致し方なく,この点で同被告には重大な過失があったといわざるをえない。 したがって,以上に認定説示したところによれば,指図責任に関する被告らの前記主張は採用するに由ないものというべきである。」 4について 「原告は,本件乗用車が入出庫可能な車庫を造るためには,一旦本件建物全体を取壊し,新規に建物を建て替えるしか修補方法はないとして,その場合新規に本件建物とほぼ同じ床面積・構造・仕様・品質の建物を建てるための,本件建物の取壊(撤去を含む。)工事費及び新規工事建築費等の損害賠償を請求している。 しかしながら,当裁判所は,原告の右主張のうち,建て替え費用は勿論建て替えを前提とする諸費用についても本件建物の瑕疵により原告の蒙った損害であるという部分は,到底採用しえないものであると考える。その理由は次のとおりである。 (一) 原告は,本件建物の瑕疵の修補が物理的に不可能でないことを前提に,その修補に要する費用(建て替え費用)等相当額を損害として主張しているものと解されるが,本件建物の瑕疵は,前示のとおり社会通念上修補不能であり,本件は,そもそも瑕疵修補の請求はできない事案である。 (二) 瑕疵修補の請求ができない場合に,注文者が請負人に対して請求しうる損害賠償の額は,一般的に言って,瑕疵を修補するために要する費用ということはできない。このことは,民法634条1項但書の趣旨からも明らかである。 (三) 民法635条但書により,建物やその他の土地の工作物については,契約の目的を達することができない瑕疵があっても,請負契約を解除することはできず,右規定は強行規定と解されているのに,建て替え費用等を損害と認めることは,実質的に契約解除以上の効果を認める結果になる。 (四) 瑕疵修補の請求ができない場合の損害賠償の額は,目的物に瑕疵があるためにその物の客観的な価値が減少したことによる損害を基準にして,これを定めるのが相当である。何故なら,右の考え方は財産上の損害のとらえ方について,請負人の担保責任,売主の瑕疵担保責任及び物の毀損による不法行為責任の全てに共通した理解を可能にするからである。 以上によれば,本件建物の瑕疵により原告の蒙った財産上の損害は,瑕疵があるために本件建物の客観的な交換価値が減少したことによる損害と解すべきであるから,原告主張の損害のうち,本件建物の建て替え費用及び建て替えを前提とする諸費用の損害賠償請求は全て理由がなく,失当といわざるをえない。」 5について 「六 瑕疵担保期間について 被告らは,本件請負契約書添付の民間建設工事標準請負契約約款(甲)第20条によれば,瑕疵担保責任の追求は,建物の引渡時点から1年内になされなければならない旨規定されているところ,本件で被告会社は昭和62年3月下旬に原告に建物完成引渡証明書を交付し,原告もその頃本件建物に引越しており,その時点で本件建物の引渡は完了しているので,本件で原告が被告会社に対し瑕疵担保責任を追求することは許されない旨主張する。 しかしながら,原告が本件車庫の引渡後終始一貫して被告会社に対しその修補請求をしていることは弁論の全趣旨に徴して明らかであり,また,被告大谷が,本件土地の敷地境のブロック塀を除去するなどして修補を試みたが奏功しなかったことは前記認定説示のとおりであって,一般に請負の仕事の目的物に瑕疵があり,これについてその引渡のときから1年 (除斥期間)以内に注文者から修補請求がなされ,その1年が経過したときには,その段階で修補請求にかかる瑕疵の内容は特定され,その有無の判定及び法律関係の確定も可能となるから,右修補を求められた瑕疵より生ずる債権については,もはや除斥期間の規定を適用する余地はないというべきである。したがって,その請求に基づく修補の工事が一応はなされたが,それが実効をあげず,当初の瑕疵がなお除去されていないような場合,その不十分の修補工事の終了ないしはその目的物の引渡(再度の引渡)のときから改めて右除斥期間が進行すると解するのは相当ではなく,すでに有効に行使された右修補請求権は一般の債権と等しくその目的達成までまたはその消滅時効が完成するまで存続すると解するのが相当であり,なお右のように修補請求に応じてなされた修補工事が実効をあげず,しかもその間に最初の引渡のときから1年の除斥期間が経過したような場合,注文者による担保責任の追求手段を当初選択した修補請求のみに限定すると,請負人の責に帰すべき事由によって他の追求手段を奪われる結果を生じ,衡平に反するから,右1年後でも,注文者は,右修補請求に代替する請求権すなわち残存する瑕疵の修補に代る損害賠償請求権はもとより,修補に附随して発生する請求権すなわち右修補工事に要した期間やその工事内容の如何によって損害発生の有無,程度が左右されるところの右修補とともにする損害賠償請求権の各行使も妨げられないと解するのが相当である。」 |
