昇格失敗
written by さと吉sama



 それは休日の午前。
 何の予定も無い一日。
 窓から差し込む明るい光。
 流れる柔らかな空気。

 二人はベッドの中にいた。

「ランディ…朝練サボっちゃったねぇ…」
「サボっちゃいましたね…」
「オスカーに連絡しなくていいの?」
「多分…大丈夫だと思います」
「…?」
「昨日お会いした時に『明日は無理かもしれない』って言いましたし」
「…………それは……あんまり良くない…」
「どうかしました?」
 オリヴィエは髪を掻き上げながら眉を寄せた。
 それをランディは不思議そうに見つめている。

「アンタねぇ、そんな事言ったら私が『よぉ極楽鳥、休日は随分お盛んだったみたいだな』って言われるに決まってるでしょう?」
「…オリヴィエ様…全然似てません…」
「そういう問題じゃないんだったら!アンタはアイツのイヤ〜な笑顔見たこと無いの?」
「いいえ、別に?」
「………………もしかして今までオスカーにそんな事言われた事無かったりする?」
 尋ねるオリヴィエにランディは「いいえ」と首を振った。

「……そう聞かれて…何て返してる?」
「え?普通ですよ。俺、嘘をつくのが苦手だから「はい!」って」
「…………」

 オリヴィエはガックリと肩を落とした。

 だからか、だからだったのか。
 やっと理由が分かり、深々と嘆息する。
 ランディがこの調子ではからかうオスカーとしても非常につまらなかったに違いない。
 そしてその反動はオリヴィエに向かうのだ。
 目敏く情事の痕跡を見つけ、鬼の首を取ったかのような勢いで、ちょっかいをかけてくるオスカー……全くヒマというか何というか…

「これからはそういうのは言わない事」
「どうしてですか?」
「あーのねえ、夜の事なんて他人に話す事じゃないの!それともアンタは聞きたい!?オスカーが昨日の夜何処ぞの美しいレディと致したか聞いて「お盛んなんですね」とか言いたい!?恋人同士のセックスの話なんて人に言ってイイ事じゃないの!」
「…あ」
 やっと納得したように頷くランディ。
 オリヴィエは疲れ半分呆れ半分でその表情を見た。

「ランディ…アンタもうちょっと考えて行動しなさいよね」
 しかし、それには返事は無い。
「ランディ?」
「オリヴィエ様…今…恋人同士って言いましたよね」
「…は?」
「俺達の事、恋人同士って確かに言いましたよね!」
「…言った…けど…」
「オリヴィエ様!!」
「うわっ、ちょっ、この馬鹿!朝っぱらから何すんのさ!」
 何とか押し退けようとするも、上から圧し掛かってこられては満足な抵抗も出来なくて。
 オリヴィエは朝にしては濃厚すぎるキスを受けさせられてしまっていた。

「ヤ…メッ、ンゥ〜〜ッ!!」
 乱暴、というよりは真っ直ぐすぎるのだろうその行動。
 大人の駆け引きとは全く無縁な、欲望がそのままの形になったようなキス。
 それは余計なものが入っていないだけにオリヴィエをストレートに燃え上がらせてゆく。
 恐らくランディはその事を理解していないに違いない。
 たとえ理解していても、それを計算で出来るほど器用ではないのはよく知っている。
 口中を奔放に侵略している舌の動きに官能を刺激させられながら、オリヴィエは何処かでそんな事を思っていた。

 良くも悪くもすっかり慣らされてしまった。
 それが何よりも正しい言葉。

 諦め混じりにオリヴィエは舌を絡め返し、ランディの首に右腕を回した。
 どうせココで止める気なんてないのだろう。
 ならば思いっきり楽しんでしまう方がイイ。

「うわっ、オ、オリヴィエ様!?」 

 左腕をランディとの身体の間にそっと伸ばし、既に反応しかけている半身に触れる。
 まさかそうされるとは思ってもいなかっただろうランディは、咄嗟に唇を離してしまう。
 こっちが驚く程に強く求めてきたのはランディの方なのに、こういう所はいつまでも初心で面白い。
 オリヴィエは心でニンマリ、顔で妖艶に微笑んでみせた。

