姫君と三人の騎士(後)守護聖の仕事にぼうやのお守りがついているとは思わなかったな。冗談とも本気ともと れる発言にランディが抗議する。やれやれと肩をすくめるオリヴィエ、にこやかに微笑む リュミエールとともに、一行はピクニックにやってきていた。 「な〜んか、アレだよねぇ。療養所かどっかの光景のよーだわ」 「は?」 「儚く美しい姉と、姉を慕う元気な弟の図」 「ああ……。だがあいつ、ああ見えて結構丈夫だぞ」 「そーなんだよねー……」 花畑で戯れるランディとリュミエールを眺めつつ、まったりモードの二人である。 「それにしても、おまえまでついてくるとは思わなかったな。日焼けすんのは嫌なんじゃ なかったのか?」 「いやだね!(どキッパリ)だけどあんたとあのボ〜ヤの二人に、大事なリュミちゃんを 任せておけないじゃないのさ」 「おまえなぁ……」 「あーあ、たーのしそうにしちゃってさー。リュミちゃんがあーゆーのが好みだとは知ら なかったよ」 「……オリヴィエ、おまえ、何かヒクツになってないか?」 「だーってあんな笑顔見て、あんたは何も思わないわけ〜?」 「う゛……」 「あーあ、私も心を入れ換えて、真面目でさわやかな好青年路線目指そっかなー」 「──気持ち悪いからやめてくれ」 「失礼なヤツだね。──よっし!」 突然気合いの入った声をあげて身を起こすと、オリヴィエは何を思ったかリュミエール を呼んだ。首を傾げ、ランディを置いてリュミエールが戻ってくる。 「オリヴィエ。どうかしましたか?」 「ねーリュミちゃん、あんたあのコのこと好き?」 「オッ、オリヴィエッ!」 慌てるオスカーを余所に、リュミエールはかわいらしく首を傾げ、にっこりと微笑んだ。 「ええ、好きですよ。一緒にいると私まで元気になれる気がします。──弟のように、愛 しく思っていますよ」 「ふーう──ん……」 オリヴィエ、目が据わってるぞ。小声で囁くオスカーに剣呑な眼差しを返す。と、一転 何かを企んでいそうな楽しげな顔になり、今度はランディを呼んだ。 「はい、何ですか?」 「ねぇランディ、あんたリュミちゃんのことどう思う?」 「え゛っ、どどどどどうって」 「────おい、ぼうや、なんでそこで赤くなるんだ」 「好き?」 「すっ、すきって、そんなまさかっ……!」 「──ランディ」 途端にリュミエールが悲しげに顔を曇らせたのを見て、ランディはさらに慌てた。 「ああっリュミエール様っ、ちがいます、そうじゃなくてっっ」 「あなたは私に好意を抱いてくれていると思っていましたが、私の思い上がりだったので しょうか……?」 「リュ、リュミエール様っ!」 リュミエールの腕をがっしと掴み、目を丸くしたその顔を見つめる。耳や首筋まで真っ 赤にして、必死の面持ちでランディが叫んだ。 「リュミエール様っ、俺、リュミエール様が好きですっ!!」 「ランディ……。──ええ、私も好きですよ」 にっこり、極上の笑みを向けられて、嬉しいやら照れくさいやらほっとしたやら。と、 リュミエールの腕を掴んだままだったことに気づく。 「ああっすいません! 痛くありませんか?」 「────見てられん」 二人のやりとりをそう評し、オスカーは手で顔を覆った。 「ってゆ〜か、やってらんないってカンジィ〜?」 自分で焚き付けたクセに(しかもかなり強引かつ卑怯なやり方で)、オリヴィエは盛大 な溜め息をついて天を仰ぐ。 「でもさ、ほら、あのコが幸せならそれが一番だって、思っちゃうじゃん? ──あーあ、 私ってばケナゲだよねー」 「どこがだどこが」 眉根を寄せて突っ込みを入れつつ、オスカーは先ほどから疑問に思っていたことを口に した。 「しかしリュミエールのあれは、そういう「好き」なのか?」 ランディの方は、明らかに恋愛感情をリュミエールに抱いているようである。幼いなが らに何とかリュミエールに気に入ってもらおうとしている様は、微笑ましくさえある。─ ─相手がリュミエールでさえなければ、応援してやるところなのだが。 一方のリュミエールはどうかというと、先ほどの弟のように云々のくだりがあまりに自 然で、早い話が本当にランディのことをただの弟としか見ていないのではと思えるのだ。 だがしかし、その一方でオスカーとオリヴィエの熱烈なアプローチを一年もかわし続けて いる彼のこと、ランディのことも気づかないフリをしているのかも知れない。──本当に 気づいていないとは、オスカーはちょっと思いたくなかった。それではあまりにも、自分 たちが哀れである。 「う〜ん、どーおだろーねーぇ……、あのコってば天然だから……」 オリヴィエの答えもムセキニンなものである。 「──オスカー、オリヴィエ、あなた方もいかがですか?」 鈴を震わせる美声に振り向くと、ランディに作ってもらったらしい花の首飾りを掲げて リュミエールが微笑んでいた。 「リュミちゃん……、ああ、あんたってば何てカワイイのっ!」 がばっと抱きついたオリヴィエに、ランディとオスカーが同時に声をあげる。 「ああっオリヴィエ様、何するんですか!」 「オリヴィエッ、きさま、リュミエールが香水くさくなったらどうすんだっ!」 「あ、あの、オリヴィエ……?」 戸惑ったように見上げてくるリュミエールの頬に、オリヴィエは音を立ててキスをした。 二人の怒号とも悲鳴ともつかぬ声をバックに、ぱちんとウインクを飛ばす。 「リュミちゃん、好きだよ☆」 「オリヴィエ……、はい、ありがとうございます」 にっこり微笑むリュミエールに、そんなぁ……とランディが情けない声を出す。と、一 転キッとオリヴィエを睨むように見て、ランディはリュミエールの肩を包んだ。 「俺だって……っ、──俺の方がリュミエール様のこと好きです!」 ぴくり、オリヴィエの頬が引きつった。 「こ、の……、オコサマはぁ〜っ」 さすがにこの低次元の争いに参加する気にはなれず、オスカーは天を仰いで溜め息をつ いた。 ピクニック日和の良い天気、空の色は、極楽鳥に必死の応戦をしている子犬の瞳と同じ 色だ。目を戻し、困ったように二人を見比べているリュミエールを見て頬に笑みを刻むと、 オスカーはつかつかと歩み寄り、リュミエールをぐいと抱え上げた。 「オ、オスカー?」 「フッ、こいつらは放っておいて、向こうで少し涼まないか?」 「ああっ、オスカー様、ずるいですよっ!」 「ちょっ、──ああもう、人がちょ〜っと目を離したスキに……っ!」 慌てて立ち上がり追いかけてくる二人を尻目に、オスカーはリュミエールを軽々と抱い て足を進める。 その頬にはもちろん、束の間の勝利を得た満足げな笑みが浮かんでいた。fin. こめんと(by ひろな) 2001.5.13 だはは。──ランディごめん、がんばれよ…………(^^;) ってなワケで(どんなワケだ)! ランリュミ後半戦(笑)、相も変わらずどこがランリュミなんだか状態(^^;) 『姫君と三人の騎士』って、騎士と書いてナイトと読むはずなんだが……、これはもしかして、騎士と書いてトリマキと読むのか?(爆) さてこのリュミちゃんは、三人の思いを知っててはぐらかしてるのか、ほんとに何も考えてないのか、気になるところですね(笑)。 |