Happy Birthday to Myself

 
   「ジュリアス様、起きていらっしゃいますか」
    扉の向こうから、執事が控えめに声をかけた。
    時計を見ると、12時30分。深夜。──何かあったのだろうか。
    ああ、起きている、と声を返しながら、ジュリアスは起こりうることをいくつか思い
   起こしていた。
   「オスカー様がおいでなのですが」
    ……オスカー?
    中に通すようにと指示を出し、ジュリアスは立ち上がる。純白のローブが微かな音を
   立てた。
   「ジュリアス様、オスカーです」
   「ああ、入れ」
    オスカーは、右手を後ろに隠していた。気づいてジュリアスが声をかける。
   「オスカー、そなた、右手はどうしたのだ」
    武器を隠し持つようなことはしない男だと知りつつも、長年の経験が──つい警戒を
   してしまう。
    ジュリアス様。名を呼んで、右手はそのままにオスカーが一歩を踏み出した。無意識
   に同じ距離を保って後ろに下がる自分がいる。
    ばさりと音を立ててジュリアスの前に差し出されたのは、見事なまでの真紅を咲かせ
   た薔薇の花束だった。
   「──オスカー?」
    何事が起きたのかと目を見開いたジュリアスに、オスカーはふっと笑みを漏らした。
   「ジュリアス様、お誕生日おめでとうございます」
    言いざま、さっと左腕でジュリアスを引き寄せる。気がついたときには、オスカーの
   力強い腕の中にいた。
   「オ、オスカー!」
    さっと頬に朱を走らせて小さく抗議の声を上げる。耳元で低い声が囁いた。
   「愛する人への誕生日プレゼントといったら、やはり薔薇の花束しか思いつかない。─
   ─あなたへのプレゼントならなおさらだ」
    自分を見つめる涼やかなアイスブルーの瞳。涼しげな色彩が、こんなにも熱く感じる
   のはなぜだろうか。
    いくつか言葉を探し、諦めてジュリアスはふと笑みを浮かべる。この男にかなうよう
   な台詞は自分には見つけられまい。ならばせめて素直な気持ちを伝えればいいのだ。
   「オスカー、ありがとう。──誕生日を祝ってくれる人がいるというのは、良いものだ
   な」
    柔らかな笑みに、オスカーは胸の内が高鳴るのを感じた。近寄り難くさえ感じるほど
   の威厳に包まれたジュリアスの、天使のような慈悲を感じる瞬間。彼の内の優しさが、
   花開くとき。
   「美しい……。やはりあなたには薔薇の花が似合う。」
    そして、ジュリアスの顎を捉えて視線を合わせると、ニヤリと強気の笑みをひらめか
   せた。
   「喜んでいただけたのでしたら、せめてもの褒美に──このオスカーにあなたの一番美
   しい姿を見せてはいただけませんか」
    さあっとジュリアスの頬が紅潮した。抗おうとして、思いとどまる。
   「──いや、褒美ではなく、そなたへの礼として。そなたへの感謝と、愛を込めて」
    アイスブルーの瞳が見開かれた。
    強く抱きしめる腕。
    熱い抱擁と口づけを受けながら、ジュリアスは、心の中で自分に語りかけていた。

    今日は自分の誕生日なのだ。
    自分への誕生日プレゼントとして、少しだけ、素直な気持ちを。


                                       fin.

   



   こめんと(byひろな)     2000.8.16

   突発的ジュリ様お誕生日企画第2弾!
   オスジュリ書いちゃった〜、書けちゃったじゃ〜ん☆
   いやあ、ちょっとドキドキしてました。全然大したことしてないのに。
   さすがだ、キザいぜオスカー(笑)
   ……オスジュリストのみなさん、いかがでしょうか?
   個人的に「自分への誕生日プレゼント」って、なんか好きですね。うん。
   今後、他の人でも使ってしまいそうなネタかも。



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