「コ〜ラ、何で逃げるのさ」
「っ…オリヴィエ様…」
 声が上擦るのは左手をゆっくり動かしているから。
 手の中で形を増してゆく熱さに満足そうに笑みを浮かべる。
「ラーンディ、どうかした?」
 すぐ真上で少しだけ頬を赤らめながら何かを堪えるような顔をしているランディ。
 その顔をもっと見ていたくて、先を促すような動きで刺激してゆく。

「…あの…ちょっと、オリヴィエ様……」
 そんな言葉は無視する。
 首に回していた右手で抱き寄せ、唇を重ねる。
 唇を吸い、縁を舌で軽くなぞって離す。

「私にキスしてただけ…でしょ?」
 それでこんなに?視線で問えば真っ赤になってしまうのはいつもの事で。
 益々からかってやりたい気分になってしまう。

「っ…オリヴィエ様が…触るから…」
「私が触るから…何?」
 批難するような視線で見てくるキレイな瞳を挑戦的に見返す。
 勿論指は休めないままで。

 普段ならばここで完全にオリヴィエのものとなる主導権。
 しかし今日ばかりは違っていた。

「…ァッ」
 ランディの手に握り込まれた感触に甘い声と吐息が洩れる。
 途端勝ち誇ったように笑うランディの指が忙しなく動き、オリヴィエを昂ぶらせてゆく。

「オリヴィエ様こそ…キスと俺に触れていただけでしょう?」
 耳元で囁かれ、頬が染まる。
 勃ち上がりかけていた雄は労もなく力を持ち、益々ランディを喜ばせる結果になってしまう。
「俺に触って興奮してたんですね?」
 甘い囁きが耳を侵し、それによって止められなくなる身体。
「…ァ…ッ、アンタが…主導権握る…なんて10年早い…ッ」
 強がってみても潤んだ瞳になってしまえば、最早それは効力を成さない。
「でも…こんなに感じてますよ?」
「うるさ…いっ!」
「素直じゃないなぁ」
 言葉の意味とは正反対に嬉しそうな声。
 何を、と思う間もなくランディの手に握られていた昂ぶりが濡れた感触に襲われた。

「ン、ック……ァアッ!」
 足の間に頭を埋めたランディが、オリヴィエを深く含んで舐め上げる。
 濡れた音。
 オリヴィエの好む場所を覚えた舌が、的確に攻めてくる。
 閉じようとする足を広げたまま押さえられて、もっと求めたいのか、それとも逃げたいのか、自分でも分からない動きでもって腰が浮いた。

「ランディ…ちょっ…と、アンタ生意気…ッ」
「え?でも恋人同士なんでしょう?」
「それ…は、確かに…言ったけど…」
「なら少しは俺を対等に扱ってくれたっていいですよね」
「対等っ…て……ァッ…ック…ゥ…」
 入口をなぞった指が体内へと侵入を開始する。
 それはすぐにでも快感へと変化する、慣れた異物感。
 潤いの足りない粘膜が優しい動きでもって拡げられれば、訪れるのは背筋が痺れるような悦び。
 拡げられた分だけ熱で埋められたくなる歪んだ生理。
 それは男としては不自然な身体の反応。

 それでも…自分の認めた男を迎え入れるのだと思えば、それすらも愛しく思えた。
 敢えて教えたりはしないが…癒されているのだと、そう思った。

 結局オリヴィエもランディが好きで仕方ないのだ。
 言葉では文句を言っていても、主導権などどうでもいい。
 いずれ自分を追い抜くと誓った男。
 それが今なのかもしれない、ただそれだけの事。

 オリヴィエは下肢に顔を埋めているランディの髪に指を漉き入れた。
 そして求めるように腰をくねらし、甘い息を漏らす。
 いつもの、ランディを導く動きではなく、快楽に浸るだけの計算の無い動き。
 そのあまりに素直な反応に驚いたランディが思わず顔を上げた。

「…オ…リヴィエ様…?」
 吐息混じりにこちらを伺う声。その吐息がかかり、例え様も無い感覚に総毛立った。
 中途半端な愛撫で離された身体は続きを求めて勝手に燻りだす。
「ちょ…っと…ヤメる…な…」
「いや、あの…オリヴィエ様?」
 戸惑っているのは分かる。
 だが、このまま放っておかれたらツライのはオリヴィエなのだ。
「イイから…続けてよ…ッ」
 含まされている指を締め付け、誘うように身を捩らす。
 それでも戸惑ったランディはその先をしてこようとはしない。
 焦らしているという実感はないだろうに、堪らない程に焦らされた。

