「なんでアタシまで手伝わなきゃなんないのさっ!」
「え〜っ、いいじゃない、こうゆうのはね、みんなで作った方が絶対楽しいんだから。─
─ねっ、ランラン♪」
「うん。ゼフィータも、ね、一緒につくろ?」
 ポニーテールにした栗色の髪を揺らして、ランランがにっこり笑顔を浮かべる。ゼフィ
ータは、一瞬言葉に詰まり、ぷいっとそっぽを向いた。
「そっ、そんなに言うならっ、……手伝ってやってもいーけど」
「ほんとっ!? わ〜い、ゼフィータ、だーいすきっ♪」
「だっ、ちょっとマルセーラ、クリームがつくっ!!」
 泡立て器を持ったままゼフィータに抱きついたマルセーラと、それを必死に引き剥がそ
うとするゼフィータに、ランランはくすくすと笑いをこぼした。
 明日はバレンタインデイ。好きな人に、愛情たっぷりの甘いチョコレートを贈る日だ。
3人は、明日みんなに配るためのお菓子を作ろうと、マルセーラの家に集まった。彼女の
ところが、一番お菓子作りの道具がそろっているからだ。
 みんなの誕生日に、毎回お花と手作りお菓子をあげるのを喜びにしているマルセーラは、
バレンタインにみんなにお菓子をあげようとランランに持ちかけた。ついでにゼフィータ
にも声をかけて欲しいと。彼女は甘い物があまり好きではないから嫌がるのではとは思っ
たが、さっきのように、みんなで作った方が絶対楽しいと説得されるうちに、なんとなく
そんな気になってきた。それに、バレンタインは、そう、“好きな人にチョコレートを贈
る日”なのだ。
 きゃいきゃいと騒ぎながら、チョコレートケーキとクッキーを作り、3人は達成感に満
ちた顔で笑った。けれど、その後の試食タイムがまた大騒ぎだ。チョコレートクッキーの
上には絶対にホイップクリームを乗せるものだと主張するマルセーラに対し、ゼフィータ
は、そんなコトしたら絶対に食べないからな!と言い返す。ランランは、しばらく2人を
交互に見やって、ぽつりと呟いた。
「そういうの、好みで良いんじゃないのかな。──私はチョコレートソースかけてもおい
しいと思うけど」
 その途端、2人が同時にきっと振り向いた。
「「そんなの絶対にしないよっ!!」」
 声をそろえて反対され、反射的に首をすくめて、ランランは軽く眉根を寄せた。
「そうかなぁ……?」


