お引っ越し記念 楽屋オチ短編  『秘書たち』
( Written by 総長&わて )

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 さて唐突に始まりましたのは、のりちゃんと秘書たちの会話。
「さ、いいですかのりこさん。これがスペイン経済白書にこっちが地図帳。スペインの歴史と、できればこっちも目を通しておいた方がいいですね、『ユーロへの道』…。」
「こら待てやエツ。そないぎょーさん積んだところでこの人が読むと思うか? 5分もせえへんうちに夢の世界に行ってまうの判りそうなもんやないか。あかんあかん。」
「ですからこちらに、濃いコーヒーを用意しました。それとブラックブラックもあります。」
「何やソレ。」
「ガムですよ。眠気覚まし効果のある。」
「そんなん役に立たへんで。」
「決めつけないで下さい。やってみなくちゃ判りませんよ。さぁどうしたんですか、のりこさん。早く読まないと朝になっても終わりませんよ。」
「しかしなぁ。コレ全部読めっちゅうのもごっつい話やで。どやエツ、お前読んだったら。」
「僕がですか?」
「そや。お前読んでレポート書いて、それをのりちゃんに渡してやったらええがな。それが真の秘書ってもんやで。ほらのりちゃんも拍手してはる。」
「駄目です。そんなんじゃためになりません。」
「えやないかぃ、ならんでも! よし、ほんなら1杯いくでのりちゃん。なんかつまみを…スガーリに買いにいかすか! な! それがええわ。」

「エツにぃー! こっち来て一緒に飲もうよぉ。ほら、つまみも来たことだしさぁ」
「いえ、まだ終わってませんから」
「えー、でもぉ…」
「ええがな、もぉほっとき」
「(こそこそ)なんかエツにぃ拗ねちゃってない?」
「ほんなら仕事すんのかいな?」
「う…、それはちょっと…」
「せやろ? ほっときて。気のすむようにさせといたらええねん。好きでやってんねから、やらしといたらええがな」
「そぉかなあ…そうだよね♪」
「…誰が好きでやってるんですかっ! あなたがやらないから仕方なくやってんでしょうが!」
「いや〜ん、こわーい」
「こらこら、か弱い女の子泣かせたらあかんやろ」
「この人のどこがか弱いんですか! 第一、年だってたいして変わらないんですからね」
「うえ〜ん」
「そんなはっきり言わんでも」
「嘘泣きですよ。あ、おつまみ全部持ってった…」
「あーっ! それ、わしのんやがなー! こらこら待てや待てや。全部はあかんがな…って、おっ!!」
「あ、どうも。お邪魔してます。」 ←広樹

「なんやお前もおったんかいな。相変わらず可愛い顔してほんまに。ほな一緒に飲も飲も。えーグラスはと…」
「駄目ですよ、僕は仕事中なんですから。」
「そんなんやらんでええやらんでええ! エツがみんなやってくれる!」
「そうはいかないでしょう。仕事は分担しないと。はいじゃあこれ、フラメンコのCDと解説書です。」
「なんや、高崎のあねさんはこんなもんも作っとるのか。しかし汚い字やなぁこれ。少し習字でも習えって言っとけお前。」
「40の手習いですか。」
「怖いことゆうなお前も、そんな別嬪さんな顔して。」
「顔ばかり褒めないで下さいよ。女じゃないんですからね。」
「えやないかどう褒めたって。いいからほれ、乾杯や乾杯。」
「しょうがないですねぇ。1杯だけですよ。じゃあ先輩も、はい。」
「なんやねん先輩て。あー! そかそかこの人、高崎のあねさんの第4秘書やったな!」
「そうなんですよ。全部僕にやらすんですけどね。じゃあ乾杯しましょうか。」
「そやな。ほしたら仕事上手なエツに乾杯や。」
「「「かんぱーい。」」」
「…ちょっと。何をこんなところで酒盛りしてるんですか。」
「おおエツ。仕事終わったんかいな。」

