Happy Thought

「あっ、ヴィクトール様、こんな所にいたー!!」
 元気の良い声が聞こえ、ばたばたと複数の足音が駆け寄ってくる。ヴィクトールが振り
向くと、レイチェル、マルセル、ティムカが走ってくるのが見えた。
「どうした。──メルとアンジェリークは一緒じゃないのか?」
「お二人とも、もうお待ちですよ」
「待ってる? 何だ、何かあるのか?」
「うふふっ、ナイショ♪ ──行けばわかるって! 早く早く!」
「お、おいレイチェル、そんなに引っ張るな。──マルセル様!」
「ふふっ、何があるのかは、行ってからのお楽しみです。ねーっ♪」
 腕を引っ張られ背中を押され、子供たちに拉致されるかのように、ヴィクトールは林道
を進んでいった。
「──占いの館……?」
 やがて見えてきた建物に、ヴィクトールが疑問の声を上げる。目の前にある赤い布地の
テントは占いの館に間違いないはずだ。
「ささっ、早く早く!」
 またも急かされ入り口の布をくぐった途端、横から伸びた腕にがしっと肩をつかまれた。
「ふっふ〜ん、ヴィクトールぅ、待ってたよぉ〜♪」
「オッ、オリヴィエ様!?」
 ごく間近に聞こえた声に思わずのけぞる。ついに自分にまでオリヴィエの魔手が伸びた
のかと、身の危険を感じて逃げようとした身体を後ろから取り押さえた者があった。
「おとなしくしてろって!」
「すいませんヴィクトールさん、ちょっとだけじっとしててください」
「ゼフェル様、ランディ様!?」
 慌てるヴィクトールを押さえ込み、3人は問答無用でヴィクトールを隣室へと引きずっ
ていく。
「あの……、ヴィクトール、あなたに危害を加えようというのではないのです。今は何も
聞かずに私たちに従ってくださいませんか……?」
 パニックに陥りかけたヴィクトールに、控えめな声がかけられた。救いを感じて声の方
を見やると、リュミエールが手に白いタキシードを持って佇んでいる。
「リュミエール様……? その服は、どうされたんです?」
 前後から取り押さえられている状況を忘れ問いかけると、リュミエールはにっこりと微
笑んだ。
「これはあなたが着るのですよ」
「俺が……ですか?」
「ええ。──着てくださいますよね?」
「は、はぁ……」
「ナ〜イス、リュミちゃん☆ ──さ、ヴィクトール、とっとと脱いじゃって!」
「オッオリヴィエ様、いいです自分で脱ぎます!!」


