オリヴィエ様の優雅な日常(ウソ)夢の守護聖オリヴィエの、一日の始まりは思いのほか早い。 ぱたぱたぱた…… 「わんっ☆」 オリヴィエの眠るベッドの縁に手をかけて、盛大にばふばふ尻尾を振りまくっている、 この犬のせいだ。 「わん、わんっ!」 「んん〜〜、ランディ、もう少し……ぎゃあ!!」 べろんっと顔を舐めあげられて、オリヴィエが悲鳴をあげた。びっくりして飛び退いた 栗毛の犬は、一度首を傾げたあと今度はおずおずと近寄ってきて、くぅ〜んと心細げに鳴 いた。まるで「ごめんなさい」と言っているかのようである。 この犬、最初は餌をもらいに来ているだけだったのが、いつの間にかオリヴィエの館に 居着いてしまったのだ。本当の家があるのかどうかわからないが、時々どこか余所でも遊 んでもらっているらしい。最初から妙に人懐こく、撫でられるのが大好きだった。外見も さることながら、呼ぶと嬉しそうに駆け寄ってくる様子が、新入りの風の守護聖に似てい るからと思って付けた名前だったのだが、今ではちょっと失敗したかとオリヴィエは後悔 していたりする。──なんというか、少々落ち着かない。 「ああ、大丈夫だよ、怒ってないから。ちょっとびっくりしたけどさ。──ほら、おいで」 手を差し伸べると、ランディはぱっと駆け寄ってきた。ふぁさふぁさと尻尾が揺れる。 ふわふわの毛並みを撫で頬にキスをすると、オリヴィエは伸びをしてベッドを抜け出した。 「さて、あのコたちを起こしに行かないとね」 「わんっ!」 元気よく返事をすると、ランディは隣の部屋へと駆けていった。オリヴィエも後に続く。 隣はオリヴィエの私室、彼が館での大半を過ごす場所だ。極上の座り心地を誇るソファ が特にお気に入りで、ここでくつろぎながら詩集を繰ることも多い。しかしそのソファは、 現在、半分ほど使用不可能な状態になっている。 「──まーたこのコたちは……」 ソファの上には、まだ一人前になりきれていない大きさの猫とうさぎが仲良く寄り添っ て眠っていた。 うさぎの方は、クラヴィスの館の庭で、うっかりクラヴィスから押しつけられてしまっ たという、オリヴィエにしてはかなり不本意な経緯からこの館に居着いている。白うさぎ、 と言うには少々薄汚れている(ように見える)銀に近い灰色の毛で、眼の色ははうさぎら しく真っ赤だ。クラヴィスの館で寝こけていたところを捕獲されたこともあり、ちょうど 当時やってきた反抗期真っ盛りの鋼の守護聖からとって、ゼフェルと名前を付けた。何か と構いたがるランディ(犬)にうさキックを喰らわすところも、名前のせいかどうかは知 らないが、よく似ている。 猫の方は、つい一月ほど前、ゼフェルがどこかから連れてきたのだ。最初はゼフェルと 同じくらい薄汚れた灰色だったのだが、嫌がるのを無理矢理洗ってみたら、なんとも見目 麗しいシャム猫になった。つんとすました青い眼が誰かさんを思い出させてオリヴィエは 嫌な予感がしたのだが、ランディが例によって懐っこく近づいたときに、ゼフェルのうさ キックより素早い猫パンチをお見舞いした時点で名前は決定した。この猫、オリヴィエが 特に気に入っている服“だけ”をひっかいてくれるという特技を持っている──名前を、 セイランという。 「ほら、あんたたち、起きなさい」 声をかけてみるが、それで起きるようなヤワな神経も繊細な心遣いも持ち合わせてはい ない。いつものようにゼフェルがセイランを守るように(とはいっても、傍目にはしがみ ついているようにしか見えない)ひっついて、すやすやと眠っている。 どうするの?と尋ねるようにランディがオリヴィエを見上げて鳴いた。20回ひっかか かれてさすがに学習したらしく、顔を近づけて2匹を起こすということはしない。 う゛〜んと呻って、オリヴィエは2匹を見下ろした。やがて片手を伸ばしてゼフェルの 首をいきなり掴む。そのまま“猫つかみ”でオリヴィエはゼフェルの身体を持ち上げた。 後肢が浮いた時点でゼフェルは目を覚まし、突然の理不尽な状況を悟ると暴れ出す。