Moon Target 〜月の勇者〜

written by ちひろsama




──ほんの一瞬。

「……ん……?」

さらり、とした冷たい風が、ランディの頬をかすめた。
「……?」
その瞬間、腕の中にいたはずの温もりが消えていることに焦りを感じて一気に目が覚めた。
「あれ??」
バッと起きあがり、ベッドの中をちょっと探って──
「あ、起こしちゃった?」
「!」
探し求める声のした方向を振り返ると。
「……オリヴィエ様」
テラスへ続く窓を開け、こちらを振り返るその人がいた。
「ごめん。よく寝てるから気をつけたつもりだったんだけど」
「いえ……いいんですけど」
思わずほっ、と息をついて、立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「ああ。たまたま目を覚ましたら、偶然窓から見えた月がきれいでさ。ちょっと見ようかと思って」
「あれっ。カーテン閉めなかったんですね」
「きゃははっ。今更なーに言ってんだか」
私の魅力に勢い余った誰かさんのせいでしょ、と微笑むオリヴィエは、部屋へ差し込んでくる月光のもと──絹のようになめらかな肌を、ランディの前にすべてさらけ出していた。
……その輝きが。
「ランディもそのまんまでこっち来なよ。2人で月光浴も悪くないよ?」
「ええ、そうします」
あまりにも無防備な姿は──目に強く焼き付いた。

 ...†

ふと。
「……ふぅん」
オリヴィエが、こちらをまじまじと眺めながら何かを納得するような。
「な、なんですか?」
月を見上げていたランディが、ちょっと照れくさくなって問うと。
「ランディってさ、意外と月の下が似合うよね」
「え?」
「アンタには太陽みたいなイメージを持ってたけど……へえ。こういう姿も悪くないかも♪」
そんなことを言われた今の、その姿は。
──思いっきり“生まれたままの姿”というヤツだったりする。
「オ、オリヴィエ様」
思わず恥ずかしくなって視線をそらした。
「あ、照れてる〜?」
「い、いきなりそんなこと言うからびっくりしてるんですよ!」
「おや。私はホントのコトを言ってるだけのつもりだけど?」
「おだてたって何も出ませんよ!?」
「え〜、それはつまんないな〜」
「からかうのやめてくださいよーっ」
ランディは、耳まで真っ赤になりながら言い返すが。
「だ・か・ら! からかってないってば」
「!」
「意外と疑い深いねぇ。アンタの魅力を語る私の言葉がウソだとでも言いたいわけ? ……ん?」
「……!」
ちょっとたしなめるような反論の声に、あまい艶を感じて。
「オリヴィエ様……?」
そちらを見れば──うっとりと自分を見つめるその瞳があり。
「だってさ。本当に綺麗だと思ったんだ。──月光に照らされたランディって、すごくイイ。まるで地上に遣わされた月の勇者みたいに凛々しくって……さ」
「……!」
「ね。月の勇者様? あなたのターゲットとなるラスボスは、どこにいるのかな?」
「……」
「それとも、もう倒しちゃったとか?」
そんなオリヴィエの問いに答えるランディは。
「──いえ、まだ」
にっこり微笑み返して……その唇にやさしく口づけた。
「ここにいますよ。俺の目の前に」
そう言いながら、月光の輝きにわざとさらすようにして──その場でオリヴィエを横たえ、覆い被さった。
「しかも、何回倒しても甦ってくる……エンドレスなラスボスで大変なんですから」
「ふふっ。それは倒しがいがあるね」
「また今から倒しますよ?」
「覚悟は出来てるさ」
そして。
その腕に身を預けた“ラスボス”へ、勇者が耳元に戦闘開始のささやきを送る。

 ──俺は何度でも倒しますよ……あなたを。

それに答える“ラスボス”は。

 ──アンタにだったら、何度でも倒されてあげるよ。





「オリヴィエ様──」

月光に照らされ力を授かるかのような己の剣を──腕の中の愛しさに振りかざす月の勇者。

「オリヴィエ様……オリヴィエ様!」
「あっ、ああ……ランディ!」

 ──私を倒して。もっと……もっと!

「ランディ──!」

月の光の中で。幸せに満ちあふれる────

...†



「Moon Target 〜月の勇者〜」

──そのEndingは。

2人だけが知る、終わらない物語。



[END]





(管理人コメント)

キリ番328(ランディBD)をGetされたちひろさん、前回キリ番100もGetと2回連続になったことから、ご本人自らセルフリク(笑)を申し出てくださいました。
そしてできあがったのがこの素敵なお話! “月光の下の二人”…………うっとりですv ちひろさんの書かれるお話のこの艶っぽさが、私は大好きなんですよ〜v ほんとにありがとうございました!
さあ! 皆さんもがんばって次のキリ番Getしてください!!





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