暗い夜道を、小さな灯りをもってどきどきしながらマルセルは歩いていた。 あのカードの主がランディだったら、きっと何か素敵なことを計画しているに違いない。 けれどもしそうじゃなかったら……。 どちらにしろ、心臓が壊れそうなくらいどきどきすることには変わりはないのだ。 やがて、目指す木が見え、マルセルは木にもたれるように座る人影に気づいた。俯いて いて、顔は見えない。 「……ラ、ランディ……?」 問いかけた声は、自分でも情けないと思うくらいに心細げだった。その人は、ぱっと顔 を上げ立ち上がると、あっと言う間に駆け寄りマルセルを胸の中に包み込む。 良く知った石けんの香りがマルセルを包んだ。 ほっとして、自然と頬に笑みが浮かぶ。しばらく温もりを抱きしめて顔を上げると、ラ ンディの笑顔が自分を見下ろしていた。 「マルセル、──良かった、来てくれたんだね」 頬に添えられた手が温かい。 そんなことを思っているうちに、いつの間にかランディの顔がすぐ近くにあった。 ──え……? 口づけられたのだとわかって、マルセルの顔がぽんと赤くなる。 「ちょ……っ、ランディ、なに……?」 「クリスマスの日に、やどり木の下で誰かに会ったらキスしていいんだよ」 「え……?」 「今日、書庫整理してた時に見つけたんだ」 そう言えば、何かの本をじっと見ていたと、マルセルはぼんやり思った。 「だからさ、────ほら」 ランディの指差す先を見上げると、確かに樫の木の葉とは違うシルエットが見える。黒 い葉影の向こうに星々が透けて、天然のクリスマス・ツリーのようだ。 「キレイだろう? マルセル、きっと喜ぶと思って。──いつもさ、ピクニックとか出か けて、素敵な景色を見て、……キスしたいなって思っても、外だと誰に見られるかわから ないだろう? でもここなら、今日ならそんなの気にしないでいいんだ」 額に軽く口づけられ、マルセルは赤くなって俯き、上目遣いにランディを見上げた。 「ランディったら、そんなことのために僕を呼びだしたの……?」 「うん。──ごめん、ここに来る道、こわかったよな。でも、一緒に来るんじゃなくて、 ここでマルセルに会いたかったんだ」 「もう……」 呟いて、ランディの身体にしがみつく。 こんな寒い日に、いつ来るかわからない自分を、一体どれだけ待っていたのだろう。そ んなにまでして、この景色を見せたくて、今日この場所でキスをしたくて。 背中のマントを掴んだ手に、ぎゅっと力がこもる。 耳元で優しい声が名前を呼んで、温かい手がそっと髪を撫でた。 「マルセル……、キスしてもいい……?」 こくんと頷いて、マルセルはそっと身体を離した。頬に触れたランディの手は、こんな 夜でも温かくて。 「マルセル、好きだよ……」 囁きとともに唇が触れた。優しく唇を押しつけて離し、微笑んでまた口づける。 暗い森の中、星空に飾られた木の下で、ついばむキスをくり返す。 「ランディ……」 つないだ手が、触れた唇が、だんだん熱を帯びていく。 寒ささえ忘れて、二人はキスをしていた。 「はぁ……っ」 マルセルが大きく息をついて、ランディの胸に顔を埋めた。その背をそっと抱きしめて、 ランディが呟く。 「なんか……全然寒くなくなっちゃったな」 「ふふっ、……そうだね」 「もう少し空を見て、そしたら帰ろうか」 「うん」 樫の木にもたれるように、ランディが腰を下ろす。そのランディにさらにもたれるよう にして、マルセルはランディの腕の中に収まった。 「すごいね……。聖地の中のキレイな景色、けっこうたくさん見つけたと思ったけど、こ んなところがあったんだ……」 「そうだな。──また今度、ピクニックに行こうな! もっともっと、キレイな場所をた くさん見つけよう」 「うんっ! ──ふふっ、楽しみだな♪ 今度はお弁当何にしようか?」 「サンドイッチがいいな。パンとフィリングと別々に持っていって、その場で挟んで食べ るヤツ。ツナとかチーズとか、ローストビーフとか、」 「トマトとか?」 「マルセルッ!」 「うふふっ♪ だってランディってば、すっごい顔でトマトとにらめっこするんだもの。 ──お弁当と、おやつも持っていこうね、」 「ああ、」 「「チェリーパイ!!」」 声を揃えて言い、二人は同時に吹きだした。 「マルセルの作るパイって、ホントにおいしいよな!」 「どうしてか知ってる?」 「え?」 「あのね、──僕がランディのために作るからだよ」 声をひそめて囁かれて、ランディが一気に赤くなった。夜目には顔色はわからないけれ ど、背中に感じる体温が、少し上がった気がする。 「……っ、」 声もなく狼狽えて視線をさまよわせ、やがてランディはため息をついた。大きく呼吸す る胸の動きに会わせ、マルセルの身体もゆっくりと揺れる。 「ランディ……?」 振り向こうとして起こしかけた身体を引き戻された。再び胸の中に収まった身体を、後 ろからランディが抱きしめる。 「マルセル……好きだよ……」 「うん……。僕も、ランディのこと好きだよ……」 呟いて、マルセルは身体に回されたランディの腕をそっと撫でた。 「──そろそろ、帰ろうか」 「うん」 立ち上がり、手をつないで歩き出す。 夜空に瞬く星と森の木々が、二人の後ろ姿を見送った。fin. ![]() こめんと(by ひろな) 2000.12.25 (←ってことにしといてねん) じゃじゃ〜ん! お久しぶりのランマルです! しかも聞いてよこの話! 今朝思いついて、行き帰りの電車&家で書いて、がーッと打って今日UP!っていう、ものすごい話なのよ!! っつーか、ばか?(笑) いやね、りっひーがさあ、クリスマス創作のセイゼフェの裏カップリングでランマル書いてくれてさぁ。もうモエモエ。ランマル熱一気に再燃!! ちょうど良いネタ(宿り木)もあったことだし、と勢いで書いちまいました〜♪ いっやー、楽しかった♪ Happy Lovely Christmas!! |