Happy Merry Xmas


「あっロザリア!」
 弾んだ声に名前を呼ばれ、美しく優秀な女王補佐官はゆっくりと振り返った。
「マルセル様。ごきげんよう」
 言ってにっこり、微笑みを浮かべる。あでやかな大輪の笑みに臆することなく、こちら
は小さな野の花のような愛らしさで微笑みを返し、緑の守護聖マルセルはいたずらっぽく
瞳をきらめかせた。
「ダメだよロザリア、「マルセル様」じゃなくて、「マルセル」だよ」
「──あら」
 まだその任に就いてから日の浅い補佐官殿は、女王候補時代の呼び方のくせが抜けない
らしい。美しく紅の塗られた唇に、白い指先が軽く触れた。
「でもぼく、ロザリアに名前呼んでもらえるなら、様がついていてもついていなくてもどっ
ちでもいいんだけどな」
 軽く首を傾げて向けられた微笑みに、ロザリアは目を見開いて、ほぼ同じ高さにあるす
みれ色の瞳を見つめ返した。しばらくして、青の瞳に笑みが浮かぶと、マルセルも同じよ
うに笑みを返す。くすり笑い合って、マルセルがロザリアの耳元に顔を近づけた。
「あのね、ロザリア。実はちょっと相談があるんだけど……」
 こしょこしょこしょ。声をひそめて告げ、顔を離して、どう?と目で訴える。
「まあ……。素敵ね。でも、あなたたちだけで……?」
「うん。いつもはルヴァ様やリュミエール様に手伝っていただいてるけど、今度はみんな
にも内緒にしたいんだ。──だから、そのぶん、君にちょっと協力してもらうことになる
かもしれないけど……」
「私は構わなくてよ」
「ほんとにっ!? ありがとう!! ──あっそうだ、このこと、アンジェにもまだナイ
ショにしててね。当日驚かせてあげたいんだ♪」
 にっこり満面の笑みを浮かべて、手を振って駈け去るマルセルに手を振り返し、ロザリ
アは今のやりとりを反芻して微笑んだ。そして踵を返した足が、突然、止まる。
「──聞〜いちゃった♪」
「────っアンジェ!? じゃなっ……陛下! こんなところで何をなさってるんです
の!?」
 柱の陰からぴょこんと顔を覗かせたのは、ロザリアの補佐する女王陛下こと、アンジェ
リークその人だった。
「ふふっ。だってロザリアったらなかなか戻ってこないんだもの。もうすぐお茶の時間よ?
 今日はラズベリータルトにしましょうって言ってたじゃない!」
「あなたねぇ……」
 呆れてため息をつきながら、ロザリアはゆっくりと歩き始めた。その隣に、飛び跳ねる
ような足取りのアンジェリークが並ぶ。
「──あと3週間足らずでしょ、楽しみよね♪」
「ちょっとあなた、どこから聞いていらしたの!?」
「うふふっ、ナ・イ・ショ☆」


