wordless


「あちぃ……」
 ぼそり、ゼフェルが呟いた。
「うん、そうだね」
 暑いとは少しも思ってなさそうな言い方で、ランディが返す。その腕の中には、背中か
ら抱きすくめられた状態で、ゼフェルがおさまっていた。
「ちげえよ、おまえだよおまえ。──ちっと離れろ、あつっくるしい」
 投げやりに言われ、ランディが名残惜しそうに手を離す。ゼフェルの背に触れていた身
体の温もりが消え、身を離したランディが少し後ずさったことがわかる。
「ばーか」
 いきなり言ってゼフェルは後ろに身体を傾けた。背を丸めるように寄りかかったゼフェ
ルの身体を、ランディが慌てて抱きとめる。
「ゼ、ゼフェル?」
「拗ねんなよ」
「拗ねてなんかないよ。何でそんなこと言うんだよ」
 ゼフェルはさっきから目を閉じたままだ。そもそもこの姿勢では互いの表情など見えよ
うはずもない。
「……それのドコが拗ねてないんだよ」
「拗ねてないよ、見てもいないのに決めつけるなよ」
「カオ見なくたっておめーの考えるコトくらいわかるって」
 むうっ、と唇を尖らせて、ランディは手を前に回すとふいにゼフェルの腕を掴んだ。ぐ
いっと引っ張ってゼフェルを仰向けに引き倒し、驚いて悲鳴を上げた背を支えながら、す
かさず腕を引いた手で顔を覆い目隠しをする。
「お……っどかすなよおい」
「今は?」
「あ?」
「じゃあ今は、どんな顔してるかわかる? 何考えてると思う?」
 問われてゼフェルはしばし沈黙していたが、やがて呆れたように口を開いた。
「おまえな……。何も考えてねーだろ。そーやって聞いといて、オレがなんて言うか楽し
みなだけだろが。正解のないクイズなんか反則だぜ」
 ついでに今おまえはガキみてーにクチとがらせてる、とゼフェルはランディの顔面をば
ちっと叩いた。
 て、と声が上がり、ゼフェルの目元を覆っていた手がすっとどけられた。目を開けると、
ランディが眉根を寄せている。
「……どうして」
 呟くように問われ、ゼフェルはふっと眼差しを和らげた。
「てめーの考えてることくらいわかんなくてどうすんだばーか」
 ゆっくりと口端を引き上げる。ランディの頬がさっと赤くなり、それを隠すようにこと
さらに難しい表情になった。
「そういうこと言うと……」
「──言うと?」
「こうしてやるっ!」
 言うなり床についていた手をはずす。支えを失ったランディの身体の落ちる先は、当然、
ゼフェルの身体の上だ。
「ん……っ」
 突然の重みに肺を圧迫されて息が漏れた。無意識に漏れたその声に、自分でもヤバイと
思ったが、いかんせん無意識の産物は制御できるものではなく、さらに既に外に出された
声をなかったものにもできはしない。
 案の定というか何というか、一瞬の沈黙の後に吐き出されたランディの息は、常より少
し温度を上げていた。
「ゼフェル……、そんな声出すなよ……」
「てめーがっ、……させたんじゃねーか」
 首すじにかかる息を、意識してしまう。身体の重みを意識してしまう。
「ゼフェル……」
 熱く囁いて、ランディは耳元に顔を近づけた。そっと口づけられ、ゼフェルの身体がぴ
くりと揺れる。
「──ッ言ったらさせないからなっ!」
 口を開く気配を感じ、先手を打ってゼフェルが叫ぶ。驚いて目を丸くしたランディが、
肘をついて上体を起こし、赤くなったゼフェルを見下ろした。
「ゼフェル?」
「だからっ、いちいち聞くなっつってんだよ! ンなコト聞かれてなぁ、オレがオンナみ
てーにホホ染めて「……うんv」とか言うとでも思ってんのかよっ!?」
「……ゼフェル、それ差別発言だぞ」
「るせっ、てめーが恥ずいコト聞こーとすんのが悪いんだろっ?」
「何でだよ、やっぱりこういうのはちゃんとおまえの了承を得てからじゃないと悪いと思
うから聞くだけだろ」
「だから聞かなくてもわかれよっ」
「わかってるよっ! ちゃんとわかってる、と思うけど、でもそれでもし俺の勘違いだっ
たらって思うと、」
「ばーか」
 言い捨ててゼフェルは手を伸ばすとランディの頭を引き寄せた。噛みつくようにキスを
して、驚いた顔のランディを鼻で笑う。
「そしたら「何カンチガイしてやがんだバカランディ!」って蹴りっ飛ばしてやるよ」
「…………ひどいな」
 呟いて、ランディが眉をひそめた。
「へっ、カンチガイしなきゃいいだけの話だろ」
「それはそうだけどさ……」
 今ひとつ納得のいかない様子で呟いて、軽く溜め息をついたランディが手を動かし始め
た。気づいてゼフェルが身体の力を抜く。
「それじゃあ俺、ゼフェルに蹴飛ばされるかもって冷や冷やしながらこういうコトするの?
 ──そんなのムードも何もあったもんじゃないじゃないか」
「ムードって……、──てめーに言われたかねーよ」
「何でだよ」
「何でじゃねーよ」
「何でだよ。俺、ゼフェルに触るのいつもどきどきしてるのに、楽しみなような恐いよう
な、そんな気持ち大事にしたいのに、ゼフェルはそういうの思ってくれないのか?」
 真面目に問われ、ゼフェルは顔を赤くして目を逸らした。
「ゼフェル、」
「……」
「なあ、ゼフェル」
「──っせっ! だからいちいち聞くなっ、そんぐれーわかれっ!!」
 耐えきれず、ゼフェルが喚くと、ランディはあろうことかにっこりと微笑んだ。
「ナニ笑ってんだよっ」
「うん。──わかった」
 言うなり胸の突起に口づける。服を通してのその感触はもどかしく、ゼフェルはさらな
る刺激を期待する身体を自覚した。
「ゼフェル。ここ……どきどきしてるよ」
 胸に頬を押しつけて、ランディが囁く。唇の動きが布越しに感じられ、熱い吐息が肌を
粟立てる。
「ばか……」
「うん」
 満足そうに笑って、栗色の髪が額に触れた。そのままこつんと額を触れ合わせる。
「ゼフェル、──好きだよ」
 優しい囁きとともに、あたたかい唇がゼフェルを包んだ。