「──今日は楽しかったねっ♪」
「んー? まー、ね」
 夕刻、マルセーラの家を出た2人は、並んで道を歩いていた。ランランの腕には、先ほ
ど作ったケーキが数切れと、クッキーが入った袋が抱かれている。自分の家に戻ったら、
使用人たちに分けてあげるのだ。一方ゼフィータは、手ぶらのまま、両手を頭の後ろで組
んで気のない返事をする。
「ゼフィー、……楽しくなかった……?」
 急に、ランランが立ち止まった。ゼフィータが振り返ると、眉を寄せて、唇を噛みしめ
て、今にも泣きそうな顔をしている。
「ちょっ、ラ、ランラン!?」
 慌ててゼフィータが駆け寄ると、ランランは、大きな空色の瞳を潤ませてゼフィータを
見上げた。
「今日、一緒にお菓子作ろうって言ったの、迷惑だった……?」
「な、何もそんなこと言ってないじゃん」
「だって……ゼフィー、」
 半ば無理矢理引き込んだ上、試食タイムのときも、たっぷりクリームの乗ったのを無理
矢理食べさせたので不機嫌なのかと、ランランは思っているらしい。……無理矢理食べさ
せたのは、ランランではなくマルセーラなのだが。
 上を向いて視線をさまよわせ、ちらりとランランを見やって、ゼフィータは、ぽつり、
ぽつりと話し始めた。
「あー……、クリーム乗ったのは、ちょっとカンベンだけどさ、フツーのは、おいしかっ
たし、作るのも、そ、それなりに、楽しかったからさ」
「ほんと……?」
「ウソ言ってどうすんだよ……」
 上目遣いに確認するランランに、そのでっかい目でそれをやるのは反則だと思いながら、
ゼフィータは呆れた声を出す。
 ランランは、一瞬ゼフィータの目を覗き込んで、ぱあっと笑顔の花を咲かせた。
「良かった〜っ」
 ついさっきまで泣きそうになっていたのが嘘のように、満面の笑顔だ。その変わり身の
早さに、毎度のことながらゼフィータは面食らった。ランランのすごいところは、それが
演技でもなんでもなく、すべてが天然、もとい、自然体であるところだ。
 尊敬しつつ呆れつつ、けれど本当に嬉しそうに笑うランランを見ていると、ゼフィータ
の頬にも笑みが浮かんできてしまう。
「あのねあのね、」
 すっかりご機嫌になったランランは、腕の中の袋を抱えなおし、首を傾げてゼフィータ
を覗き込んだ。
「明日、バレンタインでしょ? ──だからね、バレンタインのお菓子、どうしてもゼフィ
ーと一緒に作りたかったんだ」
「?」
「だって、……バレンタインって、好きな人に甘いお菓子をあげる日なんだよ?」
 内緒話をするように。顔を近づけて、こそっと囁いて、ランランはちょっと恥ずかしそ
うに笑った。ゼフィータは、5秒ほど真顔になって、──一気に赤面する。
「──っっ!」
「来年も一緒に、お菓子作ろうね」
 赤いままの頬にキスをして、ランランはきびすを返した。そのまま走り出そうとしたそ
の腕を、ゼフィータが捕まえ引き戻す。
「きゃあっ?」
 後ろから抱きしめられ、ランランはびっくりしてゼフィータを振り返った。
「ゼ、ゼフィー?」
 顔を赤くしたまま、ゼフィータは、少し怒ったような顔をしている。そのままゼフィー
タは、頬をすり寄せるようにして、ランランの首筋に顔を埋めた。ゼフィータの耳につけ
られた星形のイヤリングが音を立てる。プラチナの髪が、少しくすぐったい。
「明日、ウチに来なよ。──チョコレート、一緒に食べよう」
 空色の瞳が、ゆっくりと見開かれた。甘いホットチョコレートを飲んだときのように、
胸の中があったかくなる。
「うん。楽しみにしてるね」
 微笑んだランランの頬に、ゼフィータの唇が一瞬だけ触れた。ぱっと手を放し、ランラ
ンが振り向いたときにはもう、ゼフィータは背中を向けている。
「ゼフィー!」
 ランランは叫んだ。夕焼けより赤い瞳が、ランランを見る。
「ゼフィー、大好き!」
「な……っ」
「じゃーね、また明日!」
 くるりと身体の向きを変え、ランランは走り出した。
 半ば睨みつけるようにその後ろ姿を見ていたゼフィータも、小さく息をついて、帰途へ
と向かう。
 明日はバレンタインデイ。
 好きな人に甘いお菓子をあげて、一緒に食べて幸せになる日だ。
                                             fin.



こめんと(byひろな)     2001.2.14

なにやらベタな話ですなぁ(笑)。それに合わせてベタな壁紙作ってみたんですけど(笑)。
──ってことで、ゼフィータ×ランランですの。ふふっ(妖)。
べつにゼフェル×ランランでもよかったんですが、ゼッくんだとどー考えても一緒にお菓子をつくってくんなさそーなのと(笑)、他の守護聖(つってもマルセーラしか出てないが)を、男と女とどっちにするか悩んでしまうのとで。それにゼフィータちゃんかわいいし♪
私、女版守護聖では、一番はもちろん春風のランランなんですが、2位は、なんと、ルヴィア様こと、女版ルヴァ様だったりします。いや〜、あのエッチくさいお衣装がもうvv(爆)
あと、リュミちゃんがかわいくて好みだわ〜と。
以前、あすみさんに差し上げた女版オスリュミの中に出てくるランランは、こざる状態なんですが(笑)、本来私が持ってるイメージの中では、もうちょっと天然ボケっぽい感じの子です。──私がそーゆう子好きだから(笑)。世良さんという方の描かれたゼフェル×ランランのランランが、かなりツボvv
ところで、私、ランディ攻め推奨派ですが、女の子バージョンだと、ランランは、ほぼ確実に右側だなーと、思ってみたり。


Parody Parlor    CONTENTS    TOP

感想、リクエストetc.は こ・ち・ら