 コンコン、規則正しいノックの音に、鋼の守護聖ゼフェルはやる気なさげな声を返した。
「入りますわよ」
 どこか挑戦的な声を返して、ロザリアは無機的な色彩のその部屋に足を踏み入れた。大
きな机の上には、書類の代わりにいくつかの工具が転がっている。
「──なんだ?」
 部屋の主であるゼフェルの手には、片手に包めるくらいの小さなオルゴールがあった。
そういえば、今修理を頼んでいるのだと、守護聖の力の使い道をどこか誤っている女王陛
下が言っていた気もする。
「王立研究院からのお届け物ですわ」
「あぁ? なんでおめーが持ってくんだよ」
「私も用がありましたから、ついでにと引き受けましたの」
 目線で促され、ロザリアは言を継いだ。
「惑星ティアクに置かれた王立研究員から報告とお礼が届きましたわ。鋼の守護聖様のお
かげで助かったと。──ゼフェル、あなたって人は、一体何度同じことを言われれば気が
すむんですの!?」
「っせーなイイだろ結果オーライって言うじゃねーか」
「結果オーライって、オーライですまなかった場合のことを言っているのよ私は!」
「んなヘマしやしねぇよ……」
「ゼフェル、」
 もともと大きなつり目がちの瞳にさらに力がこもる。ぐっと言葉に詰まり、ゼフェルは
そっぽを向いた。
「──悪かったよ」
 不本意そうに、一応の謝罪の言葉を口にする。
「わかっていただけたなら結構ですわ。──これからは、あまり甘やかさないようにして
くださいね」
「ってめっ! わかってんならオレんとこ来んじゃねーよ!!」
 カッとして立ちあがったゼフェルを、ロザリアはさも当然と言った表情で見返した。
「あの子が何を言っても、あなたがそれをきちんと窘めてくださればすむことではなくて?」
「おっまえなぁっ、それは補佐官のおめーの仕事だろ!?」
「私の目を盗んであの子が飛び回ろうとするからあなたにお願いしているんです!!」
「それが人にお願いするときの態度かよ!?」
 睨み合って、こほんとロザリアが咳払いをした。
「──ともかく、頼みましたからね。女王陛下の御身を守るのも、守護聖の大切なお役目
のひとつですわよ」
 音を立てて椅子に座りこみ、口をへの字に曲げたゼフェルが銀の髪をぐしゃりと掴む。
苛々とため息をついて、ふとゼフェルが思い出したように顔を上げた。
「あ、そうだ。──おめー、マルセルからなんか話聞いてっか?」
「“あのお話”でしたら、先ほど」
「そか。──で、よ……、あいつも、連れて来いよな。宇宙の状態も安定してるとは言え、
いろいろ慣れねーことばっかだろうし……」
 少し目を逸らして、指先を頬のあたりにさまよわせながら。
 先ほどと一転して純情そうに頬を染めるゼフェルに、ロザリアは悪いと思いつつもくす
りと笑みを零した。
「ええ、もちろん。わかっていますわ。──でも、それとこれとは話が別ですからね」


「あ、ロザリア! ──良かった、ここにいたんだ」
 風の守護聖ランディは、ロザリアの姿を見つけると、風になびくマフラーと同じ身軽さ
で駆け寄ってきた。
「今ちょっと時間いいかな。話があるんだけど」
「“あのお話”でしたら、先ほどマルセルから伺いましたわ。その後ゼフェルにも」
 笑いを堪えながら先回りして答えると、ランディは髪を掻き上げるように掴んで、なん
だ、とため息をついた。
「なんだ、早いなぁ……。──でも、そっか、もう知ってるんなら話が早いや」
「何ですの?」
「あのさ、ほんとは準備から何から俺たち三人でやりたいんだけど、ほら、俺もゼフェル
も料理は全然だからさ。良かったら、マルセルのこと、手伝ってやって欲しいんだ」
 そのほかのことは何とかするから、とランディは励ますように微笑んだ。
「ええ、私で良ければ」
「ありがとう! ──詳しいことはまだ秘密……って言うか決まってないんだけど、でも
絶対君にも楽しんでもらえると思うんだ。陛下にも、君にもみんなにも、いつもお世話に
なってるから、その感謝の意味も込めて」
「ふふっ、ええ、楽しみにさせていただきますわ」


