水辺にて


「ねぇランディ、」
 ねぇねぇと母親の関心を引きたがる子供のように、マルセルはランディの服の裾を引っ
張った。
「ん? 何だいマルセル」
 読んでいた冒険小説から顔を上げ──彼は最近、この少年冒険家が活躍するシリーズが
お気に入りのようだった──けれど半分上の空でランディが尋ねる。視界の隅にうつった
唇がとがっているのに気づいて意識をきちんと隣に向けたとき、それまでの無関心を咎め
るように、マルセルが口を開いた。
「ランディ、──たいくつー」
 何を言われるのかと内心どきどきしていたランディは、たいくつぅー、ととがった口か
ら発された言葉に肩すかしを食らい、一瞬呆気にとられ、次いで濃い栗色の眉に困惑を表
した。
「たいくつ、って……」
 見るとマルセルが読んでいた本はぱたんと閉じられ膝の上に投げ出されている。少し考
えて、ランディは自分も本を閉じるとにっこりとマルセルの顔を覗き込んだ。
「どこか、遊びに行こうか」
 うん、と嬉しそうに頷いて、しかしマルセルはまた退屈をもてあます表情に戻る。退屈
知らずと言われるこの二人だが、時々は、こんな風にふいにマンネリの雲に襲われてしま
うことだってあるのだ。
「ねぇランディ、今トムたちは何してるの?」
 トムというのは今ランディの読んでいる本の主人公の名前だ。
「うん、今ハックと二人で海を目指して河を下っているところだよ。二人とも、魚を捕ま
えるのがとても上手いんだ」
 ランディの口調は、ゼフェルのメカの扱いやマルセルのガーデニングについて語るとき
のように得意げだ。海、と聞いて、マルセルの綺麗なアーチ型を描く蜜色の眉がぴくりと
反応した。
「海? ──いいなぁ、ぼく、海って行ったことないんだよね。絵とか写真でしか見たこ
とないよ」
「え、そうなんだ? まあ、俺も家族と2・3度行ったくらいだけど。水の色や手触りが、
川みたいな淡水とはまるで違うんだ。誤って飲んじゃうとすごくしょっぱいし、目に入る
と痛いし、妹は嫌がってたけど、俺は好きだったな」
「いいなー。ぼくも海行きたーい」
「え、そ、それはちょっと……。聖地にもさすがに海はないからなぁ。──そうだ、じゃ
あ今日は森の湖に行こうか。海水じゃなくて淡水だけど、綺麗だし魚もいるよ」
 マルセルはすみれ色の大きな瞳でランディの顔をじっと見つめていたが、やがてぱっと
笑顔を浮かべて頷いた。
「よし、じゃあゼフェルも誘いに行こう!」
「うんっ♪」


「ゼーフェールっ!」
「おーい、ゼフェル、出てこいよ!」
「──っなんだようるせぇなぁ……」
 ぼりぼりと銀の髪を掻いて、めんどくさいの六文字をでっかく背中に背負ってゼフェル
が扉を開ける。使用人の数が極端に少ない鋼の館では、客人の出迎えはゼフェルお手製の
ロボットの役目なのだが、姿が見えないところを見ると、どうやら当のロボットのメンテ
の真っ最中だったようである。
 三度の飯より機械いじりを好む少年は、青空の下に立つ二人の姿を認めて紅玉の瞳を片
方だけ見開いた。
「ねぇゼフェルっ、湖行こうよ」
「良い天気だからさ、水遊びがてら魚捕まえに行くんだ。ゼフェルも来ないか?」
 半袖シャツに短パン、網にバケツとやる気まんまんな二人の格好に、ゼフェルは呆れた
ようにため息をつく。
「あそこの魚がおめーらみてーなドンクサイ奴らに捕まるわけねーだろ」
 何しろ、ルヴァの垂らした釣り針に引っかからないように餌だけをつまむ知恵と技術の
持ち主たちだ。がむしゃらに網で追いかけ回しても結果は見えている。
 だがしかし、次の瞬間ゼフェルは瞳をきらりと輝かせ、勝ち気そうな唇をにっと引き上
げた。
「けど、ま、面白そーだな。──しょーがねぇ、行ってやっか!」
「やった!」
「そうこなくっちゃ!」