「う〜ん、カンペキ☆ さっすがは私が見立てただけのことはあるよ」
「なに自画自賛してんだよ。──ま、馬子にも衣装ってトコだな」
「うん、ヴィクトールさん、すごいかっこいいです!」
「ええ、とても良くお似合いですよ」
 様々な賛辞(?)にヴィクトールは一応頷くが、未だ状況を全くつかめずにいる。
 自分をここまで引っ張ってきた3人の姿はいつの間にかなくなっているし、──何より、
今日は朝からアンジェリークの姿を見ていないのだ。特に何か約束をしているというわけ
ではないが、これだけあちこち探し回っても見つからないというのは、何かが引っかかる。
「リュミエール様、これは一体……?」
 とりあえず、一番質問に答えてくれそうな人物に声をかけようとしたとき、ぱたぱたと
足音がしてティムカが顔をのぞかせた。
「オリヴィエ様、あちらも皆さん用意が整いました!」
「お、ちょうどいいタイミングだね。さっ、ヴィクトール、向こうであんたのかわいいア
ンジェちゃんがお待ちだよん♪」
「アンジェリークが?」
 オリヴィエのウインクに促され、部屋を仕切る布を手でよけ中央の部屋に戻り、ヴィク
トールは目を丸くした。
 並べられたキャンドルに祭壇の向こうの女王陛下の像──まるで礼拝堂のような内装だ。
「ヴィクトールさんの席はこっちですよ!」
 ランディに呼ばれ、祭壇近くに立たされる。ゼフェルが部屋の隅に置かれた装置のスイッ
チを押すと、ぱっと照明が変わり、レイチェル、マルセル、メル、ティムカがそれぞれ楽
器を持って立っているのが見えた。
 なんだか、これではまるで──
 ヴィクトールがそう思ったとき、また照明が変わり、部屋の後ろに立つ2人の人物を照
らし出す。
 赤い髪の長身の男はオスカーだ。そして彼の腕に手をかけ佇んでいるのは……。
「アンジェリーク!?」
 白とピンクのバラをあしらったレース仕立てのドレスに、お揃いの髪飾りをつけ、手に
もやはり揃いのブーケを持っている。初めて見る薄化粧の顔が、少し緊張していた。
 楽器隊の演奏に合わせ歩き始めた2人はヴィクトールの間近に来て止まり、オスカーが
ヴィクトールに目を向けにやりと笑った。
「よう、ヴィクトール。お嬢ちゃんを泣かせたりしたらこの俺が許さないからな」
「オスカー様……!?」
「お嬢ちゃん、幸せになるんだぜ」
 アンジェリークにウインクを投げ、オスカーは祭壇の前、彼女を挟んでヴィクトールの
反対側に立った。
 アンジェリークは恥ずかしそうに俯いて、小さなブーケをきゅっと握りしめている。ヴィ
クトールが声をかけようとしたとき、ぱさりと布を分けて、ルヴァが現れた。
「あー。皆さんお揃いですねー。──では、これより、精神の教官ヴィクトールと女王候
補アンジェリークの結婚式を行います」
 ヴィクトールが目を瞠った。
「──とは言ってもですねー。これは正式な婚姻の儀式としては認められないものなんで
すよー。ですから、まあ言うなれば結婚式の予行練習のようなものなんですが……」
「あーわかったわかった、ルヴァ、いいからちゃっちゃと進めようよ」
「あー、そうですかー? ──では、まずはじめに、この式を計画したレイチェルたち楽
器隊の皆さんから、ヴィクトールにメッセージがあるそうですよ」
 たたっと祭壇近くに駆け寄って、レイチェルのいたずらっ子の目がヴィクトールを見上
げた。せーのっ、とかけ声をかけ、皆が声を揃える。
「ヴィクトール様、お誕生日おめでとうございます!!」
「────え……?」
 思ってもみなかった言葉に、ヴィクトールは目を瞬かせた。
「あのね、ヴィクトールさん、今日お誕生日でしょう?」
「ですから、僕たちみんなであなたにプレゼントを差し上げようと思って」
「ヴィクトールさんがね、一番喜ぶものって何かなって考えたの」
「で! ──アンジェをあげちゃえ!ってコトになったんだ!」
 半ば呆然としてアンジェリークを見ると、顔を真っ赤にした彼女と目が合った。
「あ、あのヴィクトール様、もしご迷惑だったら……」
「そーんなコトないって! だってヴィクトール様、さっきからアナタに見とれっぱなし
だもん☆」
「レ、レイチェルっ……!」
「照れるコトないでしょ。ワタシから見ても、今日のアナタはすっごくキレイだよ! ─
─だからね、ヴィクトール様、ワタシたちからの誕生日プレゼント、受け取ってください
ネッ!」
 楽器隊の面々が席に戻ると、ルヴァは2人を見比べてにっこりと微笑んだ。
「ヴィクトール、この式の主旨は分かっていただけましたか?」
 ヴィクトールが半分反射的に頷くと、ルヴァは笑顔で頷き返した。
「それは良かった。──では、ヴィクトール、」
「はい」
 静まり返った部屋にルヴァの声が響く。ヴィクトールは姿勢を正してルヴァを見つめた。
「あなたはアンジェリークを生涯の伴侶とし、彼女を愛し守ることを誓いますか?」
「はい、誓います」
「アンジェリーク、あなたはヴィクトールを生涯の伴侶とし彼を愛し慈しむことを誓いま
すか?」
「……はい、誓います」
 ルヴァは満足げに頷いて、二つの指輪を取り出した。
「これはですねー、あなた方のために、メルが作ってくれたものなのですよー」
 2人は揃ってメルを振り向いた。メルは照れてもじもじしながら口を開く。
「あのね、メルね、……2人がいつまでも仲良くいられますようにって、心を込めて一生
懸命作ったんだよ」
「ふう〜ん、火龍族のおまじない付きの指輪か。──これは効果絶大ってカンジだね」
「ええ、そうですね」
 礼の言葉を言う代わりにメルに頷いて、ヴィクトールは指輪をとるとアンジェリークの
指にはめた。次にアンジェリークが同じようにヴィクトールの指に指輪をはめる。二つの
指輪は、見事なまでに2人の指にぴったりフィットしていた。互いの指を見比べて、2人
はかすかに笑みを交わす。
「今ここに、女王陛下と守護聖の名において、2人の婚姻が宣言されました。──ではお
二方、誓いのキスを」
「「ええっ!?」」
 2人は同時に声を上げ、顔を見合わせ赤くなった。慌てて目をそらし、自分と相手の指
にはめられた指輪を見て、再び顔を見合わせる。
 ヴィクトールの手がアンジェリークの頬に触れた。アンジェリークがそっと目を閉じる。
ゆっくりと身をかがめ、ヴィクトールは少し迷って彼女の額に口づけた。
「おいおい、誓いのキスっていうのは普通唇にするもんじゃないのか?」
 すかさずオスカーのチェックが入った。その声にぱっと目を開けたアンジェリークとま
ともに目が合ってしまい、また二人して赤くなる。
 とまどうように視線を揺らし、再び目を閉じたアンジェリークの肩を抱いて、今度は唇
にキスを落とす。
 ヴィクトールが身を起こすと、一斉にクラッカーが鳴り響いた。
「おめでとうございます!」
「お二人さん、おめでとう!」
 皆が口々に祝いの言葉を叫ぶ。
 2人は目を丸くして立ちつくしていたが、やがて顔を見合わせて幸せそうに微笑んだ。
「さ〜って、お次は披露宴&ヴィクトールの誕生パーティだよ!」
 オリヴィエのかけ声で、皆が一斉に動き始める。
「はい! 二人は主役なんだから、ココに座って待っててね!」
 レイチェルに勧められた椅子に座り、ばたばたとテーブルの準備をする皆に圧倒されな
がらヴィクトールが口を開いた。
「朝から姿が見えなかったからどうしたのかと思っていたが、……こういうことだったの
か」
「……ごめんなさいヴィクトール様」
「おまえが謝ることじゃないだろう。まあ、心配はしたが、その……、嬉しかったぞ」
「!? ──ヴィクトール様……」
 アンジェリークは軽く目を瞠り、頬を薄く染めて微笑んだ。小さく可憐なすずらんのよ
うな笑顔、ヴィクトールがこの世で一番大切にしているものだ。
「そのドレスも、よく似合っていると思うぞ」
「ありがとうございます。──ヴィクトール様も、……とても素敵です……」
「そ、そうか? 俺はこういう格好は初めてだからな、何と言うか……気恥ずかしいな」
 照れる様子がかわいく思えて小さく笑いをもらし、アンジェリークの青葉のような瞳が
ヴィクトールを見上げた。
「ヴィクトール様。お誕生日、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。──こんな風に皆に誕生日を祝ってもらうのなんて何年振りだろう
な」
「はーい、お待たせッ! 準備ができたヨ!」
 レイチェルの声に振り向くと、おなじみのお茶会セットに加え、人数分のグラスとシャ
ンパンが用意されていた。
「さっそく乾杯しましょ! ──ルヴァ様!」
「え、ええっ、私ですかー? ──えーっと、では、ヴィクトールの誕生日と、二人の幸
せな未来に、」
「乾杯!!」



