ライブレポート〜斑尾Jazz Festivalの巻
1日目(8月1日)



「カドー」

「斑尾ジャズ参加にあたっての心得」を伝授してくださった諸先輩方のおかげで、幸先良く最前列中央というベストポジションを確保できた私とBさん。迫力ある各アーティストのステージを間近で観る事ができた。


キャンディさん。それぞれがとても素晴らしいステージだったが、日本での知名度の面から言えば、今回のフェスティバルにおける最大のウリはキャンディ・ダルファー・バンドだろう。アップテンポ揃いのセットリストで攻めてきたという事もあり、ジャズ・ピクニックのトリを務めた彼女達のステージは、最初から観客も踊りまくりだった。アンタ達、どこで彼女を知ったんだ!? と、どう見てもサックスやジャズとは縁遠そうな男性達からは
「きゃーんでぃーーーーー!!!!!」という野太いコールまで巻き起こり、なんだかアイドルっぽいノリさえ感じられた。曲は一応ファンク&ジャズなのにねぇ(笑)


ところで、私とBさんはこの斑尾で、あるモットーを掲げていた。


「目立ったモン勝ち」(笑)


「どうせなら派手に何かやらかしたいですよねぇ。あわよくば、アーティストに存在アピールできるかもしんないし」という、いかにも関西気質な心意気で今回のフェスティバルに臨んだ私とBさんは、あらゆる「お目立ちグッズ」を準備していたのである。


その筆頭とも言えるアイテムが「シャボン玉製造サックス」なるもの。サックスの形をした両手サイズのオモチャで、ベルの部分に石鹸水を入れてマウスピース部から息を吹き込むとシャボン玉が飛び出す、という仕組みだ。私とBさんは、キャンディさんのステージの間、これを手にしてゴキゲンで踊っていた。


ジャズ・ピクニックの全プログラムが終了した直後から、早くもステージ横にはキャンディさん目当てにヤマのような人だかりができた。「あらぁ、キャンディさんって人気あるのねぇ」と、そのファン層の広さに改めて驚きつつ、例によってプレゼント(純和風の扇子)を持参していた私も、その一行に混ざった。


けっこうな行列だったにもかかわらず、接近遭遇は案外簡単だった。しかし、問題はその後、である。今回の私の目標である「オランダ語で喋ったる!!」は、果たして達成できるのだろうか。



ってか、アタシの蘭語、ホンマに通じるん?
これで発音不良で通じなかったらハジもいいとこだよなぁ(不安)



しかし、ここで試さん事には7ヶ月の努力もムダになる。持って行ったリードケースにサインをしてもらった後、プレゼントを差し出しながら思い切って


「Ik breng u een cadeau(プレゼント持って来たの)」


と言ってみた。すると



「cadeau!? わーお、thank you!!」


なんと、
バッチリ通じちゃったのである。



ぎょえーっ!!!!
アタシの蘭語、ネイティブに通じた!!!!




「ホテルに戻って開けるねー!!」と、にこやかに返してくれたのも嬉しかったが、それよりも自分のオランダ語があっさり通用してしまった事に心底驚いた。しかも、初めての実践(「実戦」とも言えるかも)の相手が、
よりにもよってキャンディさん。こんな事ってあり得るん!?!?


「あははは....通じちゃいましたね」


半分チカラが抜けたようになりながらBさんにヘラヘラと笑っていたが、私の目は早くも次なるターゲット、トーマス・バンクを捕らえていた(←おいおい・笑)


キャンディ・ダルファー・バンドのキーボード・プレイヤーとして活躍しているトーマスは、キャンディさんの公私に渡る良きパートナー。打ち込み系のダンサブルな曲でも彼のセンスの良さは十分に堪能できるけど、私は彼が作るバラードが大好き。それに加えてあのガタイ、あのお顔立ち。実は
個人的に好みのタイプでもあったりする(笑)


