【眠森談義 座談会総集編・言いたい放題】

 
「よ、八重垣くん! お待ちしておりました、さあさあこちらへどうぞどうぞ。」
「うわ、…なんか、すごいことになってますね…。いいんですかスタジオ内にこんな大きな門松なんか置いちゃって…。しかもこれ、すごい料理ですね。」
「だってお正月じゃないかぁ! めでたい時はめでたいように! さささ座って。まずはお屠蘇を一杯。」
「あ、頂きます…。」
「じゃあ改めて、どうもあけましておめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「今年もヒトツよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「………あーっ、やっぱ越乃寒梅は美味いねェ! ワインもいいけど日本酒もいいわぁ!」
「これ、こっちも頂いていいんですか?」
「もちろんもちろん。どーぞどんどん食べて。」
「じゃあ頂きます。…うん、黒豆美味しいですね。」
「そりゃ何より。お口に合ってよかったばい。ってベツにあたしが作った訳じゃないけどね。」
「そっちのお小皿もらえます?」
「ああはいはい。もぉお屠蘇もガンガンいってよ。」
「この伊達巻がなかなかふっくらして美味しそうですね。よいしょっと。」
「あ、おなますは別の器がいいか。はいこれ。」
「ああすいません。じゃあ…はい、おつぎします。」
「おおすまない。気遣わないでよね、あとは手酌でやるから。こっちにホレお銚子もあるし。」
「ここに並べちゃいましょうよ、バーッと。」
「そだね。…ときに八重垣くん今年の抱負は。」
「抱負ですか? そうだなぁ…。まずは仕事ですね。仕事をきっちりやって、資格にもチャレンジしたいし。」
「八重垣くんて情処は幾つ持ってんの。」
「いちおう1級と…マイクロソフトの認定も、とりあえず。」
「へー! MS持ってんだ、すげーじゃん。次はじゃあ特種とか?」
「それもそうなんですけどね、今はMS系持ってる方が有利ですからね。」
「言えたなぁ。私も会計士か税理士くらい取りたいなーとか思って。でもゲンコー書きながらじゃ無理だよねぇ。」
「今年はどこかに投稿してみたらどうですか。」
「原稿をぉ? うーん…。いやイザとなるとねぇ。ためらいがあってねぇ…。ちょっとそこのサトイモ取って。」
「ああ、はいはい。」
「これが柔らかそうで美味し… うわっすべったっ!」
「あーあー、大丈夫ですか?」
「へーきだって。テーブルの上なんだから。こなくそっ! …あら? 生きてんのかコイツ? 逃げんなっ!」
「―――え?」
「えって、…なに。どうかした?」
「今、どこかで咳払い聞こえませんでした? ゴホッて。」
「咳払いィ? いーや気のせい………じゃないっ! やっべ忘れてた!」
「何をですか。」
「今日って『眠森言いたい放題』の日じゃないの!」
「そうですよ?」
「そうですよって、判ってんなら言ってよぉヤエガキぃ!」
「そんな、智子さんが食べろって言うから、そういう趣向なのかなって思ったんですよ。」
「やあっべー! …ごめーん、かまりん! こんなとこ押し込めて失礼しましたぁ!」
「ッたくもー…。何考えてんのよキムラぁ! 放送始まったらすぐに呼ぶからここにいろとか言ってこんな狭いとこぉ!」
「ごめんごめん。つい盛り上がっちゃってタイミング忘れた。さ、とにかく座って座って。まずはかけつけ3杯!」
「冗談じゃないわよ勝手に忘れといて!」
「…あの、すいません。智子さんこちらが、今回の…?」
「ああ、そっかお2人は初対面か。そうそうこちらが今回の特別ゲスト。眠森ドライメモを全12回ずっと作ってくれたH・Kさん。通称かまりーん!」
「どうも、初めまして八重垣です。」
「あっどうも。こちらこそよろしくお願いします。…初めまして、でもないんですけどね私は。いやでも直接お話するのは初めてか。」
「初めてです。お名前はしょっちゅう伺っていましたけど。いろいろお手伝いしてもらったみたいで。」
「いや手伝いってほどは…。本編の各シーンの覚え書きみたいなの作ってキムラに送ってただけだから。でもさ、なんでそれをドライメモっていうのよ。どういう意味。」
「ほらカメリハのいっちゃん最初のやつをドライっていうでしょ? だからそっから取ったの。」
「ふーん。そういうのは最初にちゃんと説明しなよね。」
「えろうすんまへん。…それじゃまぁ役者も揃ったことだし、始めましょうか。」
