flow light


 何となく、気が向いたわけではないが、触れてみたくなったから、手を伸ばした。口づ
けてみたくなったから、キスを落とした。
 案の定、ランディはひどく驚いて、大きな瞳をさらに見開いて。やがて、こう言ったの
だった。
「もしかして、……クラヴィス様からキスしてくださったのって、初めてじゃありません
か?」
「そうか?」
「そうですよ! うわっ、すごい誕生日プレゼントもらっちゃったや」
「誕生日プレゼント……? そうか、今日はおまえの誕生日か」
 呟くと、途端に情けない声が返った。
「え、……そんな、ひどいですよクラヴィス様」
「すまない。私はそういったことを覚えるのには向かないのだ」
「それはそうですけど。──そうですね、クラヴィス様が俺の誕生日をしっかり覚えてら
して、しっかりお祝いなんかしてくださっちゃったら、みんな驚きますよ。ジュリアス様
なんかびっくりしすぎて卒倒しちゃうかもしれませんね」
「──そこまで言うことはないだろう。私にだって、おまえの誕生を感謝する心はある」
 ランディがいなければ、自分は今でもあの失意の闇の中で、一人動けずにいたのかも知
れないのだ。
 クラヴィスがさすがに眉をひそめて抗議の眼差しを向けると、ランディは少し目を瞠っ
て、最近見せるようになった包むような微笑みを浮かべた。
「いいんです、俺、クラヴィス様と一緒にいられるだけで嬉しいですから」
「そうか。──ああ、ちょうど良い、これをおまえにやろう」
 そう言うと、クラヴィスは壁際の棚に歩み寄り、何かを手に持って戻ってきた。
「何ですか?」
 ランディが覗き込むと、手の中には小さな円形のろうそくがあった。ろうそくと言って
                              マンジュウ
も、直径に比べて背が低く、角が丸くなっていて、ルヴァの好きな饅頭のような形だ。
         ロウソク
「水の上に浮かべる蝋燭だ。──見てみるか?」
「はいっ! ──あ、せっかくだから、浴室に行きませんか? その方が、小さな器に浮
かべるよりきっとキレイですよ!」
「ああ、そうだな」
 浴室と聞いて一瞬身構えたクラヴィスだったが、すぐに思い直し、提案に賛成する。
 全身でわくわくを表現しているランディを連れて、クラヴィスは浴室へと足を向けた。


          *         *         *


「──うっ、わ……、すごいな。螢みたいだ」
「螢、か。そうだな」
 たっぷり水の張られた浴槽に蝋燭を浮かべ、火をつけて浴室の明かりを落とす。くらい
部屋の中にただ一つ浮かび上がる蝋燭の炎が、クラヴィスの蒼白い横顔を照らす様子を、
ランディはじっと見つめていた。
「綺麗ですね」
「ああ」
「蝋燭もですけど、──俺が今言ったのは、クラヴィス様のことですよ」
「ランディ、」
 クラヴィスが目を瞠る。紫水晶の瞳を覗き込んで、ランディは少し伏し目がちにクラヴィ
スの名を呼び、その身体を抱き寄せた。
「宇宙にはたくさんの神秘があるって言うけれど、俺にとっては、クラヴィス様、あなた
が一番の神秘です。その秘密を全て解き明かすことはとても出来ないけれど、せめて側に
いて、その美しさを感じていたい……」
 体温の高い、日なたの匂いのするランディの身体。その中に包まれると、クラヴィスは
心に小さな明かりが灯るのを感じる。ちょうど今、このくらい浴室の中で小さなフロウラ
イトの明かりが揺らめいているように。
 クラヴィスはそっと目を閉じた。
「……私にとっては、おまえの方がよっぽど不思議だ。水晶球をのぞいても、眩しさに目
が眩んで見ることができない。たとえ見えたとしても、わかることは出来ぬのだろうな」
「クラヴィス様……?」
「こうしておまえの腕の中にいると、その光が、私の中に入ってくるのを感じる。春の息
吹を連れてくる風のように、おまえは、私の心にあたたかい光を連れてくるのだな」
 そう言うと、クラヴィスは身体の力を抜いてランディに寄りかかった。無言のまま、ラ
ンディが小さく目を瞠る。
「ランディ、しばらく、こうしていても良いか……?」
「はい。──あ、でもこのままじゃ、脚が痺れちゃうといけないから……。──床、濡れ
てませんよね、大丈夫ですよね」
 くらい床に目を凝らして確認して、ランディはクラヴィスの身体を抱えたまま床に座り
込んだ。浴槽に背を預け、収まりの良い体勢を取って、クラヴィスの身体を改めて抱き寄
せる。
「クラヴィス様、身体痛くありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
 ランディの身体を背もたれ代わりにして、クラヴィスは目を閉じた。ゆったりと身体に
回された腕の温もりを感じながら、クラヴィスは、穏やかな眠りの中へとその身をゆっく
りと沈めていく。
「クラヴィス様、……おやすみなさい」
 小さく囁いて、ランディもまた腕の中の温もりを抱いて目を閉じた。


                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.3.28

じゃじゃ〜ん! ランディ様お誕生日当日にUPされた晴れあるカップリングのひとつは、ランクラです♪ ちょうどお誕生日なネタが浮かんだので、書いたのは結構前ですが、この日のためにとっておいたのでした。
クラ様にとっては、ランディは夜の森の中で見つけた人家の灯火のような存在なんじゃないかと思って。──て、なんか私、そんなんばっかですね(^^;)
しかしこのお二人、浴室でお昼寝なさってますが……。風邪ひかないんでしょうか?(爆)


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