○ 広島地裁判平成5.5.28判例タイムズ857号187頁 (判示事項) 書籍の印刷製本請負契約の目的物に存する瑕疵が,これにより契約の目的が達せられないとまではいい難いとして,契約解除の効力が否定された事例 (被告が,原告の指示により修補し目的物を持参したが,請負契約を解除され,代金の返還を請求された事案) 「本件目的物の瑕疵は,書籍の印刷製本の過程で何らかの不手際があれば通常生じうるであろう不具合に過ぎす,必ずしも重大なものではなく,原告が主張するその他の瑕疵についても,仮にそれらがあつたとしても,全く新刊本としての体裁を整えていないものとまではいいがたいところである。また,右のような瑕疵は,修補がおよそ不可能であるとはいえず,しかも、被告の制作過程において,書籍の印刷製本を行うについて致命的な欠陥ないし不都合があり,被告による修補がおよそ期待しえないような状況にあるものともいえない。 また,修補が結果として未完成に終わつているのも,途中で原告からイラストや箱の差替えという指図がなされたことに原因の一端があることは明らかであつて,被告が修補を拒否したものでもなく,故意ないしは重大な過失によつて修補を遅らせたものともいいがたい。しかも,修補の過程において,被告は,結果はともかく,原告の要求や指図を忠実に実行しており,必ずしも不誠実な対応に終始したともいえない。したがつて,相当の期間を猶予されれば,被告において瑕疵の修補を十分に行いうる可能性があつたことは否定できないものと考えられる。(略) 以上の点からすると,本件目的物に瑕疵が存するために本件請負契約の目的が達せられないとまではいいがたく,原告は本件請負契約を解除できないものというほかない(原告としては,更に相当の期限を定めて修補とともに損害賠償を請求すべきである。)。 (参照条文) 民法634条,635条 |
○ 最高裁三小判平成5.10.19民集47巻8号5061頁,判例解説民事篇平成5年度(4月〜12月分)895頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 建物建築工事の注文者と元請負人との間に出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合と,一括下請負人が自ら材料を提供して築造した出来形部分の所有権の帰属 (判決要旨) 建物建築工事の注文者と元請負人との間に,請負契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合には,元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても,注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り,右契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する。(補足意見がある。) * 「出来形部分」とは,工事未完成の築造物をいう(判例解説)。 (参照条文) 民法632条 (判決理由抜粋) 「三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。けだし、建物建築工事を元請負人から一括下請負の形で請け負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものであるから、下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないからである。 これを本件についてみるのに、前示の事実関係によれば、注文者である上告人と元請負人である住吉建設との間においては、契約が中途で解除された場合には出来形部分の所有権は上告人に帰属する旨の約定があるところ、住吉建設倒産後、本件元請契約は上告人によって解除されたものであり、他方、被上告人は、住吉建設から一括下請負の形で本件建物の建築工事を請け負ったものであるが、右の一括下請負には上告人の承諾がないばかりでなく、上告人は、住吉建設が倒産するまで本件下請契約の存在さえ知らなかったものであり、しかも本件において上告人は、契約解除前に本件元請代金のうち出来形部分である本件建前価格の二倍以上に相当する金員を住吉建設に支払っているというのであるから、上告人への所有権の帰属を肯定すべき事情こそあれ、これを否定する特段の事情を窺う余地のないことが明らかである。してみると、たとえ被上告人が自ら材料を提供して出来形部分である本件建前を築造したとしても、上告人は、本件元請契約における出来形部分の所有権帰属に関する約定により、右契約が解除された時点で本件建前の所有権を取得したものというべきである。」 |
○ 最高裁三小判平成9.2.14民集51巻2号337頁,判例解説民事篇平成9年度(上)179頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払との同時履行を主張することの可否 (判決要旨) 請負契約の目的物に瑕疵がある場合には,注文者は,瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ,信義則に反すると認められるときを除き,請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは,報酬全額の支払を拒むことができ,これについて履行遅滞の責任も負わない。 (参照条文) 民法533条,634条,412条,1条2項 (判決理由抜粋) 「請負契約において,仕事の目的物に瑕疵があり,注文者が請負人に対して瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めたが,契約当事者のいずれからも右損害賠償債権と報酬債権とを相殺する旨の意思表示が行われなかった場合又はその意思表示の効果が生じないとされた場合には,民法634条2項により右両債権は同時履行の関係に立ち,契約当事者の一方は,相手方から債務の履行を受けるまでは,自己の債務の履行を拒むことができ,履行遅滞による責任も負わないものと解するのが相当である。