「歯のはなし」


私は出身幼稚園で嘱託歯科医をしています。
この幼稚園では毎月幼稚園便りを配布されていて、
そのなかで歯やお口についてのコラム「歯のはなし」を書いています。
園児の保護者の方々を対象にしたコラムですが、一般の方にも興味を持って読んでいただけると思います。


<1> −歯の健康の基本はブラッシング!?−

 「虫歯はなぜできるの?」と尋ねると、「歯磨きが悪いからでしょ?」と皆さん答えて下さいます。それなら「正しく、しっかりとブラッシングをして下さい」で、話は終わってしまいます。でも、毎日食後にきちっとブラッシングをするのは、大変な事です。ではどうすれば良いのでしょうか? まず大事なことは、お口の中を良く知ることです。一般的に汚れが付着しやすい場所、そしてカラーテスト(歯に赤い染料で、歯の汚れがどこ付いているかを示す検査)をして、その子の汚れを落とすのが苦手なところを把握することです。一般的に汚れの付着しやすい所とは、3つあります。 @歯と歯の間 A歯と歯ぐきの境目 B噛み合わせの溝の3点です。また、乳歯が抜けて永久歯がはえかけている所もそうです。先日年長さんの検診を行ないましたが、下の前歯が生え替わっている方の何人かは、半分ぐらいはえてきている永久歯に、歯石の沈着を認めました。高さが低いため歯ブラシが当たりにくく、乳歯より裏側の形が複雑なため、汚れが落としにくいのです。
カラーテストに使う「染めだし液」は歯医者さんで購入することができるので、お家でもされてみてはどうでしょうか? 私は、「小学校中学年までは歯磨きのチェックは親御さんがしてあげてください。」と申し上げるのですが、カラーテストをして赤く染まった歯垢を、親子できれいこ取り除いて行きましょう。






<2> −どうやって磨けばいいの?−

 汚れを落とすブラッシングの方法はたくさんあります。それぞれ効果的に、かつ効率的に汚れが落ちるよう歯ブラシの当てる角度、動かす方法や量が、考案された高名な先生方によって決められています。お母さんたちが子どもの歯を磨いてあげる場合もそれに準じて行なわれるべきだとは思います。でも、その難しい方法論を私は述べるつもりはありません。どのやり方にも共通した要点というものがあります。それさえ押さえておけば良いのです。その要点とは何でしょうか?
まず、毛先がの表面に直角に当たるようにすることです。そのためには、毛先のはねた歯ブラシでは磨けないと言うことです。次は横磨きでかまいませんから歯ブラシを大きく動かさないことです。(せいぜい1〜2cm) 3番目はお口の中に見えている歯の面全てに、毛先を当てるつもりで磨くことです。つまり、すみずみまで磨くために小さめの歯ブラシを選ぶことです。最後は、「ぶくぶくうがい」をしっかり5回以上はすることです。良く「何分磨けば?」と尋ねられます。前回書いたカラーテストで、赤く染まった歯垢を取り除く時間を目安にすれば良いのですが、赤い染料をきれいに落とすのには結構時間がかかりますので、それよりは短くても良いようです。
細かなブラッシングテクニックは以上のことが出来て、まだそれでは不十分なときに覚えていただけば良いと思います。





<3> −「フッ素」ってなに?−

 
ご存知のように、フッ素は歯質と結びついて強くし、虫歯の予防に効果があります。そのため、歯みがき粉や洗口剤に配合したり、以前はフッ素入り水道水や内服薬なんかもありました。天然には、お番茶にフッ素は多く含まれていて、「お茶をよく飲む子は虫歯にならない」なんて結構信憑性の高い(?)俗説もありました。また、初期の虫歯の進行を止めるフッ素のお薬もありますが、今回は予防のためのフッ素塗布についてのお話です。
歯科医院では保健所の3歳児検診からの依頼や、状況に応じてフッ素塗布を行ないます。でも必要以上に用いても効果の得られない場合もあります。ただ言えることは、「いつフッ素塗布をするか?」です。乳歯でも永久歯でも、はえてすぐの頃が、一番フッ素の歯質への取り込みが多いと言われています。ですから、歯科医院でフッ素塗布を受けることが出来うる3歳頃、乳歯の虫歯予防のために保健所から依頼をされます。次は5〜6歳頃はえてきたばかりの永久歯にフッ素塗布を行なうと良いでしょう。
フッ素塗布の回数や期間、時期についてはかかりつけの先生と相談の上、指示に従うと良いでしょう。その医院で使っているお薬や、先生の考え方、お口の状況により異なるからです。でも正しいブラッシングが出来ていなければ、いくらフッ素塗布をしても虫歯にはなりますので、ご留意の程よろしくお願いします。





<4> −「指しゃぶり」について−

 もともと「指しゃぶり」は発育に伴う生理的なもので、ほとんどの乳児が行ない、加齢により自然としなくなるものです。そのため、小児科の先生は「指しゃぶり」と非医学的な表現をされますが、私たち歯科医師は「吸指癖」と病名のような表現をします。それは、年齢によって歯並びに影響を及ぼすこともあるためです。私たち歯科医師の立場から、その対応についての考え方をお話ししましょう。
 4歳半位までは、精神的及び家庭的な背景を考慮し、歯並びの定期検診のみをして行きます。4歳半以降のいわゆる年中さんになると、集団生活にも慣れ、友達との競争心にも芽生え、それを利用して言葉で言い聞かせるようにします。5歳までにやめられれば、程度にもよりますが、歯並びの狂いも自然に治るケースが多いようです。上下の歯がかみ合わないほど開いてしまった場合でも、この頃は言葉のアプローチに留め、前歯が生えかわってから(小学絞2年生頃)、矯正治療や筋訓練法(口に付髄する筋肉をいろいろな練習法により鍛え、歯並びを直すようすること:一般の歯科医院ではあまりやりません)で、対処します。
「指しゃぶり」はストレス等の精神的原因に依るものが多く、強制的にやめさせようとすると逆効果となる場合があります。そのため、小学校に上がってもまだやめられなかったり、歯並びが見て分かるぐらい狂ってしまったら、専門医に相談して下さい。





<5> −「食べ物」について−
 
 
虫歯のことだけ考えると、「1日に食ペる回数を減らす」ほうが良いのに決まっています。大人の方には「物を口にする度に歯を磨くことが無理であれば、出来るだけ間食を控え、お口の中に汚れが残っている時間を出来るだけ短くしましょう。」と指導するときもあります。でも、成長期の子供では話が違ってきます。消費カロリーや、一度に食べられる量が大人とは違うからです。かと言って、1日2回間食を摂るとして、1日5回大人の人に仕上げ磨き(小学校中学年までは仕上げ磨きが必要だと思います。)をして頂くのはまず不可能なことでしょう。でも、虫歯になっては困ります。ではどうすれば良いのでしょうか?
原始時代の人類は、現代のような歯磨きの習慣はありませんでした。しかし化石などを見ると、現代人よりはるかに虫歯が少ないのです。それはなぜでしょうか? 食事の回数も拳げられますが、それよりも食べ物の種類と質が違います。現代の食物は、栄養、消化、味を考慮した、大変口当たりが良く、おいしいものです。つまり簡単に噛めるため、噛む事によって生じるお口の自浄作用が働きにくく、また原始時代には無かった蔗糖(砂糖)が多く含まれているからです。
虫歯を作りにくい食品とはどのようなものでしょうか。それは、繊維成分が多く噛むことによる自浄作用が働きやすく、また蔗糖以外の果糖などで甘みを付けてある物が良いのです。それは果物や干し芋等が挙けられますが‥‥ でも、近頃の子供はあまり食べてくれませんよね。






<6> −「歯磨き粉」について−

 以前、患者さんのお母さんに「歯磨き粉は使った方が良いのでしょう? でもうちの子は辛がって嫌がるので、使っていません。だから虫歯になりやすいのでしょうか?」と言われたことがあります。このお母さんの言われたことは半分正しく、半分誤っています。その答えは、まず歯磨き粉、つまり歯磨剤(しまざい)の役目を理解すれば出てきます。
 歯磨剤を用いることにより、水だけでブラッシングするのに比べ、@汚れを落としやすくする Aお口をすっきりさせる Bいろいろな薬剤を配合することにより虫歯、歯槽膿漏等の予防効果を上げる 等の利点があります。でも@とBは使わないよりも効果が上がると言うことです。ですから、絶対使わなければいけない物では無いのです。
 歯磨剤の功罪は上に書きましたが、悪いことも有ります。@に付随して、歯を白くする効果の高いものはいわゆる「クレンザー」で、研磨剤がたくさん入っています。子供さんにはあまり関係が有りませんが、多量の使用と乱暴なブラッシングは歯をすり減らしてしまいます。
 お口をすっきりさせるには、正しいブラッシングが必要です。でも歯磨剤にはAのために香料が配合されており、いいかげんな歯磨きでも清涼感が得られてしまいます。これは、ある面欠点とも言えます。
 また、子供に対してと大人に対してでは、区別して考える必要があります。大人用はタバコのヤニや茶渋を落としたり、歯槽膿漏の進行を止めたりと、積極的にこれらの効果を考え、子供には不必要な役目も与えられています。
 子供さんに歯磨剤を使うことについて、私の考える一番の目的は「楽しく歯磨きをするため」です。子供用の歯磨剤も多数有り、何種類かを揃えることにより、「今日はいちご、明日はオレンジ」と、歯磨き嫌いの子が自分から歯磨きをしてくれるケースも多いのです。