「そうですね。えー… 去年からお約束していました『眠森談議総集編、言いたい放題』を始めたいと思います。ゲストのかまりんさん、よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそ。でもなんか『かまりんさん』って言うのよしません? なんか変。」
「え、じゃあ何てお呼びすれば。」
「かまりんでいいんじゃないの?」
「うーんそれはちょっとな…。拓にも呼ばれないうちに最初にっていうのは…。」
「おっと(笑)…済まんねぇ八重垣くん、こいつバリバリの拓哉ファンだからさ。」
「いえいえ(笑)じゃあ…”ピー”江さんでは。」
「すいませんリスナーの皆さん。いまピーを入れさせて頂きました。本名が嫌いなんだそうですかまりんは。」
「そうなんですか?」
「…なんでキムラはそう余計なことばかりバラすかなぁ。さっさと本題いこうよ。八重垣くんそこのお重取って。」
「ああ、はい。…なんか。今回こき使われそうですね僕(笑)」
「いやいやまぁまぁぼちぼちとね。…本題行きましょう。はいこれ資料。レジュメ。」
「レジュメなんか智子さん作ってきたんですか?」
「うん。実はさ。本当はコレ年内のうちにやりたかったんだよね。年を越したくなかったんだけど…まぁ現実世界が許してくれなくて、年明けちゃったでしょ。だからさぁ、新年迎えてまたモンクを蒸し返すみたいに、こまこまと不平不満言うのもアレだから、ちょっと趣向を変えようと思って。」
「趣向を?」
「個別にさ、このシーンは気に食わねぇ、このキャラは虫が好かねぇってやるんじゃなく、もう少し総括的に、『眠森論』みたいな感じでやろうかなと思って。んでコレ作ってきた訳よ。」
「へーえ…。考えてますね。」
「でもさキムラ、そいじゃあたしの出番ってない訳? いや別にそれでもいいけどね。話聞きながら飲んだり食べたりしてる方がいい、ほんとは。へへっ役得役得ー!」
「なにゆーん。かまりんはかまりんで意見言ってもらうよ。テキトーに話ふるから。そこでコメントして。そういうの八重垣くんすごくうまいから。」
「えー、やっぱ言うのぉ? 美味しいよぉ? このくりきんとん…。」
「はいはい食べながらでいいから。ではまず1ページめを開いて下さい。」
「なになに、『私見・Defects of 眠森』?」
「うん。いちおうそこにまとめた項目ごとに話を進めてみようかと思って。」
「この目次の項目ですか? えーと…
1.キャラクターたちにおける魅力及び牽引力の欠如
2.ミステリーとしてのテンポの悪さ 〜多すぎたミスリード
3.伊藤直季の存在意義 〜not actor but entertainer
4.トリプルT賞発表(笑)
…なんですかこの『トリプルT賞、カッコ・笑い』、って。」
「いやその『カッコ・笑い』がミソよ。お口直しのデザートってことで。」
「デザートですか。出演者に賞をさしあげようっていうんですね。」
「そうそう。各TV誌とは違った切り口から、表彰式を行いたい。元木さんトコでもやってたけど、コンセプト違うからカブッてないよ。」
「面白そうですね。じゃ、さっそく行きましょう。」
 
1.キャラクターたちにおける魅力及び牽引力の欠如
 
「これをまず最初に持ってくるのはですね、私、木村智子が、第5幕あたりから徐々に徐々に、地滑りするように眠森にハマれなくなっていった理由の最大のものがこれだからですね。
もちろん、『いや私には十分魅力的に思えた』って人も、
『そもそも私はキャラクター描写にはさして興味を持たずにドラマを見る』って人もいらっしゃるはずで、それはそれで個人の自由ですけども、『木村智子としてはこうだった』っていう、あくまでも全てが私見でございます。」
「うん。キムラってけっこうキャラ重視でしょ。読むんでも書くんでも。」
「まぁねー。やっぱ主人公とその近くのキャラクターは、魅力的じゃなかったら『物語』とは呼べないと思うもんねー。あらすじ追うだけじゃドキュメンタリーになっちゃうよ。」
「つまり智子さんとしては、主に実那子ってヒロインが好きになれなかったってことですよね。」
「そう。『それは好みの問題だ』って言っちゃうと話がここで終わっちゃうんで、少し細かく述べますと…ポイントは3つありましてね。
@『女』のネガティブ面(本音・嫌な部分)が全くといっていいほど描かれていなかった。心理描写が綺麗すぎ。
A自分に想いを寄せている伊藤直季の心に対してあまりにも無神経な言動が多すぎる。
B脚本自体が実那子を甘やかしている。
とまぁこんなところですかね。」
