ライブレポート〜斑尾Jazz Festivalの巻
3日目(8月3日)



☆尾ひれが尾ひれを呼ぶ☆



4時半起き(爆)



なんなんだ、なんなんだこの早さは!?




フェスティバルもいよいよ最終日。日曜日であるこの日が一番盛り上がる日でもあり、この日のジャズ・クリニックは、お待ちかねのキャンディ・ダルファー。そのため、観客動員数は三日間の中でも一番多くなるに違いない。そう(勝手に)想像したBさんと私は、4時半起床&髪のセットもメイクもほったらかしで5時出発という驚くべき行動に出たのだ。


案の定、会場前には既に数人の待ち人の姿があった。とは言っても、まだ4〜5組程度。これなら最前列も余裕で狙える。


よしよし、これで三日間ともベストポジション確定ではないですか、ん?


朝食の時間まで、早朝の斑尾の景色を楽しみながらそこでボンヤリと過ごした。


この日も10:00に開場。早々に最前列ほぼ中央を陣取ったあと、いそいそとジャズ・クリニックの特設ステージへ足を運んだ。そこには既に司会を務める児山紀芳さんの姿が。


「あー、おはようございます!!」
「おはようございます。今日もいらっしゃったんですね」


二日目にジョン・ファディスに質問をして、児山さんから顔を覚えられていたBさん。まるで旧知の友のように話をしている二人を尻目に、私はキャンディ嬢のありがたい教えを今後の練習に役立てようと、録音の準備をしていた。程なく、話を終えて戻ってきたBさんが突然こんな事を言い出した。


「Amandaちゃん、話しといたから」
「へ?」
「連れがキャンディの大ファンで、『今日はオランダ語と英語で話しかけるんだ』って気合い充分なんですって話したら、児山さん、
質問の時に一番に当ててくれるって
「え、マジっすか?」
「『ゲンキ良く手ぇ挙げてね』って言ってたよ」


うそ、これって
根回し?(笑)


なんかエラい展開になってきたぞこりゃ....質問するだけでも緊張すんのに、使うのは蘭語と英語だぜおい!! と、デカいプレッシャーが私の気合いを押しつぶしにかかった。


メゲそ〜〜〜!!!!!(泣)
でもでも、ここでメゲてどーすんだ、え?


何度も私は心の中で、蘭語の挨拶と英語の質問事項をブツブツと繰り返した。


ジャズ・クリニックの様子。クリニックは、とても面白い内容だった。たとえ雑誌掲載のためにインタビュー取材をしても、きっと掲載時にカットされてしまいそうな小さな質問や、幼少時の彼女が体験したサックスにまつわる話など、非常に興味深い話を聞く事ができた。





さて、質問タイムである。『ゲンキ良く手ぇ挙げてね』の忠告どおり、私は勢い良く手を挙げた。スタッフが私にマイクを手渡す。「名前と、どこから来たのか言ってから質問してね」という児山さんの言いつけどおり、私は自己紹介を始めた。。。。
蘭語で


Amanda
「Goede morgen!!」(おはよう!!)
キャンディさん
「Goede morgen!!」



私が蘭語を勉強している事は、前の日の晩にすっかり知れている。「おおっ、ダッチだ〜!!!」と焦る児山さんの横で、キャンディさんがヘッヘッヘッと笑って
「She speaks Dutch!!」(彼女、オランダ語喋るのよね〜)と私を指差して言った。


「Mijn naam is Amanda. Ik kom out Nara, daarnaast Osaka.」
(Amandaです。大阪の隣の奈良から来ました)
↑これでも通じるだろうけど、文法的に間違ってるので、良いコはマネしないように(苦笑)


キャンディは親指を立てて
「Goed!!」(よくできました!!)と返してくれた。


これ以上続けると私の心臓にも良くないので(笑)、あとは英語に切り替えて質問をした。


「I started to play saxophone one and half years ago.」
「Very good.」
「What do you think is the most important thing for beginners like me when we practice saxophone?」
「Well...I......」


キャンディが質問に対して答え始めた時、児山さんが慌てて
『ちょっ、ちょっ、ちょっと待った!!』と割り込んだ。日本語通訳をうっかり飛ばしてしまった事に気づいたキャンディさんは「あ、Sorry」と笑った。その様子がミョーに可笑しく、観客からもドッと笑いが起こった。


そんな和やかな雰囲気の中、サックスに関するいろいろな質問が途切れなく続いた。驚くべき事に、質問をしたのは全て女性。キャンディに対する日本人女性の支持の高さを改めて感じてしまった(もしや男性が消極的なのか?)