<7> −ぼくがじぶんではをみがく!−

4歳から5歳頃、子供には「自立心」が芽生え始めると言われています。幼稚園の年中さんから年長さんの頃です。この頃は、集団生活にも慣れ、自尊心が強く、いわゆる「負けず嫌い」や「我が強い」子供もみられます。いままでお母さん達に歯磨きをしてもらっていた子も、幼稚園で歯磨きを習ったり、お友達から「私は自分で歯磨きしてるよ!」なんて聞くと、タイトルのようになる時があります。でもそれを頭ごなしに否定してしまうと自尊心が傷つき、歯磨き嫌いの子になるときがあります。かと言って任せられるほど歯磨きが上手な訳がありません。そこで「仕上げ磨き」を行なうわけです。NHKの「おかあさんといっしょ」の中の「♪しあげはおか〜あさ〜ん」と言うやつです。
子供の自尊心に、傷を付けないように持っていくのはお判りのことと思います。では注意しなければいけない点を上げてみましょう。まず、子供の磨いている時間より仕上げ磨きを短くして、「上手に磨けているから、仕上げは早いのよ」と褒めてあげましょう。磨けていなければ、早く、きれいにしなければなりませんので、がんばって磨いてあげて下さい!(出来るだけ子供に長く磨かせるのがコツです) あとは、ブラシの扱いも乱暴で傷んでいることも多いので、その場合、仕上げ磨きの時はブラシを変えても良いでしょう。





<8> −虫歯はどうやって治すの?−

 虫歯といっても段階によって治し方が違います。まず、そのお話からしましょう。歯の中にはいわゆる神経があります。正しくは歯髄(しずい)と言い、神経、血管、リンパ管等で構成されています。その周りを象牙質と呼ばれる歯の質が覆っています。象牙質は熱や外からの刺激を歯髄まで通し、露出して刺激が加わると痛みを感じます。歯磨きのTVコマーシャルでご存知の方がおられるかと思いますが、いわゆる「象牙質知覚過敏症」となります。でも普段歯がしみないのは、お口の中に見えて刺激の加わるところは全て、エナメル質と呼ばれる硬い鎧をまとっているからです。歯科検診で良く耳にする「C1」、「C2」等は、虫歯がどの歯の質まで進んでいるかを表わした物です。つまり「C0〜C1」はエナメル質、「C2」は象牙質、「C3」は歯髄までと言った具合です。         
さて、その治療方法ですが、「C0〜C1」ぐらいの軽症の場合はフッ素で進行を止めます。「C1〜C2」なら虫歯に侵された歯の質を削り取り、あいた穴を金属やプラスチックの一種であるレジンで埋めて、歯の形に戻してやるのです。「C3」以上になってしまうと感染した歯髄を根の先まで取り除き、根を受けている骨が感染しないよう薬を詰めて栓をします。この治療のためにあけた穴の大きさにより、詰め物をしたり、大きければ金属等で被せて歯を守ります。ところが「C4」まで進行してしまうと、残念ながら歯を抜く確率が高くなります。
ちなみに「C0〜C1」ぐらいなら麻酔無しで削っても、エナメル質ですから痛くありません。出来るだけこの段階で治療をさせていただくと、患者さんはもちろん、私達歯科医も大変楽で助かるのですが……





<9> −乳歯が虫歯になりやすいのはなぜ?−

乳歯は永久歯と比べて、確かに虫歯になりやすいのは本当です。粘着性のお菓子類を多く食べることや、そして歯磨きが十分に出来にくい事はご存知でしょう。睡眠時間が長いことも原因の一つです。眠っている間は、お口の動きと唾の出が少なくなっています。それはお口の自浄作用が行なわれにくく、いわゆる「虫歯菌」の増殖を促します。また、永久歯と比べて歯の質が弱い事もあげられます。歯を守っているエナメル質の厚みは永久歯の半分しかなく、石灰化(歯の材質であるカルシウムが固まる事)の度合いも低いため、虫歯菌の出す酸による溶解度が高いのです。それに加え、歯科医院で治療を受け、大きなストレスとなった子供は、虫歯が進行してよほどの痛みが出ないと意思表示をしない場合もあります。つまり、早期発見が困難であると言えます。食べる回数、食べ物の好み、歯磨きがしにくい等の悪条件に加え、歯の質も弱いため虫歯になりやすく、進行も早いのです。
乳児の虫歯が進んで、通常の生え替わりより早く失われますと、多くの弊害があります。それはいずれお話しするとして、将来子供とお口と身体の健康にとって、非常に重篤な悪影響を及ぼします。“乳歯を守ることは、子供の将来を守ることだ!”とは言い過ぎでしょうか? でも、少なくとも我々歯科医師はそう信じて治療に当たっていることを、忘れないで下さい。





<10> −乳歯が早く抜けてしまったら−(その1)

 ぶつかって根っこから折れたり、ひどい虫歯になったりと、乳歯を失う原因は色々とあります。乳歯が早く抜けますと、歯並びが悪くなることは皆さんご存じですね。ではなぜそうなるのでしょう。
 乳歯は前からABCDEの5本を言います。これが上下左右で合計20本あります。年長さんぐらいになりますと、早い子はEの後ろにいわゆる6才臼歯(以後6番と記述します)がはえてきます。発生学的には乳歯に分類されますが、一生はえ代わることがないため普通は永久歯とされています。歯並びの専門分野である、歯科矯正の歯並びの基本は、この上下の6番の噛み方で分類されます。6番より前にある乳歯が失われますと、6番が前に寄ってきて、いずれはえてくる永久歯の並ぶ場所が無くなったり、上下の6番同士の噛み合わせが狂ってしまうのです。
具体的に言いますと、6番がはえる前に乳臼歯と呼ばれるDやEが失われた場合、噛み合わせの狂いが生じます。奥歯の当たりが無くなると前歯で噛もうとして、下の顎が前にずれたり、もし左右の奥歯が無くなると顎を動かす筋肉までおかしくなったりします。逆に、乳前歯が失われると噛み切ることが出来なくなるだけでなく、発音や嚥下(えんげ:呑み込むこと)が出来にくくなり、「変なしゃべる癖」が付いたりします。これらは歯の頭が無くなる程のひどい虫歯でも起こります。
歯並びや噛み合わせが悪くなると、見た目、虫歯、歯槽膿漏はもちろんのこと、顎関節症という顎の関節がずれて起こる様々な症状の要因と成りかねないのです。





<11> −乳歯が早く抜けてしまったら−(その2)

 前回は、乳歯が早く抜けてしまうと噛めなくなるだけでなく、色々な障害が起こることをお話ししました。では不幸にして乳歯を失ってしまったら、どのような治療法があるのでしょうか? 今回はそれについて述べてみたいと思います。@噛み切れない、噛み潰せない A歯並び及び噛み合わせが悪くなる B顎の位置がずれる これらの対処方法を述べて行きます。つまり「歯が無くなれば入れ歯を入れる」のですが、これには様々な装置や方法があります。
 乳臼歯1本失った場合は、その前後の歯に冠やバンドを装着し、それに「出っ張り」や「輪っか」をつけて、そのスペースを確保します。また、本数の多い場合や、乳前歯など、「見た目」も回復の必要がある場合は、取り外し式の「乳歯義歯」と呼ばれる、いわゆる「入れ歯」を作成します。これらは保隙装置(ほげきそうち)と言い、失った歯の本数、場所、時期等によってそのケースに合った装置を選びますが、これを外すタイミングも重要です。また汚れが溜まるところが増えますので、お口の中が不潔になりやすく、歯磨きもより気を配る必要があります。
 乳歯義歯のような自分で外すことの出来る装置は、違和感で嫌がる子が多いのですが、必要性を理解していただき、子と親とそして歯科医師が、みんなで力を合わせて頑張って行きましょう。