「うん。けっこう座談会の中で、嫌だ嫌だって言ってたことだね。」
「そだね。それをあらためてまとめてみましたって感じ。
@については、えーと…第4幕かな。日刊フクシマで当時の記事を調べて、その内容をレストランで輝一郎に話して、その帰りの車の中。『私のような女のために輝一郎にこれ以上苦しんで欲しくなかった。』っていう意味の独白ね。あれが最初のつまづきだった。
『私のような女のために』って言葉にして言う…または考えるとき、女って、すっげ嫌らしいヒロインモード入ってると思わない? 『あたしって何て可哀相で健気っ! ぶりっ!』みたいな。シンデレラ願望っていうかねー。野沢さん判ってねぇなぁ!って思った、ここで。
実那子は男から見た『健気で強いヒロイン』にすぎないんじゃないかなって…これに反感感じるのは、まぁ私の個人的な特質もあるか知んないけどね。」
「いや、現代日本に生きるオンナとしては、愉快なことじゃないよ、確かに。」
「由理に怒鳴りこまれた時の反応も、女同士もっとエゲツない内心の対決あるはずなのに、実那子はただの『優しいお姉さん』。だから由理の怒鳴りこみも、エキセントリックでヤな女にしか見えなくなるんじゃないかなぁ。女と女の本音のぶつかりあい、ってところまで掘り下げてないから、『ああ由理は心から直季が好きなんだな。嫌な女になるのもしょうがないよなぁ。』っていう共感が全くわいてこない。」
「あたしはねー、あの由理の声が嫌いなのよ声が。のばした水アメみたいにべたーっと平面的で抑揚がない。そういう演出なのか判らないけど。」
「由理についてもねぇ…。なんか、ツボはずしたって感じだよねぇ。まぁ実那子の方のポイントを先にやっつけちゃうけどさ、
Aの、無神経な言動云々については座談会編の第9回で言ったから割愛するとして、Bね。脚本自体が実那子を甘やかしているっていうの。これがなんか、私がこのドラマ全体を嫌いになっちった大原因かなぁ…。」
「キムラって嫌いそうだよねそういうの。」
「嫌い(笑)実那子が一大決心して、御倉に行くじゃない。それを男2人がおっかけてきて、実那子実那子ってオロオロ。馬鹿じゃねぇ?って思ったね私は。そんなに過去に立ち向かって強くなりたいんだったら、あそこは実那子一人で動くべきだよ。
直季が彼女の過去と今とを壊そうとしたのに出来なかったくらいにけっこう頑丈な、『健気で強いヒロイン』に野沢さんはしたかったのかも知れないけど、結局はその『強さ』も、『男が苦笑いして”可愛いナ”と思える範疇』にチンマリおさまってんのね。これが、私が『このドラマ大ッ嫌い!』になる決定打だったなぁ…。
こんな女のどこがいいの。直季ってアホちゃうか?みたいな(笑)」
「まぁねぇ、女が見て魅力的なヒロインって、みんな作者が女性なんだよね。オスカル・フランソワしかり紫上しかりスカーレット・オハラしかり葉山南しかり。逆に女性作家の書いた男性キャラって、男の人から見たら疑問ありかも知れないね。そのへんどう、八重垣くん。」
「えっ、僕ですか!?」
「ちょっとそんなびっくりしないでよ。」
「すいません、急だったもので。…うーん…。どうかなぁ…。でも光源氏は男にも評価されてるじゃないですか。藤原定家とか谷崎潤一郎とか。」
「してみるとやはり紫式部は天才か…。」
「おいおい2人で日本文学概論の時間にならないように。
でもってあとは由理なんだけどね。彼女は何つーか…ストーリーの都合のいいようにいじられちゃったキャラ、みたいな気がすんのよ私は。その都度その都度違う顔してて、いったいどういう役割なのか―――好きな人に好きになってもらえない可哀相な女の子なのか、実那子と直季、という2人の間を邪魔する憎まれ役なのか、これが画然としてなかったと思うのね。
第2幕だっけ? あのロミジュリのセリフ言ってビービー泣くシーン。あれはあれで、私個人としては気に食わない女だけども、ああいうエキセントリックなキャラとして直季に嫌われ続けるなら、それなりに納得するけどさ、いきなり直季に抱きしめられてどうする(笑)
あの抱擁のシーン、予告見た時には、由理は直季を守って刺されたんじゃないかって思った人多いみたいじゃん。それほど唐突だったよね。」
「そうなんだよねー。だから『下半身でものを考えるな直季!』なんてお叱りも出たくらいで…。ちょっと八重垣くん、何を声もなくヒトリでウケてんのよ。」
「いえ…(笑)それ言った人、いいこと言うなと思って。」
