ブラックマンタはロケットか?

「イリアの空 UFOの夏」が終わってもうた・・・
ということで、toku的には注目している作家さんの一人、秋山瑞人さんの作品のひとつが終焉を迎えました。
多分にネタバレを踏む内容ですが、最終巻が出たところでひとつ振り返りましょう。

◆物語の概要◆

夏休み最後の日、夜学校のプールに忍び込んだ中学2年生浅羽直之は、そこで一人の不思議な少女と出会う。
手首に金属球を埋め込んだその少女、浅羽に名を問われた彼女は「いりあ・・・かな?」と首を傾げる。
夏休みが明けた日、浅羽のクラスに一人の転校生が現れる・・・それは「伊里谷加奈」と名乗るあの少女だった。
謎に包まれたいりあの行動、戦争をしているらしいのだが、どうにも状況が判然としない世界・・・たびたび目撃されるUFO。
超常現象マニアにして、中学生離れした知能と行動力を発揮する新聞部部長水前寺、謎の男、「榎本」。様々な事件や面々に振り回されながらも、浅羽は世界の真実を知ってしまう・・・その果てには・・・
日常との別れ、イリアの精神の破壊、挙句にはエイリアンとの最終戦争の真実とイリア(夏)との別れが待っていた・・・・
そして、浅羽は残酷なまでに平穏な「日常」に戻っていく。

殺すつもりで刺したのに(←ヒロイン、イリアの台詞です)

前作「ねこの地球儀」からですが、どうも、この作者、「イタイ」台詞が得意(?)なようです。他にも「こいつを殺そう。理由など何もいらない。もしくはなんだっていい。」などという物騒な描写もありますが、この作品の主人公たち、中学生くらいの年代ならふと思いつきかねない感情ではあります(世間的には”キレル”といっていいのか?)
ただ、4巻という長い物語も最後にイリアが言う台詞「浅羽のためだけに戦って、浅羽のためだけに死ぬ。」というこの一点を導き出すための物語と取れないこともないのですが……
拙作のコラムページでも触れていますが、少々マンガチックに感じられるところはあるものの、SF+青春+悲劇という部分では結構いい線いっている作品なのでは?とは思うのですが・・・
私個人としては、登場する人物のうち「榎本」という物語の鍵を握る人物の設定が密かなお気に入りだったりします。
全人類のためとはいえ、「自分たちが惨いことをしているという自覚があり、尚且つそのために地獄に落ちる覚悟を決めている大人」・・・実際にはこんな人物がいるかどうかは別にして、大人としてとる態度としては正しい答えのひとつなのでしょう。
だから、榎本は主人公浅羽を挑発したあげく、最後に本心を明かします。
「おれは最後にお前に殺されるんならそれでよかったんだよ。」と・・・

神様と悪魔は最初からグルなのだ

主人公浅羽は、世に絶対的な悪者のいない真実を呪います。
悪者のいない世界の真実は、正義の存在しないことよりもタチが悪い。
善意が人をより不幸にすることもあるし、全人類がイリアにかけた期待も裏を返せば「呪詛」となる・・・
お達者な同志諸君(?)くらいの年代の方になら、お分かりいただけるある種の苦い真実は、中学生浅羽を打ちのめします。
果たして、ライトノベルでここまで描いていいのか?というところまで、人間のどうしようもなさを描いているとも言えるこの作品。
本来のターゲットである10代の読者にどのように受け取られたのか?
各所のBBSを見る限り、おおむね「否定的」にとられているケースが目立つようです。
あのエンディングには納得できない!という方々の中には、SS(ショートストーリー)を自分たちで作って補完している方もいるようですが・・・まぁ、そういうのを検索するのも一興かも・・・。私はあれはあれでOK!でも、バッドエンドを拒否する10代というのも、何となく健全な精神が感じられて、それはそれでいいかなとも思います。
インターネットといえば、私こういうのを見つけました。どなたか試してみますか(笑)
http://plaza2.mbn.or.jp/~infinity_hm/tetsujin.htm
http://homepage2.nifty.com/zangu/diary/2002_0920.html
作中に出てくる「鉄人定食」の再現です。


※鉄人定食・・・作中第3巻「無銭飲食列伝」に登場する恐るべき大食いメニュー。作中では1人前、3000円にてオーダー可能だが、実際に作るとなると約15,000円のコストがかかるらしい・・・通(?)は略して「鉄定」、或いは「晶穂と同じの!」という(笑) なお、鉄定の内容は、餃子、ラーメン、中華丼のセット。餃子は大人の握りこぶし3個大のものが、5つ、ラーメンは麺だけで5玉〜7玉分、中華丼は鶏の卵が平然と軒を並べているという凄まじさ。当然、どんぶりもそのスケールに合った物。中身のスケールは言うまでもないでしょう・・・ヒロインいりあは、クラスメイトの晶穂と張り合って、これをすべて平らげるのだが・・・化け物か!!(笑)作中でこれを平らげた中学生は、いりあと晶穂と水前寺・・・

ライトノベルとしての在り方

この作品、色々賛否両論あるものの、ライトノベルとしての要件は満たしています。
なんだかんだといっても、主人公たちの台詞や行動には「萌え」狙いのところがありますし、プール掃除の場で悪ふざけをしたり、性的なものに関心を持ったり、というのは、この年代の「お約束」でしょう?(え、違うの?^_^;)
ただ、中学で「文化祭」というのは私的には大いに「?」でしたが・・・私が田舎ものなだけか?


最後に「イリアの空 UFOの夏」の情報を
「イリアの空 UFOの夏」全4巻
著者:秋山瑞人
イラスト駒都えーじ
出版;メディアワークス(電撃文庫)