<12> −リンゴは良くて、イチジクは悪い?−

 皆さん虫歯になりやすい食べ物、なりにくい食べ物をそれぞれ思い浮かべて下さい。どのような物が良くて、どのような物が悪いのでしょうか? 今回は、この「善し悪し」の理由についてお話ししたいと思います。
「虫歯になりやすいものは何ですか?」と尋ねますと、大抵「甘い物」という答えが帰ってきます。確かに糖質、いわゆる甘い物は、虫歯の原因菌にとって一番良い条件を作るからです。ブドウ糖、オリゴ糖、乳糖、蔗糖、果糖、麦芽塘...等、糖質にはいろいろありますが、その中でも蔗糖(砂糖)が最も、う蝕(虫歯)発生性並びに歯垢形成性が高いのです。ごはんやパンを長い間噛んでいると甘くなりますが、これは唾の中の酵素が炭水化物(でんぷん)を糖に分解するからです。ですから炭水化物も同じ事です。また歯の表面にくっつきやすい物も虫歯を起こしやすい大きな要因となります。この2つがそろった物が、「虫歯になりやすい食べ物(潜在脱灰能が高い食べ物)」と言えます。

では具体的に挙げてみましょう。

@糖分の高い物 :ビスケット、クッキー類、キャラメル、イチジク
A粘着牲の高い物:ピーナッツバター付きパン、バタークッキー、バナナ、イチジク、
         チョコレート、ポテト(煮物)、キャラメル
※ ちなみにイチジクはリンゴと比べ、潜在脱灰能はなんと!! 166倍です。





<13> −歯医者さんに行こう−

 毎日がんばって歯磨きをしていても、もしかしたら虫歯ができているかもしれません。私たちは毎日のように患者さんのお口の中を拝見させていただいていますが、大人の方でさえ御自身で気づいておられない虫歯など、悪くなっているところを良く発見してしまいます。まして乳歯は永久歯と比べ、痛みの感じ方が鈍いため、虫歯が相当進んでしまって初めて「冷たいものや熱いものがしみる。」とか「食事の時に噛むと痛い。」とか「ずきずき痛む。」等の症状が出てくるのです。
 乳歯の虫歯の特徴として、「進行が早い事」が挙げられます。毎年、虫歯予防デー(正しくは「歯とお口の衛生週間」)の頃、私は幼稚園で歯科検診をさせていただいて、子供たちのお口のチェックをしていますが、たった1年で新しい虫歯ができている事もあります。「毎年歯科検診を受けているからだいじょうぶ」と、頼りにしていただいているかもしれませんが、治療をしていただく(かかりつけ)の歯医者さんにも、年に一度は検診を受けていただきたいのです。
 子供の治療をスムーズにするには、その子とのコミュニケーションが大事です。私は治療を嫌がる子には、まず友達になる事から初め、歯科医院の雰囲気と私に慣れてもらうようにし、それから治療を初めて行きます。そのため、治療をさせてもらうまで時間がかかってしまうケースもあります。ですから、悪くなって初めてその先生とお付き合いを始めるより、平素より子供がその先生に慣れている事が重要だと思いませんか?





<14> −歯磨きは「ア」,「イ」,「オ」−

 「子供の歯磨きは、お母さんの担当」という家庭が大半だと思います。(ちなみに我が家では私が担当ですが...)今回は、歯磨きをされる時の「コツ」をお教えしましょう。お母さんが正座をして、膝の上に仰向けに寝た子供さんの頭を乗せて歯磨きをされておられるでしょうか? もしそうであれば頭の位置が高すぎ、下の奥歯や上の歯が見にくくなってしまいます。そのため少しお行儀が悪くなりますが、片足を伸ばし、もう片方の足を曲げて、足の裏を伸ばした足に付けます。(プロレスの4の字固めの足が重ならないような状態になります。)この曲げた方の足のふくらはぎの上に、子供の頭ではなく首を乗せます。そして歯ブラシを持たない方の手のひらで子供の後頭部をそっと支えてやります。つまり、歯医者さんの治療台のような形です。下の歯を磨く時は、下の奥歯の噛み合わせが見えるぐらいまで頭を高くし、逆に上の歯を磨く時は上の奥歯の噛み合わせが見えるぐらいまで(のけぞるように)頭を下げてやります。後頭部を支えている手の上げ下げで、自由に好きなポジションにする事ができます。
 次に、今回のタイトルの事ですが、一体なんでしょう? これは歯を磨く時、子供にしてもらうお口の形です。奥歯の噛み合わせと内側、下の前歯の内側を磨く時は「ア」のお口。奥歯の外(頬)側と前歯の前(唇)側を磨く時は「イ」のお口。上の前歯の内側を磨く時は(掻き出してお母さんの顔に唾がかからないよう)「オ」のお口。こうすると子供にも、してほしい口の形が理解してもらえやすく、磨く方もやり易いと思います。





<15> −はいしゃさんこわい! その1:注射−

 お医者さんを嫌がる子は注射が痛みのあるものですから、注射を怖がって嫌がるわけです。私たちの治療で、注射と言えば「麻酔注射」がほとんどです。お医者さんの「治療」としての注射ではなく、「治療を円滑にするための手段」としての注射ですから、意味合いが少し違ってきます。神経を取らなければならないぐらいの大きな虫歯の治療や、抜歯をしなければならない時は、麻酔注射なしでは治療はできません。しかし、麻酔注射なしではもっと治療が痛くて怖いものだと認識している子供はなかなかいません。
 子供の持つ注射の恐怖感は想像以上に大きく、診療台に座るなり「今日、注射するの?」と泣き叫ぶ子も意外と多いのです。先ほども挙げましたが、麻酔注射は「治療を円滑にするための手段」です。無理に注射をしようとして治療がより困難となっては意味がありません。一つの方法として、歯を触り、「どうしても痛くて我慢できなかったら、しびれ薬の注射をしてあげるからそのときは言ってね」と子供に選択権を渡してしまいます。「注射をされるぐらいなら我慢しよう」とがんばって、おとなしく口を開いてくれる子が意外と多いのです。
もちろん相当痛いと思われる治療を無理矢理我慢させる事はありません。その場合は麻酔注射がなぜ必要かを理解してくれることが重要となりますので、おうちで「1番痛いのは治療せず放っておくこと。2番目が注射せず、我慢しながら治療を受けること。1番楽なのは、最初は痛いけど後はなにをしてもらっても痛くない、しびれ薬の注射をしてもらうこと。」とお話ししてあげておいて下さい。





<16> −はいしゃさんこわい! その2:なにがこわいの?−

 私も子供の頃は歯医者さんに行くのが怖く、何とかなだめられて歯科医院の門をくぐってからも、治療室の入り口で他の人の治療を見て震えていた覚えがあります。もちろん治療を受けるのは今でも好きな訳ありませんが、小さな頃はあれほど怖かったのに、今では恐怖感はまったくありません。保護者のみなさんもそうだと思いますが(たぶん?)、それはなぜでしょうか?
 私たちのもとへ来られる方は「患者さん」、つまり「患者:身体をわずらっている者」ですから、何か身体に不都合があるから来られます。その不都合を取り除いてもらうため、治療に伴う苦痛(痛み、音、臭い、...etc 人によって様々ですが)を我慢しようとは、小さな子供はなかなかそうは考えてくれません。
たとえば、昨夜歯が疼いて一睡もできなかったとしましょう。治療が済めば後は楽になるとわからず、泣き叫ぶ子もいます。もちろん我慢の足りない場合が多いのですが、我慢が出来る子なのに駄目な子もいます。前回書いたように、確かに注射も「はいしゃさんこわい!」の大きな要因ですが、なにをされるかわからない不安で泣く子が結構多いのです。子供に細かな病状の説明をしても、治療に協力的にはなってくれません。子供たちにとっては、病状の説明や、後が楽になることなんかより、今の不安が重要なのです。つまり、今からする事を細かく説明し、「がまんできることだよ」と、諭しながら治療を進めて行きます。手鏡を持たせ、治療を見せてやりながら進めて行くのも効果があります。これで「我慢が出来る子」に仲間入りした子供もたくさんいます。