「まぁだからそんな訳でね、ヒロイン大庭実那子、サブヒロイン佐久間由理、この2人がもっと魅力的だったなら、もとよりストーリー優先でキャラクター重視にはなりにくい『ミステリー』の形式において、物語はもっとダイナミックに、奥行きも出ただろうなと思う、私は。
ヒロインに共感することで、ぐいぐいとストーリーにひきずりこまれて、恐怖感まで一緒に経験する…これがやっぱ理想でしょぉ! 理想だけに難しいけどね。
眠森では逆にヒロインに反感感じたせいで、私はもぉ途中から義務感だけで見てた。このトリTでの企画のためだけに。」
「じゃ、やってよかったじゃん。眠森談議。」
「…まぁね(笑)」
 
2.ミステリーとしてのテンポの悪さ 〜多すぎたミスリード
 
「えーと、『1』ではキャラについてモンクたれた訳ですけども、実際のところ、キャラクターの描写や解釈がおざなりになったとて、そんなの問題にならないくらいストーリーが面白い、っていうのもアリだと思うんです。
例えば…TVでやるとあんまり品のいい展開にはならないかも知れないけど、クリスティーの『そして誰もいなくなった』みたいに登場人物が次から次へと死んでいくとか、または1つの事件が解決するとまたその次の事件につながって、謎が謎を呼んでどんどん深みにはまっていく…。
思いつきで言うけど、輝一郎ママは実は直季の実のお母さんで、それを知った正輝に殺されており、正輝は直巳をうらんでいて、沖田将人が殺されたのもそのへんの因果関係が絡んでいて…みたいなね。
あんまり手広げすぎるとワケわかんなくなるからホドホドにするにしても、『後で考えるといささか強引なんだけれども、とにかく文句なしに面白い。ちょースリリング。』…眠森ってそんなテンポのいいドラマじゃなかったと思うんですよ。中盤なんかえらくモタついたでしょ? 特にあの、直季が調べた過去をもう一度、遠足みたいに付き添いつきでゾロゾロ調べ回るあたり。あれは中だるみ以外の何ものでもないよ。
これ、『いやそうじゃない。ただ筋立てだけを追った、遊園地の乗り物みたいなドラマにするんじゃなくて、背後の人間関係や心の動きをじっくり丁寧に描きたかったんだ。』って言うなら、それならもちょっとキャラクターをしっかり描いてほしい。
特にヒロイン。輝一郎が国府の友人だったって知ったあとの、『そういう深いところでつながってたんだって感動しました』…こんなご都合主義のお目出度いキャラ作んなよって思う。
父親に虐待されてたアダルトチルドレン、ていうのも、結局は『真犯人は実那子かも』っていうミスリードを呼ぶための背景にすぎないじゃない。
背後の人間関係や心の動きをじっくり追うっていうなら、アダルトチルドレンの実那子は心の奥に、男ってものに対する消せない不信や恐怖を持ってるべきじゃないかな。無条件で自分を庇護してくれる『父親』に虐待されるっていうのは、子供にとってそんな軽いコトじゃないと思うよ。
直巳の治療でアッケラカンと何もかんも忘れて元気なねーちゃんやってました、な訳? それを15年間黙って見守ってた直季はバカと呼ぶしかないぞ?
仮に100歩譲って、実那子は何もかも忘れて明るく前向きに生きてきたのに、直巳が閉ざした封印が解け始めて、実那子の心の中に悲しく暗い何かが溶け出してきたんです…ってことを言いたいなら、それをチキッと納得させる何かの表現を、すべきだと思うな。
明るい前向きな実那子。一転して過去の不安に怯える実那子。あいだにいるのは伊藤直季。彼が全ての鍵を握っている…。そういう位置づけを『明確に』視聴者の側に伝えるエピソードが、実は1つもないんだよね。
そういうふうに視聴者がドラマを解釈して『あげて』る。視聴者がドラマにつきあってあげてる。そんな感じがするのは私だけでしょうかっ。」
「キムラ言ってたよね。ドラマに対して視聴者が『甘く』ないかって。」
「うん。『あそこはきっとこういう意味だ、それなら話が通る。』ってさ、深読みして合わせてあげてんの。辻褄合わせを見てる者がやってる。
―――なんか、心がわりしかけてる男の気持ちを正視するのが怖いから、全てをよく解釈して自分をなだめる心理あるじゃない。あれに近い気がするなー。『あんたソレ嘘でしょ!』ってズバッと言わない。彼のためじゃなく自分のため。彼とのはかない蜜月に酔っていたいから…。」
「あ、それっていい例えかも知んない。」
「なんかさぁ、『脚本集読んでやっと意味が判った、感動できた』なんて意見もチマタにはあるみたいだけど、それってとんでもないことだよ。そんなドラマは失敗。そんなんTVドラマにする意味ないじゃん。最初っから小説にしろっつーの。
