せつなさの予感
その人は、僕とはあまりにもかけ離れた、異質なモノのように感じられた。
土の中で暮らす生き物が陽光を避けるように、僕は彼を避けていたのかも知れない。
けれど、やがて少し目が慣れてくると、今度はその太陽に焦がれるようになった。
結末は、最初の数ページを読んだだけでもう明らかだ。なのにその先を綴ろうとする僕
がいる。愚かなことだとわかっているのに。
太陽に恋をした吸血鬼よりも滑稽だよ。彼の微笑みは、僕には眩しすぎる。
僕は、彼の輝きを少しでも落としてやろうと、様々な棘を投げ氷のナイフで切りつけ、
けれどその輝きは少しも衰えることはなく、むしろより強くより確かに、僕の心を蝕んで
いく。
ある日僕は、それはもう本当に唐突に、自分が光の中にいることに気がついた。眩い光
が僕を包み、僕の心を照らし出す。
白日の下に晒されたその想いは、どこかで自覚していたものではあったけれど、それと
同時に思いがけない事実を僕に教えた。
それは、手に入れてはいけない、太陽の破片。
わかりきった結末以上に、それは恐ろしかった。
幸せというものは、得られなくても不幸ではないけれど、失ってしまうのは、とても不
幸なことなんだ。
その結末は、束の間の幸せの代償としてはあまりにも大きすぎる。
だって、あの人は、どうせすぐに僕の前から姿を消してしまう。
いや、姿を消すのは僕のほうだね。あの人にとってはほんの短い人生の一部分、その束
の間の時に、僕はこの世からいなくなるだろう。
もしかすると、瞬きひとつの刹那の時間に。
その予感は、確実に忍び寄ってきていた。
逃れられない運命のように。
気がつくと、恋い焦がれた青空が目の前にはあった。
あたたかな日の光が僕を包み、毅い眼差しが僕を貫く。
逃れられない、運命のように。
そして始まるせつなの予感に、僕は目を閉じ、身を投げ出した。
fin.
|