「終わってたまりますか! 揃いも揃っていい加減にして下さいよ!」
「あ〜ん、怒られちゃったぁ、広樹く〜ん♪」 (さわさわさわ)
「ドサクサに紛れて後輩にセクハラかいな。抜け目ないのぉ」
「ふふ、ありがとー♪」
「褒めてへんっちゅーねん。お前もお前や。ちょっとは抵抗せんかい」
「え、でも別にたいした事してないし」
「…お前の 『たいした事』 てどんなんやねん」
「それはねー♪」
「あんたが説明せんでもええ! もーええわ、聞かんとく」
「じゃあそろそろ僕はこのへんで…」
「えー、いいじゃん、まだー」
「せやせや、ゆっくりしてったらええがな」
「でも…、さっきからエツさん睨んでますよ? いいんですか、ほっといて」
「あ〜ん、優しい〜広樹くん♪」
「いや、そういうわけじゃ…」
「エツ! せっかく来てくれてんのに威嚇してどーすんねん」
「してないですよっ! 誰も手伝ってくれないから必死でやってるんでしょうが!」
「その顔が怖いっちゅーねん。もうちょっとにこやかにでけんのかいな」
「すいませんね! これが地顔なんです。ほっといてください!」
「きゃー! 素敵ー♪」
「なんでやねん…」

「じゃあ僕、少しお手伝いしましょうか。何を調べればいいんです?」
「いや、いい。君にやってもらう筋じゃないから。」
「いいですよやりますよ。なんか、オレの兄さんにそっくりだし。」
「知ってる。だからこっちも不気味なんだ。」
「お前そうゆう言い方せんでもええやろ。せっかく手伝おうゆぅてくれとんのやから、ありがとうの一言くらい返したれや。」
「ありがとう。でもいらない。間に合ってるから。」
「ほんま仕事好きな男やのぅ…。ほらもうええからええから、広樹、こっちきてもっと飲み。うまいでぇこの軟骨。」
「ああ、はい、それじゃ失礼して…」
「きゃー素敵なツーショットー♪ 絵になる絵になるぅ。きゃっ♪」
「何を喜んどんのやあんたも。こない気の利く後輩は、大事にせなあかんでぇ。別嬪やしなぁ。ほっぺなんてすべすべやないか。なぁ。…あいたっ。何やねんエツ!」
「そう無闇に触らないで下さい。君も君だ、嫌なら嫌と意思表示した方がいい。」
「いえ、別に嫌ってほどのことはされてないですよ。」
「なー♪ ほれみぃ、こんなん常識の範囲内やがな。常識の範囲内でスキンシップしとるんやないか。」
「何をこのM字ハゲが…」
「ん? 何かゆうたか? 言いたいことがあるゆうならこの際や、ハッキリゆぅてみ。聞いたるわ。」
「それなら言いますよ。あなたがたはそもそも不真面目すぎる。」
「なーにをゆうとんのやー! お前がカタブツすぎるんやないかい! いっつもそんな険しいカオして卓球やっとるんか思われてるでお前。」
「いえエツさんはカタブツじゃないと思いますよ。」
「何や広樹。お前、判るんかいな。」
「ええ。クソ真面目に見えるけど、案外ひょうきんなところもあると思いますよ。ねぇ先輩。」
「ん〜ふふふん、そぉなのそぉなの、そぉなのよぉ。さすがは広樹くんねぇ。世の中のこと、よーく判ってる。うん。」
「ほー。案外ひょうきんなんかエツ。ほしたら何かネタやってみ。」
「はぁ!?」
「ここで見といたるからホレ、なんぞやってみゆぅとんのや。」
「…」

「頑張って、兄さん! ここが男の見せどころだよ!」
「やんやん素敵よぉエツにぃ〜! 惚れるわぁー!」
「……(汗)……」
 エツ、おもむろに背中からギターを取り出し、愁いを帯びた面持ちで長い指を弦に向かわせ、
「ジャンジャジャラジャラ・ンッジャッジャッ♪」 (笑点のテーマ)リピートして弾きつづける。
「こら待てや! おまえどっからギター出してきとんねん!」
「へえー、やるねぇ兄さん」
「いや〜ん、素敵〜♪」
「どこが素敵や! 卑怯やろ、ギターて。本職やないか!」
 エツ、にこりともせず繰り返し、だんだん早弾きに。
「うわ、結構カッコいいじゃん」
「きゃーきゃーきゃー♪」
「おまえら騙されとるっ! 笑点やで? どこがカッコええねん!」
 エツ、ぴたりと演奏をやめ、
「いいんですか、そんなこと言って。笑点といえば落語。落語のテーマ曲がカッコ悪いとでも?」
「う…」
「ぱちぱちぱち…。決まりですね、兄さん」
「や〜ん、好きぃ〜♪」

