第1回目はフレデリック・ディーリアスについてです。

1.フレデリック・ディーリアス
  フレデリック・ディーリアスは1862年1月29日に英国ヨークシャー州のブラッドフォードに生まれた
  作曲家で、放浪の青年時代を送り、1903年にパリ近郊のグレ=シュール=ロアンの邸宅に隠遁、
  後半生を作曲と自然に捧げ、1934年6月10日に同地で世を去った方です。
  さて、その作品ですが、交響曲のような大作志向ではなく、小品が多いです。エリートの雰囲気に
  は最も遠いところにあるような作品で癒しの要素が強く、何も主張せずただそこにたたずんでいるか
  のような曲想です。(かといってサティやドビュッシーの作風とは全く異なります。)
  私が好きなのはその中でも「春初めてのカッコウを聞いて」や「河の上の夏の夜」といった曲ですね。
  身を浸すように聴くのがよいと思います。CDはサー・トーマス・ビーチャムが指揮したロイヤル・フィ
  ルハーモニー管弦楽団のものが録音が1950年代で古いことを割り引いても優れた演奏だと思いま
  す。


クラシック音楽の話をしていて残念に思うことがあります。それは日本ではクラシックは敬遠気味に扱わ
れるか、あるいはオタクかお高くとまったいけ好かない人物がクラシックファンであることが多いことです。
(私も傍目にはそう見えてたりするかも知れませんけど。)
もっと気楽に、しかし真面目に面白く語りたいですね。
第2回目は誰にしましょう。順当なところでモーツァルトにしましょう。

2.ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
  モーツァルトはもう細かい説明が不要なほど有名な作曲家ですが、ピアノ曲、歌劇、交響曲、協奏曲、
  管弦楽曲、器楽曲、声楽曲・・・・・etc.とあらゆる分野に名曲を残されてます。
  私はその中でも交響曲第41番「ジュピター」が大好きです。
  わくわくする第1楽章の冒頭に始まって、終楽章の壮麗かつ天真爛漫なサウンドは何度聴いても素晴
  らしいです。
  名曲だけに様々な名盤がひしめきあっていますが、中でもお気に入りなのがクラウディオ・アバドがロ
  ンドン交響楽団を指揮したCD(グラモフォン)です。木管の嬉しそうな表情が日々の疲れを吹き飛ばし
  てくれます。
  また、このCDは有名な交響曲第40番も収録されていてそちらも名演奏です。


ここ最近、すっかり寒くなりましたね。(今回の原稿を書いているのは2002年1月29日です。)こんな日
は思いきってシベリウスの曲を聴くというのもいいものです。

3.ジャン・シベリウス
  オーロラと森と湖とムーミントロールの国フィンランドの作曲家シベリウスの曲は日本の楽壇でも人気が
  高いようです。私はその中でも「カレリア組曲」の行進曲に惹かれています。
  一度聴けばそのメロディーがいつまでも頭に残る位、この曲はおいしいです。
  CDではネーメ・ヤルヴィがエーテボリ交響楽団を指揮したものがフォルテの表現の中になんともいえな
  い静寂感があってよいと思います。
  あと、シベリウスの交響曲の全集ですが、パーヴォ・ベルグルンドが1980年代にヘルシンキ・フィルハ
  ーモニー管弦楽団を指揮したCDはもう簡潔かつ無言の中に類まれな魅力と情報量が組み込まれた大
  変な名盤だと思います。ただし、その情報を読み取るには聴き手の側にもそれなりの資質が必要なよう
  です。


私は今、ブルックナーの交響曲に傾倒しています。
その中でも特に交響曲第8番や第9番のような曲に惹かれていますが、今回はもっとポピュラーな交響曲第
4番「ロマンティック」についてお話しします。
この曲は「ロマンティック」といっても別に少女趣味な曲な訳ではなく、雄大なブルックナーの交響曲作品群
の中でも特に親しみやすい構成と旋律美に満ちている作品であり、それだけに後期の作品と比較して飽き
がきやすい弱点はありますが、単純な人気度や理解のし易さではブルックナーの作品中一番ではないかと
思われます。
推薦盤として、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、ザールブリュッケン放送交響楽団のCDを挙げます。
アルテ・ノヴァレーベルの廉価盤で、国内盤だと1,000円なのですが、演奏内容は決して侮れません。


