「さて…こっちの部屋で今日は何を話すつもりですか?」
「今回はねぇ…ちょっと気がひけるんだよね、直季のことだから。」
「今度は直季ですか。」
「うん。拓哉じゃないけどね。―――あのさぁ…この、病院から抜け出した後の、自分の部屋での実那子との会話ねぇ。ストーリーには直接関係ないとはいっても、キャラの心情を掘り下げるといった点では、どうしても不満なんだよね私。」
「不満て、どこがですか。」
「直季はさ、自分と実那子が、異母姉弟だって思ってるんだよね、今。」
「そうですね。」
「そしたらさぁ…。ベランダで家族一列、夕陽を眺めるのが夢だってくらい、『家族の団欒』てものに憧れを抱いてる直季ならね、実那子が血のつながった姉だってことに、もう少し感慨があると思うんだなぁ…。恋人とはまた違う意味でね。『同じ思い出をずっと持っていたい』っていう観念的なつながりはさ、『血』っていう、ある種絶対的なつながりの前では意味が弱いでしょう。推理云々を離れて、これが今回すごくひっかかった。」
「いや、そういう見方しちゃいけないドラマなんじゃないですか? これは。」
「判るけどさぁ…。ハマれねーなぁ…。それにねぇ、これ言っちゃったらおしまいかも知んないけど、父親にロケット見せた時、普通だったら聞かないかね。『俺と実那子って、じゃあ姉弟だったんだ』とか。」
「うーん…。でもそれは多分、『聞きたくない』って気持ちが直季の心のどこかにあるからじゃないですかね。」
「てゆーかさ、このドラマの視聴者って、点が甘すぎないかぁ? そういう風に深読みして解釈してあげてる? いい方に考えよう、いい方に考えようとしてる? 『おかしい。つまらない。説明不足。』って言う人がいないねぇ…。あたしもコレでも、ずいぶん押さえてるもんなぁ…。」
「『吾輩は猫である』の中にこんな一文がありますよね、『セクスピヤも千古万古セクスピヤではつまらない。偶(たま)には股倉(またぐら)からハムレットを見て、君こりゃ駄目だよくらいに云う者がないと、文界も進歩しないだろう。』…。」
「さっすが八重垣! そうなのそうなの! みんなが褒めてちゃ進歩もないからねぇ。だからもう、あたし言っちゃう! このドラマって、1シーン1シーンごとは映像がすごく綺麗で演出も凝ってるんだけどさ、全体を通して見ると破綻ばっかだよね。視聴者に真犯人を教えないがために、キャラ設定とかエピソードまでもがフラフラしてる。伏線て伏線がみんなブッタ切られてんの。キャラクターにしっかりした実在感がなくてさ、ストーリー進行の都合にあわせて性格が変えられちゃってる。だから、むしろあんまり出てこないキャラの方が破綻してないんだよね。輝一郎パパに直巳パパ。こういう脇役はしっかりしてる。なのに何やねん実那子に直季に由理、敬太。このへんの重要キャラがさ、そろって紙人形みたい。何とかリアリティがあんのは輝一郎くらいだね。」
「…辛いですね、それはまた(笑)」
「キャラクター云々言ってないで、ストーリーの進行に目を向けて楽しめ、ってとこかも知れないけどねぇ…。キャラの破綻が気にならないほど、スピーディーで面白いってドラマでもねぇぞぉ?」
「ちょっとちょっと智子さんそれは…。」
「第6幕で由理が死んで、第7幕で敬太が死んで、それくらい動きのあるストーリーなら判らんでもないけどさ、途中、妙に中ダルミしたじゃない。状況説明だけのシーンが多かったしさぁ。人間関係にカギがあるんだったら、もうちょっとキャラの描写に力入れてほしいよねー。」
「つまり、要は、…気に食わないんですね。」
「そういうこと。『協奏曲』と同じで、眠森もけっきょくは素材に負けてる。とどのつまり”木村拓哉”を料理できたのは、今んとこ北川江吏子さんだけかぁ? なんかそんな感じだねー。」
「まぁまだ2回分あるんですから、そう断定しないで下さいよ。」
「まぁね、Giftの例もあるからね。最終回で無理矢理まとめた。ただしGiftのまとめ方は見事だったぞと。早坂由紀夫ってキャラ自体は、すっげ魅力的だったもんなー。伊藤直季なんぞとは比べ物になんないよ。」
「それも好きずきだと思いますけどね。…じゃあ、このあたりで戻りますか?」
「戻ろうか。どうもおつきあいありがとうございました。」
「いえどういたしまして。」
「キミじゃないよ。リスナー。」
「あ、僕じゃない(笑)」
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