ドラマはドラマとして、1つの完結した作品世界として、厳然たる評価を受けるべきだと思う。ゆえに私は脚本集は読んでません。」
「あ、それは僕も賛成です。」
「やっと口を開いたなヤエガキ(笑)」
「いえ、ちょっと出番なくて(笑)」
「…これさ、私ゴトのハナシで恐縮なんですけども、『TK』読んで下さった方の中にはさ、『あれじゃつまんないよ』ってご意見もあるんです。
それって私にすれば、『いや、なんで拓があそこでああいうふうにしたかは、彼の過去に太く根を下ろしている孤独感のなせるわざで…』って弁解したいのよ。てゆーか、『なんで判ってくんないのよー! ちゃんと読んだのぉ?』って思う、正直。
―――けど、これは違うよね。そんなのって作り手の傲岸不遜。伝わらなかったのは私の力不足なんだ。あのときの拓がなぜそのセリフを言ったのかを、もっとはっきり伝えられる表現を私が取れなかったからなんだよね。
それをさ、『TK設定集』みたいなエッセイで説明して、『あれを読んでやっと判りました。感動しました。』って言われたら『TK』は大失敗じゃん。誰にも伝わってなかったってコトだからね。」
「うん、それは言える。それは正しいよ。」
「…とか言ってねー! かまりんにはメールでぐちぐちコマコマ話してるから? 裏話も裏ネタもごっそり耳に入れてっけどー!」
「それは許容範囲でしょう。それっくらいはいいよ。」
「ううっありがとぉ! 飲んで飲んで食べてじゃんじゃん!」
「でも確かにミスリードのためのエピソードは多過ぎですよね、って急に話を戻しますけど(笑)」
「おお、さすが腕ききパイロット(笑)ナイスパートナーだねぇキムラぁ! 八重垣くんでよかったじゃん、この座談会。」
「いや面と向かって言うのもナンだけど、それはホントそう思ってる、うん。」
「やめて下さいよ、なんかヘンですから…。
僕の思う未解決エピソードは、輝一郎のお母さんの『許さないから…。』と、沖田将人くんの溺死事件ですね。
さっきの智子さんの話じゃないけど、人間関係を深く追いたいにしては、森田明仁の扱いは荒っぽすぎますよ。娘のボーイフレンドまで殺すなんていう相当の異常者に対して、その後実那子はどんな態度を取ったのか、それには何のフォローもないままいきなりイブの夜に殺されちゃって。」
「うん。それもつまり、ミスリードのために設けられて、プツンとそのままチョン切られ打ち捨てられた哀れなエピソードだよね。
輝一郎のお母さんもそう。幻に怯えた正輝もそう。
このドラマさ、最初にどっかで誰か、『RPGみたいな仕掛けが随所にあって云々』って言ってたけど…RPGとの最大の違いは、主導権がこっちにないことだよね。プレイヤーとして自分が主人公になってこそ、謎ナゾ謎の山にもドキドキすんでしょ?
眠森では視聴者は主導権を持てない。…なんかさ、ポーカーだと思って、ワンペアだツーペアだって役を考えてたらいきなり、『実はセブンブリッジだったんだよー』って言われて慌てて役を作り直す…。そんなふうな振り回され方したね。
あくまでもポーカーで勝負しなよ、みたいな気がして、だから私は途中で下りた。テーブルにカードを叩きつけて(笑)」
「視聴者はみんな大なり小なり、自分の『手』を作って見てた訳ですよね。」
「そ。―――でさ、ここが大事だと思うんだけど、そうやって振り回した結果、みんなが納得して拍手するだけの答えが用意されてれば、誰もモンク言わなかったと思う。『誰も』の中にはアタシも含むよ。
それがイザ最終回になってみたら、『え、ちょっとこれは…』って感じの終わり方だったんだよね。『結局直季って何だったの?』とか、どうにも説明つかずに終わっちゃったじゃないかと。」
「あ、その流れで次の、『3』に行くのねっ!」
「読まれたか(笑)」
 
3.伊藤直季の存在意義 〜not actor but entertainer
 
「これはねー、座談会で言った通り木村智子としては、『第5幕を境に、直季のキャラとしての役割は根本的に変えられてしまった』って推理を今でも持ってる。悪役で通すはずだったのを、途中で変えたんじゃないかって。」
「確かに前半と後半で伊藤直季は別人みたいですからね。」
「うん。これ、『直季は実那子について、彼女は殺人事件を目撃して心を閉ざした少女であり、父・直巳によって自分の記憶を複写されているってことしか知らない。
直季は、早くに母親を亡くした自分の寂しさと重ね合わせた想いで彼女への思慕を募らせ、15年間遠くから見守り続けた。