                    *                  *                  *


 宮殿の廊下で、三人は顔をつきあわせて内緒話をしていた。
「──でさ、……ってしたらいいと思うんだ」
「うん、それならこっちは……」
「おい待てよ、そしたらアレはどうすんだよ?」
 内緒話も、夢中になるうちに少しずつ声が大きくなっていく。と、足音を潜ませて、人
影が三人に近づいてきた。
「ハーイ何を企んでんのかなオコサマたちは〜!?」
 言葉と同時に長い腕ががっしと肩を掴む。
「うっわあっ!」
「ひゃっ……」
「っっびっくりさせんじゃねーよカマヤロー!」
 三人三様の叫びをあげて、どきどきする胸を押さえながら三人は同時に声の主を振り返っ
た。
「ふっふっふ〜ん。こんなトコで立ち話なんて、誰に聞かれても知らないよ〜ん☆」
 夢の守護聖オリヴィエは、実に楽しげに唇を歪め、勝ち誇った様子で佇んでいる。
「──それで? クリスマスがなんだって?」
「べっべつに、そんな話してませんよっ!」
「ふ〜う〜ん……? ──ねぇランディ、キスされるのと化粧されるのとどっちがイイ?」
「ぐっ…………ど、どっちも、遠慮します……」
「ふ〜〜ん…………?」
 さすがオリヴィエ、聖地の楽しそうな噂を得るためには手段を選ばないらしい。冷や汗
を流して後ずさるランディに、ゼフェルとマルセルは額を抑えつつ同情しつつ、でも自分
じゃなくて良かった、などと薄情なことを考えていたりした。


「ここ数日、ランディ達の声をあまり聞かない気がするが、オスカー、そなた何か知って
いるか?」
 窓越しに庭園を見下ろして、光の守護聖ジュリアスは背後に声をかけた。
「はっ。──「ナイショ」で“何か”の準備をしているようですが、それが何かまでは……」
 炎の守護聖オスカーは、査察の報告をするときのように、短く返事をしてから己の知っ
ている限りの情報を端的に述べた。だが、端正な顔をより鋭く見せるアイスブルーの瞳の
奥、どこか楽しむような光が見て取れる。
「「ナイショ」? ほう……?」
 男前で知られるオスカーの口から出た子供っぽい言葉に興味を引かれたのか、ジュリア
スは軽く目を瞠り、後ろを振り返った。
「珍しく、ケンカもせずやっているようですよ。もっとも、いつまで続くかわかりません
けれど」
 それこそ珍しく、コナをかけてみてもランディは頑として口を割らなかった。一体何を
企んでいるやら。思い出して、オスカーのうすい唇に楽しげな笑みが浮かぶ。
「そうか。──まあ、何か良からぬことを考えているわけではないようだ、しばらく様子
を見るとしよう」


「──おや?」
 ハープを弾く手を止めて、水の守護聖リュミエールは遠くに耳を澄ました。うす暗い部
屋の主である闇の守護聖クラヴィスも、閉じていた瞼をうっそりと開き、ぼんやりと、寝
起きのような眼差しを窓の向こうへと向ける。
 二人の耳には、毎日のように聞こえていたはずの喧噪が、数日ぶりに聞こえてきていた。
ただ、ケンカをしているという雰囲気ではなく、なにやら真剣に言い合っているようであ
る。──しかも、他人の家(すなわちここクラヴィスの邸のことだ)の庭先で。
「何を話しているのでしょうか……」
 おっとりとリュミエールは首を傾げた。尋ねるように視線を動かすと、クラヴィスはす
でにその瞼を再び閉じていた。フッ、と鼻で笑うような低い声が漏れる。
「おおかた何かまた騒ぎを起こすつもりなのだろう……。良くもまあ、次から次へと見つ
けてくるものだ」
 そう言いながら、迷惑そうな素振りではなく、むしろその騒ぎとやらを楽しみにしてい
るようにさえ見受けられる。
「ええ、そうですね。いずれわかることですし、私たちは、ただ楽しみに待っていればい
いのですね」


「あーオリヴィエ、すみません、ゼフェルを見ませんでしたか〜?」
 頭のてっぺんから出ているような、気の抜ける声に呼びかけられ、夢の守護聖オリヴィ
エは背後を振り返った。そんなときでさえ、長いパッションブロンドを払う手つきは鮮や
かだ。地の守護聖ルヴァは、いつもと同じく、宝物のように本を胸に抱えている。
「ゼフェル〜? さあ、今日はまだ見てないけど」
「ああ〜、そうですか……。困りましたねぇ〜」
「何、どうかしたの?」
 ただでさえ細い目と下がり気味の眉をさらに下げて、ルヴァが弱り切った表情で口を開
く。いつになく真剣に困っている様子に、オリヴィエは思わず声をかけた。
「いえ……実はですね、ゼフェルが昨夜、私のところに本を借りに来たんですが……」
 かくかくしかじか、とルヴァの説明を聞き終え、オリヴィエはしばし考える表情を見せ
た。
「──オリヴィエ? 何かご存じなんですか〜?」
「え? あ、いや、なんでもないよ。──そっか〜、それは大変だね、お目付役のあんた
としては☆」
「あああ、そんな他人事のように……」
「だってヒトゴトだも〜ん♪」
「あああオリヴィエ〜〜」


