「セイランさん……?」
教官たちがまた聖地へやってくることは知っていただろうに、ランディはとても不思議
そうな顔をした。
この3年間の間で、外見的に目に見えた変化はないはずだが、とセイランが怪しむ頃に
なって、ようやくランディの表情が変わる。
忘れるはずもない。何度も夢に見た人。
「セイランさん……」
朝陽の中でほころぶ花芽のように、ランディの顔に笑顔が広がった。
「セイランさん、会いたかった……!」
強い腕に抱きしめられて、セイランはそっと目を閉じた。
「イヤだね」
式典への“芸術家セイラン”としての参加をと請われ、セイランはさも当然のことのよ
うに、すっぱりさっぱり、断った。
「やっぱり……そうですよね?」
頭をかきながら、ランディは困ったようにセイランを窺う。
「当たり前じゃないか。──そもそも僕はそういう華やかな式典は嫌いなんだ。教官とし
てだって参加するかどうかわからないのに、芸術家セイランとしてだって? 冗談じゃな
い」
そのままツンと顎を背け、セイランは早足で歩き出す。慌ててランディが後を追った。
「えっ、ちょっと待ってくださいよ! ──せっかく来てくれたんですから、せめて教官
としては……──って、あれ?」
腕を掴んで説得をしようとして、ふとランディは言葉を途切れさせた。
「セイランさん、最初から式典に出るつもりなかったんなら、どうして来たんですか?」
首を傾げて問われ、セイランはかっとなって腕を振りほどいた。
「ッ、知らないよっ!!」
さっきよりさらに早く乱暴にずかずか進むセイランのうなじはほんのりと赤くなってい
る。気づいたランディが、駆け寄って後ろから抱きすくめた。
「──!!」
「せ、セイランさん。もしかして、──俺に、会いに来てくれたんですか……?」
セイランの腕がぴくりと揺れる。数秒後、セイランは大げさに腕を上げて呆れた視線を
ランディに向けた。
「はっ、何を言ってるのあなたは? 自惚れるのもいい加減にしてほしいね。いくら僕が
勝手気ままに生きていたとしてもね、女王陛下の命を無視するなんてできるわけないじゃ
ないか」
真顔でセイランの言葉を聞き終え、ランディはくすりと子供に向けるような笑みを浮か
べた。
「──何笑ってるのさ」
「セイランさんって、意外とウソつくの下手なんですね」
「だから何を言ってるのさ!」
「理由なんかホントはどうでもいいんです。俺はあなたに会いたかったから。あなたに会
えて、嬉しいです」
「……ばか」
「はい」
嬉しそうに幸せそうに。ランディは笑ってセイランを抱き寄せた。
fin.
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