Thanksful Days

「ええっ、アリオスももうすぐお誕生日なの〜っ!?」
 部屋中に響き渡るような大声に、皆が一斉に振り返る。舌打ちしてアリオスはまん丸目
をさらに見開いているメルを睨みつけたが、もう手遅れだった。
 聞きつけてアンジェリークがぱたぱたと駆け寄ってくる。
「ねぇアリオス、本当なの? お誕生日、いつ?」
「いつだっていいだろ」
「よくないわよ! ねぇいつ? お祝いしなくっちゃ!」
「そうだよアリオス。お誕生日はね、やっぱりみんなでお祝いしないと!」
 マルセルまでやってきて、メルとアンジェと3人、大きなキラキラの瞳で見上げられて
は、──ため息をつくしかない。
「22日だ」
「あと10日じゃない! さっそく明日から準備しないと!」
 アンジェリークは既にやる気満々だ。
「くっ、さすがのアリオスも、お子様たちのパワーには敵わないみたいですね」
「ああ、そうだな。──何せこの俺でさえ、あいつらには何かと振り回されてるからな」
 セイランとオスカーが囁きあう。オリヴィエは、ルージュの乗った唇の端をにんまりと
引き上げた。
「ふふ〜ん、またお祭り騒ぎができるってワケだね♪ 楽しみだよー。リュミちゃん、ア
ンタもお得意のハープを聞かせる場面に事欠かないねぇ」
「ええ、そうですね。──アリオスのために、どんな曲を奏でましょうか」
 他の面々もそれぞれに浮き浮きしている様子が窺える。今日のパーティの主役のくせに
壁際にいるクラヴィスは、その頬に人知れず笑みを浮かべた。
「フッ、──にぎやかなことだ……」


「──しかしこれだけの人数で、こうも誕生日が集中しているというのは、なかなかに興
味深い事実ですね」
「ええ。クラヴィス様、アリオス、一月おいてオスカー様、エルンストさん、ヴィクトー
ルさん、また少し開いてセイランさん、……マルセル様も冬生まれに入りますか? 今ま
で気づきませんでした、冬生まれの方って、本当にたくさんいらっしゃるんですね!」
 宇宙の神秘を論じるのと同じ口調で感心するエルンストに、ティムカが指折り数えて賛
同した。改めてこうして挙げてみると、……本当に多い。
                カタヨ
「エルンスト、こんなに生まれ月が偏るものなのか? 俺は今までそんなことを気にした
ことがなかったから分からないんだが」
「そうですね。……このデータによると、冬生まれの方の他に、夏生まれの方も比較的多
いようです。理由は現在、調査中です」
「そりゃーアレだろ。夏はみんな休暇取っていろんなトコに出かけっかんな。いろいろあ
んだろ。冬は冬でやっぱ休暇もあるしよ、寒いからアツくなろうとすんだろ」
「え? ゼフェル様、どういう意味ですか?」
「ゼッゼフェルッ、なんてこと言うんだっ!? ──ティ、ティムカはまだ知らなくてい
いんだよ、……あはは」
「へっ、ランディヤローにしちゃ珍しく察しがいいじゃねーか。こりゃぁオスカーあたり
に教えたら面白れーかもな」
「ゼフェルッ!!」


「なんだか皆楽しそうですねー。私も浮き浮きしてきましたよ」
「うむ……。しかし、誕生日を祝うのは良いのだが、この旅の目的を忘れているのではと
思うところがある。頭の痛いことだ」
「まーまー、仲が良いのはいいことですよー」
「そうでッせージュリアス様! どうせなら、こう、パーッと派手に楽しくやらな」
「うむ……」


