Sanctuary

 謎の芸術家とも呼ばれるセイランの、約一年間にわたる失踪は、各界でそれなりの騒ぎ
になっていたらしい。そのことを、セイランは戻ってきて最初の取材で初めて知った。
「一週間くらいなら、『ああ、またか』で済みますけどね、それが一ヶ月、もっとそれ以
上になったら、さすがにみんな心配しますよ。──俺なんか、セイランさんどっかで行き
倒れてんじゃないかって、マジで夜も眠れないくらいだったんですから」
 そう、セイランは、女王試験の教官として聖地に召される際、誰にも何も言わずに姿を
消したのだった。
「……そのわりには、ずいぶん健康的な肌色をしているようだね」
 それなりに懇意にしていたとある文芸誌の若手記者は、相変わらずだなあと眉を寄せた。
 その様子をセイランはまじまじと見つめ、──やがて吐息をもらす。
「セイランさん?」
「──君も、変わってないようだね。相変わらずあちこちで騒ぎをまき散らしているのか
い?」
「そんなっ! 俺だって少しは成長したんですよ!?」
 その反論の仕方に、思わずセイランが笑い出す。なんで笑うんですか?とむくれる記者
に、セイランは笑いをおさめきれない声で、形ばかりの謝罪をした。
「もう、いいです! ──ところでセイランさん、……あの、これって聞いていいことか
どうかわからないんですけど……」
 怒って帰ったりしないでくださいね、と前置きして、記者は質問を口にした。
「セイランさん、──この一年の間、一体どこでなにをしていたんですか?」
 予想はしていた問いかけに、セイランは一瞬真顔になり、蕾が花開く瞬間のようにふわ
りと笑った。
 間近で貴重なものを見せられて、記者は言葉を失い瞬きも忘れ、しばらくたってから、
今さらのようにどっと赤くなる。
「ふふっ。べつに、大したことはしていないよ。──聖地に行っていただけさ」
「聖地、ですか?」
「そう」
「ふう……ん」
 さらりと応えたセイランに、記者はセイラン特有の比喩だと思ったようだった。一介の
芸術家が気軽に“行った”などと言えるほど、女王の召します聖地は身近なものではない
のだ。
「セイランさん、帰ってきてから、少し作風が変わりましたよね」
 どこか納得したように、記者が呟いた。
「こないだ発表した絵、見させてもらいました。──なんか、前よりもっとずっと、優し
い光を感じるなぁって……」
 絵は専門外なんで、と断りつつ、しかし彼はいつも本質を穿つ発言をする。
「そう? それは良かった」
「……その、“聖地”のおかげですか?」
「そうかもね。──そうだね」
 髪をかき上げ、セイランが微笑んだ。


 聖地。──聖なるところ。心の聖域。
 それは、あなたのいるところ。
                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.3.1(笑)

ランディ様フェア、第2弾、っつーかダブル第1弾?は、今フィーバー中の(笑)ランセイでございます。
なんかねー、ネタ、3つくらいあるんですが(笑)。リヒトにあげた奴も、近々UPいたしますわん♪
で、今回のこのお話。なぜかランディ様出てきていません(笑)。セイランさんと、な〜んかちょびっと誰かさんに似ている(笑)若手文芸記者クンとの会話。べつに“ランセイ”でなくてもいいのでは、と言われそうですが、これは私の中ではバリバリにランセイです!
セイランさんはね、ランディくんをどっかで神聖視してるのよ。大切なもの。なのです。きゃっ、はずかち!(爆)


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