<17> −はいしゃさんこわい! その3:おどかされちゃった!-


 保健所の3歳児検診で虫歯などを指摘され、生まれて初めて歯科医院を訪れるケースがありますが、3歳になったばかりの小さな子でも泣かずに、素直にお口を開いてくれる場合が結構あります。ですが4〜6歳で、初めて歯科医院を訪れる子の方が、泣いたりして私たち歯科医師を困らせる場合が多々あります。
 幼稚園に行くようになって、お友達とコミュニケーションをとるようになってくると、その子の世界が飛躍的に広がることはご承知のことと思います。しかし、私たちにとってあまり嬉しくない情報も沢山入ってきます。「〇〇ちゃんが歯医者さんへ行って、歯をガリガリやってもらったんだって。」とか、「歯医者さんでお注射されたんだよ。」とか。お友達の体験談だけでなく、「ク〇レ〇ン〇んちゃんで〇んちゃんが歯医者さん嫌がってた」とか「サ〇エさんのカ〇オ君が泣きながら治療を受けていた」とかテレビアニメでもそういうシーンがでてきます。(あのセーラームーンのうさぎちゃんのニガテなものに、「歯医者」と言うのもありました。)
 仕方なく受けていただく治療を、苦痛なものとしてネタにするのはどうかと私は思うのですが... 大きな子はそんなことはないでしょうが、小さな子供にとっては、「歯医者=嫌なもの」という固定観念を作りかねないことをわかっているのでしょうか? ですから最初に書いたように、まだ固定観念の無い小さな子の方が、治療しやすい場合があるのです。





<18> −虫歯になりやすい!?−

 私たちの元に訪れる方は、歯を患っておられます。確かに「自己管理」が出来ていれば防げたものも沢山ありますが、「うちの家系はみんな歯が悪くて」とか「私の親は早くから総入れ歯でした」とか「母親はずっと歯医者さん通いをしていました」と、成るべくして成ったと思われている方がずいぶんおられます。もちろん、私たち「治す者」に対しての言い訳や、申し訳ないという気持ちからの言葉とも思えます。では、虫歯等の歯の病気は遺伝するのでしょうか? 
 虫歯はいろいろな要因が重なって生じます。では虫歯の成り立ちを考えてみましょう。簡単に言えば、「歯の表面にヨゴレがついて、バイ菌が繁殖し歯をボロボロにする」となります。ではどのような状態であれば虫歯はできないかを考えてみましょう。「ヨゴレが歯に付きにくいか、付いても落とす」,「歯の質を強くする」,「バイ菌が繁殖しにくいようにする」となります。視点を「遺伝」から見ますと、歯や唾の質,歯並び等が虫歯と関係してきます。ただそれが病的な程度でなければ、あまり心配はいりません。確かに病的でなくても「個人差」はありますが、「虫歯ができる条件」を減らしてやれば相当改善できます。
 交通事故の現場検証は事故を未然に防ぐため、原因を探るために行われます。つまり、悪い結果がでたらその原因をはっきりさせてやることが、予防には必要なのです。次回からは、「虫歯ができない条件」から考えた、虫歯等の予防方法を述べて行きたいと思います。





<19> 「虫歯ができない条件」:その1
     −歯のヨゴレをなんとかしよう!−


 お口の中に糖分,でんぷん等の炭水化物が入ってくると、虫歯の原因菌(ストレプトコッカスミュータンス菌:この場合、歯の表面に付着した菌が問題になります。)によって酸が作られます。その酸によってお口の中のpHが酸性に傾きます。歯の表面のエナメル質は、このpHが5.5以下になると溶かされてしまうのです。これが虫歯の成り立ちです。炭水化物を摂らなければ虫歯にならないのですが、炭水化物は三大栄養素(炭水化物,脂質,蛋白質)の一つなので、摂らないわけにはゆきません。また、お口に入った炭水化物を全て飲み込んでしまえば良いのですが、歯の表面に付着し、どうしても残ってしまいます。これが「プラーク」、つまり「ヨゴレ」です。
「虫歯ができない条件」の1番目は「ヨゴレが歯に付きにくいか、付いても落とす」です。「ヨゴレを落とす」とはブラッシング等で、最近テレビCMで良く耳にするプラークコントロールのことです。やり方、回数が大きな問題になってきますが、細かな説明は他の機会に譲るとして、基本は「口の中に露出している歯の質全てをこすってやる」事です。でもそれは簡単なことではありませんし、完全にすることは不可能です。特に幼稚園児のような小さな子供達にはとても難しい事でしょう。ただ他の「虫歯ができない条件」と組み合わせ、総合的に「虫歯ができにくいお口」にしてやれば良いのです。 しかし、できるだけのことは必要です。虫歯菌の住みかや食料を取り除くプラークコントロールは直接的な虫歯予防ですが、他の「虫歯ができない条件」は間接的なものだからです。





<20> 「虫歯ができない条件」:その2
    −歯磨き指導はブラッシングの指導だけ?−

 私は日々の診療で、歯磨きの指導ももちろんします。でも全ての患者さんに画一的な指導をしているわけではありません。その方のお口の中を見たり、普段の歯磨き習慣や食べ物の好き嫌いなどをお伺いして、その方に応じた指導をするのです。たとえば2人の方がおられるとしましょう。どちらも1日1回のみの歯磨きで、虫歯はいわゆる「C1」程度の比較的小さなものが6歳臼歯に2人ともあります。一人は小学1年生で、もう一人は中年の方です。歯垢の付き具合を見ると、この方達のブラッシングはぎりぎり及第点です。この場合、どちらの方も同じ歯磨き指導で良いのでしょうか? 歯磨き後のヨゴレの付き具合や残り具合が同程度なのですが、同じ歯磨き指導では、「小学1年生」の方はちょっとあぶないのです。
 問題なのは、「C1程度の比較的小さなものが6歳臼歯にある」ことです。第一大臼歯は、6歳頃にはえてくるので「6歳臼歯」と呼ばれています。「小学生1年生」の方は、この歯がすでに虫歯になっています。つまり、はえてからまだあまり時間が経っていないのに、もう虫歯になったのです。それに対して「中年」の方はどうでしょうか。この歯がはえてから3〜40年以上経ってもC1で来ています。つまりこの虫歯は、「ずっと進行していない」か「最近出来たか」のどちらかという事になります。つまり、ブラッシング以外のところで差が出たと考えられないでしょうか?





<21> 「虫歯ができない条件」:その3 
  −虫歯のできやすいお口,できにくいお口−


 虫歯のできやすい,できにくいお口とはどのようなところで差がでてくるのでしょうか。前回のケースを思い出して下さい。同じくらいの歯磨きの出来具合で、虫歯になっている小学生と中年の方のおはなしです。「ブラッシング以外のところで差がある」と書きましたが、それは何でしょうか? 食べてからブラッシングを行うまでの時間や、食べ物の好みももちろんありますが、「唾の働き」についてお話ししましょう。
 唾(唾液:だえき)には沢山の働きがあります。お口の粘膜が乾かないようにしたり、食べ物と混ざって飲み込みやすくしたりするだけではありません。ご飯を長く噛んでいると、甘くなりませんか? これはでんぷんを分解して、糖に変える酵素が含まれているためです。つまり、お口に食べ物が入った時点から消化は始まっています。また、バイ菌を押さえる働きもあります。次は緩衝能です。化学で習った覚えがあるかと思いますが、溶液に酸性やアルカリ性のものが入って来ても、中性に戻す能力を言います。これが虫歯と関係があります。この能力が弱いと、虫歯菌が口の中を酸性に傾ける力に対抗できないため、虫歯ができやすい状態となってしまうのです。
これらの唾の性質や、能力の強さには個人差があります。これを変えるのは難しいものがあります。でも、唾の能力が低いと言っても、「虫歯になりやすいお口」であって「必ず虫歯になるお口」ではありませんので、あまり心配はいらないのですが、虫歯に関係が深いことは知っておいて下さい。





<22> 「虫歯ができない条件」:その4 
   −歯にヨゴレを付きにくくするには−


 虫歯予防の第一は、正しく確実なブラッシングであることは言うまでもありません。また、食後歯に付着したヨゴレの量が少ない方が、落としやすいのは当然でしょう。それでは、歯にヨゴレが付きにくくするにはどうすればよいのでしょうか。歯の質自体をヨゴレが付きにくく変えることは、残念ながらできません。でも、食事を改善すれば、歯に付くヨゴレの量を減らすことはできます。
 以前歯に付きやすい食物のお話をしました。餅、栗、芋類、クッキーやビスケット、スナック菓子、チョコレート、キャラメルなどが付きやすく、リンゴなど果物(バナナやイチジクは除く)や野菜は付きにくい食物です。また、糖分の中でも砂糖(蔗糖)は歯に付きやすいとされています。もちろんヨゴレになりやすい食物を減らせば良いのでしょうが、大事な栄養素を含んでいますので、食べないわけにはゆきません。ですから食事の方法でちょっと工夫をしてみましょう。
 前述した、ヨゴレの付きにくい食品とは、繊維が多く砂糖が含まれていません。またこれらの食品は、ヨゴレを噛むことによって落とす自浄作用が高いことも知られています。すなわち、食べる順番の工夫をすればどうでしょう。自浄作用の高い生野菜(サラダ)を最後に良く噛んで食べ、食後のデザートにリンゴや梨などの果物を食べます。また、食事の際の飲み物として、フッ素の入った番茶も良いと思うのですがいかがでしょうか? 