          *         *         *


「それじゃあ、私たちの新しい仲間、アリオスのお誕生日を祝して、」
「カン・パ──イッ!」
 アンジェリークの音頭で乾杯をすると、皆は思い思いの食事に手を出し始めた。
 主役でありながらもしかすると一番醒めているかも知れないアリオスの元へ、アンジェ
リークが近づいてくる。
「アリオス! お誕生日、おめでとう!」
 グラスを掲げて首を傾げてみせたアンジェリークに、アリオスは醒めた笑いを返した。
「──ったく、おまえらはお祭り好きだな。いいのかよ、こんな毎日浮かれてて」
「なぁ〜にオカタイこと言ってんのさアリオスっ! いいんだよ、ずっと気を張りっぱな
しじゃ疲れちゃうからね☆」
 がしっとアリオスの肩を抱き込んで、オリヴィエはアンジェリークにウインクを飛ばし
た。
「ねっ、アンジェちゃん♪」
「ふふっ、──ええ、そうですね!」
「ほう、お前でも気を張ることがあったのか、それは知らなかったな」
「うるっさいね、アンタは黙ってな!」
 おどけて片眉を上げてみせてから、オスカーは手に持っていたボトルをアリオスに差し
出した。銀色の、幅広のリボンが首のところに結ばれている。
「アリオス、お前も結構イケる口だろう。──これは美味いぜ」
「そうそう! なんたって、あのクラヴィスのお墨付きだからね〜♪」
 その言葉にアリオスは、碧緑の双眼を軽く見開いて、長身の影に目をやった。視線を感
じたのかクラヴィスは一瞬だけこちらを見やり、けれどすぐに興味なさげに瞼を伏せる。
隣に立つセイランの言葉に頷く姿は、10日ほど前の彼の誕生会の時と同様、この場を楽
しんでいるのかどうか、傍目には分からない。
「アリオス! ぼくたちからのプレゼントも、受け取ってくれる?」
 オスカーの影からマルセルがぴょこんと顔を覗かせた。
「皆で相談して、メルさんに作っていただいたんです」
「俺はどうも、こういうのには慣れていなくてな、気の利いたものは思いつかん。だから
連名ということにさせてもらったんだ」
 ずら〜っっと並んだお子様軍団プラス保護者の面々に、アリオスだけでなくオスカー、
オリヴィエまでもが一瞬ひるんだように身を引いた。
「アリオス、お誕生日おめでとう。──気に入ってくれるといいんだけど」
 代表してメルが一歩進み出て、祈るように握っていた両手をアリオスに向けて開いた。
                  イシ       チャーム
 そこにあったのは、緑色にきらめく宝石をあしらった護符だった。上部にひもを通すた
めの穴が開いていて、首にかけられるようになっている。
「これは……、」
 アリオスは微かに目を瞠った。
「あのね、アリオスの眼の色と同じ宝石をね、みんなで一生懸命探したの。それでね、メ
ル、ホントは指輪を作ろうと思ったんだけど、剣を使うときに邪魔になったらいけないっ
て思って、お守りにしたの。
 アリオスがメルたちともっと仲良くなりますように、アリオスの旅が、……メルたちと
お別れしちゃっても……」
 そこでメルは一度言葉を切り、珊瑚のような赤い瞳を潤ませた。
「アリオスの旅が……、うまくいきますようにって」
「メル、陛下をお救いする術はまだ見つかっていません」
 まだ先のことだ、とエルンストが慰めの言葉をかけようとする。
「そーそ、だいじょーぶやでメルちゃん。火龍族の祈りがこもった特別のお守りや。効き
目はバッチリ、この俺が保証したる!」
「得体の知れない商人の保証がどこまで有効かは分からないけどね」
「そんなぁ〜、なんてコト言うんやセイランさん。俺、めっちゃ傷ついたわぁ〜」
 どんと胸を張ったかと思いきや、一転情けない声を出したチャーリーに、皆は一斉に吹
きだした。


「アリオス、私からも贈り物を差し上げたいのですが、……よろしいでしょうか」
「──ああ」
「あなたのために、一曲奏でさせてください」
 優雅に一礼して、リュミエールはその場に腰を下ろした。アリオスとリュミエールを中
心に、円を描くようにして皆が周りを取り囲む。
「リュミエールのハープを、このように皆で聞くのも良いものだな」
「ええ、心が洗われるような気がしますねぇ」
 目を伏せ一つ深呼吸をして、白い指が弦を弾いた。
「──悲しげだけど、優しい曲だね」
「あぁ、そうだな」
 やさしく、ものがなしく、けれど最後に少し明るさを増して曲は締めくくられた。
 皆の拍手の中リュミエールは立ち上がり、慈悲深い眼差しでアリオスを見つめ微笑みを
浮かべた。ひとまずこの場は解散ということになり、あとは部屋に戻るもの、引き続きこ
こで騒ぐもの、場所を移して二次会になだれ込むものと様々に動き始める。
 早々に部屋へ戻るべく足を踏み出したクラヴィスが、アリオスの横を通り過ぎた。すれ
違いざま、遠くから響いてくるような声がアリオスの耳を打つ。
「ここは、光が溢れている……。お前には、お前を護る木漏れ日が見えているか……?」
 はっとして振り返り、扉の向こうへ消えゆく背中を見送る。
「アリオス! アンジェリークの部屋で、一緒にトランプしよっ? ──アリオス? ど
うしたの?」
「いや、なんでもない」
 腕にしがみついて見上げるメルの問いをかわし、アリオスはその目でアンジェリークの
姿を探した。
「アリオス、あなたもトランプする?」
「──ああ、いいぜ」
 頷けば、この少女が喜ぶことを知っている。ふわりと、光を放つように。アリオスの心
の闇に光を灯そうとするように。彼を囲む、たくさんの人々の思いが彼を暖める。
 アリオスは、この皮肉にも思える出会いに少しだけ感謝した。

                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2000.11.22

アリオスのお誕生日創作、目指せ17人オールキャラ!の巻でした。
エリスの誕生日の時に、レヴィアスは書いたからね、今度はアリオスで。
なんだかんだ言って、みんなアリオスのことが好きなんだよ!ってお話(ホントか?)
つ〜っかれたっすよ〜。ちゃんと、どれが誰だか、分かってもらえてるかなー、どきどき。
そしてなにげにクラ様がおいしいところをかっさらって行ってるような気が(笑)。
ロキシーはさすがに勘弁してください、ってことで。あと、レイチェルも天レクでは旅に同行してないから出せないんですよねー。ま、ティムカのお誕生日で出したし、エルンストさんのお誕生日話は、彼とレイチェルの話になりますので。フフフ。
しっかしアリオス、HIRONAは彼とゼッくんとの話口調の違いがイマイチ掴めてません(^^;)。



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