* * *
マルセルが目を覚ますと、見慣れない景色が目に映った。数度瞬きをして、ゆっくりと
起きあがり、首を傾げて、ようやくここがオスカーの寝室であることに気づく。と同時に
昨夜の記憶が思い出されて、マルセルは一人赤くなった。
はっとして隣を見るが、誰もいない。オスカーはもう起き出して他の部屋にいるようだ。
安堵と残念な思いとが胸の奥で混ざり合い、小さなため息となる。
と、かちゃりとドアの開く音がして、マルセルは慌ててシーツを被り、ベッドにもぐり
こんだ。
「お。──なんだ、もう起きてたのか」
入ってきたのは、オスカーだった。羽織っただけの白いシャツから、逞しい身体が見え
隠れする。
真っ直ぐベッドに歩み寄ると、オスカーは身をかがめてシーツを引き下げ、マルセルの
こめかみにキスをした。アイスブルーの虹彩が、朝の空のようだ。思わず見とれて、マル
セルはぼんやりとそんなことを考えた。
「おはよう。──よく眠れたか?」
こくんと頷きながら挨拶を返すと、それは良かったとオスカーが笑った。
「喉が渇いているだろう、水でも飲むか?」
そう言われてみると、確かに喉の渇きを覚えた。起きあがってグラスを受け取ろうとし、
服を何も身につけていないことを思い出す。わずかに赤くなったマルセルに気づいて、オ
スカーがこれを着ればいいと白いローブを投げた。
受け取って広げ、一瞬、あれ?と思う。
袖を通してみると、やはりそれはマルセルにぴったりのサイズだった。
「オスカー様、これ……」
・・・・
「ああ、おまえのだ。──フッ、紳士を演じておまえを帰す一方でこんなものを用意する
とは、我ながら矛盾していると思ったが、……役に立ってしまったな」
苦笑混じりにオスカーが白状した。いつか、マルセルがこの部屋に泊まる日のために用
意していたのだと。オスカーの想いを改めて感じ、マルセルはローブごと自分の胸を抱き
しめた。
「おまえさえ良ければそろそろ朝飯にしようかと思うんだが、……起きてすぐに食べられ
るか?」
「はい、平気です。──あれっ? オスカー様、今日って日の曜日じゃ」
日の曜日の朝は、ランディに剣の稽古をつけることになっているはずである。
「ああ、そのことだがな」
ため息をついてオスカーが眉を上げる。
「昨夜のうちに、今日の稽古はなしにしてもらうよう遣いを出そうと思ったんだが、──
先を越されたぜ」
言って、オスカーは大げさに肩をすくめた。
「え?」
「ランディの方から、稽古をなしにしてくれとの伝言がすでに届いていた。──おそらく
ゼフェルの入れ知恵だな」
気を利かせたつもりなんだろうが……、まったく、あいつら人のことを何だと思ってる
んだ。ぼやくように言いながら、オスカーはどこか嬉しそうだ。
「と、いうわけで、俺の方は今日は丸一日フリーなんだが、おまえは確かリュミエールの
ところに花を届けるんじゃなかったのか?」
「あっ、そうだ!」
「先に花を届けに行った方が良さそうだな。それから飯を食って、──リリィもつれて、
どこかでのんびりひなたぼっこでもしようか」
「はい!」
元気良く返事をして、マルセルがベッドから降りる。と、オスカーの胸に抱き込まれた。
「せっかく着てもらえたのに、少し残念だな。──また着てもらえるか?」
耳元で低い声が囁いて、目を合わせてオスカーが尋ねる。その問いの意味するところを
察して、マルセルがかぁっと赤くなった。無言のまま、小さく頷く。
「フッ、いい子だ。──下で待っているから、着替えたら降りてくるといい。俺もお供さ
せてもらうぜ」
掠めるようにキスをして、オスカーは部屋を出ていった。
どきどき音を立てる胸を押さえ、マルセルはほうっとため息をつく。
服を手に取ろうとして、その上にカードが乗っているのに気がついた。
Happy Birthday to Marcel,
俺からのプレゼント、喜んでもらえたようで俺も嬉しいぜ
素敵なお返しももらってしまったしな
いつか2人で遠乗りに出かける日を楽しみにしているぜ
Oscar
「オスカー様……」
カードを胸に抱いて、マルセルの頬に微笑みが浮かぶ。
もっともっと、あなたのことを知りたい。かっこいいところもお茶目なところも、もっ
と、全部。あなたも、ぼくのことそんなふうに思ってくれてたらいいな。
今日のあなたは、どんな新しい一面を見せてくれるんだろう?
カードにキスをしてテーブルの上に置くと、マルセルは服を着替えオスカーの待つ玄関
へと駆けていった。
fin.
こめんと(by ひろな) 2001.2.27
マルセルくんBD企画話第1弾、兼、オスマルストーリー第2弾、『Je te veux(ジュ・トゥ・ヴー)』です。タイトルは、サティの有名なピアノ曲から。日本語だと『あなたが欲しい』。きゃーっ、オスマルってば〜!(笑)
どっちかというと、マルセルの言葉ですな。お話の中ではオスカーに言わせていますが。
今回、初めてお話の中に隠しページ作ってみました。や、最後まではやってないので(実は)そーゆー意味では隠す必要はないんですが、エッチシーンがあるから読めないと言う人が出てしまうのはちょっとさみしいな、と。……うちに来る人にはあまりいない?(苦笑)
そのシーンがなくてもお話としては成立するし、2人の心情はわかってもらえると思うので、こういう形に。──なんか珍しく(?)あとがきっぽい、っつーか、言い訳めいてる?
ところで。
冒頭オスランちっくだし、その後はかなりゼフェラン度高いし、ある意味この話ってばめちゃくちゃ貴重です(爆)。
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