<23> 「虫歯ができない条件」:その5 
    −味は遺伝する?!−

 砂糖(蔗糖)がプラークの形成をし易い事は御存知だと思います。プラークになりやすい食品の多くは、「おやつ」で食べるお菓子などが多く、お菓子には沢山の砂糖が含まれています。そのため砂糖を減らすには、おやつの工夫が必要となりますが、それだけで良いのでしょうか? 
 主にこのコラムを読んで頂いているのは、毎日の食事の用意をされているお母様方だと思います。お料理の調味料として砂糖をお使いになりませんか? すき焼き、煮物、だし巻き卵、麺類のつゆ等沢山あると思います。これらの味付けをあまり甘くせず、甘みの少ない味付けに留意することを考えてはいかがでしょうか。
 私も結婚してわかったのですが、家内と家内のお母さんの味付けが似ています。女の子は、お料理を母親もしくはおばあちゃんから習うのが多いと思います。その場合、子供の頃から慣れ親しんだ味付けを受け継ぎ、自分の味覚を判断基準にします。直接習えばもちろん、たとえ料理学校で習ったとしても自分の味付けにアレンジしてゆくでしょう。また男の子の場合、結婚して奥さんの味付けが気に入らなければ、自分の好みに合うよう文句を言うでしょう。でも奥さんが甘みを控えた味付けに慣れ、また虫歯予防の概念を持った娘さんであれば、甘みの好きなご主人でも理解が得られると思うのですが?
「味は遺伝する」とどこかの家庭料理研究家が言いそうな言葉ですが、甘みに関しては再考の程お願いします。         





<24> 「虫歯ができない条件」:その6
    −キシリトールについて 1−


 虫歯に成りにくい甘味料を使った食品が、市場に多く出ています。パラチノースやソルビトールなどは蔗糖より、虫歯の元であるプラークを形成しにくいと言われています。また、もっと虫歯に成りにくいキシリトールが最近話題になっています。ではキシリトールとはどのようなものでしょうか?
 キシリトールは白樺等の樹脂から抽出される物質に、水素を加えて作られる天然素材の甘味料で、他のものは甘みにクセがありますが、蔗糖(砂糖)に近い自然な甘さを持っています。イチゴ(100g中362mg)、ほうれん草(100g中107mg)等果物、野菜にも含まれており、カロリーは2.8kcal/gで、蔗糖の1/4です。キシリトールは血糖値を上げずに代謝されますので、糖尿病患者の方の甘味料として以前から使われていました。また蔗糖のように虫歯菌により酸を作る材料(プラーク)とならないだけでなく、虫歯菌を減らす効果もある事が知られています。虫歯菌は蔗糖を取り込んで(食べて)自分のエネルギー源にします。でもキシリトールを食べてもそれを分解できず、そのまま排泄するのです。エネルギーにならないものを食べ、おまけに食べて排泄するためにエネルギーを使う。虫歯菌は栄養失調になってしまう。と、こんな具合です。でも、すべての糖分をキシリトールにし、炭水化物を摂らなければの話ですがそういうわけにはゆきませんね。でも全く効果のないものではありません。蔗糖入りのガムやアメは最も虫歯を作りやすい食品で、子供も好きなものなので、これをキシリトール入りのものに変えれば虫歯のできる危険性が少なくなります。





<25> 「虫歯ができない条件」:その7
    −キシリトールについて 2−


 前回キシリトールがどのようなもので、どのようにして虫歯を防止するのかをお話ししました。今回はキシリトールが配合された食品についてお話ししましょう。
 キシリトール配合のガム、ハードキャンディやタブレットのコマーシャルを良くTVで目にします。ガムは他のタイプの物より、「噛む」ことによる唾液(唾)の分泌が促進されます。唾液の働きや重要性は以前述べましたが、お口の健康に密接な関係が有り、ガムは良い食品と言えます。しかし砂糖入りのガムとなると話は別で、ガムは本来キャンディと比べ、(徐々に濃度は薄くなって行きますが)お口の中の糖分の残留時間が長く、虫歯を作りやすい食品なのです。このガムの(砂糖は重要な栄養素ですが、虫歯予防の面から見ると)短所である砂糖を、虫歯予防に効果のあるキシリトールに変えてあるので、安心して食べることができます。ガムは噛み始めに最も効果が出るので、唾液をすぐ飲み込まず、お口全体に行き渡らせるようにしましょう。含有量100%のもので一回に約5〜10g(5枚程度)が適量です。ハードキャンディやタブレットタイプは噛み砕かないように注意し、徐々に溶けるようにします。適量は一回に約10gです。ただ、これらは清涼感を出すためにミントが配合して有るので、小さなお子さんには辛いかもしれません。
 キシリトール入りの食品には含有量が表示されているものがありますが、購入される際はできるだけ100%に近いものをお求め下さい。100%でないものは、差引分他の種類の糖分が含まれていることになり、その分効果が低くなります。





<26>「虫歯ができない条件」:その8.
    −キシリトールについて 3−


 キシリトール入りの食品ががどのように虫歯予防に効果があるかを述べてきましたが、ではいつ使えばよいのでしょうか? 食事や間食をすると糖分がお口の中に残り、pHが酸性に傾きます。つまり歯が溶け易い状態となるわけです。このときキシリトールがお口の中に入ると、速やかに中性に戻してくれます。そのため、食事や間食などの後にキシリトール入りの食品を摂ればよいのです。また、虫歯菌の繁殖を押さえる作用も有りますので、とり続ける事で効果を維持します。お口の中で長時間作用させることが大事なので、一度に沢山摂ったからと言って効果が大きくなることは無いのはおわかりでしょう。
 キシリトール入りの食品について述べてきましたが、もっと積極的に予防を考え、歯磨き粉や洗口剤にキシリトールを配合した物もあります。食後お口の中のpHをキシリトール入りの食品で中和することはできても、大元のプラークを除去する事はできません。やはり歯磨きは必要なわけです。でも歯磨きをしても100%プラークを除去する事は不可能なのですが、できるだけプラークを減らしてキシリトールを作用させた方が効果が高いのです。ライオン(株)の「キシリデント」という歯磨き粉がありますが、歯磨き粉の物つ汚れを落としやすくする作用に加え、虫歯予防のもう一つの方法として歯質を強くするフッ素も配合されています。こうしてみると「鬼に金棒」のような歯磨き粉ですが、正しい歯磨きの方法と習慣ができていなければ(できていれば)、なにを使っても同じです。





<27> 「虫歯ができない条件」:その9
    −歯の質を強くするフッ素−


 虫歯ができない条件として、「ヨゴレが歯に付きにくいか、付いても落とす」,「バイ菌が繁殖しにくいようにする」と述べてきました。最後は「歯の質を強くする」です。
専門的になりますが、歯は「ハイドロキシアパタイト」でできています。フッ素を作用させると、歯の質にフッ素が取り込まれて「フッ化アパタイト」となり、歯質が強化し耐酸性が向上します。また歯を強くする訳ではないのですが、虫歯菌のプラークの形成や酸生産を行う酵素作用を阻害する働きもあります。そのためフッ素は、虫歯予防にいろいろな形で用いられていますが、どのような物があるのでしょうか?
 以前(1952年)京都の山科浄水場も11年間実施されていた「上水道のフッ素化」。ヨーロッパでは「フッ素入り錠剤」が市販されています。学校給食のミルク,スープ,みそ汁などの食物に加えたり、「フッ素添加食塩」というのも考案されたこともありました。また、学校や幼稚園で集団的に実施されている「フッ化物洗口法」は簡単で苦痛が無く、有意義な方法です。保健所の3歳児検診で勧められる「フッ化物歯面塗布」や、「フッ素入り歯磨剤」は良くご存知だと思います。このように多種多様にわたって、フッ素は虫歯予防に応用されています。特にはえて間もない歯は、フッ素の歯質への取り込み量が多いので(第2大臼歯がはえる14〜15歳ぐらいまで)、使う時期も考慮する必要が有ります。でも先程述べたようにフッ素の虫歯防止効果は「歯質強化」だけでは無いので、それ以降でも用いる意義はあります。





