Hot Love

written by ちひろsama


「ふぅっ。ホント、寒い街だねえ……。私が住んでた星よりも寒いよ」
 ここは、氷点下に近い気温の街──オリヴィエが、はーっ、と白い息を吐いてみせる。
「朝ですからね。余計に寒いです」
 そう返すランディの言葉も、負けないほど白くなった。

 二人は今、女王陛下の命により辺境の寒冷な星へと足を運んでいた。
 風と夢のサクリアを必要と思われる地域に少しずつ送る……そんな任務に、王立研究院に寝泊まりしながら約一週間を費やした。
 その任務も、明日で終わる──今日一日は、様子見の休暇みたいなものだ。

 街のはずれまでやってくると、そこはちょっとした森林公園だ。
 昼間になると子供達が元気に走り回っているが、早朝の今は、ちょっと奥ばったところへ入ってしまうと、シンと静まりかえる木々の中である。
 足元には、寒いこの季節──枯葉のじゅうたんがカサカサと足音を作る。
 二人は好奇心に任せるまま、あえてその中を進んでいった。

「こういう寒い日は、やっぱりランニングですよ!」
「……元気だねぇ」
「寒いの吹っ飛びますよ〜」
「だったら、私は『押しくらまんじゅう』がイイかな」
「? 肉まんみたいなものですか? 美味しそうな名前ですね」
「ぷっ」
 すぐに食べ物へと結びつけてしまうランディが、またらしいというか。
「ちーがうよ☆」
 ──そっか。寒い星ならではの遊びだしね──
 そう思いながら、オリヴィエは自分が子供の頃にやったことを懐かしみつつ説明をしてやった。
「背中合わせになってね、『押しくらまんじゅう、押されて泣くな!』って繰り返しながら、お互いを押し合う遊びだよ。全身を使うからけっこう暖まるんだ」
「へぇ……おもしろそうですね!」
「やってみる?」
「へ? こ、ここでですか??」
「とーぜん♪ 寒い外でやるから意味があるんじゃない」
「あっ、そうですよね!」

 ──そんなことから始まった、二人の「押しくらまんじゅう」。

『押しくらまんじゅうっ、押されて泣くな!』……

 朝の澄んだ空気の中、子供みたいにはしゃぐ声はよく響く。
「けっこう、全身運動──っ、ですねっ?」
「でしょっ!」
 倒れないようにと手を繋ぎ、二人は互いの背中を全身で押し合った。
 いったい、どのくらい繰り返していたのだろう──

(さ、さすがに……っ)
 先にバテ始めたのは、オリヴィエだった。
(最近、ちょっと運動不足だったからねぇ……)
 やはり普段からランニングを欠かさないランディの持久力には、到底敵わないということか。

 ──ま、ランディに負けるんならいいけどね。

 まだ押し合いは続いているというのに、そんなことを思ってしまった──その途端だった。

『押しくらまんじゅう、押され……』──

「……わっ!?」
「えっ?」
 リズム良く続けていたところで、オリヴィエの方が見事にタイミングを外してしまったのだ。
「わっ、わ」
 思いっきりバランスを崩したランディは、そのオリヴィエを巻き込んで地面に倒れていく。
「……!」

 どさぁ──!

「……っ」
 幸いにして、枯葉のクッションとランディの反射神経が、オリヴィエを下敷きにする一歩手前で助ける……が。
「いたたた……」
「す、すみませ……っ」
 それでも尻餅だけは避けられなかったようでお尻を軽くさする様子に、ランディは思いっきり慌てた。
「あ、気にしなくていいからね〜。私の方がタイミング外した結果だし」
「でも」
「ケガしなかったしさ、いいって」
「……オリヴィエ様……」
 しかしランディにとっては、原因は何であれ……やはり、大切な人をちゃんと支えきれなかった反省は大きいらしい。その顔は素直に「今とっても自己嫌悪してます」と言っている。
(ま、そんなにところが魅力なんだけどね)

「それよりさ……」
「……はい?」
「私たちの今の格好に、ランディは何も感じてくれないのかな〜?」
「え?」

 ……今の格好……とは。

「!」
 地面に座り込んだオリヴィエの両脇を、ランディが両腕で覆うようにして塞いで……。
「……あ」
 ハッと気づけば、きれいな顔がすぐ目の前にあったりしたことに、今更ながら気づいたり。
「オリヴィエ様……」
「……反応遅いよ、ランディ?」
「そう、ですよね──俺たち、もう」
 想いを通じ合わせてから、まだ半年も経たないくらいか──でも、まだ──だったのが、何だか不思議な気がした。
「……」
「……」
 熱の宿った瞳で互いを見つめた瞬間に、もう言葉は意味を失うのみ……。

「──ん……」
 初めて重なり合った二人の唇が、軽く触れ合った程度なのは──ほんの数秒のこと。
 しかし離れることなど考えられず。
「は、……はぁ……っ」
 朝の冷たい空気に、もっと深く重なり合った白い吐息が、途切れることなく熱く立ち昇っていく。

 ──愛しい人の唇が、こんなにも熱いなんて──初めて知った。

   †

「……オリヴィエ様」
「ん……?」
「俺、『押しくらまんじゅう』やランニングより、もっと暖まれるコト思いつきましたよ」
「!」
 ランディの言いたいことがすぐわかり、思わず目を丸くする。
「……はは」
「?」
「同じコト、考えてたよ」
「えっ」
「でも、暖まるんじゃなくて……熱くなる、の間違いじゃない?」
「あはは……そうですね」
 思わずつられて微笑んだランディだった。
「って。まさか、ここで『したい』とか思ってる?」
「寒いところでやらないと、意味ないでしょう?」
「ふふっ。ちょっと違う気もするけど。……ま、そういうことにしちゃおう」

   †

 ──ここは、寒冷の星。

 ──寒さに満ちた、その世界で。

 ──きっと、何よりも熱い、互いの躰と鼓動。


「オリヴィエ様……っ、オリヴィエ、さま!」

「あぁっ……ラン、ディ……っ!」


 ──二人は、その熱情を手に入れた──


[END]




コメント fromちひろsama

え、えーと……^^;;;;;;
こ、これは……二人の初H話……ってことでいいんでしょうか?(汗)
↑書き終わって気が付いた大ボケさん。(爆)
このお話は、前回投稿した「プラトニック。」から数ヶ月後の設定になっています。
(やっぱり初Hだ…)←やめれ。
……あああっ……収集がつかなくなりそうなので、この辺でやめときます^^;
久しぶりのHアリな話でしたーっ。(遙か地平線の彼方まで逃亡。)



あはははは。おしくらまんじゅうか! 懐かしい〜v
オリヴィエ様かわいいなぁ。ちひろさんのヴィエ様ってかわいいッスよね、
ランディにつられてか、ちょっとコドモっぽいかんじ。そして見事な誘いっぷり☆(笑)
ランディも積極的だし。つか青少年らしく(?)誘惑に逆らえない感じが(笑)。
ちひろさん、素敵な初えっち話をありがとうございました〜!


(2004.2.1 UP)





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