「ねぇねぇそしたら他の曲も弾いて下さいよ他の曲も。落語のテーマ曲は、それはそれで素晴らしいですけど、また違ったよさのある曲を聞きたいです。」
「まぁぁっ話の流し方が巧いわ広樹くぅん。のりちゃん感心っ。」
「自分でゆうな自分でのりちゃんて! 気持ち悪いがな!」
「他の曲、ですか。じゃあこんな…」 男だったぁら〜♪
「……『銭形平次』弾いてどうすんのや。もそっと軽快なのやれや軽快なの。パーッとはじけるようなの。」
「…えっとこれは、『八木節』、ですかね。」
「やだぁエツぅ、もぉ滅茶苦茶カッコいいー!」
「待てやお前も! なんで八木節がカッコええねん。ああやめいやめいやめい! もっと味のあるやつや!」
「味ですか。じゃあ、M字さんが好きそうなので。」
「誰やM字って…ってココかいっ! 今ココちらっと見たやろ!」
「…わわわわわ。何か色っぽい曲ぅ〜。あー判った! 昔カト茶が『ちょっとだけよ』ってやってた奴だぁ!」
「だから何を弾いとんのやお前はー!」
「ね、ね、ね、べーさん! べーさんちょっと、やってやってやって!」
「やってって何をせぃゆうねん。」
「『ちょっとだけよ』って、やってやってやって! 見てぇ俺、すごくぅ!」
「なんでそんなんやらなあかんねんー! 『チョットだけよ…』ってやらすなやボケェー!」
「うまいうまいうまい! さすがべーさん!」
「ほな今度は広樹やってみぃ。」
「え? 俺っすか?」
「そや。ちょっとだけやってみ。チラッとチラッと。腰ひねってセクシーポーズや。見ものやでぇこれは。」
「いやちょっとそれは………『ちょっとだけよぉん♪』」
「おおおおー! タマらんわこれはぁぁ! ちょっ、広樹、お前ちょっとこっち来…  うわっいつの間に席変わっとんのやおばはん!! びっくりしたがな!」
「しどい! のりちゃんでしょう! おばはんはないでしょー!」 
「そうだよべーさん! 今のはひどいわよあなたぁ!」
「何をまたそやってオネエに… エーツー! いつまで弾いとんねん! いい加減にやめい! 話が終わらへんやんか!」

「えーまだ続けようよぉ。広樹くんもそう思うでしょー?」
「うーん…。ちょっと微妙っすかねぇ…。」
「要するにメンツがあれやな、固まりすぎてるんやな。」
「えっ、どういうことですか?」
「いや…そのな、広樹は可愛いからいいとして、あとコイツやろ。ほんでこのおば……かちゃんなお姉ちゃんやろ。バリエーションが少ないんやな。」
「ああ、そういうことですか。判りました、僕にお任せ下さい。」
「おっ、何や何や携帯なんぞ取り出して! お前誰ぞ呼ぶんかいな。ちょっと見してみぃ。」
「やですよのぞかないで下さいよ。ちょっとあっちで掛けてきます。」
「…出ていきよったな。誰を呼ぶ気やあれ。」
「もしかして…自分のお兄ちゃんだったりして!? きゃーっWエツだわぁー! 死んじゃう死んじゃうそんなのぉー!」
「なに、コイツがも1人来るゆぅんか? パス! そんなんパスに決まっとるやないかい! どうにもならんわ!」
「何ですかそれは。 何で僕が2人だとどうにもならないんですか!」
「うるさいわお前は! 黙ってギター弾いとれ! おっもう戻ってきおった。何や広樹、誰を呼んだんや。」
「あーどっこいしょっと。つかまりました、すぐ来るそうですよ。」
「な、どうでもええけどその年寄りくさいどっこいしょはやめんか?」
「あ、すいません。つい言っちゃうんですよね。」

 ピンポーン♪
「来た! …えろう早いな、ご都合主義にもホドがあるで?」
「えー誰だろう。ねぇ広樹くん、誰を呼んだの? 誰つながり?」
「さぁどうでしょう。あ、僕行きますからいいです。はぁいいらっしゃいませぇー。」
「誰やろな…。ひょっとしてセバスティアヌス神父だったら、悪いけど帰るで。」
「いやそれはないわよ多分。ねぇねぇエツにぃは誰だと思う?」
「判りませんけど、まさか第1秘書とか…」
「ええーっ!? 拓ぅ!? やだやだどうしよう! きゃー!」
「おっおっおっおっ足音が近づいてきよった! さぁ誰やねん! 3! 2! 1!」
「こんにちはぁ〜。お邪魔しますぅぅー。」
「……誰かと思ったら第3秘書やないかいっ! アリか普通アリなんかこのパターンは!」
「あーどうもぉ皆さんお揃いでぇ。わー総長総長、どぉもぉ。」
「あ、どうも、こんにちは…。えっと、コーヒーでも入れましょうかね。ね。あっ座ってて座ってて。えーとえーとどこだったかしらねぇドリップは。」
「いえどうかお構いなくー♪ ……えっ? ななな何ですかこの奇妙な間はっ。困ったなこれはっ。どもども第3秘書です、ハァ〜イ♪」
「…な。エツ。エツ。お前読めたかこの展開。」
「読めませんでした…。まさか第3秘書を出してくるとは…。」
「本人知っとんのかコレ! 高崎にゆったがええのんやないか?」
「あー何かそこでヒソヒソしてるぅー。やだなやだなぁ。せっかく来てあげたのになー♪」


