Wind of Gold

written by Hirona Aikawa


「うわぁ……っ、すごいですね!」
 一面に広がる黄金(きん)の海。人々のたゆまぬ努力と大地の恵みの結晶。
「なんだか風まで金色に見える」
 つぶやいたランディに、オリヴィエは小さく笑みをもらした。
「……そうだね」
「オリヴィエ様?」
「私の故郷の言い伝えでそんなのがあったなって、思い出しただけ」
 彼が自分から故郷の話をするのは珍しい。ランディは軽く目を見張り、言葉の続きを待った。
「なんとなく、いいことが起きる気がする。そういう予感ってあるでしょ、それをね、『黄金の風が吹く』って言うんだ」
「へぇ……っ、素敵ですね!」
「ん、そうだね。あそこにいた頃は、そんなコト気にすることもなかったし、黄金の風を感じることもなかったけど、……今ならわかるな。雪に閉ざされた小さな村で、明るい日差しは、何よりも大切なものだったんだ」
 吹く風に金の髪をなびかせて、オリヴィエが微笑む。
「ランディ、あんたはまさしく風の守護聖だね。私の心に黄金の風をもたらしてくれた……」
 陽に焼けた頬をうすく染め、ランディはわずかにうつむくと栗色の髪をくしゃりとつかんだ。照れた時の彼の癖だ、オリヴィエの笑みが深くなる。
 やがて顔をあげたランディは、まだわずかに照れを残しながらも真っすぐにオリヴィエの瞳を見つめ返した。
「オリヴィエ様こそ。いいことが起きる予感って、未来への希望ってことですよね、あなたの、──夢の力ですよね」
「……うん」
 一瞬真顔になったオリヴィエは、やがて眩しそうに目を眇め、細く息を洩らすようにして笑った。
「ありがと、ランディ」
「え? 何がですか?」
「ふふっ、何でもない。こっちのハナシ」
 はぐらかして、オリヴィエは両手を天へと差し伸べた。ブレスレットがかすかに音を立てる。
「う〜んっ、イイ天気。風も気持ちいいし。こんな時にさぁ、イイ予感がしないワケがないよねぇ」
「ハハッ、そうですね!」
「と、ゆーコトでぇ、……今日のディナーはあんたの奢りね!」
 びしっと突き出された指を避けるように仰け反りながら、ランディが慌てた声を上げた。
「はぁっ!?」
「だいじょーぶダイジョブ、こんなのどかな町なんだもん、そんな高い店なんてそうそうないからサ☆」
「そういう問題じゃないです……」
「さ、早く行こ。視察も終わったんだから早く帰ろうよ」
 そう言いながらすでに歩き出している背中に、ランディは小さくため息をついた。
「まったく、もう……。相変わらず強引だなぁ……」
「何か言った?」
「いいえ、何にも」
 じろりと睨む視線に慌てて返して、ランディは麦の穂のように輝く金の髪を追って走り出した。
fin.