*                  *                  *


「────はぁ……っ」
 長いため息をついて、ランディが全身の力を抜いた。ゼフェルも小さく息をついて、汗
に濡れた前髪を掻き上げてやる。
「ランディ、平気か?」
「ん……、なんとか」
 答えてもう一度息をつき、眉を寄せる。
「でもなんか、まだ……」
「──入ってる気がする、って?」
 自らの経験を踏まえ、問いかける。少し顔を赤くして、ランディがこくんと頷いた。
「そりゃー、まあ、しょうがねぇな。──そのうち慣れんだけどな」
「そのうちって……、つ、次も、あるってこと?」
「──なんだよ、イヤかよ?」
 なんだかさっきと同じことの繰り返しになりそうだ。そう思ったが、今度はちゃんとし
た返答があった。
「う゛……できたら、遠慮したい……。──ごめん」
「くっ、ばーか、何あやまってんだよ」
 笑って頭をこづく。きっと、さっきのゼフェルの言葉を気にしているのだろう。律儀な
ことだ。本気で言っているわけではないのに。それに、初めて男に抱かれてそれを悦いと
思える男はそういないと、ゼフェルは勝手に思っている。ゼフェル自身、相手がランディ
だからこそあの行為を望むのであって、他の男となんて、思うだけでも寒気がする。いや、
たとえ女相手でも誰でも良いというわけではないが。
「──そうなんだよな……」
「ん?」
 結局、望んでいるのだ自分は。ランディとの行為を──ランディに、抱かれることを。
身体の奥でくすぶる熱が、まだ満足しきれていない身体を自覚させる。
「さっきのはちょっとおまえを困らせてみただけだって。──それと……、」
  次はねーから安心しろよ。言うなり唇をふさぐ。口の中には舌を入れず、唇を味わって
顔を離すと、ランディは驚いた顔をしていた。
「ゼフェル……?」
 何かを言いかけた口を手で押さえつける。
「るせ……っ。────オレもっ、いつものがいいっつってんだよっ……!」
 改めて口に出すのは恥ずかしい。けれど、言わなきゃ伝わらないこともある。言葉と身
体と、すべてを駆使してでも伝えたいことも。
 怒ったような言葉は照れ隠しだ。赤くなっているだろう顔を隠すように、ランディの胸
に額を押しつける。
「ゼフェル……」
 吐息交じりの呼びかけとともに背中を抱かれる。触れた手のひらの熱さが、身体の奥の
熱を呼び覚ます。
 いつの間にか、この身体は、ランディの熱なくしては満たされなくなっていた。優しい
抱擁はもちろん、キスをして、手のひらで互いの身体を辿って。けれどそれだけじゃ足り
ない。もっと、我を忘れるくらいに、身体の内側からかき乱されないと。
「ランディ……」
 言いかけた言葉を奪われた。ぐっと顔を上向けられ、真剣な眼差しと対峙する。
「ゼフェル、も、もう一回、しよう。──今度は、俺が……」
 ゼフェルを抱きたい。
 ランディの口から、初めてはっきりと言われたその言葉に、ゼフェルはぞくりと身を震
わせた。思い詰めたような眼差しが熱く身体を貫く。早くその熱が欲しいと、身体が訴え
ているのがわかる。
「あ、ああ……。けどおまえ、……大丈夫なのか?」
 ゼフェルは初めて身体の奥にランディを迎え入れたあと、ほぼ丸一日、その違和感と痛
みにさいなまれた。ランディだって、まだつらいはずなのだ。
「う゛……、た、たぶん。──でも、俺……ゼフェルが欲しいよ……」
 低くひそめられた声とともに、背中の手が滑り降りた。やわらかく双丘をもまれ、いつ
になく直接的なその言動に高められる。
「んっ……、……ぁ……っはぁ……ッ、オレも……っ」
 膝をついて腰を上げると、指先がすぐに谷間に降りてくる。貪欲な身体の求めに応える
ように指が差し入れられ、ゆっくりと内部を押し広げていく。
「あ……っ」
 猛る互いの情熱を擦り合わせて。
 身体を動かしながら、時々ランディの眉がつらそうに歪む。
「ランディ……、やっぱ、……キツイだろ……」
「でも……もう止まらないよ……」
 大丈夫だから、とランディは言う。ゼフェルは意を決して上体を起こした。指が抜ける
感触に思わず身震いをする。
「ゼフェル……?」
「オレが……、乗ってやるから…………」
 熱っぽい眼差しで告げ、ゼフェルはランディの情熱を掴んで自らの入り口に押し当てる。
大きく息を吸って、目を閉じると、息を吐きながら楔の上に身体を落とした。
「ふっ……、ア……ッ」
 膝ががくがくと震え、脚の力が抜ける。ランディの腹部に手をついて身体を支えながら、