彼女が心を閉ざす原因となった殺人事件の犯人は国府という男。この男が二度と実那子を傷つけないように、直季はずっと調査していた。』と…最初からこういう設定だったとしてね。」
「つまりドラマで示されている通り、ってことですよね。」
「そうそう。『やがて15年がすぎ彼女の本当の記憶が甦り始める頃に、直季は彼女の前に姿をあらわし、思い出したが最後またあの時と同じ苦しみを味わうだろう彼女を、何とか守ってやりたくて、過去を全て捨てさせ、新たな別世界に連れていこうとした。そのためには少々手荒な手段も辞さなかった。内心では輝一郎から実那子を奪い取りたい気持ちもあった。』…あってるよね、これで。」
「うんうん、あってる。」
「『けれど実那子はそう簡単に直季の意のままにはならず、とうとう直巳に会って、過去に何があったか突きとめてしまう。父に、お前のすることはもう何もないと諭された直季は、一転、実那子を護るナイトとして、行方不明になった国府の足取りを追い始めるのだった。』…」
「そうその通り。」
「でもさ、『それじゃおかしいだろ、1つだけ説明つかないだろ』っていうのがあると思わない?」
「国府のことでしょ?」
「ピンポン。仮出所した国府が実那子の前に現れるかどうかなんて、しかもその目的なんて何も知らない直季が、どうしてアパートに発火装置投げ込んでまで追い出そうとするかな。
発火装置は敬太のアイデアでもよ、追い出せって言ったのは直季。そしてこの追い出し作戦が、国府から彼女を遠ざけるためだったっていうのは、ずっとあとのベランダでのキャッチボールシーンで実那子自身が言ってる。
『出所した国府が実那子の前に、よからぬ企みを持って現れる。』直季はそれを知っていたとしか思えないじゃん。少なくとも第1幕は。
それがいきなり第6幕で何も知らない好青年になっちゃって…ここだけはアタシ何としても『?』が取れない。物語上、直季の設定が変わったとしか思えないのよ。」
「まぁね、実際は判んないけどね。雑誌とかの記事も、あれ100%そのまま信じるのは甘ちゃんすぎるしね。」
「…でですね。」
「はいはい。」
「これ、もしも…私の推理が間違ってて、設定が最初から変わってないとしたら。」
「うんうん。」
「伊藤直季ってキャラの、ヒール役であった前半と狂言回し役になった後半とをしっかりと繋いで納得させる統一性がないのは、木村拓哉の演技が決して上手くなんかないからだ。私は初めてこの懐疑に突き当たったよ。」
「突き当たったか…。」
「もち、全部が全部彼1人の責任じゃないよね。演出家ってのがいる訳だから。んでも、役者とは演出家のロボットではない訳だから、伊藤直季というキャラの破綻は、拓哉にも50%の原因はあるはずだよね。」
「ええ、理屈としてはそうなると思いますよ。」
「でしょ? 第5幕でキャラ設定自体が変わっちゃったとしたら、それは彼のせいじゃない。演技もヘッタクレもないよ、そんなだったら。」
「うん。むしろ気の毒ですよね。」
「まぁ…これが今回の『言いたい放題』の最大の辛口ポイントなんだけど、それにしてもこの伊藤直季って役、私はチマタで絶賛されてるほど拓哉の『演技』を… いい? 『演技』をね、評価する気にはなれない。
表現の仕方が非常に二次元的。1シーン1シーンは素晴らしいんだ確かに。けど、それらのシーンを物語として1つに繋いだ場合、全体を俯瞰して、それぞれを関連づけて、伊藤直季っていう1個のキャラクターを創り上げるってことには…いささか未熟と言わざるをえないね。くどいけど『演技』に限ってはだよ。」
「ええ、判りましたってば(笑)」
「伊藤直季とはどんな境遇で生まれ、育ち、どういう考え方をするどんな性格の男なのか。それを十分に考えて噛みくだいて咀嚼して、それを『演技』というoutputの回路に乗せて外へ出す。この一連の行為は多分、拓哉はやってない気がするんだ。
彼が現場でアイデアを出して創りあげていくのは、あくまでも『そのシーンをどう見せるか』だけであって、『”なぜ”そう動くのか』『”なぜ”このセリフを言うのか』ってことはちょっと手薄じゃないのかなぁ。
北島マヤじゃないけど、『初めに心があって動きがある』、それが演技ってもんだとすれば、そもそも彼は演技をしてはいない。なのに演技力を絶賛すんのはヘンな話だよ。」
「それだったらさ、現に拓哉は言ってるじゃない。考えた演技はしない、『表現』をするんだって。」
「うん。だからこのレジュメに書いた通り、拓哉は決してactorではない。actorってのは吾郎だと思ったのね。