クリニック終了後、特設ステージ裏にシリルさんの姿を見つけた。クリニックでうまく話せた事で気が大きくなっていたのか、私のクチは勝手にシリルさんに向かって
「Hoe gaat het met u?」(元気ですか?)とぶっ放していた。シリルさんと、彼の隣にいたマネージャーさん(かな?)は、私の蘭語攻撃に「うぉ〜〜〜!!」と歓声を挙げた後、日本語で「ゲンキ!!」と答えてくれた。日本語を話すオランダ人と、蘭語を話す日本人....コイツら、いったい何なんだ?(笑)



そうこうしていると、ある男性が私の方に近づいてきた。



「すみません、さっきオランダ語を話してらっしゃった方ですよね?」
「あ、はい。そうです」
「わたし、こういうモノです」


差し出された名刺には、『音楽之友社』と書かれていた。


え、これって『レコード芸術』とか『バンド・ジャーナル』とか出してる出版社とちゃうのん?


「オランダ語、できるんですか?」
「いえそんな、趣味で勉強してる程度ですよ。独学ですし」
「実はハンス・ダルファー(←キャンディのお父さん)が本を出してるんですけど、それがオランダ語で書かれてるんですよ。誰もオランダ語をわかる人がいないので、もしかしたら
翻訳お願いできないかなと思って....」




ぬっ、ぬぁに〜〜〜ぃぃぃぃ!!!!!!
このアタシがパパ本の翻訳だぁ!?!?!?!?!





そりゃあもう、ビックリしたも何もないって!!! すっかり気が動転してしまった私は、
「はい!?」と超マヌケな声を出してしまった。


「翻訳?」
「そうなんです」


こんないいハナシ、滅多にないチャンスだ。ホントならここで「やります!!」と二つ返事をしたかったのだが、どう考えても私のオランダ語はビジネスで通用するようなレベルではない。安請け合いして「やっぱりムリです」では済まないので、自分のオランダ語能力がどれほどの幼稚レベルかを伝えて、せっかくのお話だったが泣く泣く辞退させていただいた。


ここだけのハナシ、
私がレベルアップするまで翻訳作業は待ってて!!って言いたいぐらいだ(笑)



しかし、その夢のようなハナシはまだ続いた。



「それからですね、今から
次号の『管楽器パラダイス』の表紙に使う写真を撮るんですけど、もし良かったら一緒にいかがですか?


『管パラ』の愛称で親しまれている『管楽器パラダイス』とは、『バンド・ジャーナル』の別冊として、年二回発行されている管楽器専門の雑誌である。次回発行分で「サックスやってる女のコ」というイメージで特集を組むにあたり、サックス・ガールズがキャンディさんと共に写真撮影をするのだ、との事。


「えっ、いいんですか?」
「今日、サックスはお持ちですか?」
「いえ、持ってきてないんです」
「そうですか、それじゃあ....」


と言いながら、Eさんはサックスのハードケースを目の前に置いた。


「これ、今度発売するセルマーのアルト・リファレンスなんです。これ使ってください」
「わーお、すごい!!」
「ただこれ、まだ発売前なんて、
世界に2本しかないんです。取り扱いには注意してくださいね」



え、世界に2本って。。。。
そんな大事なモンをアタシなんかに貸してもいいのか!?


Eさんのやんわりとした脅迫(!?)を受けながら「世界で2本しかないサックス」が入ったハードケースをしっかと両手で持った私は、撮影場所へと移動した。



そこには既に、今しがたサックス持参でクリニックに参加していたガールズ達が10名ほど集まっていた。互いに初対面ではあるが、同じ「サックス吹き」としての連帯感がそうさせるのか、自然に会話が生まれる。


「どんなカッコしたらいいんだろー?」
「なんかキンチョーしますよねー」


「はーい、じゃあ『サックスは楽しいぞ!!』っていう雰囲気を表現してくださいね!!」というカメラマンの声に、一同は若干ぎこちなさを残しつつも思い思いのポーズを取る。「きゃー、はずかし」などと照れながら、一足遅れてやってきたキャンディさんと共に写真撮影を行った。


思い切って画像公開しちゃいましょう。さあ、私はどれだ??

Amandaを探せ(笑)


午後から自身のステージと、他のアーティストとのセッションを控えていたキャンディさんだったが、撮影後はみんなのサインや写真撮影のお願いに快く応えていた。なんてサービス精神旺盛なんだろうと感動しつつ、最後に「Dank u, wel!!」と声をかけたら「Alstublieft!!(どういたしまして)」と返してくれた。えーえー、あたしゃもう一生アナタについて行きますわ(笑)



というわけで、11月下旬あたりには、世界で2本しかないアルト・リファレンスを持ってニンマリしているアタシが表紙に載っている『管楽器パラダイス』が、店に並ぶ予定である(笑)




オマケ:
後日、雑誌編集担当の方からメールをいただいた。

「特集ページのイメージは『ガールズ・サックス!』ってなカンジでいこうかと思っています」

うーむ、○歳のアタシが「ガールズ」か....まだ可能なんだろーか....(笑)