私は中・高・大とテューバを吹いてきた(あっ、そこのあなた!デブだと思ったでしょ?実は私はデブではな
いのです。身長171cm、体重54kg)こともあってベルリオーズ以降の時代のフルオーケストラの曲が好
きだったりします。
今回はテューバが使用され始めた頃の曲でベルリオーズの「幻想交響曲」を紹介致します。

5.エクトル・ベルリオーズ
  フランスの作曲家ベルリオーズは27歳の時に英国の女優ヘンリエッタ・スミッソンに一方的に惚れ込
  んでしまい、その想いをこの「幻想交響曲」にしのばせました。
  一人の音楽家が女性に想い焦がれて阿片(アブねえな・・・。)を飲み、幻想空間や舞踏会や悪魔の
  サバトに迷い込むというイっちゃったとしか言えない標題交響曲のはしりと言える作品です。
  ベートーヴェンの第9交響曲のわずか6年後に書かれていることにまず驚かされます。
  (ちなみにベートーヴェンはテューバのためには一音も音符を書かずに他界しています。)
  なお、「幻想交響曲」でテューバが大活躍するのは第五楽章「ワルプルギスの夜の夢」においてです。
  当初はオフィクレイドという低音楽器に担当させていた箇所が現在ではテューバになり代わっています。

  さてこの曲の推薦盤ですが、シャルル・ミュンシュ指揮、パリ管弦楽団のCD(EMI)が録音の古い点が
  気になるものの、定評がある名盤です。
  これでは音が古すぎるというお方はロリン・マゼール指揮、クリーヴランド管弦楽団(テラーク)のCDが
  広大なダイナミックレンジと計算された熱狂ぶりでなかなかいけます。
  ただ、テラークという会社のCDの録音はダイナミックレンジと残響特性においては非常に優れているも
  のの、鮮明さを欠きますので鮮明な録音のCDをお求めの方はクラウディオ・アバド指揮、シカゴ交響楽
  団(グラモフォン)の端正かつ完璧なアンサンブルを楽しんでください。ただし、アバド盤はこの曲に不可
  欠のイっちゃってる要素が希薄ですのであまり音楽評論家の評価は高くありません。


ところで、テューバが活躍するオーケストラ曲って皆様、どんなのが思い浮かびますか?

主だったところではこんなところでしょうか?

リヒャルト・ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
グスタフ・マーラー:交響曲第1番「巨人」より第3楽章
      同     :交響曲第10番最終楽章(デリック・クック編曲による全曲版)
モデスト・ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)
グスターヴ・ホルスト:組曲「惑星」
イーゴル・ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」「ぺトルーシュカ」
レイフ・ヴォーン=ウイリアムズ:テューバ協奏曲へ短調

更に現代に近くなるともっと多いのですが、まずはこの辺でしょうね。
見てみると19世紀後半から20世紀になってやっと活躍の場が与えられたって感じですね。
これらの曲はまた機会を見て一曲一曲詳しく述べていきたいところですので今回はパスします。

で、今回は前半がのほほんで後半がブリバリな曲、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付」の解
説をば・・・・・・。