                    *                  *                  *


 静かな森の中に、子供達の歓声が響き渡る。
 その声に惹かれて足を止めたルヴァは、のんびり森林浴中と思しきオリヴィエに気づい
て声をあげた。
「おやぁ〜? これはこれは、奇遇ですねー。あなたもお散歩ですか?」
「はぁ〜い、イイ天気だね☆ なんだかまたオコサマたちが騒いでるみたいだけど、見に
行かなくて良いの?」
 何かを期待する眼差しで、オリヴィエは濃青の瞳を森の奥へ向ける。美しく化粧を施さ
れた横顔を眺めて、ルヴァは鈍色の瞳をさらに細めた。
「喧嘩をしているわけではないようですし、問題ないでしょう。水遊びにはちょうど良い
陽気ですからねぇ」
「そうだね。あんたは相変わらず暑っ苦しそーなカッコだけど」
「あー、これは私の故郷の民族衣装に準じて作られていますから、砂漠の暑さ寒さにも対
応できる優れものなんですよー?」
 見かけが暑苦しかったらダメダメ、と無下に却下され、ルヴァは気落ちする風でもなし
に、そうですかねぇと呟いた。
「ね、それよりさ、あのコたちが何やらかしてるか見に行こうよ!」
「結局……あなたが行きたいんですね?」
 苦笑するルヴァに、トーゼンとオリヴィエが胸を張る。嬉々として歩き出すオリヴィエ
の後に続いて、ルヴァも本を抱え直して足を踏み出した。


「お、いるいる。元気だねぇ〜☆」
 手をかざすオリヴィエの視線の先には、汗と水飛沫とでびしょ濡れになっている三人が
いる。眩しそうに眼を細め、ルヴァはその奥の人影に気がついた。
「おや? あそこにいるのは……」
「え? ──あ、」
 木陰の特等席に陣取り、水浴び中の子犬たちを眺めているのは。
「はっあ〜い、今日も元気そうだねぇオコサマたち! あーんどクラヴィスとリュミちゃ
んも水辺でミニバカンス?」
「えっ?」
 突然現れたオリヴィエに驚いた三人は、その口から発せられた言葉にさらに驚き、一斉
に後ろを振り向いた。
「あああ……っ!」
「クラヴィス様リュミエール様!」
「ってってめーら! いつからそこに……っ!?」
「──最初からだ」
「こちらの木陰でクラヴィス様と滝を眺めていましたら、あなた方がいらして……。声を
かけてお邪魔をしてしまっては申し訳ないので、そのままあなた方の楽しそうな様子を眺
めさせていただきました」
 相変わらずの無表情で呟くクラヴィスはともかくとして、たおやかな美貌のリュミエー
ルににっこりと微笑まれ、三人は血色の良い頬をさらに赤らめた。
「あらあら、リュミちゃん、あんたもイイ趣味してるねぇ……」
「──は? 何がですか?」
「あー、オリヴィエ。クラヴィスにリュミエールも。せっかくですし、私たちも水遊びに
参加してみてはどうでしょうかねぇ〜」
「──────────は?」
 のほほんと告げられた台詞に、六人は全く同じタイミングで同じ一言を発した。
「ルヴァ、あんた……」
「いけませんかねぇ〜?」
「え、っと、ルヴァ様? いけなくはない、と思いますけど……」
「クラヴィス様は、一度水の中に入ってしまわれると、お上がりになるときに大変ではな
いかと……」
「っつーかリュミエールが水遊びってなんかシャレになんねー……」
「ゼフェル、そんな言い方……──でも俺もそう思う……」
「フッ、……たまには良い」
「──────えっ?」
 最後にぼそっと呟かれた信じられない言葉に、皆は今度は一斉に、木陰でくつろぐクラ
ヴィスに目を向ける。
「クラヴィス、おめー暑さで頭イカレちまったのか? っつーかそんなコワレるほど暑く
ねーだろ」
 慌ててたしなめようとするランディとマルセルを無視して、ゼフェルは遠慮のない言葉
を次々に繰り出す。茫然と、隣に座る未知の物体──もとい、闇の守護聖クラヴィスを見
つめていたリュミエールは、やわらかな海の色をした瞳をふいに輝かせた。
「クラヴィス様……。クラヴィス様がそうおっしゃるのでしたら、私も喜んでお供させて
いただきます。御髪は少し束ねられた方が良いですね。それから……」
 がぜんやる気を見せ始めたリュミエールに、ゼフェルまでもが言葉を失い、途方に暮れ
たような顔をした。いったい何がどうして、この面子で仲良く水遊びなんぞをしなくては
いけないのか。この湖で遊ぶと祟りがあるとか言うんじゃねーだろーな、とまで考える。
クラヴィスはと言えば、当然のようにリュミエールの手に長い黒髪を委ね、口元に薄笑い
を浮かべている。クラヴィス様、なんだか楽しそう……?とマルセルが確認とも疑問とも
取れる呟きを漏らしたが、隣のランディからは何の返答もなかった。
「よぉ〜〜っし、あのクラヴィスが乗り気になるなんて滅多にないからね、私も張り切っ
ちゃうよ〜ん☆ 出血大サービスで、私の玉のお肌をちょっとだけ見せちゃう! オコサ
マたちには刺激が強いかもだからね、ティッシュの用意しときなさいよーっっ!!」
「あああオリヴィエ様〜〜〜っっ」
 子供達が声を揃えて叫んだところで、草むらを揺らして白い生き物が姿を現した。
「────そなたたち……」
「何やってるんだお前ら……」
「あー、これはこれは、ジュリアスにオスカーではありませんか。これから遠乗りに出か
けるんですかー?」
 こめかみをかすかに引きつらせたジュリアスと、げんなりと額を押さえているオスカー
に、ルヴァはまるで道端で出会ったときのように声をかけた。これで、奇しくも守護聖九
人が森の湖の畔に一堂に会したことになる。
「いや、帰ってきたところだ。なにやら森の中が騒がしいようだったので寄ってみたのだ
が、……ルヴァ、これはいったい何事だ?」
 限りなく純白に近い葦毛の馬から降りたって、ジュリアスがルヴァに状況説明を求める。
その間に、チョコレートのように艶やかな栗毛の馬から降りたオスカーは、惜しげもなく
白い肌を晒しているオリヴィエに向かって、露骨に嫌そうな顔をした。
「おい極楽鳥、真っ昼間から服を脱ぐな。せっかくの美しい湖が汚れる。それにぼうやた
ちの教育にも良くないだろう」
「ちょっと汚れるってナニさ、失礼な男だね! あんたが見境なく聖地中の女に声かけま
くってはべらしてんの見せられる方がよっぽどオコサマたちの教育に良くないよ!」
 仁王立ちで言い合いを始めた二人に、オコサマ呼ばわりされた三人はそれぞれ小声で囁
きあっている。
「──ったくあいつら、黙って聞いてりゃオコサマオコサマ連呼しやがって……」
「言われなくても、オスカー様のあれはさすがに真似しないよな……」
「ずっとあのままで、オリヴィエ様日焼けしちゃわないのかなぁ……?」


