さみしさを抱いて


 3年ぶりに会ったランディは、あの頃と何も変わらないようでいて、どこか、少し違っ
ていた。眩しい屈託のない笑みが、どこかへ消えてしまっていた。
 普段は何も変わりなく見える。けれど、ふとした時に、今までは見せたことのなかった
ような、思いつめた顔をするのだ。
 本人に聞いても口を割るはずもないのでゼフェルのもとに行くと、彼は珍しく口調を濁
した。しつこく食い下がり、ようやく聞き出した事実は、セイランにとってもショックな
ことだった。
 ある惑星に査察に行った際、ランディが暴漢に襲われかけたというのだ。どこまでされ
たのかはランディ本人しか知らないことだが、彼にしてみれば、何もなかったにしろそう
いった欲望の対象にされたという事実だけでもつらいことだっただろう。真面目で実直で
健全で、綺麗事の理想論を、そのまま生きているような人だから。
 セイランにとって、ランディはひとつの聖域だった。初めの印象こそ良くないものだっ
たが、そのひととなりを知るにつれ、その眩しさに、惹かれていった。彼も自分にひとか
たならぬ好意を寄せてくれていることを知りながら何も告げずにいたのは、彼の無垢な瞳
を、汚したくなかったから。
 それなのに……。
 いつだったか、守護聖と一般人の体内時間の差による寿命の差について、少しさみしそ
うに語った瞳が思い出された。夜空の星を見上げ、今見ていると思っている星が今現在は
存在しないかも知れないという話をしたときだ。
『仕方ないことだけど、俺はそれを受け入れてここにいるけれど、やっぱり、ちょっと、
つらいときもあります』
 そう言って静かに笑みを浮かべた彼の心を守りたいと思った。
『あなたも、何か思いを形にしてみたら?』
 そう言ったセイランを、ランディは目を瞠って見つめ返した。
『人は死んでしまうけれど、想いは残る。僕が綴った詩は、描いた絵は、奏でた旋律は、
時を越えて、ずっと残る』
 あなたが外界へ戻る日まで残るようなものを、僕は創るよ。
 それは、セイランなりの誓いだった。
『ありがとうございます』
 星々の輝きを受けて濡れたように光る瞳は、この世で一番美しいものだった。


 以前と同じ笑みを作ろうとしているランディがやるせなくて、セイランはある日、ラン
ディを部屋に誘った。
 そんな笑みを浮かべるくらいなら、壊れて泣いてしまえばいい。
 破滅的な思考の裏で祈るのは、今も脳裏に焼きつく、眩しいまでの彼の笑顔。
「へえ……、ここが、セイランさんの部屋…………」
 相変わらずさっぱりと、愛想のないくらいにもののない部屋だ。ランディの部屋も必要
最低限のものしかないが、セイランはもっと、……生活のためよりも芸術のためのものし
かない。だから余計に、何もないといった印象を受けるのだ。
「見せたかったのはこの部屋だよ。どうぞ」
 きょろきょろと辺りを見回す好奇心に満ちた様子は以前のままだ。くすりと笑みをこぼ
し、セイランはその部屋の扉を開く。覗き込んで、空色の瞳が驚きに瞠られた。
「うわ……」
 そこは、セイランの誓いを集めた部屋だった。
 楽譜、オルゴール、油絵、水彩画、詩集、……。
 セイランが今までに生みだした作品の中で、特に力を入れた、──ランディを思い描い
て作った数々の作品。
 そしてひときわランディの目を引いたのは、彼でさえ抱えるのにやっとかと思われるく
らいの、大きな星空の絵だった。
「セイランさん、これ……この星空……」
 呆然と呟くランディに頷く。
「うん、──あなたに誓った、あの空だよ」
 僕が死んでも、きっとこの絵が君を迎える。この空が、君を、ずっと待っている。
「──ありがとうございます」
 向けられた微笑みは、少しかなしげではあったけれど、太陽の眩しさを、その内に包ん
でいた。