う さキックを腕に喰らう前にぱっと手を放し、オリヴィエはソファの上に落ちたゼフェルの 耳の間を指先で撫でた。 「おはよ、ゼフェル。──さ、セイランを起こしてちょーだい」 嫌そうにオリヴィエを見上げて、仕方なくゼフェルはセイランに鼻先を近づける。 「起きたらふたりでおいで。ごはんだよ」 そういうと、オリヴィエはランディを連れ、庭に朝の散歩に出かけた。 「────やっぱりね……」 帰ってくると案の定、2匹は並んで再び寝こけていた。今度は2匹を同時につまみ上げ、 床へと乱暴に放り出す。抗議の声を無視して皿を前に置くと、2匹は渋々といった様子で 餌を食べ始めた。 「はい、ランディ。あんたはこっちだよ」 オリヴィエは、食卓につくと自分の椅子の横に皿を置いた。すぐに飛んできて、けれど ランディは必ず一度オリヴィエを見上げる。食べていいよと言われ、オリヴィエが紅茶を 一杯口にするのを見て初めて口をつけるのだ。なんでそんな律儀なトコまで似てんだろー ねー、と思いながらの朝食は、なかなか楽しい。 それから身支度を整え出仕するのが、オリヴィエの朝の習慣である。 * * * 「おはようございます、オリヴィエ様!」 さわやかな朝の空気を満喫しながら歩いていると、前方から元気に走ってくるランディ の姿が見えた。 「おはよう、ランディ。──朝から走り回ってると、またジュリアスに怒られるよ」 「あっ、しまった。すいません、あなたの姿が見えたから、つい……」 髪に手をやり照れる姿に眼を細め、オリヴィエはすっとランディに顔を寄せた。日なた の匂いのするくせ毛に半ば隠された耳にキスをする。 唇を離して微笑むと、ランディはぼんっと赤くなった。 「オッ、リヴィエ様っ!? なんてことするんですかっ!?」 「朝のアイサツだよん♪ ──じゃーね、バイバイ☆」 ぱちんと音のしそうなウインクを投げて、オリヴィエは真っ赤になって硬直しているラ ンディの頭を撫でてその場を去った。 一仕事終え、息抜きがてら森へ出かけると、木の幹に寄りかかって本を広げる感性の教 官の姿があった。 「はぁい、セイラン♪ こんなトコで会うとは奇遇だねぇ」 「──今度はオリヴィエ様ですか。今日は厄日かな、さっきから邪魔ばかり入って、ゆっ くり本も読んでいられないよ」 「あっそ、それは悪かったね。──で、そのあんたの横で寝てるノラうさぎはジャマじゃ あないんだ?」 横、と言うよりセイランの膝の上で寝ているのは、言わずと知れたゼフェルである。真 剣に寝入っているらしく、ぴくりとも動かない。 「昨夜また徹夜したとかで、全然起きないんですよ。僕としても、正直なところそろそろ 脚がつらいんですけどね、ここに置いていくと誰に何をされるかわからないし、仕方なく つき合ってるだけです」 「ふうん。あんたへの誕生日プレゼントでも作ってンじゃないの?」 「この人がそんな殊勝なヒトに見えます?」 「さーね。──ま、寝かしといてやるのもいいけどさ、少しは仕事しなって言っといてよ。 ジュリアスの機嫌が悪くなると、こっちにまでとばっちりが来るんだからさ。遊び友達も 取られちゃうし、いいことナシだよ」 「はいはい、努力はしてみますよ」 「よろしく頼むよ、シャム猫ちゃん♪」 「はぁ?」 「ふふっ、なんでもないよ、こっちの話☆」 不良うさぎにもよろしくね、と指を振って、オリヴィエは森を後にした。 「さーて、と。そろそろ戻って仕事でもしようかな。お昼になれば、またおっきい犬が飛 んでくるしね☆」 呟いて、オリヴィエはかざした手の先の太陽を見上げた。 つ・づ・く☆(ウソ) こめんと(by ひろな) 2001.5.13 サークル『犬☆ネコ☆うさぎ』が発足して、最初のイベント参加♪ということで、何か記念本を作ろうということになり、せっかくだから二人のメインカップリングで……と。さらにサークル名にかけて、……とやっていたら、こんな話に(笑)。 続編(?)『ランディくんの元気な日常』『ゼフェル君の天邪鬼な日常』『セイランさんの詩的な日常』が、出るかどうかは…………あなたしだい♪(ウソ) |