<28> 「虫歯ができない条件」:その10
   −歯医者さんでのフッ素塗布−

 前回お話しした「フッ化物歯面塗布」について、もう少し詳しくお話ししましょう。京都市の場合、保健所の3歳児検診で「フッ化物歯面塗布」の薄紫色の用紙を頂かれたと思います。この用紙は、歯医者さんで「フッ化物歯面塗布」を1回受けることが出来ます。この用紙が有れば、初回は京都市からの援助があります。「フッ化物歯面塗布」の回数や時期については、以前お話ししましたが、かかりつけの先生と相談されると良いでしょう。それにより、2回目3回目と受けられる場合は実費となります。
 さて、「フッ化物歯面塗布」の方法としては2種類有ります。綿の玉にフッ素の薬をつけて歯に塗る「綿球法」と、お口と歯並びの大きさにあったスポンジ入りのお皿にフッ素の薬をしみ込ませ、それをお口に入れて作用させる「トレー法」です。お母さん同士で情報交換されることがあると思いますが、「A歯科医院では綿球法だったけどB歯科医院では違うやり方だったよ。」なんてことが有るかもしれません。でも、どちらの方法でも効果は変わらないので、歯医者さんのやりやすい方で行われています。
 また、フッ化物歯面塗布やブラッシング指導等の口腔衛生指導は、歯科衛生士のおねえさんがしてくれるときがありますが、歯科衛生士の資格を持ち、歯科医師の指導の元に行われていますので、安心して受けて下さい。
 フッ化物歯面塗布を受けられた歯科医院で術後の注意をされると思いますが、術後30分は、飲食および歯磨きは控えて下さい。





<29> 「虫歯ができない条件」:その11
   −虫歯予防フッ素スプレー−


 フッ素が歯の質を強化したり、お口の中を虫歯を作りにくい環境にすることはわかっていただけたでしょうか? また、フッ化物歯面塗布やフッ化物洗口法等で実際に応用されていますが、それ以外の自分で出来る方法を紹介しましょう。
 家庭で簡単にフッ素を使った虫歯予防としては、フッ素配合の歯磨材(練り歯磨き)が良く知られていますが、フッ素配合のスプレーというのもあります。使い方は至って簡単です。歯磨きの後良く口をすすぎます。次に歯ににスプレーし、お口のすみずみまで行きわたるよう歯ブラシで軽く磨いてやります。これを歯磨きのたびにします。
 前回お話しした「フッ化物歯面塗布」は、薬物を作用させる前の下準備である、歯面清掃と乾燥が大変重要なのですが、歯の専門家がやりますので効果は確かです。そのため、このスプレーを使って自分でする場合も、事前の歯磨きの出来が大きなポイントとなりますが、専門家の様には汚れを落とせないと思います。また歯面を乾燥させて使うものでもありませんし、家庭用なので薬剤自体もあまりきつくは無いでしょう。しかし効果が無いものではありませんので、これを習慣のように長く続ける事が重要だと思います。
 コマーシャルのように思われるのは本意ではありませんが、製品名を公表しましょう。ゾンネボード薬品(株)の「レノビーゴ」といいます。この商品は歯医者さんで購入できるのですが、扱っておられない歯科医院もあります。そのため、かかりつけの歯医者さんにお問い合わせ下さい。





<30>虫歯について:その1
  −なぜ虫歯はできるの?−


 「ちゃんと歯を磨きなさい! でないと虫歯になるよ!!」と、子供の頃注意を受けた覚えが誰にでもあると思います。じゃあなぜ、歯を磨かなければ虫歯になるのでしょうか? もちろん知らない方はおられないと思いますが、幼稚園に通うお子さんに尋ねられた場合、わかりやすく説明できるでしょうか? 
 難しい話をすれば、「食物残査」といわれる食物の食べかすが歯の表面に付着し「プラーク」となる。「プラーク」は虫歯の原因となる「ストレプトコッカス・ミュータンス菌」等の「餌」や「すみか」となる。ここで活動した菌の生成物として「酸」が作られ、その「酸」が歯の表面の「エナメル質」を「脱灰(溶かす)」する。と、こんな具合です。このままではちょっと難しく、お子さんにはわかってもらえないでしょう。では、わかりやすく説明してみましょう。
 「〇〇ちゃん、さっきパンを食べたよね。ちゃんと全部飲み込んだつもりでも、噛んで小さくなったパンがお口の中にいっぱい残っているの。その残ったパンはどうなると思う? それはお口の中にいる、ばい菌って言う小さな生き物のお家やご飯になるの。〇〇ちゃんがご飯を食べてウンチをするように、その小さな生き物もウンチをするの。そのウンチが歯にくっついたら歯を溶かして穴があくの。それが虫歯なのよ。」で、いかがでしょうか?






<31>虫歯について:その2 
    −敵を知ろう!−

 今回は、小さなお子さんだけでなく大人の方にも、虫歯やお口の中の病気について良く知っていただくことがいかに重要なことであるかをお話ししましょう。
 私が患者さんに対して歯磨きの重要性を説明する場合、こんなお話をするときがあります。「私は歯医者になってから一本も虫歯が無いのですが、それはなぜだと思われますか?」と患者さんに尋ねてみると、ほとんどの方が「そりゃ先生はプロだから歯磨きも上手なんでしょう。」とお答え下さいます。確かにブラッシングは素人の方より上手だと自負しています。でも、患者さんの歯磨きができなった理由に「面倒だ」とか「忘れてしまって...」と言うのを良く聞きますが、それについては、「つい、うっかり」とか「根が不精者で...」とか仰られます。子供の患者さんの保護者の方に尋ねると「眠ってしまって」とか「嫌がるので」と理由をあげられます。(私の娘の場合、起こしてでも歯ブラシをつっこみました!) ではなぜここまでしてしまうのでしょうか? それは虫歯(&歯槽膿漏)に対する恐怖感が、そうさせてしまうのです。虫歯の恐ろしさを知れば、歯磨きをしないことがいかに怖いことであるかがわかるからです。そこで私の歯科医院で働く「歯科助手」の女の子達の話をします。彼女達は、昼食が終わると歯磨きをかかさずやっています。「歯科助手」は専門知識や資格の必要な「歯科衛生士」ではなく、主婦のバイトさんもおられるよう、いわば「素人さん」です。彼女たちは私の横で治療を手伝ってくれるのですが、自然と虫歯(&歯槽膿漏)の怖さを見て理解していますので、自発的に「お昼の歯磨きタイム」が習慣になっているのです。





<32>虫歯について:その3
    −虫歯の早期発見は?−

 「虫歯:Caries(カリエス)」。いやな言葉ですね。表層のエナメル質にできた本当に浅い虫歯以外、歯には自然治癒がありません。そのため、放置しておくと進行してしまうのです。では、このコラムを読んでおられる保護者の方ご自身や、園児の皆さんが「虫歯になった!」と気づかれるのはどのような時でしょうか? 
 歯の構造を簡単に説明しますと、一番中に痛みを感じる「神経」と呼ばれる歯髄(しずい),それを覆い痛み(知覚)を通す「象牙質」,その外側に人間の組織の中で一番堅くて歯の鎧である「エナメル質」となっています。「C1」とか「C2」と言うのを歯科検診で耳にされたことがあると思いますが、これは「どの歯の質もしくは歯の周りの組織まで、虫歯の被害が出ているか?」を現したものです。ちなみに頭の「C」は、「Caries」の意です。つまり「C1」はエナメル質、「C2」は象牙質、「C3」は歯髄、「C4」は歯の根の周りの骨などの組織って具合です。
 虫歯になって最初は、白く濁る事から始まります。透明のプラスチックの下敷きを紙ヤスリでこすると傷が付き、すりガラスのように光が乱反射するので白く見えます。エナメル質は透明感が強いのですが、虫歯によって表面があれてしまうと白く濁って見えるのです。この状態ではなかなか気が付きにくいのですが、もう少し進むとに茶色く色が着いて来るので虫歯に気付いていだけます。さらに進むといよいよ穴があいてきます。穴の深さにもよりますが、歯髄(神経)までの距離が近くなってくるので刺激が歯髄に伝わりやすくなります。つまり「しみて」きます。大体は自覚症状として出てくれば治療に来られるようです。





