Star

 自分の意志を無視して、無理矢理連れて来られたと思った。
「俺、ランディ! よろしくな!」
 さんさんと降り注ぐ太陽のような笑顔が、ここにいることに何の疑問も感じていないよ
うに思えて憎らしかった。
 威嚇する眼差しに気づいて、ランディが戸惑った顔をする。
 さっきの笑顔の方が似合うと思ったけれど、それを取り戻す術を、オレは知らなかった。


「ゼフェル!」
 良く通る声が自分の名を呼ぶ。周りの全てを突っぱねる態度を崩さないオレを、ランディ
は毎日誘いに来た。聖地の探検に行こうだとか、リュミエールのお茶会に、またはルヴァ
の元へ勉強をしに行こうだとか、何かしら理由をつけてやってくる。
「あー、ランディ、ゼフェルと仲良くしてあげてくださいねー」
 ルヴァの気の抜けたような声が頭の中によみがえる。きっと、優等生そうなアイツのこ
とだ、ルヴァの言いつけを守ろうとしているだけに違いない。そう思いつつも、全てを拒
否し続けることは難しい。やがてオレは、ランディの来訪を楽しみにするようになっていっ
た。けれど表に出る態度は相変わらずだ。いやいやついていくポーズを取り続ける。何か
につけ反発しては、ランディとケンカになることもしばしばだ。ルヴァやランディの悲し
げな顔を見る度、悪いことをしたとは思うが、意地もあって変わらぬ態度をとり続け、ま
たケンカになる、それの繰り返しだ。
 それでも次の日にはまた、ランディは変わらぬ笑顔でやってくる。


 ある夜、オレはなかなか寝つくことが出来ず、かといっていつものように機械いじりを
する気にもなれずに時間を持て余していた。
 ふと、窓の外、視界の隅に星空が映る。
「────散歩にでも行ってみっか」
 一人ごちて、部屋を出た。
 外に出て改めて星空を見上げると、あまりの星の多さに目が眩みそうになる。
「すっ……げえ……」
 しばらく呆けたように立ち尽くして、以前ランディに案内された高台を思い出した。す
ぐに行くことを決め、夜道を歩き出す。昼間の賑やかさとはうって変わり、耳鳴りのしそ
うな静寂がオレを包む。時折、庭園の噴水らしき水音や葉擦れの音が微かに聞こえてくる
だけだ。
 見慣れた夜景とは正反対の、けれどどこか懐かしさを感じさせる景色。その中を、一人
歩いていく。
「──あれ? ゼフェル?」
 もはや聞き慣れた声に振り向くと、そこにいたのはやはりランディだった。
「やあ、どうしたんだい? こんな時間に」
「別に、おめーにゃカンケーねーだろ」
「もしかして、寝つけないのかい? ──実は俺もなんだ。よかったら、一緒にこの先の
丘に行かないか?」
 夜の中で少し濃さを増した青い瞳が、いつもオレを誘う時と同じようにきらめく。──
こんなに楽しみにしてるのがわかる眼で誘われて、断ることなんてできやしない。
「ああ、いいぜ。──ちょうどオレもそこに行こうと思ってたしな」
 いやいやではなく、自分で望んで。
 口端を歪めるようにしてオレは笑った。ランディの目が大きく見開かれ、夜目にもわか
るほどにきらきらと輝きを増す。
「よし、行こう!」
 その笑顔は、夜空のどの星よりも眩しかった。


