*                  *                  *


 マルセルが扉を開けると、そこにはすでにディアはもちろん他の守護聖たちが全員そろっ
ていた。
 遅くなってごめんなさい、と、言おうとした時、
「せーのっ」
「ハッピーバースデイ、マルセル!!」
 ランディの音頭で皆の声が合わさった。おまけに何人かの手の中からクラッカーのリボ
ンまでが飛び出している。
「────え?」
 あっけにとられて目をぱちくりさせたマルセルに、ランディが走り寄り、ゼフェルも後
からついてくる。
「マルセル、誕生日おめでとう!」
「え、あ、ありがとう。──え?」
「わかってねーみてーだな。今日、おまえの誕生日だろーが」
「だからこれは、ただのお茶会じゃなくて、マルセル、おまえの誕生会だよ」
 マルセルは、ランディとゼフェルと、それから二人の後ろのテーブルに集う面々とを見
比べて、ようやく事態を把握した。
「ええっ!? ──あ、ありがとう! じゃない、えっと、皆さんありがとうございま
す!!」
 勢い込んで礼を言うマルセルに、皆が暖かい眼差しを向ける。
 穏やかな微笑をたたえて、ディアが近づいてきた。
「マルセル、お誕生日おめでとう。今日の料理は、私が作ったのよ、たくさん食べてくだ
さいね」
「えっ……そ、そうだったんですか!?」
「まじかよ……」
 ランディとゼフェルが、受けた衝撃をそれぞれに口にした。
「ディア様、ありがとうございます! 僕の誕生日まで気にかけてくださって。それに、
こんなすてきなお茶会まで……」
「ふふ、お礼ならランディにお言いなさい。今日のお茶会の主催者は彼なのですよ」
 マルセルが驚いてランディを振り返った。ランディは少し顔を赤くしてうつむいている。
「ランディ……。ありがとう。もしかして、ぼくが家族のみんなのこと思い出してさみし
がってたの、気づいてた……? それでわざわざ……」
 守護聖全員を呼び集めて。ディアにまで気を遣わせてしまったのかと、マルセルが細い
眉を寄せてわずかに首をかしげる。
 ランディは慌てた。ここでマルセルに悪いことをしたなどと思わせてしまっては、すべ
てが水の泡だ。思わずがっとマルセルの肩を掴む。
「マルセルッ! ちがうんだ! えっと……、ちょっと最近元気ないなとは思ってたけど、
──そうじゃなくてっっ。あのな、マルセルっ、俺たちいつも、誰かの誕生日の時にはこ
うやって皆でお祝いしてるんだよっ!!」
 ────っなにを言い出すんだバカランディっ!!
 ゼフェルは口から飛び出しそうになった言葉を無理やり押し込めたが、なんだか後ろの
ほうからも同じような気配が感じられたような気がした。
 ディアでさえ、目を丸くして言葉を失っている。
 マルセルが、きょとんとして、そうなの?と聞いた。
「ぶっ。──きゃははっ☆」
 突然オリヴィエが笑い出した。ジュリアスが渋い顔で睨むのも気にせずわらいころげて
いる。
「ラーンディ、そんな必死になって言うことでもないでしょ〜。──ふふっ、マルちゃん、
そうだよ。あんたの目にどう映ってるかは知らないけどね、私たちけっこー仲イイんだよ
ん♪ ──ね、ルヴァ?」
「えっ、あ、そ、そうですねー」
「ねぇ、ジュリアス?」
「うむ……」
「だからねマルちゃん、今日は新しく仲間になったあんたの初めての誕生日なんだから、
みんなそろってお祝いすんのはあたりまえ、執務なんかよりもず〜〜っと大事なんだよ☆」
これ以上オリヴィエを放っておくと何を言い出すかわからない、とジュリアスが立ち上
がった。眉間のしわをいつも以上に深くして、いかめつらしい表情のまま口を開く。
「マルセル。──ランディやオリヴィエが今言ったとおりだ。今日の午前中はそなたの誕
生日を祝うための時間だ、気兼ねなく楽しむが良い」
「ジュリアス様……。はい、ありがとうございます!」
「ジュリアス様……! さ、マルセル、行こう」
「うん!」
 ランディに促され、皆の待つテーブルに向かう。最後に席についたディアが、皆を見回
して口を開いた。
「さぁ、皆さん、私たちの新しい仲間がこの世に生まれた日を、皆でお祝いしましょう。
お料理も、デザートもありますからね、好きなだけどうぞ。──では、マルセルの誕生と
陛下の御世を祝して、」
「乾杯!!」


