何でもない日に乾杯!


 夏のある日、オスカーのもとに1通の招待状が届けられた。

   今晩、俺の館で夕食会をします。
   ぜひ来てください。
               Randy

 たったそれだけ。
 何の飾りも説明もない、ある意味とても彼らしい文面ではある。ここ数日、彼が何かそ
わそわわくわくしていたのをオスカーは知っている。当然一度は尋ねてみたのだが、「何
でもありません、──まだナイショです」と返された。こういう時、ランディはけっこう
頑固だ。オスカーがその気になれば聞き出すのは訳ないことだが、ランディが何か楽しい
ことを企んでいるのなら好きにさせてみようと、静観することにしたのだ。
 そこにこの、謎の招待状である。
 夕食会を開くような理由は何もない。ジュリアスの誕生日は既に過ぎてしまったし、次
のオリヴィエの誕生日までにはまだまだ間がある。ジュリアスならば、ねぎらいの意味も
兼ねてオスカーを晩餐に招待してもわかるのだが、ランディがするとなると──。
「一体どんな口実で俺を招待してくれるつもりなのかな?」
 何の口実もなくとも、彼と共に時を過ごせるのならそれだけで構わないのだが。あの元
気な王子様のお手並みを拝見してみようと、オスカーは頬に笑みを刻んだ。


「こんにちは、オスカー様! どうぞお入りください」
 ずいぶん早かったですね、とランディはオスカーを見上げて首を傾げた。それもそのは
ず、まだ夕方と言うより昼と言った方が近い時間だ。あたたかい陽の射す昼下がり、愛馬
の手入れをしていたオスカーは、その栗毛のたてがみを撫でているうちにランディの企み
を早く知りたくなってしまったのだ。
 結局、俺もお祭り好きってことか──それとも惚れた弱みかと思いつつ。でもどこか、
ランディを驚かせてやろうという思いも手伝って、こんなに早くやってきてしまったのだ
が、残念なことにランディはあまり驚いてくれなかった。
「準備の邪魔になるかとも思ったんだがな、──一刻も早く、ぼうやに会いたくてたまら
なくなっちまったんだ」
 後ろから抱き寄せてそっと耳元で囁くと、耳から首にかけてがさっと赤く染まった。な
めらかな首すじにキスを落として身体を離す。眉を寄せて睨むその顔も、ほんのり赤くなっ
ていた。
「もう、オスカー様、ダメだって言ってるじゃないですか。こんな、廊下で……」
「フッ、なら早く部屋に案内してくれないか? 俺の理性が保つ間にな」
「もうっ、昼間っから何言ってるんですか!」
 顔を赤くして怒るランディに声を立てて笑い、オスカーはランディを促して部屋に向かっ
た。


「──ところで、今日の夕食会は一体どんな名目なんだ?」
 カードを一枚テーブルの上に置きながら、オスカーが尋ねた。夕食にはまだ間があるの
で、軽く剣の手合わせをした後、シャワーを浴びてさっぱりして、現在カードゲームの最
中である。4戦3敗、相変わらずの腕前ではあるが、ランディはこのゲームを思いのほか
気に入ったらしい。雨の日の楽しみが増えたと喜んでいる。そして今日も、たまにはこう
いう晴れの日にやるのもいいと、2人は夕食前のひとときを楽しんでいた。
「名目、ですか?」
「ああ。夕食会を開く理由が思い当たらなくてな。まあ、俺としては、ただ俺に会いたかっ
ただけで招んでくれても一向に構わないが」
 だが、夕食会、と改まらなくても、二人が夕食を共に摂ることは少なくないのだ。
「えっと……、う〜ん、後で言おうと思ってたんですけど……」
 困ったように髪に手を差し入れて、ランディが呟いた。まあいっか、と顔を上げたラン
ディは、やけに晴れ晴れとした顔をしている。
「理由はですね、ないんです!」
「……は?」
 思わずオスカーは問い返していた。
「理由はないんです。ただ、最近こういう機会ないなって思って。冬場はオスカー様の誕
生日とか、クリスマスとか、バレンタインも俺の誕生日もあってイベント盛りだくさんで
すけど、この時期って、そういうのないじゃないですか。だから、何かやりたいなって思っ
て……」
 照れたように笑って、ランディはオスカーを見つめて返事を待った。だがオスカーから
は何の反応もない。だんだんランディは真顔になって、次には困った顔でオスカーを覗き
込んだ。
「オスカー様?」
「あ、ああ……。────フッ、全くおまえは、いつも俺の予想を遙かに超えたことをし
てくれるな。わかりやすい奴かと思いきや、……時々おまえが宇宙人に思えるぜ」
「ええっ!?」
 呆然としていたオスカーが、苦笑交じりに肩をすくめる。オスカーの反応をどう受け止
めて良いのかわからず、ランディがさらに困った顔になった。
「そんなに俺との記念日を作りたかったのか?」
 調子を取り戻したオスカーは、いつの間にかランディに近寄りその顎に手をかけている。
慌ててオスカーを制しながらランディが赤くなった。
「そ、そうじゃなくて……っ、何かの記念日、っていうんじゃなくっても……」
「俺と“特別なひととき”を過ごしたかったんだろう?」
 自信たっぷりの問いかけに、真っ赤になってランディが頷く。望む返事を手に入れて、
オスカーが満足げに微笑んだ。
「罪作りなぼうやだな。どこまで俺を虜にすれば気が済むんだ……?」
「え……っ、──────ん、んっ……」
 言いかけた唇を塞がれ口腔を舌で優しく嬲られて、ランディが呻くように息を継いだ。
ひとしきり甘さを味わって、オスカーがようやく唇を離す。
「キスのオードブルの後にはやはりおまえを食べたいところだが、ひとまず先に本物の夕
食だな」
「オスカー様っっ!」
 身を引いて構えるランディの頭をくしゃりと掻き混ぜて、どんな女性をも虜にすると自
負する眼差しにさらに想いを上乗せしてランディに送る。視線に気づいたランディの喜び
と戸惑いの混じった表情は、笑顔の次の次、に、オスカーが好きな彼の表情だ。
「夕食会に招いてくれるのはいいが、食事が終わったら追い返すなんて冷たいことはして
くれるなよ。──ちゃんとおまえの夢の中にまで、この俺を招待してくれ」
 言葉の意味を正確に解し、ランディが赤くなって視線をそらす。小さく呟かれた諾の返
事に、オスカーは愛おしそうに目を細めた。
                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.4.15

おお、おすらんだ〜。←自分で書いておいてその感想はなんだ!?(笑)
せっかくなので(?)文字を赤にしてみましたが、このライン↑、赤がなかったこと判明(^^;)、しょうがないので間をとって紫にしてみました。
オスカー的口説き文句、少しは書けるようになってきたかな?とは思いますが、でもまだまだですね。難しいです。もっともっと、恥ずかしくもカッコイイ台詞をバンバン言って欲しいんですが。

アリオスの誕生日話で書いた「アンジェキャラは冬生まれが多い」的話第2弾ですかね? 別に相手はオスカーでなくても良いのでは?と言われそうですが、ランディくんがこういうことやらかすのは、オスカー相手が一番良いのでは、と。オスカーさんもなにやら楽しみにしているようですし(笑)。

ところでこの話、……タイトルがすでにネタバレ!?(爆)


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