「すごいだろう? 俺も初めてここに来たときは、もうホントに驚いて──感動してさ、
声も出せずにずっと立ち尽くしてたんだ」
 宝物を自慢するように、ランディが言う。
「この丘って、多分聖地で一番星が綺麗に見えるんじゃないかな。俺もまだここに来てそ
んな長くないからよく知らないけど」
「おめー、確か主星の出身だって言ってたよな」
「覚えててくれたんだ? なんか嬉しいな。──うん、主星のね、中規模くらいの都市の
下町に住んでたんだ。ゼフェルは工業惑星帯だよね? あそこって、星は見えるのかい?」
「見えると言やー見えるけど、近くの人工衛星ばっかしだしな。……こんな、空全部を埋
め尽くすようなのは映像資料でしか見たことねぇよ」
「そうなのか。──じゃあ、良かったな、ここに来て!」
 唐突な言葉に、ランディを振り返った。
「……はぁ?」
「だって、ずっとあの星にいたら、一生この星空を見られなかったんだよ。そんなのもっ
たいないじゃないか、こんなに綺麗なのに!」
 力説するランディに、オレは吹き出した。
「おっめーなぁ、星空なんて、ココじゃなくても見られんだろ」
「星空は見られるけど、この星空はここでしか見られないよ! ──ゼフェル、知ってる?
ここは──聖地はね、宇宙で一番、星がたくさん見えるんだよ」
「──ああ……」
「だからさ、これでひとつ、聖地に来て良かったって思えることができただろう?」
 声のトーンを落として、ランディが呟く。
 思わずランディを見やると、真剣な顔の中、優しい眼差しと目が合った。
「ランディ……」
「望んでないのに無理矢理連れて来られたって気持ち、俺も少しわかるよ。俺も、家族や
友達と、大好きな景色とお別れしないといけないなんて嫌だと思った。──でも今は、こ
こに来て、守護聖になって良かったと思ってるよ……」
 いつも能天気そうな幸せ全開の笑顔だから、気づかなかった。いや、気づかないフリを
していただけかも知れない。こいつだって、家族や友人と別れてここに来たのだ。ルヴァ
も、ジュリアスも、──皆、誰か大切な人との永遠の別れを経て、ここにいるのだ。
「守護聖やっててつらいと思うこともあるけど、この先もきっとあるだろうけど、一人じゃ
ないから。俺たち9人はお互いに支え合ってるんだって、ジュリアス様もおっしゃってた
だろう? ──みんな、ゼフェルと仲良くなりたいって思ってるよ。俺も……」
 一度言葉を切って、ランディは人なつっこい笑顔を浮かべた。
「俺が一番、ゼフェルと仲良くなりたい。年が近いっていうのもあるけど、それだけじゃ
ないよ。俺、ゼフェルと友達になりたい。──な! ゼフェル、友達になろう!?」
 そう言って右手を差し出す。面食らって、オレはその手を見つめていたが、はっと我に
返って顔を背けた。顔が熱い、赤くなっているのが自分でもわかる。
「──ッ、んな恥ずいコトできっか! だいたいトモダチなんて、なろうと思ってなるモ
ンじゃねぇだろ……」
「うん、そうだね。実は、俺はもうゼフェルのこと友達だって思ってるんだ。でも今のま
まじゃ、俺の友情は片思いだよ。ゼフェルは、俺のこと友達だって思ってくれてる?」
 覗き込んでくる瞳と台詞に、オレは思いっきり言葉に詰まって息を止めた。やがて息を
吐き出す勢いに乗せてヤケクソで叫ぶ。
「だ──っっ、もう! わかったよ! てめーはオレのダチだっ!! ────これでい
いかよ!?」
 身体ごと背を向けたオレの後ろで、満足そうな笑みが開いたのが見えるようだ。
「うん!」
「──ったく、なんでオレがこんなこっぱずかしーコト言わなきゃなんねんだ……」
「え? ゼフェル、何か言ったかい?」
「なんでもねーよ!」
 夜空を見上げて、オレはあるものを見つけ、声をあげていた。
「お。──今の、流れ星じゃねぇ?」
「えっ、どれどれ?」
「もう見えねーよ。──あ、ほらまた」
「あっホントだ! すごいな、星たちがお祝いしてくれてるみたいだね!」
 またこいつはそーゆーコトを……。
 すでに照れる気力もなくし、呆れたようにランディの横顔を眺める。
「──ま、おめーといると退屈しなくて済みそーだしな」
「え?」
「いーから。──ホラ、なんか願い事すんだろ?」
「うん! いつまでも宇宙が平和でありますように。ゼフェルが早くみんなと仲良くなれ
ますように。ゼフェルが俺ともっと仲良くなってくれますように。それから……あ! オ
スカー様に剣で勝てますように!」
「ぶっ。──おっめー、バカだなあ」
「なんでだよ!?」
 その反論の仕方が更におかしくて、オレは声を出して笑い出した。オレのことを睨んで
いたランディも、笑い転げるオレを見るうちになんだかおかしくなってきたらしい。
 静かな夜の高台に、オレたちの笑い声が響いて星空を揺らした。


                                    fin.
  



こめんと(byひろな)     2001.1.5

じゃじゃ〜ん! 新春更新第一弾は、一部の方には予告しましたが、なぜかランゼです。
っつーか一応“ランディ&ゼフェル”なんですが。“×”じゃないんですが、マークも緑なんですが。この先ほぼ確実に道を踏み外すことが予想される勢いです(笑)。

そしてアンジェでは初めての、一人称。しかもゼー(笑)←なぜ笑う。
いや、これも最初は三人称だったんだけど、ちょぴっと手を加えれば一人称になるなぁと思ったんで、やってみました。……でもなんかちょっと一部不自然。まあ気にしないでくださいな。
なんかねぇ……ランゼ、書きたいよ(笑)。どうしようか?

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