しかしながら,瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み,右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは,この限りではない。そして,同条1項但書は「瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキ」は瑕疵の修補請求はできず損害賠償請求のみをなし得ると規定しているところ,右のように瑕疵の内容が契約の目的や仕事の目的物の性質等に照らして重要でなく,かつ,その修補に要する費用が修補によって生ずる利益と比較して過分であると認められる場合においても,必ずしも前記同時履行の抗弁が肯定されるとは限らず,他の事情をも併せ考慮して,瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するとして否定されることもあり得るものというべきである。けだし,右のように解さなければ,注文者が同条1項に基づいて瑕疵の修補の請求を行った場合と均衡を失し,瑕疵ある目的物しか得られなかった注文者の保護に欠ける一方,瑕疵が軽微な場合においても報酬残債権全額について支払が受けられないとすると請負人に不公平な結果となるからである(なお,契約が幾つかの目的の異なる仕事を含み,瑕疵がそのうちの一部の仕事の目的物についてののみ存在する場合には,信義則上,同時履行関係は,瑕疵の存在する仕事部分に相当する報酬額についてのみ認められ,その瑕疵の内容の重要性等につき,当該仕事部分に関して,同様の検討が必要になる。)」 そして,本件においては,請負契約の目的及び目的物の性質等に照らし,瑕疵の内容は重要でないとまではいえず,また,その修補に過分の費用を要するともいえない上,提訴に至るまでの当事者間の呼称経緯及び交渉態度をも勘案すれば,Yが瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって工事残代金債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するものとは言い難い。 |
○ 最高裁三小判平成9.7.15民集51巻6号2581頁,判例解説民事篇平成9年度(中)882頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 請負契約の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との相殺がされた後の報酬残債権について,注文者が履行遅滞による責任を負う場合 (判決要旨) 請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合,注文者は,相殺後の報酬残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。 (参照条文) 民法412条,506条2項,533条,634条2項 (判決理由抜粋) 「請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合,注文者は,請負人に対する相殺後の報酬残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うものと解するのが相当である。けだし,瑕疵修補に代わる損害賠償債権と報酬債権とは,民法634条2項により同時履行の関係に立つから,注文者は,請負人から瑕疵修補に代わる損害賠償債務の履行又はその提供を受けるまで,自己の報酬債務の全額について履行遅滞による責任を負わないと解されるところ(最高裁平成5年(オ)第1924号同9年2月14日第三小法廷判決・民集51巻2号登載予定),注文者が瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権として請負人に対する報酬債務と相殺する旨の意思表示をしたことにより,注文者の損害賠償債権を相殺適状時にさかのぼって消滅したとしても,相殺の意思表示をするまで注文者がこれと同時履行の関係にある報酬債務の全額について履行遅滞による責任を負わなかったという効果に影響はないと解すべきだからである。もっとも,瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ,右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するとして否定されることもあり得ることは,前掲第三小法廷判決の説示するところである。 (略) これを本件についてみるのに,上告人は,被上告人の報酬残債権請求に対して前記一3及び5の損害賠償債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するとともに,報酬残債務の全額が瑕疵修補に代わる損害賠償債権と同時履行の関係にあるから履行遅滞による責任を負わない旨を主張するものであるところ,右同時履行の主張が信義則に反すると認めるべき特段の事情のうかがわれない本件においては,上告人が平成3年3月4日に相殺の意思表示をするまでは上告人主張の右同時履行の関係があったものというべきであり,上告人は,右相殺後の報酬残債務について,右相殺の意思表示をした日の翌日である同月5日から履行遅滞による責任を負うものというべきである。」 |