<33>虫歯について:その4
 
   −虫歯ができたら... 1−


 もし、不幸にして虫歯ができてしまったら、どんな症状が出るのでしょうか? 前回このコラムでC0〜C4までの虫歯の進行具合のお話しましたが、それに加えて治療についても説明しましょう。
 エナメル質の深さまでの浅いC0,C1の虫歯では、見た目で歯に着色があるのがわかるくらいで、痛みなどの自覚症状はありません。この状態での治療は、簡単に詰めたり、型を採って小さな金属を入れたりしますが、比較的早く終わります。また、C0の場合シーラントと言う、生えてきたばかりの永久歯の噛み合わせにプラスチックを流し込み、虫歯が出来にくくする予防処置があります。永久歯は乳歯と比べて噛み合わせの溝が深く、複雑な形をしているので磨き残しがが出来やすく虫歯になりやすいのです。シーラントはこの溝を詰めてしまうのですが、6歳臼歯が生えてきたら歯医者さんでシーラントを受けると良いでしょう。
 次に歯の鎧であるエナメル質の下の象牙質まで虫歯が進み、知覚を感じる象牙質がお口の中の環境にさらされると、冷たい物や甘い物,酸味のきつい物の刺激が痛さとしてあらわれます。いわゆる「しみる」です。また、象牙質を覆うものが無いため、食べ物が詰まったり爪楊枝でつつくと痛みを感じます。歯髄には温熱刺激(熱い,冷たい)、物理的刺激(歯ブラシや爪楊枝が当たるとピリピリ痛む)、化学的刺激(甘い物,酸っぱい物)等の刺激に対し、全て痛みとしか感じません。この状態をC2と言いい、治療をするにも麻酔注射が必要となり、歯髄の保護のための薬を引いたり詰め物も大きくなったりします。





<34>虫歯について:その5
    −虫歯ができたら... 2−


 前回虫歯の進行とその治療について、C0,C1,C2までお話ししましたが、今回はその続きです。
 もっと虫歯が進み、象牙質の中にある歯髄(いわゆる神経)まで行ってしまうとC3と呼ばれる状況となります。ほとんど神経がお口の中の環境に晒されたようになります。そのため、色々な刺激が歯髄に伝わりすぎたり、虫歯のバイ菌が感染したりして歯髄が炎症反応を起こします。こうなると夜も寝られない強烈な痛みが出てきます。心臓の鼓動に合わせ「ズキズキ」痛みますので、拍動性疼痛と呼ばれます。では何故このような痛みが出るのでしょうか? 
 「炎症」と言う言葉は皆さんご存知だと思います。歯髄にバイ菌が入って感染したり、熱い物や冷たいものの刺激が加わりすぎると歯髄は炎症を起こします。元々炎症とは病気ではなく、身体の防御反応なのです。歯髄にバイ菌が感染した場合、そのバイ菌を退治するのは白血球等のいわば身体の戦闘員です。白血球は血管を通ってバイ菌が感染している所にやってきます。身体としては、早く敵であるバイ菌をやっつけて欲しいので、その通り道である血管を太くし、戦闘部隊の輸送能力を上げようとします。それと同時に、バイ菌は血管の外の組織にいるわけですから、血管の壁から白血球が通りやすくします。たとえ話をしますと、狭い部屋にパイプが通っていて、そのパイプが太くなって水漏れを起こしたとしましょう。そうなると中にいる人は水圧で圧迫されます。このパイプが血管で、中にいる人が歯髄です。太くなった血管は心臓から来る脈打つ血液のため、太くなったり細くなったりを繰り返していますので、歯髄に心臓の鼓動に合わせて圧迫をします。これが「ズキズキ痛む」のメカニズムです。





<35>虫歯について:その6
    −虫歯ができたら... 3−


 前回は歯髄まで虫歯が進んでしまったお話をしました。こうなってしまうと歯内療法といって、歯の中の歯髄をきれいに掻き取り(いわゆる「神経を取る」治療)、根の先端にある歯髄の出入りする穴をきちんと栓をするように薬を詰め、歯の中と外との交通路を完全に遮断する治療がなされます。この治療でお口の中のバイ菌が、歯の中を通って顎の骨(歯の根っこは、顎の骨にはえています)に感染するのを防ぎ、歯髄の無い歯でも「噛む」機能を回復することができるのです。
 この場合、虫歯によって犯された歯の質も大きく、歯内療法処置のために歯に穴を開けたりする事で歯の質が弱くなります。ダイヤモンドの付いた機械が、1分間で3〜40万回転して歯を削りますから、どうしても歯の質に小さな亀裂が入ってしまいます。亀裂の入った歯の質では、長い間噛んでいるとひびが入り、歯が欠けてしまう可能性がありますし、歯茎より下の深いところまで根が割れてしまうと、歯を抜かなければならなくなるときもあります。それを補強する為、型を採って作った金属で出来た土台や口の中で直接造った土台を入れます。さらに先程述べたように、歯全体を覆って守ってやる必要があります。つまり「冠:かぶせ」を入れなければならなくなるわけです。
 C2でも歯髄にまで感染しそうなくらい深い虫歯の場合もありますし、また歯髄が死んでしまっている場合もありますが、治療(歯内療法処置)のやり方は同じです。






<36>虫歯について:その7
−虫歯ができたら... 4−

 さらに虫歯が進行し、歯髄はほとんどの場合死んでしまい、ボロボロの根だけ残っ状態をC4と呼びます。こうなってしまうとほとんど抜歯(歯を抜くことです!)のケースとなってしまいます。もし不幸にして歯を抜かなければならなくなったら、後はどうなるのでしょうか? 
 歯を抜いてそのままにしておくと、いろんな弊害が出てきます。歯は、使っているうちにすり減ってきます。そのままだと人の顔は縦に短く「くしゃっ」としてしまうでしょう。でもそうはなりません。人の歯は、ネズミのように際限なくとは行きませんが、ある程度伸びることにより、噛み合わせの高さを一定に保とうとします。そのため、抜いた相手の歯は、(すり減ったと勘違いしているのかも?)相手がないので伸びてきます。また、これは根っこの断面の形から来ているのですが、歯は隣の歯の方向に揺られるのに弱いので、隣の歯が無くなると動きやすくなります。そのためねじれたり、抜けたところに向かって傾いたりして抜いたもう一本前の歯と接触しようとします。
 歯の噛み合わせはギザギザになっていますが、その形は本当に良く出来ていて、食べ物を噛みつぶす際前後左右に顎を動かしても、噛みつぶし易いような形と歯並びになっています。もし歯を抜きっぱなしで上記のように歯並びが変わってしまうと、位置が変わった歯に負担がかかりすぎて動いてきたり、顎の動きが規制され、顎関節症と呼ばれる顎の関節の病気が起こるときもあります。そのため、どうにかして抜けたところに歯を入れ、噛み合わせが変わらないようにしなければならないのです。 





<37> 虫歯より怖い歯周病

 幼稚園のコラムとして、歯周病(歯槽膿漏)のお話は適当でないように思われるかも知れません。でも、コドモのイエで幼稚園の子供達を診ていて、気になったことがあるのでお話しすることにしました。
 歯周病の原因は何でしょうか。もちろん感染症ですので答えは「細菌」です。その細菌が歯ぐきやその下の歯を支える骨にまで感染し、歯周病となるのです。では歯周病になりやすいお口とはどんな状態でしょう。
 物を食べると、どうしても歯と歯の間や歯の表面に食べかすが残ります。食べた物が初めはパンでも、時間が経つとお口の中の細菌の働きにより分解され、ネバネバのトリモチのような物になります。これが「プラーク」で虫歯の敵とされています。もっともっと時間が経つと唾液中のカルシウムがプラークに着き固まってしまうのですが、これが「歯石」です。こうなると毎日のブラッシングでは落とせ無くなります。歯石は軽石のようにざらざらしていますので、よけいにプラークが着きやすく落としにくくなり、また歯石となりどんどん積み重なってゆきます。この歯石が歯周病の大敵なのです。
 年長さんで、下の前歯に永久歯がはえている園児さんのなかに、歯石の付いている子が結構おられました。今すぐ歯周病になるとは言いません。しかし、この永久歯がはえて何年も経っているならまだしも、はえかけの歯にすでに付いている場合もあるのです。歯石が付きやすい原因はまたお話ししますが、以前書いた「虫歯になりにくいお口」と共に「歯周病になりにくいお口」になってもらうため、今から気を付けて欲しいと思い、歯周病のお話をしてゆきます。