「その…イイんですか?」
「…………」
「オリヴィエ様?」



 ちょっと……キレた。



 ゆっくりと身を起こすと、ランディの肩を押し、体を入れ替える。

「オリヴィ……」
「…イイからもう黙ってな」
 溜息混じりに引出しからオイルを取ると、指に取って自分で慣らしてゆく。
 先程までと全く雰囲気の違ったオリヴィエに押され、ランディは益々戸惑っているようだ。

 前言撤回。

 まだランディに主導権を渡す訳にはいかない。
 細やかなサービス精神などいらないが、燃え上がった身体を冷めさせるような男には到底任せられない。
 元々自分の方が器用で人生経験も豊富なのだ。
 ランディが追い付くまでは気長に待つしかないのだろう。


 それをしっかりと自分の身体で実感した。


「ン…ッ…」
 何だか虚しくなったオリヴィエではあったが、準備の出来た場所にランディを収めていく。
 深く唇を重ね、少しずつ動いて、冷めかけた頭を煽った。
 オリヴィエの心境を全く理解出来ていないランディも、締め付けながら揺すられて調子を取り戻したようだ。

「オリヴィエ様…俺が…上に」
「コラ、黙ってな…って…言っただろ…」
「でも…」
「イイから…ホラ…」
 文句を言いたそうな口は塞いでしまう。
 オリヴィエが初めての相手だと言うランディは、慣れていないせいもあり、あまり巧くはない。
 それに不満を覚えた事など無いが、こんな時は自分の好きなように進めてしまうに限るのだ。
 言葉を奪い、自分の好む場所に擦り付けるように動けば、全身を快感が駆け上がってゆく。
 手持ち無沙汰だったランディの手をオリヴィエの昂ぶりに導き、重ねるように刺激した。

「ン…ァ…ァアッ」
 ランディの手と腰が自分の意思で動き出せば、覆い被さっていられない程に昂ぶる身体。
 おもわず身を起こし、背を撓らせた。

 後はもう欲しがる身体のままでいい。
 深く引き入れた熱を煽りながら、同時に昇り詰められるように動いてゆく。
 早くこういう計算をしなくて済むようになればと思いながらも、オリヴィエはこういう関係がキライではない。
 ただ今日は……期待した分、頭が冷めてしまっただけ。
 少年の面影が完全に消えてしまう日を待ってはいても、何だかそれを寂しいと思ってしまう自分がいる。
 完全な大人の男になってしまったら、こんな純粋さはなくなるんじゃないだろうかと思う自分がいる。

 それでもオリヴィエがどう思っても、結局はなるようにしかならない。
 道を示唆し、間違わないようにと導いても、成長するのはランディ自身。
 それ以上の手助けは自分の為にも…ランディの為にもならないのはよく知っている。
 だから、後は見ているだけしか出来ないのだ。
 たとえそれを歯痒いと思う事があったとしても。


 そして実際、確かにランディは成長している。
 少しずつオリヴィエの好む愛撫を覚え、身体で愛を伝える事に慣れていくランディ。

 オリヴィエが嫌がる事は決してしないし、無茶もしない。

 だが、全ての好む場所を言葉で教える事は不可能なのだ。
 大体にして、いちいち「ココが好きだ」だの「そこを齧られるのが好き」だの、恥ずかしくて言いたくもない。

 バカ正直なランディは、そんな駆け引きは非常に下手である。
 ……そんな所にまで惚れてしまっているのだから、どうにも救いようがないのだが。


「好きだよ…ッ…ランディ」
「俺も…好きですッ……ッ!」
「――ッ!!」
 身体の深くに流れ込む熱さ。
 それを感じた瞬間、オリヴィエも同時に爆ぜ、ランディの手を白く濡らした。





 とりあえず今はこれでいいのだと思う。
 ランディの事だから、きっと道を違える事はしないだろう。
 その確信は感覚的なモノ。
 だが、今までオリヴィエはそれを外した事は無い。
 だから今回も外す事はないだろう。

 それでも今はこれでいいのだと思う。
 自分の心を読めない真っ直ぐな男を思い通りに操るのは、とても楽しいから。
 正直その楽しみが無くなってしまうのは寂しくすら覚えるから。
 自分の下で苦しげに息をつくランディの表情を見ているだけでも充分に幸せなのだ。
 オリヴィエは身を屈め、乱れた吐息を漏らす互いの唇をそっと重ねた。