                    *                  *                  *


 さて。“その日”は執務のある平日だった。
 9人の守護聖達は、定められた時刻には全員が各自の執務室の中にいた。実はこれは、
大変珍しい事態である。普段は誰かしらが欠けていることが多い──とは言っても、その
メンバーはたいてい決まった人物だ。だが今日に限って言えば、大事な仕込みがあるゼフェ
ルは定時の1時間以上も前に宮殿に姿を見せていたし、オリヴィエはなぜかいつもより入
念なメイクと、手にはメイク道具を持って出仕していた。傍目には変わりないように見え
るクラヴィスも、常に側にいるリュミエールには、彼がなかなかに上機嫌であることがわ
かっていた。
 色とりどりの花が咲き乱れる花壇も軽やかに歌を口ずさむ鳥たちも、吹く風の色さえ普
段と変わらず美しく、けれどどこか、期待を秘めて胸を高鳴らせている。
 そう、“今日”は、この世界の誕生日とも言うべき日、──“クリスマス”である。


「よし、こんな感じでいいかな? どう、ゼフェル、そっちは何か手伝うことある?」
「ん……、ヘーキ。あとこいつつなぐだけ……っと、よし! 終わったぜ。──お。なん
だよ、けっこうイイ感じじゃねーか。ランディ野郎のクセに」
 近づいてゼフェルの手元を覗き込もうとしたランディは、最後の台詞にむっとした表情
になった。
「最後のは余計だよ。おまえ、俺のこと何だと思ってるんだよ……」
「何って、ランディ野郎だろ?」
「ゼフェル!!」
 しらっと答え、予想通り声を張り上げたランディに、ゼフェルはニヤリと笑みを返す。
「へっ、どーせ『クリスマスの飾り付けは、毎年妹と一緒にやってたから得意なんだぜ!』
とか言うつもりなんだろ?」
「え……? 俺、ゼフェルにその話したっけ?」
「……そーゆートコがランディ野郎なんだよ……」
 ゼフェルがため息をついて天を仰ぐ。と、ココン、軽やかなノックの音に二人は振り返っ
た。マルセルのノックの仕方と少し似ている、いやという程聞き覚えのあるその音。
 まさか。ぎくり顔を見合わせて、二人同時に扉を振り返ったとき、小さな音を立てて扉
が開いた。


「──こ・れ・で、よし! できたっ!」
「ええ、こちらも終わりましたわ」
 ほぼ同時に作業を終え、マルセルとロザリアは顔を見合わせ微笑んだ。
「ランディたちも終わったかなぁ?」
「そうですわね、ではマルセルは二人の様子を見てきてくださる? 私は、皆さんを呼ん
で参りますわ。──と、その前にあの子の所に行ってこないと。おとなしくしているかし
ら……」
 手を洗い、身支度を軽く整えながら、ロザリアが不安そうに眉を寄せる。
「大丈夫だよ。──アンジェってば、ホントにロザリアに信用ないねぇ」
「あの子の場合、前科が山ほどありますからね」
「ふふっ、楽しいこと見つけるの得意だもんね。──それじゃあ僕、ランディたち呼んで
くるよ。じゃあまたあとで」
「ええ」
 調理場から出たマルセルは、弾む足取りで廊下を歩いていく。中庭に向かう道へ曲がろ
うとしたとき、ふいに横から伸びた腕がマルセルを掴んだ。
「ぅわ……っ??」
「シーッ、静かに!」
「んぐ、んごんむむ……!」