                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.5.13

あはは……(苦笑)
おかしいな、ラン誕企画は星の色青にしようと思ってたのに、これってば、オレンジだよね……? やっぱりゼフェル君の……(もごもご)。とか言いつつ一応青ですが。そしてゼフェル編は『普遍の関係』で済ますんじゃなかったのか……?
さて。“ゼフェルがランディにばかばか言う話”(りんさんに進呈)第2弾(ランゼバージョン)&“ゼフェルの「あぢい……」から始まる話”(プラチナさんに進呈)第2弾な、ランゼでございます。
いやん、ランディ、甘えたさんv(笑)
うちのランディ様、普段はそんなにサカッてない人なんですが(笑)、今回ちょっと、健全な青少年らしく(?)些細なことでどきどきしちゃってますね。うふふ、かわいいv(自分で書いといて……)
My設定なランゼは、もっとかなりゼフェルが誘い受けなカンジ(苦笑)。──てゆうか、ランディ、誘われ攻め……?(^^;)
このラン&ゼーのスタンス、某ランゼサークルさんの影響をもろに受けております。ええ。見事なまでに。しかしやっぱりランゼFANでランディFANって少ないのね〜ん(T_T)(なにがどうしかしなんだか……)


BACK




Parody Parlor    CONTENTS    TOP

感想、リクエストetc.は こ・ち・ら