○ 最高裁三小決平成10.12.18 平成10(許)4 債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告(第52巻9号2024頁) (最高裁HP該当判例) (判示事項) 1 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することの可否 2 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権の一部に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるとされた事例 (判決要旨) 1 請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる。 2 甲から機械の設置工事を請け負った乙が右機械を代金一五七五万円で丙から買い受け、丙が乙の指示に基づいて右機械を甲に引き渡し、甲が乙に支払うべき二〇八〇万円の請負代金のうち一七四〇万円は右機械の代金に相当するなど判示の事実関係の下においては、乙の甲に対する一七四〇万円の請負代金債権につき右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、丙は、動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができる。 (参照条文) 民法304条,民法322条,民法632条 |
○ 最高裁二小判平成15.10.10裁判所時報1349号2頁(全文),同1353号11頁(判例要旨) (判示事項) 請負契約における約定に反する太さの鉄骨が使用された建物建築工事に瑕疵があるとされた事例 (判決要旨) 建物建築工事の請負契約において,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,支柱について特に太い鉄骨を使用することが約定され,これが契約の重要な内容になっていたにもかかわらず,建物請負業者が,注文主に無断で,上記約定に反し,支柱工事につき約定の太さの鉄骨を使用しなかったという事情の下では,使用された鉄骨が,構造計算上,居住用建物としての安全性に問題のないものであったとしても,当該支柱の工事には,瑕疵がある。 |
○ 最高裁三小判昭和59.4.10民集38巻6号557頁 (最高裁HP該当判例) (判示事項) 宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事故につき会社に安全配慮義務の違背に基づく損害賠償責任があるとされた事例 (判決要旨) 会社が、夜間においても、その社屋に高価な反物、毛皮等を多数開放的に陳列保管していながら、右社屋の夜間の出入口にのぞき窓やインターホンを設けていないため、宿直員においてくぐり戸を開けてみなければ来訪者が誰であるかを確かめることが困難であり、そのため来訪者が無理に押し入ることができる状態となり、これを利用して盗賊が侵入し宿直員に危害を加えることのあるのを予見しえたにもかかわらず、のぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の盗賊防止のための物的設備を施さず、また、宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するなどの措置を講じなかつたなど判示のような事実関係がある場合において、一人で宿直を命ぜられた新入社員がその勤務中にくぐり戸から押し入つた盗賊に殺害されたときは、会社は、右事故につき、安全配慮義務に違背したものとして損害賠償責任を負うものというべきである。 (参照条文) 民法415条,623条 (判決理由抜粋) 「二 ところで、雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである。 そこで、以上の見地に立つて本件をみるに、前記の事実関係からみれば、上告会社の本件社屋には、昼夜高価な商品が多数かつ開放的に陳列、保管されていて、休日又は夜間には盗賊が侵入するおそれがあつたのみならず、当時、上告会社では現に商品の紛失事故や盗難が発生したり、不審な電話がしばしばかかつてきていたというのであり、しかも侵入した盗賊が宿直員に発見されたような場合には宿直員に危害を加えることも十分予見することができたにもかかわらず、上告会社では、盗賊侵入防止のためののぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の物的設備や侵入した盗賊から危害を免れるために役立つ防犯ベル等の物的設備を施さず、また、盗難等の危険を考慮して休日又は夜間の宿直員を新入社員一人としないで適宜増員するとか宿直員に対し十分な安全教育を施すなどの措置を講じていなかつたというのであるから、上告会社には、Aに対する前記の安全配慮義務の不履行があつたものといわなければならない。そして、前記の事実からすると、上告会社において前記のような安全配慮義務を履行しておれば、本件のようなAの殺害という事故の発生を未然に防止しえたというべきであるから、右事故は、上告会社の右安全配慮義務の不履行によつて発生したものということができ、上告会社は、右事故によつて被害を被つた者に対しその損害を賠償すべき義務があるものといわざるをえない。 三 してみれば、右と同趣旨の見解のもとに、本件において上告会社に安全配慮義務不履行に基づく損害賠償責任を肯定した原審の判断は、正当として是認することができ、原審の右判断に所論の違法はない。」 |