                                       fin.
   



こめんと(byひろな)     2001.1.8 ←ってコトにしといて……(TT)

今年の初書きとなりました、ヴィクトールさんお誕生日記念創作の、ヴィクコレ(温和)でございます。
何かしんないけどいきなり結婚式です(笑)。だって何か浮かんだんだよう……。
タイトル、“HappyThought”は、“妙案”という意味です。──っつーか、レイチェル(たち)、そんなプレゼント考えつくのは君たちくらいだよ(苦笑)。
ヴィクおやじ、書くの楽なような難しいような……。そして人数出てるわりにはセリフが少ない(偏ってる)ので、我が愛しのランディ様でさえセリフが少ない……(TT)。
基本的にいつもの(?)お茶会ほのぼのメンバー系なのですが、エルンストさんはそういうのかまわなさそうなのと、セイランさんは微妙だなぁ、でもいっぱい書いたし(年末にランセイ&ヴィエセイ書いた)、ってことで登場辞退(爆)。逆にオスカー様は、どうしても彼に父親役をやらせたかったので(笑)。別に彼がコレちゃんのことをどうこう思ってたわけではありません。
しかしお誕生日もの、立て続けにノーマルですね。セイランさんBDもノーマルの予定だし。…………マルちゃんBDだな、ニヤリ(妖)。
ああっ、ヴィクトールさん、更新遅れてごめんなさいっ!! お話は年明けにもう出来てたのにぃぃ……。


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