「トーマスーーー!!」


私とBさんのモットーである「目立ったモン勝ち」は、早くも効果を現していたようで、呼びかけると「あー、最前列で踊ってたヒトタチ!!」と、チッキリ覚えてくれていた(嬉) 彼は、演奏している時からオモチャのサックスに気がついていたらしく、不思議そうに眺めて言った。


「これ何?」
「シャボン玉が出るんだよ。今日は出さなかったけど」
「明日も(ライブ観に)来る?」
「もちろん」
「じゃあ明日はシャボン玉出してもらおうかな」
「りょうかーい!!」


お望みとあらば、何だってやっちゃいます(笑)


トーマスと一緒に記念写真も撮る事ができ、満足度100%なAmandaさん。そうこうしているうちに、ファン・サービス(ホンマにサービス良かったです。サインを待っていた人ほぼ全員に接してはりました)をひと通り終えたキャンディさんご一行は、ホテル行きのバスに乗り込んでいった。目的も達成し、すっかり満足しきってボーッとしていた私の横で、突然Bさんがバスを指差して
「あーーーーーっっっっ!!!!」と雄叫びを上げた。


何事?


「Amandaちゃん、ほらほら!!」


バスの中で、シールド付きのバスの窓を開けようと数人が必死になっているのが見えた。しばらく頑張っていた彼らだったが、その窓はどうしても動かないらしく、開けるのを諦めたようだった。しかしその次の瞬間、キャンディさんがこちらを見ながら手に何かを持ってヒラヒラと動かしているのが見えた。



あれ何?
扇形のモンが動いてる....って.......あれはもしや??



そのもしや、である。キャンディさんが持っていたのは、私がプレゼントした扇子だったのだ。


「あーーーーーっっっっ!!!!」


大笑いしながら、私とBさんはバスに向かって手を振った。


「バスの中から僕達の姿を見て、手にしてた包み紙を突然スゴイ勢いでバリバリ開け始めたんだよ。なんだろうと思ったら、Amandaちゃんが渡した扇子だったんだ」


バスが走り去った後、Bさんがそう教えてくれた。


キャンディさんの機転の良さとサービス精神に、心から感動した一瞬だった。



オマケ:
オランダ語では、「プレゼント」の事を「cadeau(カドー)」といいます。







エドさん

めでたくオランダ語が通じ、初日からあっさり目的を達成してしまった私とBさん。ハイタッチをしながらゴキゲンでペンションに戻ると、Fさん達が玄関に立っていた。


「Mさん、ホテルへアーティストを迎えに行ったよ」


斑尾ジャズには、ステージ・パフォーマンス以外にも様々なお楽しみイベントが隠されており、アーティストがペンションを訪問するというのもその一つ。フェスティバルの成功を願って、運営に惜しみないサポートをしているMさんの元へ、アーティストが毎年ディナーを食べにやって来るのだ、との事。


「誰が来るの?」
「エド・チェリーだって」


偉大なアーティスト、ディジー・ガレスピーの遺志を継ぐスゴ腕ギタリストと言われるエド・チェリー。そんな大物がここに?


ほどなく、
大男がペンションの車に乗ってやって来た。その大男こそが、エド・チェリーである。冗談抜きでホンマに背が高く、2メートル近い身長なんじゃないかと思われるほどだった。ペンションの天井が低すぎるのか、はたまたエドさんの身長が高すぎるのか(←もちろん後者に決まってる・笑)、ペンションの中では常にかかんで移動しなければならなかったエドさん。しんどかったんじゃない?(苦笑)


エドさんを囲んでのディナーは....最初はめちゃめちゃ緊張した。物静かな方なので、その場にいたみんなの波長がかみ合うまで、いろいろ話を振ってもなかなか続かない。途中で一瞬メゲそうになる私。



アタシって、会話ヘタやな〜〜〜〜〜(泣)
でも、お疲れのトコロをせっかく来てくださってるんだし
やっぱここは頑張らんとアカンやろ!!