ちょうど眠森に義務感しか感じなくなったのとクロスするみたく、『ソムリエ』が面白くてさぁ! コメディー仕立てでデフォルメされてて、1つ間違えばナンセンスなドタバタになる、その寸前でちゃんと止まってるの。絶妙だね。
この線を踏み越えたらナンセンスギャグ、の境界のところで、きちっと足を止めてる吾郎がね、
『ああ、この人は”広原”でほんとに大きくなったし自信もつけたんだな』って思った。
また後味がいいんだ見終わった後の! 笑った後で思わずホロリ。これは難しいんだぞぉ…。
あのクソ馬鹿馬鹿しい変人の佐竹城が、ひょっとしたらほんとにいるかもねと思える、これは吾郎が上手いからだよ。ヘタがあの役やったら見ちゃいらんない、絶対。」
「智子さんソムリエには中盤からハマッてましたからねぇ…。って僕が言うとなんかヘンですけど(笑)でも僕、ヤエガキですから。イナガキとは別キャラで。」
「でもってね、ソレを裏づけるような興味深い記事が『ザ・テレビジョン』に載りましてね。
ドラマアカデミー大賞って企画で、主演男優賞は拓哉なんだけどもね、問題はその得票結果。読者票、審査員票、TV記者票と分かれてて、総合では確かに拓哉が取ってるんだけど、審査員票に限って見ると面白い。
1位は大河のモッくんで、これは納得でしょう。読者票にも記者票にも名前が出ない大河主演だからこそ、審査員に評価されるのがふさわしいと思うんだ。」
「うん。評価されるべきですよね。評価して欲しいっていうか。」
「でさ、その、第2位。ここに吾郎が入ってる。3位は山崎まさよしさんで、なんと拓哉の名が上がってないんだ。これはねぇ、なんか…すごいウンウンうなずいちゃったよ私。演技、って面に絞ったら、今現在は吾郎の方がはるかに本格的。もぉ断言しちゃうね私。」
「『ソムリエ』は数字的にはいまひとつでしたけどね。そのスジでの評価は高いのかも知れないな…。」
「業界評価は視聴率とまた別だろうからねー。でもって、前にエッグポーカーで仲代さんの言った、『役を自分に引きつける』のが拓哉で、『役の中に入っていく』のが吾郎? そんなふうにも言えるんじゃないかな。」
「―――んで? キムラは今、吾郎様に夢中な訳だ。」
「うん。だけどさ、最近いくつかメール貰ったんだけどさ、その中に、『拓哉から吾郎に乗り換えるんですか』ってご意見…じゃないか、お言葉があって。
乗り換えるって地下鉄じゃないンだからさ(笑)そーゆーの、よそうよって思うんだ。どっちが上とか下とかランクづけしないで、好きなモンはみんな好きでいいやん。愛するものが増えるのは喜ばしいじゃない。嫌いなものが増えるよりは。」
「ま、そりゃそうだね(笑)」
「今、演技の話したけどさ、『演技力』は『魅力』の一部であって全てじゃない。拓哉の持ってるあの、圧倒的な『華』の輝きは、他に変え難いパワーだよ。彼にふさわしいのはエンターティナーの称号。
―――そこで立ち返って伊藤直季、ね。拓哉じゃなく。」
「うん。」
「ドラマ全体を鳥観してみて…ひとことで言って、作者の愛薄きキャラクターって気がする。
作者に一番愛されてたのは輝一郎だね。作者の視点はこの人の上にあった。輝一郎は、他のキャラがこれだけストーリーの流れのままに振り回され色を変えられ、ミスリードのための強引な演出を施された中にあって、唯一、トータライズされた実在感…リアリティがあった。破綻してないの、濱崎輝一郎だけがね。
もちこれはトオルさんの力も当然あると思うよ。でも、作者の視点がぴたっと乗っかったキャラは、作者その人の想い入れを背景に、1本スジの通った説得力を持つよね。言うことやること何もかもがさ、ツクリモノじゃないんだよ。
それに比べて伊藤直季は…今ひとつ、作者も御せなかったキャラみたいな気がするなぁ。演じた…じゃないや表現した拓哉と、それに付帯するさまざまなモノをも、抱えきれなかったんじゃないかと。」
「さまざまなモノって?」
「えーと…スポンサーのご意向とか視聴率とか。あとは拓哉自身の、何とも1つに絞りきれない奇妙なスケール? 『この役をこういう風にやれ』っていう指示からはみ出てっちゃう何か。
つまりそれがノイズのノイズたる魅力で、はからずも私が言ったんだよ、拓哉はマルチフォーカスだって。並みの御者には乗りこなせないのかも知れないね。」
「それってすごいことじゃん。最大の賛辞?」
「…いや(笑)あまりにもみんながみんな乗りこなせない馬は…それが果たしていい馬なのかなって疑問もあるじゃない。だから、『そう簡単にハミなんか掛けられるなよ拓哉!』って思う反面、『”使いづらい”ってレッテルを貼られませんように』とも思う。
