Wish You Happy
written by 相川 ひろな
「う〜っ、さっむ〜っ!」 ぶるっと身を震わせたオリヴィエに、ランディはくすりと笑って「そうですね」と答えた。だが茶系のジャケットを羽織ったその姿は、ちっとも寒そうには見えない。 「……でもオリヴィエの生まれたところはもっと寒かったんでしょう?」 「あのね。あんなポカポカ常春なトコで何年も過ごしてたら、ペンギンだって寒さに弱くなるっての」 「ペンギンって……。まあ、そうですけど」 少々呆れた様子で呟いて、ランディは辺りを見回した。 前後左右、上を見ても下を見ても、きらびやかなイルミネィションがランディの目を楽しませる。 「なんだか、ずいぶん賑やかな街ですね」 「そだね〜。――ああ、それでか」 同じように周囲に視線をやったオリヴィエが、街中に散りばめられた文字に気づいた。 「ほら。クリスマスが近いんだよ」 「え? ――あ、ほんとだ」 オリヴィエの指さすところに目をやってランディが納得した顔で頷きを返す。 「クリスマスか。――良い時に来たな。なんだかちょっと得した気分ですね!」 笑顔で告げたランディに、オリヴィエも濃青の瞳を細める。ラメ入りのマスカラで飾られた睫毛がイルミネイションの光を返した。 歴史的な女王交代及び宇宙の引越劇の後、新しい宇宙にも新しい女王を迎え、女王を始め守護聖たちものんびり平和な時を過ごしている。宇宙も女王も若く力に満ち溢れていて余裕があり、そのためか守護聖たちが私用で外界に降りることも、以前より格段に楽になった。一説によると、向上心溢れる女王陛下に「ねぇ、陛下。アンタにも新しい香水やらネックレスやら買ってきてあげるからさ〜☆」とか何とか言ってたぶらかした不良守護聖がいたらしいが、真相は不明である。 ともあれ、ランディとオリヴィエは、この日ショッピングのために外界に降りてきていた。――正確に言うと、オリヴィエのショッピングにランディがつきあう形である。 クリスマスと知って、オリヴィエの目の色が変わった。隣でランディが「あーあ」という顔をする。オリヴィエの狙いは当然、クリスマス限定品の数々だろう。この時期クリスマスプレゼントに頭を悩ませる世の男性のために(?)プレゼントを捧げる女性がいかにも喜びそうな“クリスマス限定”の商品が各ブランドから発表される。ランディはオリヴィエにドコソコのナニが欲しいなどと強請られたことはないが、せっかくだし、何かプレゼントするのも良いかもしれないと考えていた。装飾品に全く縁のないランディだが、オリヴィエの日々の教育の賜物か、彼の特に好むブランドくらいは見てわかるようになっている。 「さ〜てっと。どっから行こうかな〜。アンジェは○○でしょ、ロザリアは△△だから〜……」 「――え?」 隣で呟かれた言葉に、ランディは驚いた顔を向けた。彼女たちの好むブランドの名前らしいがランディにはわからない。が、ランディが聞き返した理由は違うものだった。 「なに?」 「え、や、――オリヴィエ、自分の買い物に来たんじゃないんですか?」 「うんそうだよ。けどやっぱ、こういう時はレディファーストでしょ☆」 言ってウインクをとばしたオリヴィエを、ランディはまた好きになったと思った。 聖地で待つふたりの天使にそれぞれプレゼントを選び終え、ふたりはオリヴィエ御用達のブランド店のひとつに来ていた。だが今日はこれぞと思わせるものがなかったらしく、オリヴィエは眉を寄せてう〜んと考え込んでいる。 見るとはなしに周囲を見回して、ランディは店のショウウィンドウ越しに見える、通りの向かいの店に目を留めた。 「オリヴィエ。あの店に行ってみよう」 「え? ――へぇ、イイね。行こうか」 にんまり笑ったオリヴィエに、ランディも同じ笑みを返した。 その店は、駆け出しのデザイナーが手がけている、まだ無名の小さな店だったが、なかなかセンスの良いものを取り揃えてあった。華やかでありながら品を保った、まさにオリヴィエにうってつけのものだ。 「あんたもだんだん私の好みわかるようになって来たね」 そう言われれば、やはりランディも嬉しくなる。上機嫌で店内を回るオリヴィエを見送って、ランディはプレゼントを物色し始めた。やがて辿りついたネックレスに空色の瞳が輝きを増す。