6.カミーユ・サン=サーンス
  この人の第3番の交響曲にはフルオケに2台のピアノ、そしてNHKホールに備え付けの小林幸子・・・
  い、いや、し、失礼!ホールに備え付けのパイプオルガンが演奏に加わっています。
  編成がバカでかいがゆえ、ほとんど演奏会のプログラムでは取り上げられませんが、前半がのどかで
  後半が・・・(それはもういいか。)な曲で、ド派手な外観とは裏腹に意外に古典的な均整美を持った曲
  です。
  推薦盤としては多くの方がシャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団のCD(ロンドン)を推して
  いらっしゃるようなのですが、私は少年時代によく聴いたテラークから出ていたユージン・オーマンディ
  指揮、フィラデルフィア管弦楽団のCDが好きです。
  オーマンディの盤は前半の物憂げなのほほんとした包容力あふれたあたたかみのあるサウンドがとろ
  けるように響き、後半の劇的な迫力は恐らくこの曲の数あるCDの中でも一、二を争う出来かと思いま
  す。(ただ、例によってこのテラーク盤、残響が長過ぎて低音部がダラ下がりの状態で、細部の録音が
  不鮮明です。歌謡曲ばかり聴いててクラシックのCDに慣れてない人は劣悪な録音だと思ってしまうか
  も知れません。しかし、テラークの録音って本当は実際の演奏会場で聴く生音に近いんです。)
  もうひとつ、トンデモ関係のCDとして(でもやはり無茶苦茶うまい演奏)ヘルベルト・フォン・カラヤン指
  揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(グラモフォン)のCDを挙げておきます。
  このCDは物憂げな感じがあまりなく、フランス音楽にしては厚化粧のし過ぎで、私はあまり好きな演
  奏ではないのですが、オルガンのウルトラマンのスペシウム光線みたいな轟音が爆笑モノで、これは
  別の意味でいいかもしんないです。(カラヤン氏は狙ってやったんでしょうかネ?)


先日、自動車を運転していてカーコンポに入れていたCDからサミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダ
ージョ」が流れ、涙が出てしょうがなかったので途中で曲を止めました。今回はこの曲についてです。

7.サミュエル・バーバー
  サミュエル・バーバーは1910年アメリカ、ペンシルヴェニア州ウェスト・チェスターに生まれ、1981年
  1月23日に癌のためニューヨークに没した作曲家です。
  バーバーが「弦楽のためのアダージョ」を書いたのは1937年10月のことで、もともと前年に書いてい
  た弦楽四重奏曲ロ短調の緩徐楽章を弦楽オーケストラ用に編曲し直したものです。
  アルトゥーロ・トスカニーニとNBC交響楽団が1938年11月5日にこれを初演し、当時29歳だったバ
  ーバーは一躍有名作曲家になりました。
  曲が有名になると、第二次世界大戦の戦没者を讃えるセレモニーや大統領や知名人の葬儀を報道す
  る際によくこの曲が使われました。
  バーバー本人は「葬式のためにつくった曲ではない。」と曲の扱いに不満を表明されてましたが、バー
  バー自身が他界した時にもレナード・バーンスタインがニューヨーク・フィルハーモニックの定期公演でバ
  ーバー追悼のため、この曲を演奏しました。
  その後、1986年の映画『プラトーン』でもこの曲が使用されましたが、私は個人的には映像とあまり合
  っていないのではないかと思っています。
  品格ある曲想が純な悲しみをうたいあげ、清潔この上ない弦のクライマックスを築き上げる弦楽オケの
  傑作です。
  現在入手出来るCDの中ではやはりバーンスタイン指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の
  CD(グラモフォン)が秀逸です。


前回が弦楽の美しい作品でしたので、今回はフルオーケストラによるシビアな作品といきますか。
ベラ・バルトークの「管弦楽のための協奏曲」です。

8.ベラ・バルトーク
  バルトークの音楽は最初は馴染みにくいかも知れません。特に「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音
  楽」は慣れないとただ不気味な曲に聞こえるおそれがあります。
  (芸術性では極めて優れた作品ではありますが。)
  それゆえ、バルトーク体験はこの「管弦楽のための協奏曲」から入っていくのが無難かと思います。
  まず、この曲の第1楽章の金管楽器の活躍には燃えてしまいます。第2楽章はややのどかですが、第3
  楽章の悲痛な響きと第4楽章の皮肉が混じった音楽を通過した後の第5楽章(最終楽章)のシビアな音
  の競演(饗宴でもあるかも)が聴き手をつかんでもう放しません。
  サー・ゲオルク・ショルティ指揮、シカゴ交響楽団(ロンドン)のCDが金管バリバリで突き抜けててお薦め
  です。