騎手を乗せてみごとに走る俊足の競走馬は、これはやっぱり『素晴らしい』と評価すべきモノだからね。
―――私、是非とも拓哉の、舞台での芝居を見てみたいな。映画じゃなくて。
舞台っていうのはさ、客との間に何のフィルターもないでしょ。これが重要なんだから。TVとか映画は、演じる者と見る者の間に、カメラっていう別の主観が入るじゃない。いくら上手く演じたとしてもカメラが写さなかったら一巻の終わり。それが映像と舞台の差だよ。自分以外の主観に邪魔されない生の舞台で、拓哉の芝居を見てみたいと思う。
まぁそれはサテ起き、拓哉はそこらの駄馬じゃあない、確かなのはそれだけだ―――ってトコロで、この章はまとめたいと思う。」
「伊藤直季については?」
「リワインダーで書いた通り。物語世界にライトを当て続け、役割を終えて去っていった男よ。」
「なんか、かなしいですね。」
「うん。かなしい役だと思うよ。いろんな意味で。」
 
4.トリプルT賞発表(笑)
 
「さぁそれではここで、私、八重垣が今回久しぶりにマイクを取りまして、『トリプルT賞』の発表などをしたいと思います。」
「いえーい! ドラムロールドラムロール!」
「ドラマ『眠れる森』の全ての出演者の中から、はえある各賞に輝きましたのは!」
「ドロロロロ…(←口で言っている)」
「お1人め、ベスト・アクター賞! 濱崎輝一郎を演じました仲村トオルさん!」
「いぇーい! おめでとうございます―――っ!」
「いぇー… ってこの賞って、別に『はえ』はないんじゃないの?」
「いいのいいの! はい次いこう!」
「続きましてベスト・キャラクター賞は、中嶋敬太を演じましたユースケ・サンタマリアさん!」
「ねぇキムラ、ベストアクターとベストキャラクターってどう違うのよ。」
「ベストアクターは演技重視。ベストキャラは魅力重視。フィギュアでいうテクニカル・メリットとプレゼンテーション・メリットみたいなもん。」
「なるほどね。でも拓哉じゃないんだ。」
「うん。今回は、親心として敢てはずさせて頂きました。あれで賞なんか取っちゃダメです。ぬるま湯はよくない。」
「ふーん。」
「では次に参ります。審査員特別賞! オーキッド・スクエアの中村園長を演じました、田山涼成さん!」
「(笑)」
「(笑)」
「次にベスト・リアリティ賞…。春絵のお兄さんをやったあの人!」
「これ、いいっ! 納得! リアルだったもんあのお兄さん!」
「でしょー! あの影のある横顔が忘れられない!」
「では、いよいよ最後の賞です。」
「まだあるの?」
「いいから聞いてよ。これも多分納得するから。」
「最優秀演技賞! 実那子のクラスメートだったあの女の人!」
「うわー(笑)やっぱあげるんだ彼女に!」
「とーぜんでしょお。あの方言といい動きといい、彼女にあげずに誰に出す! 彼女について演技の勉強するのも、きっといいぞ拓哉ぁ!」
「以上5名の方々、別に何の賞品も賞金も出ませんが、気持ちだけ受け取って下さい。おめでとうございました!」
「(拍手)」
「(拍手)」
「あ〜…やれやれ、終わりましたね。眠森言いたい放題、じゃあこのへんでシメますか?」
「シメましょう! ほんとに八重垣くん、お疲れ様でした!」
「智子さんもお疲れ様でした。全12回ありがとうございました。」
「いえどういたしまして。」
「おめーじゃねっつのっ! いえいえかまりんも、ドライメモほんとにありがとう。レジュメ代わりにどれだけ助かったことか。」
「いえいえお粗末でございました。あんなもんでよければいつでも。」
「まぁ眠森は終わっちゃったけど、この形式はこのままで、また近いうちに。」
「そうですね。何か眠森の総集編も放映されるらしいですし。」
「せっかくケジメついたんだからカンベンしてよ。もういいよぉぉー!(笑)」
「それでは皆様、寒さ厳しき折り、体調を崩さないようお気をつけ下さい。ゲストのH・Kさん、今日はありがとうございました。」
「いえどういたしまして。」
「キムラじゃないでしょお!? いえいえどういたしまして。」
「ではまたお会いする時まで、しばし、ご機嫌よう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「結局元旦以外は仕事だよぉー! の木村智子でしたぁ! 今年もよろしくーっ!」
 

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