 突然のロザリアからの呼び出しに、守護聖は疑問を抱えつつも控えの間に集まっていた。
集まる順番も、いつもと変わりない。ただ……。
「オスカー、ランディ達はどうした?」
「いえ、それが、姿が見えないようで……」
「何?」
 そう、控えの間に集まったのは全部で六人。ランディ、ゼフェル、マルセルの、俗に言
うお子様組の面々の姿が見えない。
「ゼフェルはともかく、ランディやマルちゃんまでいないっていうのはちょっとヘンだよ
ねぇ……?」
 どこか楽しそうに、オリヴィエが口を開いた。
「オリヴィエ? 何か、ご存じなのですか……?」
「さぁね〜?」
 小声で尋ねたリュミエールに返されたのは、そんなトボけた答えだった。
「皆さん、お集まりのようですね」
「ロザリア。──ランディ達の姿が見えないのだが」
「ええ、それは構いませんわ、ジュリアス。彼らはすでに、この先で待っていますから」
 にっこり微笑んで告げたロザリアに、ジュリアスは怪訝そうに眉を寄せた。
「そうか……。ここ数日あいつらが何か企んでるようだとは思っていたが、黒幕はもしや、
補佐官殿だったりするのかな?」
 面白そうに片眉を引き上げたオスカーに、直にわかるとロザリアは答えた。促され、ロ
ザリアの後について六人が通されたのは、謁見の間ではなく、その隣、中庭が見渡せるテ
ラスのようになった部屋だった。
「おや、これは……」
「ほう……?」
 それを見た途端、クラヴィスでさえ、かすかに感嘆の声を漏らした。
「さあ、どうぞ。“彼ら”が皆さんへの感謝の意味も込めて、と考えてくださったのよ」
 壁面を飾る、色とりどりのクリスマス・イルミネィション。手作りの趣を残しつつ、し
かし子供のクリスマス会と言うにはずいぶんと手が込んでいる。
 テーブルの上には様々な料理が並べられていた。皆の好きなものをと考えたのだろう。
なかなかにバラエティ豊かなメニューだ。シンプルな盛りつけの中にもどこかかわいらし
さが感じられるため、手がけた人物が誰かを特定するのは容易い。──もちろん消去法で
行っても残るのは確実にその人物なのだが。
「ランディ、マルセル、ゼフェル、──……と、あら……?」
 部屋の隅、三人がいるはずの場所に呼びかけて、ロザリアは目を丸くした。ロザリアの
視線を追ってそちらを見た他の面々も、同様の反応だ。
「せーのっ…………メリー・クリスマス!!」
 三人の声がハモり、クラッカーが勢いよく鳴り響いた。真っ先に現れたのはランディだ。
赤い服を着ている。クリスマスの日に子供達にプレゼントを配って歩く、サンタクロース
の格好だ。次いで現れたゼフェルは、こちらもサンタクロースの装いではあるが、もこも
こした縁取り部分だけでなく、地の色も真っ白の衣装で、瞳の紅がより強調される感じに
なっていた。そして最後に、マルセルが、色はランディと同じ普通のサンタクロースなの
だが、……下が、なぜかミニスカートだった。
「おい、オリヴィエ。──おまえの仕業か?」
「んふふ〜、どう、似合うでしょ〜?」
「ええ、とてもかわいらしいですね」
 囁きが聞こえたのかどうか、マルセルが頬を染めてスカートの裾を引っ張った。
「やっぱりぼく恥ずかしいよ〜」
「ナニ言ってんだ今更。つーかオレだって恥ずかしいのは一緒だっての!」
「全然違うよ〜〜っっ」
「俺もさすがに、ちょっと恥ずかしい……」
「ランディ! おめーのせいだからな!」
「なんでだよ! オリヴィエ様が、」
「その原因つくったのはおめーだろうが!」
「う゛っ……………………ごめん」
 先日のやりとりを思い返し、ランディがうなだれて謝罪をする。小さく舌打ちをして、
ゼフェルが一歩前に出た。
「くそっ、こうなりゃヤケだ。──おいっ、おめーらよーっっく見てろよ! オレサマ入
魂のっ、クリスマス特製花火オープニングバージョン!!」
 まさしくヤケっぱちで即席の名前を付けて、ゼフェルは窓の外を指差した。と、真昼の
空を花火が彩った。
「ああ、あの本は、こういうことだったのですか……」
 感心したようにルヴァが呟く。聞きとがめ、振り返ったジュリアスを、ルヴァは慌てて
ごまかした。せっかく皆のためにと作ってくれたのだ。火薬を使った実験は危険だからと
いつもは禁止しているが(それとゼフェルが禁止事項を守っているかどうかとは、また別
の問題である)、今回だけは大目に見てやるべきだろう。
「そう、今日はクリスマスですもの、みんなで楽しみましょ♪」
「え、──えええっ!?」
「──へ、陛下!!?」
 突然後ろから聞こえた声に振り返り、ジュリアスとルヴァは目を瞠って思わず叫んでい
た。
「陛下? ──なっ、何ですのその格好はっ!!!?」
「ど〜おロザリア、似合う?」
「あなたって人は……、おとなしく待ってらっしゃいって、あれほど言ったでしょう!?」
「だって〜、ロザリア遅いんだもの〜。待ちくたびれちゃったわ」
 にっこり笑ってロザリアの口を噤ませて、アンジェリークはちょこんと首を傾けた。そ
んなアンジェリークの格好とは、ランディ達と同様の、サンタクロース・スタイルである。
赤ではなくピンク地に白の縁がついているもので、ブーツにもお揃いのふわふわした縁飾
りがついていた。
「ふふっ、オリヴィエに作ってもらったの♪」
「ごめんねロザリア、可愛くせがまれちゃってさ。──そう、あんたの分もあるんだよ、
着てみる?」
「結構ですっ!」
 きっぱり即答して、ロザリアはこほんと咳払いをした。
「そんなことはともかく、──先ほど陛下がおっしゃっていたとおり、今日はクリスマス
ですし、せっかくランディ達が用意してくださったのですから、皆さん、存分に楽しんで
いってくださいね」
 どんな時も冷静さを失わないのはさすがである。やはり彼女を女王補佐官にしたのは正
解だった、と、普段はそりの合わない二人の筆頭守護聖は、奇しくも同じことを考えていた。