週休二日制の職に就かれてて、しかも2002年は月曜日が建国記念日にあたったため、この2月9日から11
日にかけては三連休だったという方々に今回は平日はビジネスマンで休日は作曲家だったチャールズ・アイヴ
ズの話をしようと思います。

9.チャールズ・アイヴズ
  アイヴズは1874年、アメリカ合衆国のコネチカット州ダンベリーで生まれ、1954年にニューヨークに没し
  た作曲家です。
  1898年にイエール大学の作曲科を卒業したアイヴズはニューヨークの生命保険会社に入社し、教会で
  オルガン奏者を務めるかたわら作曲をしました。そして1907年に友人と生命保険代理店を設立し、平日
  は保険募集を行い実業家として成功し、その一方で余暇を作曲のための時間に費やしたのでした。
  その間、アイヴズが作曲した作品は交響曲5曲、ピアノソナタ2曲、114の歌曲集をはじめ実に夥しい数
  にのぼりますが、その作品群は大規模な音群の対立・混合が見られ、新ウィーン樂派のヨーロッパでの
  活動など知ることなくこのような無調・復調の手法を先取りしていることに驚かされます。
  代表作としては交響曲第4番を挙げるのが妥当でしょう。第2楽章で賛美歌や俗謡の引用が絶え間なく現
  れ、拮抗する不協和音の中で音響のカオスを爆発させています。第3楽章で賛美歌「きたのはてなる」と
  「あまつみつかいよ」が主題と応答を担う荘厳なフーガを経た後、第4楽章で混声合唱のクライマックスに
  向け統合が成就する様はまさに圧巻です。
  推薦盤として小澤征爾指揮、ボストン交響楽団、タングルウッド音楽祭合唱団のCDがグラモフォンから出
  ています。


クラシック音楽でもっとも「えっち」な曲ってなんだろうなという話になることは普通はありませんが、当サイトで
はエロも扱おうと思います。(ただし、ソノ関係の写真はありません。)
クラシック界のエロ音楽と言えば、まず挙がるのがスクリャービンの交響曲第4番「法悦の詩」でしょう。

10.アレクサンドル・スクリャービン
   スクリャービンは当初ラフマニノフと並ぶピアノの名手として知られるようになりましたが、後に神智主義
   に傾倒していき、作品もまた伝統的な作曲技法から離れていきました。
   交響曲第4番「法悦の詩」は序奏とコーダを持つ大規模なソナタ形式による単一楽章の音楽で、交響曲
   というよりも交響詩に近い作品です。
   トランペットが甘美なソロを長々と担当し、オーケストラがエクスタシーに向かってじわじわと盛り上がっ
   ていく様はまさに男女の「えっち」の音楽です。
   案の定、初演はえらいことになったそうです。演奏禁止令まで出たとかいう話です。
   しかし、作曲者としてはこれは作曲家冥利につきるというものでしょう。「スクリャービンの『法悦の詩』は
   ワイセツな音楽なので演奏を禁止する。」というのは文字通りえっちな音楽と認められたことに他ならな
   い訳ですから。(でも、そんなにエロいかなあ・・・?)
   推薦CDはウラディーミル・アシュケナージ指揮、ベルリン放送交響楽団(ロンドン)を挙げたいです。
   リッカルド・ムーティ指揮、フィラデルフィア管弦楽団のCD(EMI)は実演だと恐らくエロースパワーにあ
   てられてしまうことでしょうが、残念ながらCDの録音状態がボケボケです。
   (映倫がボカシを入れたんじゃないだろうか・・・。)


しばらく多忙な日が続きまして更新が遅れておりました。m(_ _)m
私が休日にゆったり聴きたい曲としてレイフ・ヴォーン=ウイリアムズの「揚げひばり」という曲があります。
ヴァイオリンとオーケストラのロマンスというべきこの作品はレイフ・ヴォーン=ウイリアムズの隠れた名曲と
してファンに愛聴されています。

