虹色の揺籠 〜Crystal Sun〜  2



「よぉ、ランディ。マルセルも来たのか」
「ウォルター、……あれ、隣にいるのって」
 自分と同じ声に呼ばれ、振り向いたランディは、その傍らに友人と同じ姿をした少年を見つけ、目を瞠った。
「風の守護聖ランディだね。僕は、ショナ」
「ショナ、よろしく。──俺はランディ、こっちはマルセル、緑の守護聖だ」
「……こんにちは、ショナ」
 マルセルはショナに面識がある。害意はないのは感じられたので、少し警戒をしつつも、微笑んで挨拶をした。あの夜の別れ際、かなしげな瞳をしていた少年の名残はない。人形のように無表情なショナの赤い瞳が、全ての人との関わりを自ら断っているように思えて、マルセルは一歩を踏み出せずにいた。人見知りをあまりしないマルセルには珍しいことだった。
「……また会ったね」
 次に会ったときには君たちと闘うことになると思う。別れ際、そう言ったのを覚えている。けれど今、また闘わずしてこのような再会の場を迎えることになった偶然を、ショナは静かな感慨をもって受け止めていた。
 これが良いことか悪いことかは分からないけれど。でも会いたかったんだ。
「え──っと、ランディ。こいつがおまえらに会いたいっつってたから連れて来ちまったんだけど、よかったか?」
「ああ、構わないよ。──って言うか、実は俺たちももう一人連れてきてるんだ」
「鋼の守護聖ゼフェルだね」
 呟いて、ショナは少し離れたところの木に視線を向けた。
「ちっ、気づいてたのかよ」
 舌打ちしながら姿を現したゼフェルが、ランディを睨みつける。
「おい、バカランディ! さっき言ってたことと全然ちがうじゃねーか!」
「ごめんゼフェル。でもゼフェルもショナと話したいかと思ったんだよ」
「まぁいーけどよ。──よ、ショナ、久しぶりだな」
 気安く声をかけ右手を挙げたゼフェルに、ショナは微かに頷いた。



「そんなに、似てっかなぁ?」
 髪に手を突っ込んで、眉間にしわを寄せながらウォルターが呟いた。ショナが静かに問いかける。
「何が?」
「おれと、ゼフェル」
「……ああ、そうだね。口調が少し似てる」
「そんだけじゃん」
「それから、」
 呟いて、ショナは軽く首を傾げた。
「……何かを持て余しているような感じがするところも、似ていると思うよ」
「何かを持て余してる? なんだそれ」
「分からない」
「へぇ、おまえでも分からないことなんてあんのか」
「知らないことは、理解しようがないから」
「あぁ?」
「いいよ。──君の方こそ、あんな表情をするとは思わなかった。少し意外だ」
「おれ、どんなカオしてたんだ?」
「……楽しそうな顔」
 楽しそうな、カオ。真顔で呟いて、ウォルターは沈黙した。ショナもそのまま口を開かない。しばらくの後、言葉を選びながらウォルターが口を開いた。
「ああ、そーだな。オレは、あいつらといんのは楽しいと思うぜ。──ショナ、おまえは? あいつらに会ってみたいって言ってただろ。会ってみて、どうだったんだ?」
「そうだね。……ルノーの傍にいる時に、少し近い、と思う。彼らの方が強いかな。あれが、生きているってことなのかな……」
「あぁ?」
「──ううん、なんでもない」
 静かに答えて、ショナは首を傾げるように俯く。しばしの逡巡の後に顔を上げたショナは、<浅き流れの惑星>から帰ったウォルターを出迎えた時を同じ表情を──決意の顔──をしていた。
「ウォルター、もう一つ、お願いしてもいいかな」
 その表情と口調に、ウォルターは既視感を覚え、同時にショナの申し出を理解した。
「ルノーも連れてけってか?」
「……うん」
 予想通りのその答えに舌打ちして、髪にぐしゃりと手を入れる。
「しょーがねーな。──まぁ、確かにココにいるよりどっか出かけた方が、あいつのためにもいいんだろうけど……。マルセルと仲良くなりそうだ」
「ウォルター」
「けど、あいつが行くって言うとは限らないぜ。それに、もしユージィンに気取られたら即中止だ。──あいつはどーにも苦手なんだよ」
「わかってる」
 頷いて、ショナの赤い目が、同じ色をしたウォルターの目を見つめた。
「ウォルター、ありがとう」
「……なんだよ、礼なんか言って、気持ち悪ぃな」
 顔をしかめ、ウォルターはそのまま姿を消した。








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