Who's flower?
補佐官様は、アメリアの理想の女性である。
初めて宮殿に上がった日、たまたまその姿を見かけ、声をかけていただく機会のあったアメリアは、そのあまりの美しさと気品に、彼女こそが女王陛下その人なのだと勘違いをした。
補佐官様はくすりと笑ってアメリアの間違いを教えてくれたが、その優しい物言いに、またアメリアは感動した。
「アメリアって、ホント補佐官様のファンだよね……」
苦笑交じりに、しかしいくらかの賛同を込めて、同僚たちがそう口にすると、アメリアは決まってこう答えるのだ。
「もちろん! 補佐官様は女性の中の女性、私の理想の女性よ!」
我が事のように自慢げに口にするアメリアの胸の中には、しかしひとつの疑問が隠されている。
宮殿に仕えるようになって初めて知ったことだが、女王とは複数の女王候補の中から選ばれるらしい。そしてその補佐官は、女王の依頼もしくは立候補により、その他の候補の中から選ばれるのだと。
と、いうことは、アメリアの憧れる補佐官様は、惜しくも(?)女王には選ばれなかった、ということになる。
あの補佐官様が適わないなんて、女王陛下って、一体どんな方なんだろう……。
それがアメリアの疑問だった。
「あ、アメリア、補佐官様だよ!」
隣を歩いていた同僚キュイの声に、アメリアはばっと振り向いた。その視線の先、中庭を挟んだ回廊の向こうには、確かに補佐官様が、胸に花束を抱えて歩いているのが見える。淡いオレンジ色の、小さな愛らしい花をメインに、白やピンクを加え、とってもかわいらしい作りになっている。
アメリアは、違和感を感じて首を傾げた。
アメリアの思う補佐官様は、白い薔薇や百合といった花が似合う人で、好みもそういう、上品で大人な女性なのだ。
「あの花束……どうしたんだろうね……」
誰かにあげるのか、それとも誰かからもらったのか。
立ち尽くしていると、突然肩に手を置かれた。
「よそ見していると危ないぜ?」
「っきゃああ! ──オ、オスカー様!」
そろって悲鳴を上げ、振り返ると、快活な笑い声を立てる炎の守護聖の姿があった。
「お嬢ちゃんたちの熱い視線を独り占めにするとは許せないな。いったいどこの……、と、なんだ補佐官殿か」
マドンナ相手では仕方がないな、と肩をすくめる仕草もサマになっている。と、補佐官様の腕の中にある花束に気づき、オスカーが片眉を持ち上げた。
「あの花は……。そうか、もうそんな時期か」
「オスカー様、あの花束、ご存じなんですか!?」
「ああ、まぁな。だが可愛いお嬢ちゃんの頼みでも、これはさすがに教えられないな」
落胆を露わにしたアメリアに、オスカーは苦笑した。傍らでは、キュイがオスカーの様子に企みを感じつつ、しかしやはり興味をそそられたように二人を見比べている。
「仕方ないな……。すべてを教えるわけにはいかないが、特別に少しだけ教えてやろう」
だから元気を出せ、とウインクされて、二人の頬が赤く染まる。
「あの花はな、補佐官殿の“大切な人”が大好きな花なんだ。だからこの時期にはいつも、彼女はああして花束を作って持っていくんだぜ」
「大切な……?」
「ああ。それが誰か、は、……まあそのうちお嬢ちゃんたちにもわかるだろう」
両の手を伸ばして二人の頭を撫で、オスカーはそのまま去っていった。
「補佐官様の、大切な人……?」
こうして、アメリアの疑問はふたつに増えてしまったのであった。
fin.
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