 床に直に座り込み、懐かしい日々に思いを馳せる。
 互いの欠点をあげつらった出会いから始まって、聖地を騒がせたいくつかの事件や、予
想外の再会、戦いの日々。
「──そういえば、あの時も俺、あなたにさんざんばかにされたような気が……」
「それはあなたが短絡的なことばかり言うからじゃないか。人には向き不向きがあるんだ、
頭脳労働はルヴァ様やエルンストに任せておけばいいんだよ。──って、あの時も言った
よね?」
 くすりと肩をすくめて笑うと、ランディは眉を寄せて髪に手を差し入れた。そんなクセ
も、変わらない。
「あの時も、良く星空を見上げたよね」
 希望を、心の内に呼び覚ますように。
「ええ、そうですね。──でも俺、旅の途中で夜空を見上げながら、心の中に思い描いて
いたのはいつも、女王試験の間にあなたと眺めた、あの星空だったんです」
 今だから言いますけど、とランディは笑った。
 セイランの胸に、その笑顔は音を立てて落ちた。
 やっぱり、この人が愛しい。笑顔も、毅い瞳も、力強い腕も。儚いまでに綺麗な心も。
「うん……。──僕もそうだったよ」
「え……?」
「ねえランディ様。僕はあの時からずっと、ずっと……」
 一瞬言葉を切り、セイランの瞳がきらめいた、ようにランディには思えた。
「あなたが好きだったんだ」
 そして重ねられた唇。目を瞠るランディの唇を割って、セイランの舌が中に忍び込んだ。
「ん……っあ……」
 絡め合った舌を解くと、自然、溜め息がこぼれる。
「セイランさん……っ!」
 ランディの腕がぐっとセイランの肩を掴んだと思うと、二人の身体は床の上に倒れ込ん
でいた。軽く目を瞠るセイランに覆いかぶさり、今度はランディが唇を押しつける。
「んん……っ」
 息継ぎの間も許さないような激しいキスに、セイランが呻く。ようやく唇を離し、肩で
息をして、ランディははっと我に返ったように身を起こした。
「あっ……、すいませんセイランさん、俺っ、」
「ランディ様……?」
 離れようとしたランディを、セイランの腕が引き止める。
「続けてよランディ様! お願い、続けて……。──僕のこと、少しは受け入れてくれる
つもりだったんでしょう?」
 息を飲み、ランディはつらそうに顔を背けた。
「だめです、セイランさん。俺は、あなたを幸せにしてあげられない……っ」
「どうして……」
「だって、俺は……」
 ランディの言わんとするところを察し、セイランはキッと眉をつり上げた。
「わからないよ! あなたが守護聖だから? 男だから!? そんなことのために、あな
たは人を愛することを諦めるの!? あなたはそんな人じゃなかったじゃないか!! 宇
宙のため、人々のためって、こんなところに押し込められて、人を愛することもできない
なんて、──そんなの悲しすぎるよ!!」
 叫んで服を脱ぎ捨てる。
「抱いてよ」
 挑むように、セイランは告げた。激した感情を持て余して潤んだ瞳で。
「僕の愛に応えて。──自分の意志で!」
 ランディが静かに目を瞠る。クッと眉が寄り、右手が握りしめられ、──次の瞬間、セ
イランはランディの腕の中に抱き込まれていた。
「本当に、愛してもいいんですね? セイランさん」
 緊張に震える声が、耳元で囁く。答えるように目を閉じて、セイランは細い腕を持ち上
げ、逞しく成長したランディの身体を抱き返した。