振り向いてオリヴィエを呼ぼうとし――考えを改めた。内緒にしておいた方が、驚く顔が見られていい。 しかし、オリヴィエはいつだって察しが良すぎるのだった。 「ラ〜ンディ、ナニ見てんの?」 「ぅわっ!?」 背後からのぞき込まれ、ランディは思わず声を上げていた。 「オ……ッリヴィエ! もう、おどかさないでくださいよ!」 「そんな驚くコトないでしょ。で、ナニ……あら、これ」 ランディの目の前のネックレスに目をやりオリヴィエが呟く。 「ランディ。……もしかして、これ、私へプレゼントしようとしてたりする?」 「え、……う゛、は、はい」 今更隠しても仕方がないとうなずくと、オリヴィエはいきなり吹き出した。あっけに取られるランディを後目に、オリヴィエの笑いはしばらく止まりそうにない。 「オリヴィエ??」 「はぁ〜っ、ヤダなぁ、もう。あんたってば……」 「??」 疑問符を散りばめた顔で問いかけると、笑いすぎで涙の滲んだ目元を押さえながらオリヴィエが息をついた。 「ごめんね、ランディ。私、これもう買っちゃった」 「…………え゛」 オリヴィエの見ていた方にもこれと同じものが置いてあったのだという。一目見て気に入って即買いしたと言われ、ランディは複雑な気分になった。彼の気に入るものを選べたというのは嬉しいが、先を越されたようで、……ちょっと悔しい。すでに買ってしまったものの代金を自分が持つというのも格好悪いし、何よりオリヴィエはそんなのは認めないだろう。頭を悩ませるランディに、オリヴィエは苦笑してそっと唇を寄せた。耳元でささやく。 「ごめん。でも、……嬉しかったよ」 そして耳朶に唇を触れさせる。ぎょっとしたように身を引いて、顔を赤くしたランディは、しばしの後に笑みを浮かべてうなずいた。 店を出て、夕食を摂ろうと通りを歩きながら、ランディはあげそこなってしまったプレゼントについて考えていた。食事をしたら、一息ついて聖地に戻らなくてはいけない。その間に、うまく見つけることができるだろうか……。 ランディの考えはオリヴィエにもお見通しならしく、けれどオリヴィエは何も言わない。気にしなくていいよなどと言っても聞くランディじゃないとわかっているからだ。 目に留まった店で食事をし、ほんのりワインの余韻とデザートの優しさに包まれたまま店を出る。エアポートに向かう途中、ランディの目が捉えたのは、どこの街にもあるような、アクセサリーを扱う露天商だった。気に入れば値段は一切問わないオリヴィエが、こういった店を利用することもよくあるとランディは知っている。先ほどネックレスを買おうとした店を見つけた時と同じ、何かに呼ばれるような、予感めいたものがランディを引き寄せた。 「オリヴィエ、ちょっとだけ寄り道しませんか」 「え?」 あそこ、と指さして歩き出す。小さく笑ってオリヴィエが後に続いた。 「こんばんは、ちょっと見せてください」 律儀に声をかけて、ランディはビロードの上に広げられたアクセサリーたちを見回した。 こういった露天の商人は、土地により老若男女様々だ。この店の主人はちょうど「おじさん」といった呼び方が似合う気の好さそうな男だった。ランディが選んだ髪飾りを示すと、それを取り上げながら気安く声をかけてきた。 「お兄ちゃん、美人の彼女にプレゼントかい?」 「え? ……え、っと、……まあ。はい」 一瞬、答えに窮した顔をして、しかしランディは照れくさそうに笑ってうなずいた。隣でオリヴィエは、笑いをこらえるのにちょっと苦労する。気づいた様子もなく、店主は大仰に相づちを打った。 「そうかそうか。年上の美人をつかまえるなんて、お兄ちゃんもなかなかやるじゃないか。……けどな、早く金稼げるようになって、来年はもっといいのを贈ってやんなよ!」 「あ。……は、はい。どうも、ありがとうございます」 気の抜けた返事をするランディに、オリヴィエが吹き出さなかったのは奇跡に近い。ランディと同じ年頃の息子でもいるのか、店主は上機嫌でランディにペアネックレスを手渡した。 「よし! じゃあこれはおまけだ、ふたりお揃いで大事にするんだよ!」 「えっ……あ、ありがたくいただきます」 「礼儀正しい兄ちゃんだね。……よかったら、また来ておくれよな!」 「…………はい」 微笑んで諾の返事をする。そのとき一瞬だけ、ランディは少し寂しそうな顔をした。