                    *                  *                  *


「────どうだい? 楽しんでもらえたかな?」
「うん! びっくりしたよー。教えてくれればよかったのに」
「ははっ、せっかくだからさ、内緒にして、驚かせてやろうかと思って」
「もうっ。──でも知らなかった。ぼく、ランディやゼフェル、ルヴァ様リュミエール様
とはお話するけど、他の方とはほとんどお話したことなかったから、ちょっと近寄りがた
く思ってたんだ。でも、ほんとはみんな仲いいんだねっ!」
「えっ。あ、ああ、まあな」
 ハハハ……とランディは乾いた笑い声を上げた。隣のゼフェルはしれ〜っとしてあらぬ
方を向いている。
「どうしたの?」
「え、いや、なんでもないよ、はは……。────そ、それよりさ、だから、家族のみん
なとはもう会えないけど、これからは俺たちがみんなでマルセルの誕生日を祝うからさ、
な?」
「うん、ぼく、ランディたちがいてくれればさみしくなんかないよ」
 ランディに微笑みを返して、マルセルはあっ、と声をあげた。
「ねぇねぇ、次はいつ? 次は、いつ誰のお誕生日なのっ!?」
 わくわくしているマルセルに、ランディとゼフェルは顔を見合わせた。
「えっと……次は……」
「……ランディ、おめーじゃねーのか」
「えっ? あ、そうか」
「本当っ!? すごい!! じゃあね、ぼく、お返しにこれから一年間みんなのお誕生日
にお花とお菓子を贈るよ!!」
 途端、ゼフェルが露骨にイヤそーな顔をした。
「ンなモンいらねーよ、花なんか飾ってどーすんだ。それにオレは甘いモンはキライだ!」
「ゼフェル、そんな言い方はないだろう!? せっかくマルセルが……」
「えっ、ちょっちょっと待ってよ、そんなことでケンカしないで。──ゼフェル、じゃあ
甘くないものならいい?」
「お、おう……」
「ぼくね、故郷にいたときも、家族やお友達のお誕生日には、お菓子を作ってあげてたん
だ」
 そう言って微笑むマルセルには、もう悲しみの影は見られない。ランディたちは、内心
ほっとため息をついた。
「そうだったんだ。じゃあ、楽しみにしてるよ!」
「……しょーがねーな、もらってやるよ」
「うんっ♪」
 かくして、聖地では毎年、それぞれの守護聖の誕生日には9人勢ぞろいで誕生会を開く
という習慣ができあがったのだった。
 蛇足ではあるが、この後ランディはジュリアスの執務室に呼ばれ、以後軽はずみな言動
は慎むように云々と、お説教を頂戴したとのことである。


                                        fin.


こめんと(by ひろな)          2001.2.27

マルセル君のお誕生日企画話第2弾は、ほのかに(?)ランマルな予感のするこんなお話になりました。そして熱血ランディくんが大活躍♪
守護聖総登場(っつってもオスカーは名前だけ。ま、第1弾の方で主役さんなので、こっちではいいやと)、プラス、初めてディア様が登場してくださってます。ついでにジュリ様の回想の中でちらっとカティスおやじまで! 10人くらいじゃもう苦にもならない自分がコワイ(苦笑)。
やっぱりメインはお子様s、あとオリヴィエ様も出しゃばってきてますねー(笑)。
しかしランディ、さすがだ……(なにがだよ)




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