「ん……っ、あ……はぁっ」
 濡れた音と熱い息遣いが部屋に響く。忙しなく手を動かし、息を荒げ、互いの肌を汗を、
確かめるように手で舌で辿る。
「……っ、セイ、ランさ……っ、痛……っ」
 脚を撫で腹部を辿るセイランの舌に、ランディが痛みを訴えた。怪訝に思って顔を上げ、
ランディの表情を確かめる。堪えているのは痛みか快楽か、強い意志を窺わせる眉はつら
そうにひそめられていた。
「痛いって……、──ここ!?」
 ふと思い至り目を下に向けると、ランディの情熱は、今にもはちきれんばかりに膨れ上
がり、熱い雫をこぼして引き攣るように震えていた。そっと手を触れると逃げるようにび
くりと震え、さらに蜜を滴らせる。
「嬉しい……」
 紅潮したセイランの頬に、笑みが浮かんだ。顔を近づけると、かすかにかかる息さえつ
らいのか、ランディが息をつめる。
「こんな……はちきれそうなほど、感じてくれてるんだ」
 汗ばんだ手が、床に爪を立てる。
「すぐ楽にしてあげる」
 囁きざま、セイランは目の前の情熱を口の中に迎え入れた。突然の刺激に跳ね上がるよ
うに揺れる熱の塊を、あやすように口の中に取り込み舌を絡ませる。舌を動かすたびにく
ちゃりと濡れた音が響き、ランディの脚がびくりと揺れた。
「くっ……ぁっ、セイラン、さ……。──あなたは、不思議な人だ。俺、こんな……っ、
……はっ……自分の身体が、こんな風に……っ」
 こんな風になるなんて。
 男の人なのに。
「不思議でも何でもないよ。愛があれば、当たり前のことさ」
 囁きに応えるように揺れる熱に、愛しさが募る。先端のくびれを舌先で撫で、深く銜え
込み口全体で扱く。口の中の熱を受けて、セイランの身体もまた高まっていく。
「くっ、セイランさん……っ、もうっ……」
 切羽詰まった声に、セイランは口の中の情熱を引き抜いた。濡れて光る先端を見つめ、
ランディの顔を見つめ、汗の伝う頬に手を伸ばす。
「ごめん、ランディ様。もう少しだけ我慢して」
 顔を寄せ、唇が触れ合うくらい近くで。
        ダ
「──僕の中で射精して」
 ランディの腰を跨ぐように脚を開き、熱く濡れた情熱を手で掴む。自らの秘腔に先端を
あてがうと、セイランはそのまま腰を沈めた。
「あ……」
 声をあげたのはランディの方だった。セイランの、口の中よりも熱い体内に取り込まれ、
今にも意識が飛びそうになる。
「セ……ランさ……」
「もっと、呼んで……っ、ランディ……っ」
 ぐっと腰を上げ、また沈める。セイランの情熱がランディの腹部に擦れ、先端から溢れ
る雫が下腹を濡らした。
「セイ、ランさ……セイランさん、セイランさん……っ!」
「ああっ、ランディ様ッ……!」
「く、あっ……セイランさん、俺、もっ……、──!」
 言い終わる前にランディの身体が震え、熱い白濁がセイランの内部に吐き出された。息
を整えながら、ランディが口を開く。
「すいません、セイランさん、俺、」
「いいよ……」
 囁いて、上体をわずかに反らし、ランディを銜えたままの部分に力を込める。きゅっと
締め付けられ、ランディの眉がぴくりと動いた。
 そのままゆっくりと腰を前後に動かす。締め付けては放し、だんだん上下の動きを加え
ていくと、内部のランディがまた息づいていくのが感じられた。
「は・あ……っ、セイランさん……」
「もっと……」
 すがるように、首に腕を回す。
「ランディ様、もっと、僕の中をあなたでもっといっぱいにして……」
「セイランさん……!!」
 ぐっと強く腰を掴まれ、引き寄せられる。身体の奥深くを突かれて身体が跳ね、喉から
は悲鳴にも似た嬌声がほとばしった。
「アアッ! あっ、はぁっ……ランディ様ッ……、ゃっ・あぁっんっ」
「ハ……っ、セイランさ……っ」
「ん・あっ……、やっ……ぃやあっ! ……あっ、ぁ……は、っん、……う……」
 もがくように首を振ると、青紫色の髪が揺れ汗が飛び散る。目尻に官能の涙を浮かべ、
汗ばんだ背に爪を立て、貪るように唇を合わせる。ランディを銜えた部分が痙攣するよう
な動きを見せ、ランディの口の中でセイランの吐息が同じように震えた。
「っあ、も、イ……っ!」
 ひときわ大きく中を抉られ、セイランが叫んだ。身体が硬直し、解き放たれた熱がラン
ディの下腹を汚す。急激な締め付けにランディも時を同じくして果て、セイランの中に放
たれた熱が、収まりきらずにつながった部分から溢れ出てランディの脚と床とを濡らした。
「あ……」
 肩で息をして、放心したようにランディが呟く。目を閉じてもたれかかったセイランの
身体を受け止めて、汗の浮いた背中をそっと撫でた。
「ぅん……」
 鼻にかかった声をあげて、セイランが身じろいだ。背中を抱いたままランディが床に背
を倒すと、ゆっくりとセイランの中からランディの情熱が抜き出され、その感覚にセイラ
ンは再び身を震わせた。
 二人、身体を重ねて。無言で時を過ごし、鼓動が鎮まりゆくのを感じる。わずかな倦怠
感と、溢れそうな満足感とが、二人を、部屋を包み込んでいた。
「ランディ様……」
 やがて、あたたかな微睡みの気配を感じながら、セイランが口を開いた。
「うん……?」
 目を閉じたまま、ランディが答える。
「あなたが僕を幸せにできないなんて、やっぱりウソだよ」
 顔をわずかに動かし、肩に唇を寄せて。
「あなたじゃないと、僕は幸せになれない」
 たとえ、また離れる運命だろうと。
 今あなたがそばにいれば。
 僕はちっともさみしくなんかないから──。
 セイランは再び、心に誓いを刻んだ。
「あなたは……。──ランディ様、あなたのさみしさも、僕が抱きしめるから……」


                                    fin.

   



こめんと(byひろな)     2001.5.19

何やらいつもとずいぶん違う雰囲気のこのお話、実はモトネタがあったりいたします。
緋色れーいちさんという漫画家さんの漫画『Punch drunk babies』2巻の『傷痕』というお話。
──読んだ後、「……これ、ランセイで書いてみたい」と、思ったのでした。正確にいうと、後半の、えっちしーんを(^^;)。で、書いてみたら、……何やらえろが2割増し(^^;)。いや、モトネタは登場人物二人とも20代後半(くらい?)のオトナだけど、この二人はまだ若いし、そんな痛いくらいなのに、もうちょっと我慢してって、我慢できないよなぁ……と思ったら、結果として抜かずの2発……げほげほ。
今回のこの話は、二人の性格もモトネタになぞらえてあるので、攻めクン・ランディの方が後ろ向きです。セイランの方が前向き。──私、前向きセイランも書けたんだ……(苦笑)。そしてえっちはいつものように(?)セイラン主導。さらにいつにも増して積極的なセイランさん(笑)。
あと、モトがれーいちさんってことで、受けクン・セイちゃんの喘ぎ声に力を入れてみました(爆)。あはは(^^;)。いや、私、普段はあんまし受けキャラ喘がせないんですが。久しぶりに、昔書いたえろ小説(爆)引っぱり出して、喘ぎ声ってどうやって書いてたっけ、とか思ってみたり。
ちなみに、これのゼフェセイバージョンをりっひーにあげました。リヒトのサイト【EGOISM】か、さしあげものコーナーで読めますよん♪




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