 八重垣のジャガーの助手席で、拓は手にした1枚の地図を回したり傾けたり裏返しにしたりして、必死にナビゲーション役を務めていた。
「えーっと…あ、そこだそこ。そこを右、右。」
「ここを右? ほんとに? また行き止まりなんじゃないの?」
「いや大丈夫。今度は合ってる。ぜってー。」
「ほんとかなぁ。俺のことヘボ幹事って笑うくせに、ひどいもんじゃない君の道案内。一度来たことがあるっていうから安心してたら、どうしてそんなに綺麗に忘れられるんだか。」
「だってお前、判りづれーんだよこの地図がよ。ッたくYahooの地図検索もアテになんねぇよな。町名表示、最新にしとけっつの。」
「君が方向音痴なんだと思うけどね。えーっと…それでヴィラ何ていうんだっけ。」
「ヴィラ○○。」 ←いちお、伏せ字にしました(笑)
「それは合ってるね?」
「ああ。真澄のバカもそう書いてたから間違いねぇと思う。」
「何て入ってたんだっけメールは。もう一度読んでくれるかな。」
「んーとな、『はぁい拓ぅ元気ぃ? いつも可愛い、キラキラ真澄っちでーす!』…」
「そこはいいから、その先。」
「『今、総長んちで秘書大集合の大集会が個別に盛り上がってま〜す。酒池肉林でバシャバシャ泳いでます。八重垣くんにも声をかけて、是非とも2人で来て下さい。ヴィラ○○の306号室だよぅ。腰砕けにならないよう気をつけて。あ、拓は腰は丈夫か。じゃーね。ふろむ真澄っち』 …だってよ。」
「秘書大集合ねぇ…。総長の秘書もいるってことだよね。」
「多分そうなんじゃねぇ? 酒池肉林で盛り上がってるってよ、3P4Pなってるってことかな。ひょっほほぉ〜♪」
「でも、それもどうかと思うよね。だってメンツ考えてみるとさ、どういう組み合わせになってるんだか。」
「え、なに、組み合わせ? そりゃお前、総長は自分の第1秘書とヤッてるとして、…」
「ヤッてるなんて言うなよ下品だな。」
「そうすっとあとの3人はぁ、…………」
「ね? けっこう微妙だろう? 第一ねぇ、そもそも総長が向こうの第1秘書相手とも限らないんじゃないかな。べーさんか、もしくは広樹…」
「いや前者はねぇと思うけど、ひょっとして広樹はありえるな。」
「とするとだよ? 第1秘書がべーさんを選ぶとはまず思えないんで、」
「…真澄!? 真澄と向こうの第1秘書!? うっわ微妙ー! 超微妙!」
「うん。微妙だよねぇ。そこに俺らが行ってさ、どうしろって言うんだろう。」
「だからぁ、俺らは俺らでやってろってんじゃねぇの? なっサトルちゃん♪」
「わっ馬鹿っよせこんなところで! 危な、危ない拓、ハンドルハンドルハンドル!! …もう、やめてくれよ車の中では! まだローン払ってるんだよ俺このジャガー……って、着いた。」
「なに?」
「着いたよほら。そこに『ヴィラ○○』って。」
「マジ? やったじゃん。おお着いた着いた。」
「着いちゃったね。えっと…ここに停めといていいのかな。」
「いいんじゃねぇの。行くぞ行くぞほら。エレベータこっち。」
「ああ、うん。306号室だっけね。」