☆うぇるかむ、お立ち台☆


最終日のジャズ・ピクニックは、どのアーティストもより力が入っていたように思う。他アーティストの飛び入り参加(←正真正銘の「予定外飛び入り」である。突然楽器を持ってステージへ登場し、散々パーカッションを鳴らして退場していくアーティストもいた・笑)も多々あり、滅多に見られないコラボレーションの実現に、会場も大きく沸いた。


今回の出演者の一人だった小沼ようすけは
「0.01秒先に何が起こるかわからない、そこがジャズのいいところ」と言った。その言葉どおり、最終日のステージ上はまさに「アドリブの応酬」となった。その瞬間のフィーリングを頼りに、それを音にして表現する。アーティスト達の実力のぶつかり合いである。突然の飛び入りでも、各々のサウンドが合わさり、より大きな化学反応を引き起こす。これが音楽の醍醐味なのだろう。


しかし、より大きな化学反応を引き起こすのは音楽だけではない。ダンスも然り、なのである。


キャンディさんのステージでは、彼女がサックスを吹き吹き
ステージを飛び出して観客席にまでなだれ込むという場外乱入(?)の一幕もあり(すごい根性....と、あたしゃ驚くばかり)、会場、特にステージ付近は興奮で湯気が見えそうなほど茹だっていた。知らないうちに、自分の隣でまったく知らない人が割り込んで踊っていたりするのだが(笑)、それはそれで「アンタもゴキゲンだねぇ、まあ踊ろうや」ってカンジのノリ。気がつけば全然知らない人と一緒になって踊っていたぐらいである(おいおい)


そんな最高潮のムードの中に登場したのが、この日のジャズ・ピクニックのトリ、ディーディー・ブリッジウォーター。猛暑の中、ジャズやブルース、ラテンをパワフルに熱唱し、さらに観客を沸かせる。


ディーディーさん。彼女の『This is New』というラテンナンバーは、非常にダンサブルでノリのいい曲だった。このテの曲を聞くと、ところ構わず私のラテン病が発病する ―――― それは、普段の私をご存知の方なら想像に難くないだろう。その『This is New』の演奏が始まると、いつものノリで私はラテンのステップを踏み始めた。ナマ演奏でラテンダンス、なんて贅沢なんだろう....半分
(←半分で済むかどうかは不明・笑)熱に浮かされたようになった状態で踊り狂っていると、ディーディーさんがこちらに視線を向け、笑いながら私と同じステップを踏み始めた。


おっ、嬉しいねえ♪


すると、ディーディーさんがこちらへ
「オイデオイデ」のジェスチャーを寄越したのだ。


なー、いくら何でもそんなのあるワケないっしょ!!


と、半信半疑のまま自分を指して
「アタシ?」と返してみたら、彼女は
「そーよ、うんうん」
と頷いた。


きゃー、マジで!?
アタシ、ステージに上がってええのん?



すっかり舞い上がった私は、靴も履かずにそのまま観客席を飛び出し、ステージへ駆けていった。ディーディーさんにステージへ引っ張り上げてもらい、そのまま超ラテンダンスモードへ突入。日頃から遊びで踊ってるラテンダンスがこんなトコロで功を奏するとは、さすがの私も驚いた。サックスのレッスンでは頭痛がするほど悩まされるアドリブだが、ことダンスになると、私のアドリブ能力は存分に発揮されるらしい....
「私の前世はラテン系だったのではないだろうか」と、常日頃から抱いている私の「疑問」が「確信」に一歩近づいた瞬間だった(笑)


初日にディーディーさんとセッションをしたジョン・ファディスが、次の日のクリニックで次のように言っていた。


「ディーディーはね、まるでパーティのホスト役みたいに、とても暖かくステージでもてなしてくれるんだよ。一緒に演奏できてすごく楽しかった」


ステージで踊った後、私には彼の言葉がとてもよく理解できた。私の即興ダンスに、彼女はとてもうまく合わせてくれた。普段ももちろん楽しいが、踊っていてこんなに楽しいと思った事が、果たしてあっただろうか。わずか数分間の出来事だったが、彼女はまさに私を「パーティに参加した客」としてもてなしてくれたのだ。ジョン・ファディスと同じ気持ちを味わえるなんて、もったいないぐらいの体験である。貴重な体験ができた事に、今でも心から感謝している。


ディーディーさんのステージが終わると、そのままアーティスト総出のグランド・フィナーレへ。陽気なラテン調の曲に合わせて、ステージ上も観客も大盛り上がり。会場はフィナーレにふさわしいステキな雰囲気に包まれ、3日間に渡るフェスティバルの幕を閉じた。


斑尾ジャズは、来年でいよいよ20回目となる。来年はどんなアーティストが顔を揃えるのか、そしてどんな盛り上がりを見せるのか、今からとても楽しみである。




オマケ:
ステージ上って、あんなに気持ちいいのね〜。
何千人もの視線が、こっちに集まってるのがすごくわかる。
観客サイドから上がる歓声って、ゴーッっていう地鳴りのように聞こえるの。
ありゃークセになるワケだ(笑)