return for
「何してるんですか?」
ドアを開けて飛び込んできた光景に、扉を後ろ手に閉めながらランディが尋ねた。
「んー、こないだ誕生日プレゼントもらったからさ、そのお返しにと思ってね……」
半ば上の空で、オリヴィエが答える。その間にも手は休まず動き、小花の模様の刺繍をいくらか進めていた。
「誕生日プレゼントのお返し……?」
繰り返して、ランディは首を傾げた。できあがっている分の模様を覗き込んで、それを好みそうな人物を思い浮かべる。
「アンジェリーク、ですか?」
「うん、そう」
あっさり答えると、ちょうどキリの良いところに来たらしく、結び目を作って糸を切る。顔を上げてオリヴィエは、初めてランディの表情に気がついた。
「ランディ? どうしたの」
「プレゼントのお返しって……」
言い淀んで眉を寄せるランディの唇は心持ち尖っているように、オリヴィエには見えた。
「お返しが? 何?」
おおよその見当をつけながら続きを促すと、予想通りの言葉が返った。
「俺、……もらいましたか?」
「──ふふっ、やだ、あげたじゃないか。覚えてないの?」
「え……?」
笑いをこらえながら流し目を送る。わずかに頬を赤らめたランディが、片手を上げ髪をくしゃりと掴んだ。
「えっと……。────すいません、俺、覚えてないです……」
こらえきれない笑みに唇を歪め、近づいたランディの身体を引き寄せる。
「私のすべてを、あげたでしょう?」
耳元で囁かれ、ランディは真っ赤になって息を詰まらせた。
「──っ! なっ、何言ってるんですかっ……」
「あははっ! や〜だ、もう、カワイイねぇ……」
「オリヴィエ!」
「ん〜、カワイ♪」
頬に触れた唇が、小さく音を立てる。その頬を抑えて、ランディが咎めるような眼差しを送った。
「あれって、そういう意味だったんですか……?」
「ううん、私もしたかったからだよ」
今度は唇にキスをして、正面から覗き込んでとびきりの笑みを浮かべる。
「あんたからのプレゼントでもあるし、私からのお返しでもあるし。──せっかく恋人と過ごせるなら、思いっきり甘〜い一日がいいよね」
オリヴィエの微笑みにあの日のことを思い出したのか、ランディがまた少し赤くなった。
「え、っと、……オリヴィエ、あの、少し離れてくれませんか……」
「なんで?」
「っ……………………俺、……負けそう……」
「ふふっ、イイよ、負けて。あれもどうせあんたが来るまでと思ってやってただけだし」
背中の腕が首に回された。引き寄せられる力に抗おうとはせず、むしろ進んでランディも顔を近づける。何度かついばむキスをして、思い出したようにオリヴィエが口を開いた。
「あ、そうだ。あれ、誕生日のお返しって名目の、ちょっとしたお礼だからさ、心配しなくていいよ」
「心配、は……別にしてないけど……」
「そ? なら良かった。拗ねてるかなと思ったからさ」
「もう、そんなことでいちいち拗ねたりしませんよ」
そんなちょっとした気遣いで気を揉んでいては、オリヴィエ相手ではきりがない。
「その分別のことで返してくれればいいです」
「ん〜、じゃあ今日はたっぷりサービスしてあげる♪」
「そ、そういうことじゃなくて……」
息をついて、身体をもたれさせる。頬を押し当て小さく囁くと、ひそかな笑いと共に、同じ言葉が返された。
fin.
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