11.レイフ・ヴォーン=ウイリアムズ(以下RVW)と略します。
   RVWは近代イギリスを代表する作曲家で、組曲「惑星」で有名なグスターヴ・ホルストとほぼ同世代
   で親友の関係にありました。
   RVWの曲として最も有名なのは「グリーンスリーヴズによる幻想曲」で、そのためか小曲専門作家と
   思われがちなのですが、全9曲の交響曲やオーボエやバス・テューバのために協奏曲も作曲し、いず
   れも名作揃いです。
   そんなRVWの可愛らしい隠れた名作が「揚げひばり」なのです。一度だまされたと思って是非聴いて
   みてください。主旋律がダイレクトに心に染み入る魅力に富んでいます。
   推薦CDはネヴィル・マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団(英デッカ、国内だとキングレコード)の演
   奏が清潔感溢れる優等生的な演奏で安心して聴けます。


今回は作曲家ではなく、少年歌手Connor BurrowesのCDの紹介をしようと思います。

CDの名前は「ボーイズ・エアー・クアイア/少年のレクイエム」(VICP60068/ビクターエンターテインメント
株式会社)です。

曲目はG.フォーレの「レクイエム」から、ピエ・イエス、サンクトゥス、イン・パラディズムや、A.L.ウェッバー
のピエ・イエス、W.A.モーツァルトの「レクイエム」からラクリモサ等、全12曲が収録されています。

変声期前のボーイソプラノの歌声を知りたい方には、まずこのCDをお薦めしたいです。伴奏がシンセサイザ
ーなのが残念なのですが、特にフォーレのレクイエムは全曲ではないとはいえ、この曲が好きな方は必聴だ
と思います。私はこのCDの中ではB.ブリテンの「ミサ・ブレヴィスニ長調」より「キリエ」が好きです。

最近、癒しやリラクゼーション効果を狙ったCDが多数発売されていますが、このCDは恐らくそれらの中では
トップクラスのものだと思います。エンヤやクリムゾンを聴きなれた方々にとって、このCDはかえって新鮮に
聞こえるのではないでしょうか?


2002年6月9日(日)は日本人サッカーファンにとって忘れられない日になりました。ワールドカップ大会史上
初めて日本代表が勝利をおさめたからです。
今回はジャック・イベールの祝祭音楽「祝典序曲」について書こうと思います。

13.ジャック・イベール(1890-1962)
   フランスの作曲家、ジャック・イベールは生没年をご覧になっていただくとご理解いただけるかと思います
   が、クラシック史という意味においては現代といっても支障ない時代まで作曲活動をされていました。
   しかし、その作風は前衛的というよりは、緊密な形式の鋳型と響きの明晰さの中に自らのイマジネーショ
   ンを炸裂させるという、ある意味オーソドックスなタイプの音楽で、またサクソフォンを効果的に起用出来る
   作曲家でした。
   そんなイベールがそんな彼の作風の中でも特に緊密な構造美と管弦楽法を駆使し書き上げたのが「祝典
   序曲」でした。1940年、太平洋戦争が勃発する前年ですが、当時の日本は各国の著名な作曲家(イギリ
   スのB.ブリテンやドイツのR.シュトラウス等の作曲家)に皇紀2600年記念の祝典音楽の作曲を委嘱した
   のです。要請を受けたフランス政府はイベールに作曲を依頼しました。その時出来たのがこの「祝典序曲」
   です。ただし、1940年6月、当時ローマのフランス・アカデミー(ヴィラ・メディチス)の館長を務めていたイベ
   ールがフランスに帰国する際に自筆譜が紛失され、彼はもう一度楽譜を書き直したのでした。
   当時、ヨーロッパは第二次世界大戦の真っ只中にあり、パリがドイツ軍に占領されていたため、フランスで
   の初演はかなり遅れ、1942年1月18日にシャルル・ミュンシュ指揮、パリ音楽院管弦楽団によって演奏が
   なされています。
   中間部のサクソフォンの主旋律がこれほど素晴らしく格調が高い音楽は他に例がないのではないかと思い
   ますし、作曲の経緯からいって、もっと日本人が知っておくべき曲であると言えるでしょう。
   CDは佐渡裕指揮、ラムルー管弦楽団(NAXOS)の演奏を推したいです。同作曲家による有名曲、交響組
   曲「寄港地」もこのCDには収録されています。