 ルヴァの懇切丁寧な──長ったらしいとも言う──説明を聞き終えて、ジュリアスがお
もむろに周囲を見回し口を開いた。
「うむ、事情はわかった。確かに今日のような陽気では、水浴びをして涼みたいというそ
なたたちの気持ちもわからないではない。だが、この湖は遊泳禁止だ」
「ええーっ!?」
 声を揃えたブーイングにもひるむ気配の微塵もなかったジュリアスだが、マルセルが理
由を求めると、うっ、と声を詰まらせた。
「そ……それは、──危険だからだ。この湖は、思わぬところで急に深くなっていて、水
遊びをするのは危険なのだ」
「──────溺れかけた者もいることだしな」
 付け足されるように呟かれた台詞に、ジュリアスががばっと振り返る。
「あ……っあれはそなたがっ!」
「私は別に、お前のことを言ったつもりはないが? ──そう言われてみれば、そのよう
なこともあった気がするな。ずいぶん昔のことだったので忘れていた」
「──ックラヴィスっ!!」
 ジュリアスの怒号が湖面を震わせる。ほんの一瞬、わずかに眉をひそめたものの、何も
なかったのような無表情──だがよ〜〜っく見ると微妙に薄笑いを浮かべている──クラ
ヴィスを、ジュリアスは普通の人なら石にでもなってしまいそうな眼で睨みつけている。
だがこちらもよく見ると、恐怖を必死に堪える子供のような表情に見えなくもない。
 その様子を眺めて、子供達は再び顔を寄せ合った。
「ねぇ、ジュリアス様って、湖に何か嫌な思い出があるのかなぁ?」
「さーな、ガキの頃クラヴィスに突き落とされたとかじゃねーの?」
「そんな! クラヴィス様がそんなことなさるわけないだろう。落っこっちゃった時に助
けてもらえなかったって言うならわかるけど」
「──いや、それもどーかと思うぞ……」