次にこの街に来ることがあっても、おそらくこの店主はもういないだろう。自らの宿命と、課せられた使命の重さを実感する一瞬でもあった。 「だ〜れが「美人の“カノジョ”」だって〜?」 夜道をのんびり歩きながら、わざとらしくオリヴィエが流し目を寄越す。美人ってのは当たってるけどサなどと軽口を添えるオリヴィエの横で、うっと詰まってランディが顔を赤くした。 「だって、そう簡単にほんとのことを言えるわけじゃないし、……第一「いえ、俺の“彼氏”です」なんて、言えないじゃないですか」 恨めしそうな目つきで睨まれて、オリヴィエはついに吹き出した。 「キャハハッ☆ 彼氏ね〜、うーん、それもなんか違うよね〜」 「オリヴィエ!」 「ま、ね。カレシかカノジョかって言われたらカノジョなんだろうけどサ」 「もうその話はいいですよ……」 早くも白旗を掲げるランディに、オリヴィエは優しい目を向けた。 「アリガトね、ランディ」 「え?」 「コ・レ」 言ってオリヴィエは自分の頭を指さした。長い金髪をそのまま背に流していたオリヴィエは、先ほどランディが露天商で選んだ髪飾りで上の方の髪を留めている。 「なんでコレにしたの?」 「え。……さっきの、ネックレスに合うかなと思って」 「ふぅん。……アリガト」 目の前で、ふわりと開いた微笑みに、ランディがかすかに赤くなる。笑みを深くして、オリヴィエはコートのポケットから取り出したものをランディに差し出した。 「実は、私もあるんだ。クリスマスプレゼント。……今度コレをして私を迎えに来てね、王子サマ♪」 触れるだけのキスとともに、ジャケットの襟元に何かが差し入れられる。目を向けて、ランディは一つ瞬きをした。 「え、っと、……これはつまり、今度はちゃんとスーツでエスコートしろってことですか?」 「ふふっ、そうだね。それにダンスパーティとおいしいワインもあったらいいな」 「……俺一人じゃパーティの企画は無理ですよ」 「強力な助っ人がいるじゃない☆」 「ははっ、そうですね。きっと彼女たちも退屈してるだろうし、話してみましょうか」 「そうこなくっちゃ!」 話は決まったとばかりにオリヴィエが足を速める。と、ランディが呼び止めた。 「オリヴィエ!」 「うん?」 振り向いたオリヴィエの肩を掴んで、ランディがすっと顔を寄せた。 「Merry Christmas,Olivie.……ちょっと早いけど」 「…………やるじゃん、少年」 不意をつかれたオリヴィエが、小さく呟きため息をついた。 「よ〜っし、じゃあ私から、世界中のみんなへクリスマスプレゼント! みんなが幸せに、大切な人と素敵なクリスマスを過ごせますよーにー! ……って、ネ♪」 両手を夜空に掲げて叫び、ランディに目を向ける。鮮やかなウインクに、ランディも明るい笑みを返した。 fin. |
くりすますおめでとう〜!(違)
COMMENT by ひろな(02.12.24)
はい、このように更新ができているということは、今日この日、アイカワは家にいるということですね! ──うわ、寒。 けどいいのサ、その分ランディとオリヴィエがラブラブしててくれれば(いじいじ)。 ──な〜んて。いじけたコメントは置いといて。UPできなかったら格好悪くてヤだからナイショにしていた、クリスマス記念フリー創作です☆ ……いや、ゆっきょんさんには先日お会いしたときにこっそり言いましたが(笑)。ちゃんとUPしましたよ〜! 褒めて?(笑) すんごい突発書きなんで、何が言いたいのか良くわかんないお話になっていますが(^^;)、いや、なんだかんだと幸せならしいふたりが書ければいいやという感じで。だって、風夢同盟宣伝チラシは“&”なお話だったから、“×”なシチュに飢えてたのよう〜。その割には大したことない(ちゅーしかしてない)けど。 拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。そして良かったらこの子たちをもらってやってください(押しつけ?(をい))。 ☆ほんとにUPしてくださる奇特な方(失礼な)へ。 事前・事後の報告は必要ありませんが、ページのどこかに「風夢同盟PassionWindの相川ひろなが書いた」旨をお書き添えいただけると嬉しいです(SSSの相川ではなく)。 |