                    *                  *                  *


 クリスマスパーティーは、ゼフェルの作った特製花火で幕を閉じた。夜の色に近づいて
いく空を見ながら、それぞれの帰途につく。執務室に戻って仕事をすることは、女王陛下
の命により、厳重に禁止された。せっかくのクリスマスだから、と念押しされては、例え
ジュリアスとて逆らうことはできない。それに、確かにこんな素敵なことのあった日には、
このまま家に帰ってゆっくりとくつろぎたくなるものだ。
「ランディ、ゼフェル、マルセル。今日は素敵なひとときをありがとうございました」
 リュミエールは、三人に歩み寄って丁寧にねぎらいの言葉をかけた。その後ろに黙して
立っていたクラヴィスが、ふと、マルセルに目を留める。
「マルセル、おまえの作ったスープ、なかなか旨かった」
「えっ? ──あ、ありがとうございます!」
「それと……その格好、似合っているぞ」
「う゛ぇ!?」
 得も言われぬ声を上げたマルセルに、ランディとゼフェルは声を上げて笑い、揃って頬
に平手を受けた。
「そなた達、今日はご苦労であった。今晩はゆっくり休み、明日からはまた執務に励むが
良い」
「なかなか気の利いた演出だったな、少しは見直してやろう」
「けっ、てめーに見直されてもうれしかねーよオッサン!」
 憎まれ口を叩きつつ、ゼフェルは少し得意げだ。口の悪さを咎めることなく、二人は満
足そうに去っていく。その後ろ姿を見送って、ランディが口を開いた。
「良かったな、この計画して」
「ああ」
「うん、みんなに喜んでもらえるのって、嬉しいね♪」
「そうですねぇ。ですから私の言うことももう少し聞いてくださいねゼフェル」
「──うっわ! 突然背後から現れるなよおっさん!」
「ふっふっふ〜、まだまだ甘いねえゼフェル」
「てめーまで何の用だカマヤロー!」
 オリヴィエの声に、ランディはびくりとして後ずさった。よほど恐かったのだろう、マ
ルセルは同情を禁じ得ない。それに比べたら、スカートをはかされるだけですんだ自分は
まだマシだったかも知れない、と、マルセルは思った。
「三人ともそのカッコ似合ってるよ☆ また何かやるときは相談してね、バッチリ衣装作っ
てあげるからさ♪」
「え、遠慮します……」
「なんだって?」
「い、いえ何でも!」


