「さーて。…おやおや気がきくねコーヒーなんかはいってら。」
「いえそんなくつろいでる場合じゃないですよ。今回はちょっと違う話しすぎてますから、もうそれないようにしないと。」
「あっそ。じゃあ早速行くけどさ。ここで実那子は、隣で寝てる輝一郎と、もう1人の男・直季とを、ある意味こう並べて見てるっていうか、同時に考えてる訳だよね。」
「ええ、そうですね。」
「これさー…こういう時、女って絶対にそんな、綺麗な感情じゃないと思うんだよねー。『同じように見つめ続けてくれた人がもう1人…』でその後、いけないいけない、みたいに首振ってさ、輝一郎の隣に寄り添って―――っていう一連の流れね。『くわーっ、ウソくせー!』とか思っちゃったよ。
隣でグースカ寝てるフィアンセを眺めて、同時にもう1人別の男、しかも自分に惚れてる男をチラッと思う時、女のホンネってけっこう醜いぜぇ? 残酷で嫌らしくて、生臭くドロドロしたね、そういう心理になると思うんだがなぁ…。
どーもねー。実那子ってキャラにはそういう『女の体臭』みたいなのが全然なくて、だから手応えもないし感情移入もできないんだろなー。」
「うーん…。30過ぎた女の人から見ると、食い足りないってとこですか?」
「ヒトコトよけいな気もするけど、まぁ大筋でそんなもんだ。上っつらだけの理想像っていうか、実那子の心情キレイすぎ。女のずるさ、残酷さ、計算高さが丸っきりないのね。見事に抜けおちてる。葉山南が持ってたあの、『そうそうそうなのよねー、判る判る!』って感じ? あれがカケラもなくてさ、―――クラスにたまにいるやん、男にばっかモテて女友達は1人もいないって奴。なんか実那子ってそういうタイプ。」
「あ、その例えは判りやすいかも知れないですね。僕自身はよく判んないですけども。」
「これね、こうやってナレーションでばっちりセリフにしちゃうからイカンのだよなー。例えばさぁ。
輝一郎の腕をどかして、痺れちゃうよって囁いて、額を撫でようとしたところでハッと手を止める。『ああ、実那子は直季のこと思い出してるんだな』って視聴者に示しておいて、で、次にはそっと輝一郎の髪を撫でる。表情は何かを考えてる様子で…。そこに電話が鳴って実那子はハッとする。
―――こういう風にしとけばさ、見る側の感性である程度は噛み砕けるから、それが緩衝になると思うんだけどねぇ。言葉でバシッと語られちゃうとなぁ。納得できない部分はそのまましこりで残っちゃう。」
「そういえば一番最初でしたっけ、智子さん言ってましたね。脚本がもっと映像を信用していいって。」
「うん。そう思うよ。コトバってものできちっと物語世界を定義していく小説と、総合的に五感にうったえる映像とが、このドラマではどうも上手くかみ合わずに、ケンカしてるみたいな感じするなー。」
「だんだん難しい辛口になってきましたね。」
「んじゃ、コーヒーも飲んだことだし、戻ろっか。」
「えっ。待って下さいよ、僕まだ飲み終わってないです。」
「なんで終わってないのよ。あたしのが絶対しゃべってんじゃん!」
「それだけしゃべってて何で全部飲み終われるんですか。口が大きいんですか。」
「飲みながらしゃべってるからでしょー! 八重垣くんてば聞く時に、ただじーっとしてんだもん。」
「ちゃんと話を聞いてるからじゃないですか。」
「ほら、だからほら、そこでゴクッと、飲む飲む!」
「……あち…」
 

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