百夜通い

written by ゆっきょんsama


「百夜、通ってきなさい。」
 オリヴィエは、冷たく云った。
「それができたら、つきあってあげてもいいわ。」
 諦めなさいと、暗に云ったつもりだった。
 ランディのような、まっすぐで無邪気な少年に、好きだなんて云われても。
 例えそれを嬉しいと思ってしまったとしても、オリヴィエのような遊び人には、そう答えるしかないのだから。
 しかし。
「判りました!」
 ランディは、満開のひまわりのような笑顔で、元気よく叫んだ。 
「嬉しいな、俺。百日も毎晩、オリヴィエ様のおうちに訪ねていっていいんですね!すっごく嬉しいです、ありがとうございます!」
 声が、出なかった。
 違うのだ、そういう意味ではないのだと――――ぜひ告げたかったのだか。
 いくら柔軟なオリヴィエといっても、やはりその想像力には限界があったらしい。
 ランディの反応をいくつもシュミレーションしたはずだったけれども、よりによってまさかこんな返事が返るとは、夢にも思わなかったのだ。
 そしてその晩から、ランディは、律儀にオリヴィエの館に通ってきた。



 今日もランディがやってくる。
 昨日も来た。おとといも、その前も。
 明日も来るだろうし、その次の日も、来週も来るだろう。
「アンタも物好きねぇ……。」
 思わずそう呟いてしまったが、ランディの笑顔は、夜毎、増すばかりだ。
「オリヴィエ様が待っていてくださるので、俺、毎晩がとっても楽しみなんです!」
 屈託なく、何のてらいもなく、嬉しくてたまらない様子を見せられてしまっては、オリヴィエももう来るなとは云えない。
 最初は、窓から幾言かをかけるくらい。そのうちに庭先に出るようになり、じきに居間へ、そしてついには、私室へと許すようになった。
 それはそのまま、オリヴィエのランディへの気持ちの変化だった。
 最初は、夢を見ているのだろうと思っていた。
 だってオリヴィエは、人々に夢を与える守護聖。
 ランディも、オリヴィエの美しさや大人の態度に、憧れを抱いただけなのだろうと、それを恋と見間違えたのだろうと、そう思っていた。
 でも――――違ったから。
 だから、オリヴィエは。
 たとえ悪い友達にからかわれても、もう夜遊びなどせず、毎晩ランディを待っていた。
 おいしいお茶と、お菓子を用意して。
 ランディの笑顔を想像しながら。



 そして。
「オリヴィエ様。……今日で、お約束の百日目ですよね?」
 ある晩、思い詰めたような表情で、ランディが云った。
 オリヴィエは、深い深いため息をつく。
「違うわよ。もう、105日目よ。」
「…………あれっ?」
 ランディは、大きな目を更にきょろんと見開くと、びっくりしたように固まってしまった。
 オリヴィエは、卓上のカレンダーを持ってきて、何枚か前にめくる。
「ここからでしょ。一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月……で、ここまで。」
「あっれー?……おかしいなぁ……。」
 ランディはますますあっけに取られている。
 そして、しばらく考え込む様子をした後、いつものように、夜を吹き飛ばすような真夏のお日様の笑顔を浮かべた。
「あはは、俺、数え間違えちゃいました!」
 あっけらかんと云って、頭をかきながら笑っている。
 オリヴィエは、その後頭部を殴りたくなる気持ちを必死に我慢した。
 もう日数は過ぎているのに……と、ここ数日悩んでいた自分はなんなのだろうか。
「まあいいですよね。その分たくさん、オリヴィエ様のところに来れたんだし。」
 ランディはまるで悪気がない。
「それで、あの……。俺、オリヴィエ様が好きです。毎晩通ってきて、もっと好きになりました。俺とつきあってくれますか?」
 それからランディは、オリヴィエをまっすぐに見上げた。
「はいはい。お約束だものね。付き合ってあげるわよ。」
 オリヴィエは、柄にもなく恥ずかしくなってしまって、素っ気無い口調になった。
 しかしランディは、もちろんそんな機微を判ってくれはしない。
「お約束はしましたけど……でも、お嫌なら、俺……。」
 たちまちに、しゅーんと萎れてしまうランディに、オリヴィエは慌ててしまった。
「もう、馬鹿ね。嫌だったら、こんなに長い間、アンタに通わせたりしないわよ。……アンタが毎晩来てくれて、ワタシだって嬉しかったんだから。」
 だからといって、こうも露骨に気持ちを語らなくてはならなくなると、やはり気恥ずかしくてたまらない。
「本当ですか!」
 ランディの表情が、また、輝くように明るくなるから尚更だ。
「嬉しいです、オリヴィエ様!大好きです、俺、オリヴィエ様のこと、すごく大切にしますから!」
 ランディは思わずといったように、突然オリヴィエに抱きついてきた。
 オリヴィエも抱きしめ返そうとしたのだが、それより一瞬早く、真っ赤になったランディはぱっと離れてしまう。
「す、すいません、大切にするなんて云ったのに!」
 そんな純情っぷりも、可愛いといえば可愛いのだが。

「……ところで、オリヴィエ様?」
「なぁに?」
「百夜通いは終わりましたけど……俺、明日からもまた、オリヴィエ様のところに来てもいいですか?せっかく毎晩会えてたのに……これからは来ちゃダメになったら、俺、淋しいです……。」
 何を不安げに尋ねてくるかと思えば、そんな心配をしていたのかと思う。
「百夜通いはもうおしまいでしょ。」
 オリヴィエの言葉に、ランディはまたもやしゅーんとしてしまった。
 本当にくるくる、よく変わる表情だ。
「明日からは、昼間でも来ていいわよ。それから、ワタシもアンタの館に遊びに行きたいしね。」
「それって……。」
 オリヴィエの言葉をすぐには理解できなかったらしい。
 ランディはしばらくしてから、やっと、真っ赤になった。
「判りました、オリヴィエ様!じゃあ、明日は、昼間に来ます。俺のうち――――は、急いで大掃除するから、2〜3日待ってください!」
 嬉しくてたまらない様子で、大声で叫ぶ。
 あんまり嬉しそうだから、オリヴィエもつられて笑ってしまった。
「それから、ワタシんちでも、ランディの館でもないところにも、遊びに行こうね。」
「はい!」
 ついでに、デートのお約束も取り付けておく。


 きっとこれからは、いつでも見たい時に、ランディの笑顔が見れる。
 こんなに単純なアプローチに、見事に陥落させられてしまったのは癪だったけれど……でも、それが嫌じゃないから、不思議だった。


おしまい☆



  (管理人コメント)


げふーんっ。可愛いですランディ様〜v(笑)
さすがですゆっきょんさん! これはもうゆっきょんさんにしか書けない風夢です!!
──ということで、ゆっきょんさんから同盟参加に当たって挨拶・手土産代わりの投稿をいただいてしまいました〜♪
もう、萌え萌えv オリヴィエ様もランディくんにほだされまくりですね〜vv 百戦錬磨のオリヴィエ様だからこそ、ランディの真っ直ぐ真っ直ぐなアプローチにクラッと来てしまう。そんな幸せラブな、ちょっぴりお間抜けな(笑)二人がとっても好きです。
ゆっきょんさん、ありがとうございます〜v 今度はぜひ、ゆっきょんさんの本領発揮!なエロコメを!!(笑)←図々しい(^^;)


  2002/09/27  UP  






BACK    CONTENTS