ゆっくりとランディを飲み込んでいく。
「はぁ……っ」
 根本まで飲み込んで、二人同時にため息をついた。顔を見合わせ、少し笑う。
「何でおまえまでため息ついてんだよ」
「だって、なんか少しずつゼフェルの中に入ってくのがわかって……、」
 ずっと息を詰めてその様子を見守っていたらしい。見られていたとは知らなかった、ゼ
フェルが全身を朱に染める。
「……ゼフェル、すごい綺麗だった」
「ばか……っ、ンな恥ずいコト言ってんじゃねえよっ……」
 言葉と裏腹に、喜ぶようにひくつく柔襞の反応に、ゼフェルはもちろん、ランディも気
づいたはずだった。
「ゼフェル……」
 促すように名を呼ばれ、腰に手が添えられる。
「ん……」
 小さく頷いて、再びランディの腹部に手を置いた。ゆっくり腰を浮かし、再び沈める。
繰り返す。少しずつ、大きく。
 見上げるランディの熱っぽい視線が羞恥と快感を増幅させる。
 自分の方がランディを見下ろすという構図は先ほどと変わらない。しかし、身体の中に
銜え込んだランディの熱さが、さっきよりも深い満足をゼフェルに与えていた。
「ランディ……、気持ちイイか……?」
「また、そういう……っ」
「なぁ……」
「……っ……うん……、いいよ……」
「ん……、オレも、……すげぇ、イイ……んっ!」
 深く腰を落とし、今度は前後に腰を動かす。中でランディの位置が変わる度に、また新
たな快感が呼び起こされる。前後左右に動く腰が速さを増していく。
「んっ……アッ……っは、──ぅあっ、んっ……」
「は……っ…………ゼフェル……ッ!」
「アアッ! ぅあっ、あっ…………ひぅっ……ん……あっ、ぅんッ」
 突然腰を掴む手に力が込もり、ゼフェルがびくりと身を揺らした。上体を起こしたラン
ディが、ゼフェルの身体を揺さぶり始める。
「っつ……はぁ…………っ」
「……あっ……やっアッ! ……ランッ……ッ!」
 のけぞって叫んだゼフェルが平衡感覚を失う。その背を支えて引き戻し、ランディが小
さくため息をついた。
「──ゼフェル……好きだよ……」
 まだ熱い吐息とともに。ささやきと汗で湿った髪が首すじをくすぐる。
「ん……っ」
 ぴくんと首をすくめて鼻にかかった声を上げ、ゼフェルは縋るようにランディの首に腕
を回した。肩口に顔を埋め、息をつく。
「ゼフェル……? 大丈夫……?」
「ぅん……、──おめーこそ、ヘーキなのかよ……?」
「う〜ん、なんとか……」
「ったく、だからオレがしてやるっつったのに」
「うん、でもなんかもう夢中で……痛いのなんか忘れてたんだよ。──でも、やっぱり、
思い出すとちょっと……」
「ばーか。浅はかなヤツだな、ったく」
 くすくすと笑って体を起こし、膝立ちになる。ランディが出ていく感覚に一瞬だけ目を
細め、ゼフェルはすぐに立ち上がった。
「ゼフェル? どこに行くんだ?」
「ん。水」
 端的な答えを返すゼフェルの背中に、ランディは感心したように声をかけた。
「ゼフェル、よくそんなすぐに歩けるな。俺は……、まだちょっとダメかも……」
「ンなことでソンケーされてもうれしかねーよ。──ホラ」
 ペットボトルをランディに放り投げ、ゼフェルもベッドに戻ってくる。
「っと、ありがと。──それもそうか、じゃあ……たとえばどんなことがいい?」
「は?」
 突然の質問に、ゼフェルが片眉を上げる。
「何で尊敬されたら嬉しい?」
「んー、やっぱ自分でもそこそこイケてるって思ってることとか……、って、おめーに見
せたらどんなへっぽこメカでもすげーモンになりそうだぜ」
「──ひどい言い様だな」
「だってそうだろ」
「そんなことない……と思うよ、たぶん」
「ナニ自信なくなってんだよ」
 だんだん語調の弱くなるランディに吹き出して、ゼフェルはランディの右肩に背中を預
けた。
「オレはおめーの真っ正直なトコ、ちょっとすげーと思うぜ。オレにはマネできねーかん
な。──あんましようとも思わねーけどよ」
「それって褒めてる……?」
「けなしてる。──って、ウソウソ、冗談だって」
「俺は、ゼフェルのそういう意地悪なところはどうかと思うな。──でも、そんなところ
も含めてゼフェルだから好きだけどね」
 覗き込むようににっこり微笑まれ、ゼフェルがぼんと赤くなった。
「っ……。そ、そーゆー恥ずいセリフをさらっと言っちまうトコはソンケーしてやるよ…
…」
 敵わないと思うのはこんな時だ。こんな笑顔を向けられたら、たとえどんな大ゲンカを
していても許してしまうんじゃないか……。そんな気がする。
「えっ? そうかな……?」