                    *                  *                  *


 それぞれ好き勝手にやっている仲間たちを眺めつつ、ルヴァとリュミエールは長年連れ
添った老夫婦が縁側でお茶をすすっているような、なんとも穏やかな空間を作りだしてい
た。
「あー、今日も良い天気ですねー」
「ええ、そうですね。空も風も、木々の緑も、滝の飛沫も皆美しく色鮮やかに輝いて、祝
福の歌を歌っているようです。──ところでルヴァ様、ジュリアス様の湖での嫌な思い出
とは、いったいどのようなものなのでしょう? あのジュリアス様があのような表情をな
さるとは、よほどのことと思われますが……」
「あー、さて、なんでしょうねぇ……。────ああ、そう言えば、私が聖地に来たばか
りの頃、一度だけジュリアスに湖の話を聞いたことがあります。この湖が遊泳禁止になっ
ている理由についてなんですが、幼い子供が溺れかけたことがあるからということでして
……、なんでも、黒い髪の幽霊に足を掴まれた、と……」
「まあ、聖地に幽霊ですか……?」
「幸い、その子供は軽く水を飲んだだけで済んだとのことですが、それ以来、この湖は眺
めて過ごすだけのものになったらしいですよ」
「そうだったのですか……。──ふふっ、これだけ美しい湖ですから、精霊の類もたくさ
ん棲んでいるのでしょう。悪しき心を持っていなくとも、精霊たちは悪戯が大好きですか
ら」
「ええ、そうですねー。私もよく、魚の餌をとられたり、置いていた本を隠されたりして
しまいますからねー」
「まあ……。ルヴァ様、もしかしてそれは赤い眼をした精霊ですか?」
 悪戯っぽく笑うリュミエールに、ルヴァは一瞬ぽかんとして、やがてその示すところに
思い当たると嬉しそうに眼を細めた。
「え? ──ああー、そうですねー、あの子にもなかなか手を焼いていますよ。ですが、
そんな時間も楽しみのひとつになってきていますけれどね」
「──おいっ、そこ! 勝手にヒトの話してんじゃねーよ! ッつーかよ、今の話って、
それってつまりガキのクラヴィスがジュリアスの足引っ張って湖ん中落っことしたってコ
トか? なかなかやるじゃん、あいつも」
 親しみが湧いたとでも言うように目を輝かせるゼフェルに、リュミエールが訝しげな視
線を送る。
「それがですね、……私も長くクラヴィス様のおそばにおりますが、そのようなお話は一
度も聞いたことがないのですよ……。夕刻を過ぎたら湖には近づかない方がいい、という
ことしか……」
「え、それってまさか……本当に幽霊!?」
「えええ〜っ」
 ゼフェルの後についてきていたランディとマルセルがそれぞれに声を上げる。ランディ
の腕にしがみついて身震いしたマルセルの頭に、ぽんと温かい手が置かれた。
「なんだ、ぼうやは幽霊がこわいのか?」
 お子様だな、フッ、という声がその後に続き──マルセルの心の中で──マルセルはす
みれ色の瞳をきっと見開いた。
「オスカー様! ──だって幽霊ですよ!? こわいです。森の精霊たちは仲良しだから
こわくないけど、幽霊は……こわいですよ」
「幽霊だろうが何だろうが、この炎の守護聖オスカーが聖地の警備に当たっている限りは
どんな事件も起こりはしない。それにもし何か怪しいものが来ているとすれば、俺たちが
気づくより先に馬たちが察して騒ぎ始めるさ。──と、ジュリアス様?」
 木につながず自由に草を食ませている馬たちを振り返って、オスカーは傍らに立つジュ
リアスの様子がおかしいのに気づいた。すっと表情をなくして立つその頬は、心なしか青
ざめているように見える。
「ジュリアス様? 何か……──っ!!?」
 駆け寄り幾分低い位置にある顔を覗き込んで、碧玉の瞳が見つめる先に目をやり、──
オスカーは凍り付いた。
「──っっな、何だ……っ!?」
 オスカーの上げた声に皆が振り返る。何事かと集まって二人の視線を追い、わずかな間
の後に様々な驚きの反応が上がった。
 そんな中、他の者たちと違う反応を見せたのはルヴァだった。
「おや…………これは、珍しいですねぇ……」
 細い眼を軽く見開いて、すたすたと湖畔に歩み寄る。
「る、ルヴァ様ッ!? 危ないですよっ!」
「あー大丈夫ですよランディ、これは、ただの藻ですから」
「………………も?」
 慌てて引き止めようと手を伸ばしたランディが、そのままの形で固まった。後ろの皆も
一様に口を「お」の形に開けている。ルヴァの言った「藻」という言葉を反芻したのだと
いうことは容易に窺えるが、……なかなか珍妙な光景である。
「藻、って……、あの、水の中に生えてる……」
「ええ、その藻です」
 にっこり微笑んだルヴァに、ジュリアスが気が抜けたように膝を落とした。慌ててオス
カーが手を添える。
「この藻はですねー、大変珍しい種類でして、よっぽど水が綺麗で栄養が豊富なところで
ないと育たないんですよー。しかも、このように長く伸びるには水の流れが穏やかなこと
も必要ですし、……ああ、私も初めて見ましたよー。まさか聖地に生息していたとは……。
──おや? もしかして、ジュリアスが見たという黒髪の幽霊は、これのことだったんで
しょうかねぇ……?」
 ルヴァがジュリアスに視線を向けたときには、すでに皆ジュリアスの方を振り向いてい
た。そのジュリアスは、オスカーの腕を振り払うように立ち、注視してくる皆をきっと睨
め付けている。眉間には常以上に深い皺が刻まれ、眉も常の倍ほども高く上がっていたが、
その姿は威厳に満ちたと言うよりは、癇癪を抑える子供のようだった。
「──ぷっ、じゃあなんだよ、ジュリアスのヤローはたかが藻を怖がって湖を避けてたっ
てコトか?」
「ゼフェル、そんなこと言っちゃダメだよぉ……」
「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花──ってヤツだね」
「? なんですか、それ?」
「ただの木の影が幽霊に見えた、っていう話だよ。ジュリアスってば、かわいいトコある
じゃ〜ん」
「幼い子供の頃ですから、無理もないのでは……」
 ひそひそと囁く面子を余所に、ルヴァは発見した藻の生態を調べたくてウズウズしてい
るようである。息を詰めてジュリアスの様子を見守るオスカーに、クラヴィスはふと息を
もらして笑った。
「──だから、私のせいではないと言ったのだ。それをお前は……」
「クラヴィス、もしやそなた、知っていて黙っていたな!?」
「黙っていたわけではない、言う暇がなかっただけだ」
「クラヴィス……っ!!」
「ジュ、ジュリアス様、落ち着いてくださいっ」
「落ち着いている! 私は常に冷静だ!!」
 どう見ても冷静とは思えぬ様で名言を吐く首座の守護聖を眺め、実はどんな時も一番冷
静な夢の守護聖は、ぼそりと隣に囁いた。
「ねぇリュミちゃん、──あの人たちが仲悪いのってさ、もしかして、アレが原因だった
り……するのかなぁ……?」
「さ、さあ……私にはわかりかねますが……そうでないことを、祈りたいような気がしま
す……」
 一方、尊敬する首座の守護聖が取り乱した様を目撃した若き風の守護聖は、少々複雑な
面持ちで呟いていた。
「なんか…………、水遊びに来ただけだったのに、思わぬ冒険に出くわしちゃったような
気分だな……」
「そ、そうだね……」
 退屈しのぎには、確かになったけれど。
 もう森の湖で水遊びをするのはやめよう、と、何となく心に誓う、子供たちであった。