とにかく喋った喋った。もちろん「楽しんでいただきたい」という思いが一番大きかったが、それ以前に「ネイティブスピーカーに私の英語がどれだけ通じるか試したい」という、いつもの英会話レッスンのノリもあったワケで(笑)


その努力が実を結んだのか(!?)、こちらから積極的に話をしていくにつれて、ディナーの席は暖かい雰囲気に包まれていった。おそらくエドさんにとっても、スタッフや見知ったメンバーから離れ、単身で一般客の泊まるペンションにやって来なければならないという事が、一種のストレスにもなっていたのだろう。次第に気持ちがほぐれていくエドさんの様子がわかる。


その後、私達はいろんな事を話した。斑尾ジャズに参加している他のアーティストの事、日本の音楽の事、日本のライブ事情などなど(PCの音楽ダウンロードシステムも普及しているし、何よりライブ・フィーが高いので、高い金を払って生演奏を聞きに行こうと思う人が育ちにくい、とかね)


現在はニューヨークのハーレムに住んでいるという彼に、私のニューヨーク旅行話も披露した。昨年の大晦日、タイムズスクエアのカウントダウンを見物するために現場で6時間半待ち続けたんだと話すと、「そりゃークレイジーだ!!」と笑われてしまった(苦笑)


エドさん。食事が終わると、Mさんの奥様が「さぁエドさん、そのお疲れの体にマッサージしたげるわよ〜。カモンカモン!!」と、エドさんを広間へ案内した。奥様はマッサージがお得意で、斑尾ジャズの出演者がやって来る度に、彼らにマッサージの大サービスを振る舞うのだそうだ。


始めは「大丈夫か?」と不安そうな表情を浮かべていたエドさんも、マッサージが始まると
「お〜〜〜、そこそこ!!」と、すっかりご満悦のご様子。「まあこの腰!! バットが入ってるみたいにコチコチよぉ〜」と、凝り固まった腰を力強く揉み解す奥様。


「そんなにスゴい?(in英語)」
「えーもうスゴいったら(in日本語)」



と、いつの間にやらマッサージを通じて各人の母国語でコミュニケーションを図る両者。傍から見てると、なんとも微笑ましいと言うか面白いと言うか(笑) 


「はーい、じゃあ次は頭、ヘッドね。叩くわよ、おっけー?」
「頭だね、おっけー」


両手を組んで、エドさんの頭を手際良くトントンと叩く奥様。


「わーお!! エドさん、日本人に頭をぶっ叩かれるのって初体験でしょ!!」


と私がからかうように言うと、エドさんは大笑いしていた。


あっという間に時間は過ぎ、エドさんが帰る時間になった。私達もナイトセッションを観るために再び会場へ行く予定だったので、Bさんの運転でエドさんをホテルまでお送りした。


「明日も(フェスティバル)観に来る?」
「もちろん!!」
「『See you tomorrow』って、日本語で何て言うの?」
「『またあした』だよ」
「そっか....じゃあ『またあした』!!」
「うん、また明日ね!!」


そう言って、エドさんはホテルの中へと姿を消した。


「エドさん乗っけて運転するなんてね〜!!」

と、車内に残されたメンバーは、しばらく大興奮だった。



ホントはペンションへ行くの、ギリギリまで迷ってたんだ
かなり疲れてたしね
でも、楽しかったよ
食事もスゴく美味しかった
ホテルの食事も美味しいけど
日本の家庭料理を
こうやって普通の日本の家で食べられるなんてね
今回の旅で一番美味しい食事だ



ペンションで、エドさんはこんな事を言ってくれた。
なんだか嬉しいなぁ。


エドさんにサインと記念写真をおねだりしたら、気軽に応えてくれた。楽しい思い出がまた一つ増えたってカンジだ。



オマケ:
私を含めてみんななぜか、彼の事を「エドさん」と呼んでいた(笑)
呼び捨てや「ミスター・チェリー」よりはいいかなぁ、可愛らしくてさ。