 本人に自覚がないあたりがまさに無敵だ。首を傾げるランディの隣でゼフェルはわざと
らしくため息をついた。
「はぁ……っ、なんか疲れたぜ。──ランディ、おめー、今日どうする?」
「あ。泊めてくれると嬉しいな」
「なに、まだツライ?」
「つらくはないけど……ちょっとだるい。帰るのめんどくさいな」
「なんだよそれ」
「あーあ、明日ジョギング行けるかな」
「はぁっ? なに、おめー行く気でいんの?」
「え、いけない?」
「いけなかねーけど……。────元気なヤツ」
「俺の取り柄だからね」
 まあ、確かにな。呆れ半分呟いたゼフェルを、ランディはそっと抱きしめ横になった。
「……おい」
「たまにはいいだろ?」
「オンナじゃねーんだから……。明日、腕痺れて使いモンになんなくなっても知らねーか
らな」
「大丈夫だよ。だから今日はこうして寝よう?」
 何の根拠もなく言うランディは、体勢を変える気配はない。すっぽり胸の中に抱き込ま
れて腕枕をされて、ゼフェルは居心地の良さと悪さを同時に感じて戸惑った。
「一緒に夢を見られるように。それから、ゼフェルの新しい一年が素敵なものになるよう
に、そこに俺が一緒にいられるように。な?」
「なに、それも何かのまじない?」
 ランディの家にはいろいろなジンクスのようなものがあったらしく、幼い頃の習慣など
を聞くのは面白い。家族仲良く暮らしていたんだと、その様子を思い浮かべると頬が緩ん
でしまう。
「うん、俺と妹の誕生日には、いつも二人で一緒に寝てたんだ。一年間、ケンカしないで
仲良く過ごせますように、って。そのおかげかどうかわからないけど、俺、妹とケンカは
ほとんどしたことないよ」
「……オレとはケンカばっかだけどな」
「だからさ。今晩こうして寝れば、ケンカが減るかもしれないだろ?」
「まーな。やってみなきゃわかんねーけど」
「そう、だから」
 今日はこうして、二人仲良く寄り添って眠ろう。一年間、仲良くいられるように、一年
間、一緒にいられるように。
「ゼフェル、誕生日おめでとう。これからもよろしくな」
「──もう昨日だぜ?」
「いいだろ、まだちょっとしか過ぎてない」
「ちょっとだって遅刻は遅刻だ。──って言うのはどこのどいつだよ?」
「俺だけど。でも俺、昨日のうちにちゃんと誕生日おめでとうって言ったぞ!?」
「わかってるって、ムキになんなよ。ケンカしねーんだろ?」
 くすりと笑って背中に腕を回す。ちょっと目を瞠って、ランディは幸せそうに微笑んだ。
「ゼフェル、……おやすみ」
「ああ。──おやすみ」
 寄り添って、目を閉じて。互いの温もりと鼓動を抱きしめて、二人は眠りの淵へと落ち
ていった。
                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.6.4

はい。ゼッくんBDは、ランゼvでございます。
ランゼだけどゼフェランだけどランゼなの(笑)。これはランゼなのよっ!
最初思いついたのは“ランゼだけどゼフェラン”で、かなりゼフェラン度が高かったんですが、しばらくしてやっぱりランゼがいいな〜、と、ゼフェルが思ったらしく(笑)、かなりランゼな感じに。しかも、これ、my設定なランゼの本編に絡んだ話になってませんか?みたいな様相を呈してきました。myランゼ、9月に本出しますが、webと本との割合を、どうしようかなぁと考え中。風夢についても同様ですが。
しかし私、だんだんエッチにためらいがなくなってきているなぁ……と、思ったり。どうしましょうか。
リバはダメよ〜とか言ってた私はいったいどこへ……。てゆーかリバって、すい〜とねおろまんす的にどうよ?
いや、基本的にですね、アンジェでリバは書かないつもりなんですが。あんまし好みじゃないし。オリジナルならともかくね。それに、リバらせられる組み合わせって、あんましない気が(私思うに)。つーか私的にはランディ・ゼフェル・セイランくらいの年なら、なんですが、……つーことはランゼっきゃないじゃん(強いて言うなら、て感じ)。だってうちのランセイでリバはありえないよ。セイゼ……ゼフェセイからリバはありそうだが、うちの攻めセイの攻めキング加減からするとセイゼでリバもなさそう(笑)。
──てことで、なにやらコメント半分リバ談義でおわっちまうのら〜ってかんじです。ごめん、ゼッくん、こんなコメントで(苦笑)。



Parody Parlor    CONTENTS    TOP

感想、リクエストetc.は こ・ち・ら