「──三人とも、お疲れさまでした」
「ロザリア。陛下」
「三人ともありがとう、私もとっても楽しかったわ」
「喜んでもらえてぼくたちも嬉しいよ。ね、ゼフェル」
「……まあな」
「クリスマスはやっぱり、みんなで賑やかにするのが基本よね!」
「そうですわね」
「それから、──これ!」
 と、アンジェリークは空を指差した。つられて空を見やって、──四人は口々に感嘆の
声をもらした。
「ふふっ、私からみんなへの、クリスマスプレゼント♪」
 薄闇色の空から舞い落ちる、真っ白のぼたん雪。ふわふわと、音もなく降り注ぐ様は、
まさに荘厳なクリスマスの夜に相応しいものだった。
「──なかなかやるじゃねぇか、女王陛下」
「うふふっ、どういたしまして」
「私も、少しは見直してあげてもよろしくてよ?」
「ロザリアってば……」
「ははっ、でもすごくアンジェ……じゃなかった、陛下らしくていいと思うよ」
 皆はそれぞれに微笑みを浮かべ、雪の降る夜空を見上げていた。
 先に帰途についた他の守護聖達も、それから聖地にすむ人々も、皆がこの雪を眺め、同
じように幸せを感じていることを祈りながら。

                                    fin.




こめんと(byひろな)     2001.12.24

【守護聖お子様組同盟】のクリスマス企画に投稿したお話。企画のスタートに間に合うように送ろうと思っていたのに、私事でハプニングがあり、書き上げられず、ギリギリになってしまって、管理人の由梨さんにはご迷惑をおかけしてしまいました。
そして、例によって例のごとく、オールキャラにしようと思うと長くなる……(^^;)。おかしいな、だからオールキャラといっても守護聖だけにしたのに。なんででしょう???

主役はもちろんお子様組! と、言いたいトコですが、もしかして実はロザリア様でしょうか?(笑) なんだか大活躍です。
あと今回は、ランディをあまり出張らせすぎないように、と思いつつ書いたのですが、そしたら逆にあまりにも目立たなくなってしまいました(^^;)。ごめんねランディ、しかもまたこの人、オリヴィエ様に襲われてるよ(^^;)。
このお話、珍しくもゼフェリモです。そんでもってマルロザ。ゼフェリモはですね、由梨さんがお好きなカップリングなので、組み込んでみようと思っていまして。で、じゃあロザリアは、ランロザはお誕生日企画で書いたから、書いたことのないマルロザにしよう、と思っていたら、ひそかにキリリクの中で、マルロザをほのめかす記述がありました(笑)。まあ良いけど。なので、ゼフェリモ・マルロザ・もしかするとオリラン?(^◇^ ;)な、二本立てもしくは三本立てです。
リモちゃんの手綱を巡って(笑)ゼフェルvsロザリアというのは、前から一度書いてみたかったので本望です☆ 絶対ね、この二人、アンジェには甘いと思うのよ。それで互いに文句言い合うと思うの。この二人は言い合いをしている姿が似合います(笑)。

途中、書いても書いても終わらなくて、もうだめだ〜!!と思ったこともありましたが、いたらないところは多々あれど、何とか投稿できてほんとに良かった。由梨さんに、そしてこのお話を読んでくださった皆様に感謝感謝です。どうもありがとうございました。
願わくば、皆様良いクリスマスを!




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