<38> 歯周病のバロメーター

 テレビのデンタルケア製品のコマーシャルで、「歯周病」はポピュラーな言葉になってきました。以前なら、「歯を白くする」とか「口臭を防ぐ」とかをセールスポイントとして強調されていたのに、近頃は歯周病の予防を全面に押し出した製品が多く登場してきました。かといって、歯周病は最近急に増えたのでしょうか? 
 「歯周病」は以前は「歯槽膿漏」と言われていましたが、本当は「歯周炎」といいます。つまり「歯の周りの炎症」なのです。以前お話ししましたが、「炎症」は病気ではなく、生体の「防御反応」なのです。「病原菌の攻撃から対抗する手段」と言えばわかりやすいでしょう。ただ、これは苦痛を伴うこともあるので、病気のように思われがちなのです。しかしこれが進行すると、口臭や歯が抜けたりと色々な不都合が生じます。最初はただの防御反応でも、こうなってはもう病気ですね。
 お口の中には沢山の種類の細菌が大勢いて、その中の数種類の細菌が歯周病を引き起こします。それら「敵」が侵入してくると体は対抗して、迎撃部隊である「白血球」を配備するとともに血管自体も太くなって輸送量を増やそうとします。そのため血流量が増え、血の色が透けて見えるため「赤く」なり、体温を運ぶ血液が増えるため「熱」を持ちます。血液中にいるその部隊は、血管の壁を通り抜けて行きます。そのため血管の外に白血球を含んだ液体が溜まりいわゆる「腫れ」を起こします。「歯ブラシをすると血が出る」とか「歯ぐきの腫れ」、「色」は歯周病のバロメーターと言われます。これは、パンパンに腫れている血管は内圧が高まり、歯ブラシのちょっとした刺激で破裂してしまうから出血するのです。ですからこのバロメーターは、炎症反応、つまりバイ菌と白血球の戦闘が起こっているかを示しています。





<39>  骨が無くなるメカニズム

 人間の体はそれほど弱くはありません。でも、急激にバイ菌の攻撃に負けてしまうと、重篤な症状を引き起こしてしまいます。前回お話しした歯周病の進行が一気に進み、歯ぐきの下にある骨まで感染してしまうと、「骨髄炎」などの骨の感染症となってしまいます。
 歯ぐきや皮膚などを刃物で切るともちろん出血しますが、もちろん骨も出血します。ただ、単位体積辺りの血管の通っている数が少ないため、皮膚などのような大出血ではなくじわじわ出ます。言い換えれば、血管が少ないため、バイ菌に対する抵抗力が弱いのです。そのため、骨の感染症は症状が重く、回復も時間がかかります。高い熱が出て、お口の病気ですから口が開きにくくなり、物が食べられなくなり、体力も下がってしまいます。命に関わる場合も出てきます。こうなると口腔外科といって歯医者さんの外科に入院治療となるケースとなります。これは悪い条件が重なったとき起こるのですが、ここまでにならないよう体も対処しています。「歯周病は顎の骨を溶かす病気だから、歯も動いてくる。」と思われている方が多いのではないでしょうか? 確かに顎の骨は下がりますが、これはバイ菌が骨を溶かしているのではなく「感染して重篤な事にならないよう、体が骨を溶かしてバイ菌と距離を取っている」のです。白血球が劣勢になり、いわゆる戦線が拡大され骨に近くなってきます。そうなると骨の周りに「破骨細胞」と言う細胞が出現し、骨を溶かして行くのです。そのため、歯を支持する骨の量が少なくなり、歯が動いてきます。歯が抜けてしまうと抜けた後の穴が閉じ、バイ菌の進入路が無くなるため歯周病は無くなります。つまり、歯と歯ぐきの境目からバイ菌が入ってくるのですから、それが無くなると歯周病は起こらないのです。





<40> 歯が抜けてしまったら(永久歯前歯編)

 以前乳歯が抜けてしまうとどのようなことが起こるのかを、お話ししたことがあります。前回までは、歯がぐらぐらになって抜けてしまう、「歯槽膿漏」についてお話ししていました。じゃあ歯が抜けたらどうなるのかをお話ししましょう。
 「明眸皓歯(めいぼうこうし)」と言う言葉をご存知だと思います。昔の中国では、美人の条件の一つとして「歯が綺麗なこと」があり、この言葉が生まれたそうです。以前TVのバラエティ番組で、タモリさんが上の前歯に黒のマジックを塗り、歯抜けに見せていた事がありました。白い前歯の中で一本黒い所があると、一瞬本当に歯が無いように見えます。この口で「ニカッ!」っと笑われると、大変滑稽に見えてしまいます。また、コントの中で美しい女性歌手の方も同じようにマジックを塗っていたのですが、顔立ちがいくら綺麗でも、一本歯が無いとこれほど変わるものかと思いました。やはり綺麗な歯は性別に関係無くとても良いもので、中国のこの言葉の意味が良くわかります。
 本当に歯が抜けると空気が漏れるため発音もおかしくなります。でも、歯のないところを治療して、いざ歯が入るとなぜか上手に話せません。入れる方法にもよるのですが、それはなぜでしょうか? それは、発音に関わる舌や唇などの筋肉が、空気の漏れを無くすように適応してくれるからです。歯を抜いたばかりだともちろん綺麗な発音は出来ないのですが、自分の変な発音の声を自分の耳が聞き、それが発音の筋肉にフィードバックされて次第に補正されて行くのです。歯が無い通常でない状況でも、何とかしてしまう程人間は本当に順応性が高いのです。急に歯を入れると急激な状況の変化について行けず、また新たな状況に慣れるのに時間がかかるため、歯が入ったのにもかかわらず、上手に話せないのは当然のことなのです。






<41>歯が抜けてしまったら(永久歯臼歯編その1)

 奥歯が無ければ食べ物を噛みつぶすことができません。歯は消化器官の一端を担い、良く噛めなければ胃腸に負担がかかり、消化不良などの不具合が発生します。また、噛むことにより発生する脳や顎の骨への刺激が減ります。子供なら脳の発育、大人なら(言葉は悪いですが)いわゆるボケ防止等に関係します。前歯ほどではありませんが、見た目や発音にも悪影響を与えます。
 根っこの形から、それぞれの歯は力のかかる方向に関して得手不得手があります。ちゃんと歯が揃っていると隣にも歯があり、その方向には歯は動きません。でも一本歯が抜けると隣の歯に寄りかかる事ができなくなり、奥歯で言うと前後の動きが発生します。この方向の動きには奥歯はあまり強くないため、何とかしてその前の歯と接しようとします。そのため、歯が前に倒れてきます。
 抜けた相手の歯はどうでしょう? 歯も何十年と使っているとすり減ってきます。そのままだと顎の位置が変わり、顔の形も変わるでしょう。でも、極端にはそうなりません。それは、ネズミの歯のように際限なくと言うわけには行きませんが、人間の歯もある程度伸びて上下の顎の位置をキープしようとします。もし、相手の歯が抜けてしまったら、歯は、すり減ったのと勘違いしたように、抜けた隙間に向かって伸びてきます。
 抜けた部分の後ろの歯は前に倒れ、相手の歯は伸びてくる... こうなると歯並びもずれてしまい、消化器官としての役割を果たせなくなってきます。また、噛む力である咬合圧の分散も出来ないため、一本にかかる力も増えます。それも加わり、他の歯の歯並びも狂わす原因となります。
 一本の歯を失うと、それによって起こる影響は計り知れないものがあります。抜けたところには入れ歯など、どんな方法でも良いから歯を入れておく必要があります。歯が動いてしまう前に何とかしないと大変なことになるのです。





<42>歯が抜けてしまったら(永久歯臼歯編その2)

 歯が抜けたり、抜けるまで行かなくても虫歯で黒くなっただけでも、前歯の場合は「見栄え」があるため、患者さんはナーバスになられます。特に女性の方はよけいに気にされます。そのため治りきるまでの間「仮歯」を入れてあげたりするのですが、もし奥歯が無かったりして噛み合わせが安定しなければ、仮歯は負担がかかりすぎてとても外れやすくなります。つまり、自分の体重以上の噛む力を支えるのは奥歯の仕事で、奥歯が無いとその力を前歯の仮歯では支えきれず外れたり、割れたりするのです。では仮歯ではなく、自分の歯ならどうでしょう。
 歯並びの治療で矯正治療がありますが、これは動かしたい方向にワイヤーなどで歯に力を加えます。押された方の歯を支える骨(圧迫側)は溶けて行き、引っ張られた方の骨(牽引側)には新たに骨が添加されて行きます。噛み合わせで歯に力がかかった場合、矯正治療のように常時一方向に力がかかるのではなく、色々な方向に、つまり歯を揺らす様に力がかかります。そうなると根の周りの骨のほとんどが圧迫側になることになり、歯が緩んで動いてきます。
 臼歯には大臼歯(6才臼歯以後)と小臼歯がありますが、大臼歯は根が三つ又,四つ又に分かれて垂直方向の力、すなわち噛みしめる方向に強さを発揮します。前歯は一本の太くて長い根っこで、噛み切るときにかかる横向けの力には強いのですが、それも奥歯があって、ちゃんと仕事をしてくれていればこそなのです。
 歯が抜けるだけでなく、歯周病で奥歯がぐらついてくると、同じように奥歯で支えきれない力が前歯の負担となり、前歯が動いてすきっ歯になったり、ぐらぐらしてきます。歯にも役割分担があるのです。


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