ミラクルアイテム

「こんにちは、チャーリーさん!」
 朗らかな挨拶とともに、初夏の風を引き連れて店内に入ってきたのは、風の守護聖ラン
ディだった。
「これはランディ様、何かお探しで?」
 営業用スマイルよりも少し明るく、元気な微笑みを、チャーリーは返す。
「えっと……特に何かを探してるってわけでもないんですけど……」
 髪を短めに切ったせいか、少し大人びたようにも見える。聖地の時間では、あの時から
さほどの時間は流れていないはずだが。栗色の髪を梳かすように髪を差し入れ、ランディ
は少し眉を寄せた。
「チャーリーさんって、人を楽しませるの、上手ですよね」
 唐突に、ランディが話を切り出す。
「何か俺……、ダメなんですよね、そういうの。俺は真面目に話してるつもりなのに、笑
われたり、からかわれたり。あと、誰かが落ち込んだりしてるときに、何か話して笑わせ
てあげたいなって思っても、そういう、おもしろそうな話とかすぐに出てこなくって」
 それで、チャーリーにコツを教わろうと、やってきたらしい。
「セイランさんが言うんですよ。“人を笑わせる”のと、“人に笑われる”のとは違うっ
て。……どうやったら人を笑わせてあげることができるんだろう」
 どうやらランディは真剣に悩んでいるらしい。あの皮肉屋の麗人は、おそらくそう言え
ばランディが悩むことを知っていて、わざとそう言ったと思われる。ランディの良さもも
う十分知っているはずなのに、わざと彼の反応を試すようなことをするのだ。
 意識して“人を笑わせる”というのは、存外に難しいものである。そしてそれは、ラン
ディの持ち味ではない。彼には彼のやり方というものがあるのだ。
 ヘンに笑いをとろうとしなくても、あたたかい微笑みを人に与えることができる。それ
はセイランの言う“人に笑われる”ということとも少し違って、例えば子猫のじゃれあう
様を見てたいていの人が微笑みを浮かべるように、自然な、だからこそ心のあたたまる笑
いだ。何か、励まされるような微笑みだ。あたたかな微笑み、そして、元気の出る、これ
からもがんばろうと思える勇気を、ランディは意識せずに皆に与えている。勇気を司る風
のサクリアとは別に、それは彼の持ち味だ。
「ランディ様、あんたは、そのままで十分やと、俺は思いますよ。俺は確かに冗談言うて
人笑わすのも好きやけどな、そら、その人に元気になってもらいたいからや」
 チャーリーは、はしばみ色の瞳に柔らかい光を浮かべてランディを見つめた。
「俺はサクリアを持ってへんから、こーしておまじないアイテムやらを売って人に元気を
与える仕事をしてる。けどあんたはそんなんよりもっとえらい力を持ってるやないか。サ
クリアもそうやし、あんたの笑顔は、もっともっとたくさんの人に勇気を与えられてると、
俺は思うで。
 俺は、守護聖になれるんやったら、風の守護聖になりたい思います。夢の守護聖もええ
けど、女の子限定になってまうからな、もっと、老若男女すべての人に、元気になっても
らいたいんや」
「チャーリーさん……」
「俺の店に来て、何か素敵なモンめっけて、ほんでその人が幸せになってくれるのを見る
のが、俺は嬉しいんや」
 得意気に微笑むチャーリーを、ランディはしばらくじっと見つめていたが、やがてトン
ネルの出口の光が大きくなるように、笑顔を広げていった。
「俺、なんだかわかった気がします。──チャーリーさんのお店に人が集まるのって、品
物もあるけど、きっとそれだけじゃなくって……。あなたの元気を分けてもらいたくて、
あなたの笑顔を見たくて皆集まって来るんですね!」
 そう言って破顔したランディを、チャーリーは驚いたように見つめていた。
「チャーリーさん、ありがとうございます。──また、ここに来てもいいですか?」
「あ、ああ、それはもちろん構わんで」
「はいっ!」
 それじゃ、また、とランディは来たときとは別人のように元気になって(正しい表現を
するなら、入ってきた時の彼が普段と別人のようだったのだが)出ていった。
 いまだ呆気にとられた表情で出口を見守っていたチャーリーが、エメラルドグリーンの
髪をかき上げて降参のため息をつく。
「相変わらず、どえらい殺し文句言うお人やなぁ……」
 呟くと、知らず微笑みが浮かんでしまう。
 俺なんかよりも、あんたの笑顔の方が、断然えらい力を持っとるんやけどな。
 この店の品物全部と引き替えにしてもまだ足りないほどの価値が、あの微笑みにはある
のだ。
「あんたがまたその笑顔で店に来てくれるってんなら、俺は世界中のええモンを取りそろ
えて、お待ちしてまっせ」
 もちろん、とびきりの笑顔つきで。
                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.3.14

チャーリー、むずっ…………。(TT)
この一言に尽きます。ええ。
ネタ的には、「スマイル0円」って話。──いえいえ(苦笑)、ランディ様の笑顔は世界中のどんな宝物よりも価値があるのよん♪っていうコ・ト☆
これって一応、トロワな話になるのかなぁ?? ランディ髪短いらしいしね。
あ、一応、この話は、私は“カップリング”では考えてないんですが。まあ、読まれた方のお好みでどうぞ(笑)


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