ふってあげる

written by 薪原あすみsama



「あ…すみません。今日用があって」

突然キャンセルされた、二人で過ごす約束。

「…そう、分かったわ」

余裕ぶってそう答えたけれど、気持ちは張り裂けそうだった。

最近…こんなことが増えてきたみたい。

前は、何を置いても一番にワタシを優先してくれたのに。

「潮時かな…」

一人、そんなことをつぶやいてみる。

別にワタシだけを見て欲しいとか、そんなわがままじゃなくて…。

ただこんなすれ違いが続くのがいやなだけ。

気持ちが磨り減っちゃいそうで。

それならいっそ、何もかも白紙にしちゃった方が…ランディのためにも

いいんじゃないかなあ。

一人の部屋で…出掛ける気にもならなくて、ワタシは暗く沈んだ気持ち

のまま夜を過ごした。






出来るだけいやな気持ちにならないように、ワタシはランディとの約束を

自分からは持ちかけなくなった。

だけどワタシの気持ちなんて知りもしないで、ランディは予定を聞いてくる。

出会った頃とまるで変わらない瞳で。

「ああ、ゴメン。今週はちょっと忙しいのよ」

そう言って伸ばし伸ばし…決意を固めるまでの時間を作った。

ランディの残念そうな顔を見ると、胸が痛んだけど…。

ワタシだって苦しんだんだから、少しくらい同じ思いをして欲しい。

でも…こんなワタシは…嫌い。

一人になると、自己嫌悪でいっぱいになる。

こんなことばかり繰り返してちゃ、いやな思い出しか残らない。

やっぱり、もう…自分から切り出すしかないのかな。

サヨナラ、を…。

二人で並んだ写真の中のワタシは、もうこの先できないかもしれないくらい

イイ表情で笑ってた。

この笑顔が色褪せないうちに、ランディを解放してあげよう。

やっと気持ちを整理した後、ワタシは自分からランディに誘いをかけた。

最後の…デート。

綺麗に見せたいから、丁寧にメイクをして…ランディが私に一番似合うって

言った服を着て、庭園で待ち合わせた。






約束の時間、まだ充分間に合うのに彼は走ってやってきた。

付き合い始めた最初の頃みたいに。

これが最後だと決めているから、余計に嬉しかった。

歩きながらたあいもない話をしていると、日に焼けた髪の匂いがした。

ランディの、匂い。

きらきらしてる眼差し。

まだ、こんなにも好きだと思い知らされた。彼の全てが…。

でも、言わなきゃ。

そう決意して、カフェテラスで並んで座る。

ウェイトレスに飲み物を頼んで…二人だけになったその時、突然…。

「オリヴィエ、俺…あなたに話があるんです」

ランディの言葉に、ワタシは頭が真っ白になった。

もしかして、と思うと…その先を聞きたくはなかった。

お願い、せめてワタシから言わせて。

まだワタシのことを、そんな風にまっすぐに見つめてくれるのなら。

「…………」

しばらくの間があって、ランディが口を開いた。

「恋人として、じゃなくて…」

心臓に亀裂が走るようだった。

「は、伴侶として…俺のそばにいてください。これからもずっと」

例えどちらかのサクリアが尽きても…。

最後の方は消え入りそうな声だったけれど、確かにワタシの耳にはそう

聞こえた。

信じられなかった…。

「…どういう、こと?」

じゃあどうして最近ワタシを避けるような行動を?

非難するワタシに、ランディは頭を掻きながら答えた。

「女王陛下…いや、アンジェリークとかロザリアとかに…色々相談に乗っ

てもらってたんだ」

約束のない不確かな関係ではなくて、何かはっきりさせる術はないかと。

そう思い始めた矢先に、ワタシの態度がよそよそしくなったから(どっちが

よ!)しまいにはオスカーやリュミエールにまで相談していたなんて…。

「だからって…プロポーズなんて、かっ飛び過ぎてない?」

確かに、この頃同性でも結婚に近い形を取ることが出来るらしいけど…。

「でも俺、それしか思い浮かばなくて」

胸が、それまでとは違う痛みを訴えた。

「…………」

「あの、俺じゃ役不足ですか?」

誰もそんなことは言ってないでしょ。

ワタシはため息を一つついて、以前彼から貰った指輪を外した。

ランディが、がっくりした表情になる。

フフン、もうちょっと落ち込んでなさい。

そう思いながら、外した指輪を突き付ける。

「もう一度あんたの手で嵌めてよ」

ワタシの言葉に、ランディが顔を跳ね上げる。

「…オリヴィエ」

もう、絶対解放してあげようなんて思わないから。

一生、ね…。

 

<Fin>






COMMENT by 薪原あすみsama
この話を書く時、この内容をいかにハッピーエンドに持っていくかに苦心しました^^;
でも風夢ならハッピーじゃなきゃ!と思って頑張った次第です。
その結果別話まで発展しちゃったんですが^^;



ふふふ、オリヴィエ様かわい〜ですね〜v ランディ、愛されてるなぁ……(羨ましいヤツめ)。
ユーミンの同タイトルの曲より、勘違いしてひとり不安になってしまうオリヴィエ様(*^_^*)。
元曲の詩ではそのままお別れ〜な感じですが、いやいやそこで別れちゃ風夢じゃない!と、いうことで、──しかしランディ、間抜けというかなんというか(笑)。気遣いが裏目に出ております(笑)。そこがまたランディっぽくてグ!(私の中でランディって……・笑)
誤解が解けたらもうラブラブですよ〜♪ さあさあ皆さん、『週末はHoney Moon』へGO!

(02.10.15UP)





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