                                    fin.
  




こめんと(byひろな)     2001.10.9

普通にリンク張るの忘れてて、一時期姿を消してしまっていたのでもう一度UP(^^;)。今年の暑中見舞いフリー創作アンジェ編(もう持ち帰りダメですよ〜)。
今回のこのお話、けっこう久しぶり(?)に、守護聖9人総登場です。なのでやっぱり長くなりました(^^;)。一応sp1の世界ってことで考えてるんですが。マルセルも子供っぽいしね。少なくともトロワのマルちゃんは「たいくつぅ〜」ってクチとがらせたりしないだろう(笑)。
少々ジュリ様が哀れなことになっていますが(苦笑)私、ジュリ様のこと好きですよ? クラ様も好きです。あ、クラ様といえば珍しくうちのクラ様がちょっと意地悪モードに(笑)。クラ様に対してだけ突っかかるジュリ様とか、ジュリ様に対してだけちょっと意地悪なクラ様とか、そう言うの、けっこう好きです(笑)。あはっ♪
幽霊の正体、もとい、ナゾの藻ですが、まあ、オバケ毬藻みたいなのを想像してください。でっかい毬藻で、毛が長いヤツ。──そらジュリ様(幼少時)びびるだろうってかんじですが(笑)。
遙かバージョンの方が青春しててサワヤカだったので(笑)、こっちは色気もへったくれもない感じにしてみました(笑)。

結構評判よくって、いろんな方が持ち帰ってくださって、嬉しかったです。CDドラマみたいって言ってもらえたし。うん、あのドタバタ加減は好きですね(笑)。シリアスっぽいのも良いけど。聖地って平和だよなっつーかみんなヒマだよな的な話も好き(笑)。でも、ランディがオスカー様に必要以上にたてつくのはちょっと(-゛-;)。
また折を見て、こういうオールキャラなお話書いて、フリーにできたらなと思っています。




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