『まだまだ主導権は譲らないから、ゆ〜っくり成長するんだよ。』


 微かに笑みを浮かべ、そんな言葉を込めながらの甘いキス。
 吸い返してくる唇に感じるのは、喩えようもない満足感。
 愛されているのだという確かな実感。
 それをじっくり味わってから、オリヴィエは二つめの言葉を唇に込めた。




『ちゃ〜んと待っててあげるからね』







〜Fin〜









コメント from さと吉sama

風夢第2弾ですー。
前回の続き、といってもどれくらい後かは分かりませんが、そこは読んでくれた方にお任せを(^^ゞ
私の風夢は一本の長いストーリ仕立てになっているようなので、
次に書くのは、これより前かもしれないし、ずっと先かもしれない。
でも、一本の大きな流れに沿って進んでゆくんじゃないかと、そんな気がしています。

今回ランディ頑張りましたー。でもやっぱり失敗。(私が抜かせたくないというのもあるのですが/苦笑)
オリヴィエが主導権握る年下の男とのHってこんな感じなのかな〜と思い、頑張りました(笑)。
感想頂いた永地さんにはセクシーと言って貰えてウハウハです(^^ゞ

最近寒いですから、少しでも暖まって頂ければ嬉しいですねーvv

そして、タイトルがヘタレてしまったのはご愛嬌。
色気ゼロではありますが、ピッタリなのではないかと(笑)。


('02/11/18)



コメント from 永地彩夏sama
普段から当たり前のようにオリヴィエが主導権握ってるんだろうなーと
思える二人の関係・・そのバランスが総崩れになるのは、ずいぶん先のことなんでしょうねv

でも、ランディ・・もうちょっとだったねー惜しかったわ(笑)。
だいぶ彼も分かってきたかなー?
一瞬、つかんだ気がしたのにね・・という感じがしました。

頭で覚えていくより
カラダで覚えるのが得意そうなランディだから(失礼!)
次にああいう場面に遭遇すれば無意識でも意識してでも、
今度はちゃんとキメてくれるんだろうな・・と期待せずにはいられませんvv
そしてオリヴィエも「あ、学習したなー?」って密かに満足するのv

ランディがそういうタイプなのは
オリヴィエもそれを充分知っているから
わざと「持ち札」をちらっと見せてヒントを与えてあげる・・
でも<答え>は絶対教えないんですね、オトナだーー・・。

いつか、ランディがどんどん<答え>を手に入れていって
最後にオリヴィエの「持ち札」が尽きた時が楽しみでもあります。

ま、でも、まだまだランディを振り回してほしい気もするけど(笑)。

オリヴィエ・・すごく男らしくって(笑)、セクシー。
なんかカッコイイなって思ってしまった私って変かなー?

('02/11/18)



  (管理人コメント)


いやあんv オリヴィエ様ったら、ス・テ・キvv
襲い受けヴィエ様万歳!!\(^o^)/(爆)
なんでさと吉さんのヴィエ様はこんなにかっこいいのでしょう……v オットコマエだ!!(笑)
こーのヴィエ様を“追い抜く”のは、並大抵の努力じゃ出来ないぞランディ!(がんばれー!! 笑)
しかし、タイトルからしてランディくんの主導権奪取は失敗に終わるだろうとわかってはいても(笑)、途中のオトナモードなランディに、ランディラバーなひろなはドキドキしてしまったのでした……v
「俺に触って興奮してたんですね?」 なんて……っ! ──そんな! ランディに触ったら興奮するに決まってるじゃないの!(注:私はヴィエ様よりもっと襲い受け……いや、攻めです!爆)
ランディの癖に生意気……(私の物言いもたいがい失礼だ・笑)と思いながらもドキドキしてしまうヴィエ様が、ランディくんにメロメロになるのは、さてさていつになることやら……?o(^o^)o
さと吉さん、素敵なお話をありがとうございました! 彩夏さんもコメントありがとー! そうそう、ヴィエ様はまだまだランディを振り回しまくるのよ★(笑)
(ハイテンションでスミマセン(^^;) 酒入ってるので……(^^;))


(2002/12/15 UP)






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