由理「直季がいないんです。アパートにも帰ってないみたいだし、職場も無断欠勤してるみたいで…。最後に会って、直季とどんな話をしましたか。」
直季『ほんとは濱崎さんから、実那子のことかっさらってやりたかったんだと思う。だから…さよなら実那子。幸せになれよ。』
実那子「何を話したかは、あなたに言うことじゃない。でも1つだけ確かなのは、彼は多分もう二度と私の前には現れないと思う。それに、私はあなたが心配してるような意味では、彼を好きじゃないし愛してもいないわ。」
由理「(ちらっ、と実那子を見る)」
実那子「あなたは、彼を愛してる。そうよね?」
由理「(うなずく)」
実那子「だったらあなたが向かっていくのは私なんかじゃない。…違う? あなたはまっすぐ、彼に向かっていくべきだと思うの。彼の心を求めるばかりじゃなくて、彼を包んであげてほしい。」
由理「彼を…私が?」
実那子「(にこっ、と微笑み)大丈夫よ。心から愛してるなら、きっと伝わる。きっと彼に届く。そう信じて、二度とここへは来ちゃ駄目。あなたが行くところはここじゃないわ。」
由理「(うつむいて何か考え、やがて)もうすぐですよね…。実那子さんの結婚式。」
実那子「(微笑んで)ええ。私も、頑張って彼と幸せになる。」
由理「(ようやく笑顔になる)お仕事中すみませんでした。」(静かに頭を下げて出ていく)
実那子「(溜息)彼を、包んであげて、か…。」(ふっ、と自嘲めいた笑い。なぜか寂しそうな表情になって、由理の出て行った方を見る)
「―――なるほど、こういうことですか智子さんが言いたいのは。」
「なっ! なっ! なっ! これなら! 実那子の考え方がきちっと形になるこういうシーンがあれば、このあとのベランダでのモノローグもすごく意味を持つと思わねー? それより何より直季にまっすぐ向かっていく由理ね? 彼女の行動も説得力持つだろうよぉ! 実那子はヒロインなの。実那子が魅力的なら物語の全てがイキイキするの。由理に『私にだって直季を救える』って言われて、涙を流す直季もグッと現実味を帯びないかぁ?」
「いや、だからそう興奮しないで…。ほらっ、椅子を持ち上げない!」
「なんかさー! 実那子って『屁』みたいなんだよっ! 壊そうとした直季のたくらみも通じないほど頑丈に出来てるって、そういうキャラになってない! おじさん死んでから天涯孤独で生きてきた女ならね、もっとしたたかなはず!」
「まぁ…それはそうでしょうね。」
「それにさぁ。由理って23歳じゃん。4つも年下の女が自分にライバル意識ぶつけてきた時は、こちらとしては余裕を示すことで相手の上位に立つもんだよ。精神的にサッと、由理の『かみて』に回るっていうかね。女同士が2人きりの場なら、絶対そういうカケヒキがある。なのにそういう場所で、ただの優しいお姉さん演じるキャラなんてツクリモノ。要するに実那子にはなぁ、物語を引っ張るパワーがないの!!」
「だからその椅子を離して下さいってば。はいっ。いつまでもこんなとこで時間食ってる訳にいきません。さっ、戻りますよ。」
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