[1.奇妙な流行語]
昔から、世の中には時々、そのときの常識では妥当と思われない行動を
とるものが現れる。そのうち特に「犯罪」ともなれば、世の中の人の関心を
ひきつけるわけで、そのような行動をとるものがいる理由を、人は知りたい
と思うものである。
で、昔からいろいろな説明がなされていたのだが、最近は以前と異なる、
奇妙な流行語があるようだ。それが「心の闇」なる言葉。
不可解な行動の理由を「心の闇」とやらいう言葉で説明するのは、一見
明快なようだが、実は何の説明にもなっていない。なぜならこのような言葉
で片付けようとする自称知識人たちは、一番肝心なことに答えていないから
である。それは「心の闇」とはいったい何なのか、ということ。
彼らによれば、理解できない行動すべての原因は「心の闇」のせいだとなる
のだろうが、そのまえに、理解できない理由は自らにあるのではないかという
ことを少しでも考えたことがあるのだろうか。
私に言わせれば「心の闇」とはいわゆる自称知識人たちが、自分以外の人間の
心の動きに対してあまりにも無知であるために作り出した幻影に過ぎない。無知
な人ほど、他人の「心の闇」は広大で深いものであろう。だが、その実態は彼ら
の幻想に過ぎないのだ。だれの心の動きも、一定の自然法則にしたがっているの
であり、逸脱することはない。それを知っている人にとって「心の闇」など存在
しない。逸脱しているのは「自分にとって都合の良い心の動き」であり、それに
あわないからといって「心の闇」とやらいう得体の知れない言葉で片付けるのは
安易であり、しかも何の解決にもなりはしない。