 2人は3階に上がり、目的のドアを見つけてピンポーンと鳴らした。
「待てよ。誰か出てきてくれんのかな。マジ盛り上がってる最中だったら待たされんぞこれ。こんなとこでボーッと突っ立ってんのも……あれ、カギ開いてんぞ。」
「ほんと? また不用心だね、そういう時に。」
「いいから入っちゃおうぜ。トントンお邪魔しまーす、こんにちはぁ…。」
「ちょっ、いいの? 拓、ちょっと。」
「いいっていいって、勝手知ったる他人のウチなんだからよ。いきなり床の上でヤッちゃいねぇだろうし、リビングは確かこっ、―――あれ?」
 立ち止まった拓の背後で八重垣は背伸びした。そこで2人が見た影は、
「もー。遅いですよぅー。退屈してたんだからぁ。」
「真澄? なにやってんだよお前、一人で。」
「見ての通り。ソリティアやってるんだい。」
「え、他の人たちは? どっか出かけちゃったの?」
「だぁかぁらぁ、盛り上がってるんじゃないですかー? そのへんの個室の中で。どういう組み合わせかは知らないけど!」
「「えっ!!」」
「盛り上がって、って…てことは何だよ、まさかお前アブれてんの!? ひゃーっひゃっひゃっひゃっひゃっ! な八重垣八重垣、聞いたかよコイツ相手にされてねぇって!」
「……」 (←口もとにこぶしを当てて笑っている)
「ちょっとぉ! なにウケてるんですかぁ2人してぇ! つきあって下さいよヤケ酒にぃ。」
「あ、あー…いってぇ、腹痛ぇ…。あー涙出てきた俺…。チョー寂しいな真澄ぃ。ぷぷぷぷふ…」
「もう。知らないっ拓なんかっ。はいはい八重垣くん、飲もう飲もう! ねっ!」
「ええ、まぁ、はい、そうですねせっかく来たんですから、少し頂きます。ほら拓も座って座って。いつまで笑ってるんだよ。」
「ああ、わりぃわりぃ。んじゃ乾杯といきますかね。なんか久しぶりだしな。いつかの浅草以来か。」
「そういうことになるのか。けっこう久しぶりなんだね。」
「えーっとぉ、それじゃグラスもいきわたったようですし、乾杯したいと思います。…乾杯っ。」
「おいちょっと待て真澄。おま、何かに乾杯とか、何々を祝して乾杯とか、あんだろうよそういうのがよ。何だその『乾杯』って。」
「じゃあ拓やってよぅ。」
「よし。任して。えーそれでは皆様、本日はお日がらもよく、…」
 拓が挨拶を始めた丁度その時、ひょいとリビングにのぞけられたM字型の頭髪があった。

「なんやお前ら。何しとるん…おっおっおっ、第1秘書に! こっちゃ第2秘書やないか! またちょっとの間にごっつぅ華やかになったなぁ。おーいエツ、エツー!」
「何ですかうるさいな、人を売りに来たみたいに…。」
「えっ、えっ、えっ…ちょっと待て? な、な、な、八重垣。この2人が一緒に出てきたってことは… うっわーひょっとして組み合わせ組み合わせ!? びみょー! びみょー! チョーびみょー! うわぁー!」
「こら。何をひとりでわろてるねん、このロン毛にいちゃんは。何や組み合わせって。」
「だってだってだって、酒池肉林! 酒池肉林やってて、かつ、ここに真澄がアブれてるってことはだよ、当然あとの4人が2・2に分かれて…… やっちゃった? やっちゃった? わーっはっはっはっ、すっげー!」
「ちょっと拓、ほら、落ち着いて。そんなに興奮すると鼻血吹くよ? ああすみませんほんとに。えっと…初めましてですよね。どうも、第2秘書の八重垣です。いつもうちの第4秘書がお世話になってるそうで。」
「あ、こりゃこりゃご丁寧に。ども。おたくの第4秘書さんの第2秘書やらさしてもろてます。んでこれが第1のエツゆう男でして。ほれ挨拶せんかい。」
「どうも、初めまして。泉川です。」
「八重垣です、初めまして。そこで泣いてるのが第1秘書の拓です。」
「北原さんですね。初めまして。」
「…………」 (←滅多に苗字で呼ばれないどころか自分でも忘れていたので呆然としている)

「ところで今ですね、組み合わせがどうとかおっしゃっていましたが、それは多分ひどい誤解ですよ。妙なことを実施していたのではなくて、酒を過ごして眠くなったので仮眠を取っていただけなんですから。」
「せやせや。なんかまたヤラシいこと想像してはったんやろ。」
「いや、だって、この真澄のバカが酒池肉林…」
「ああこいつはウワバミでっせ。いくら飲ましてもケロッとしてて、先にこっちが参ってもうたわ。」
「ンだよ、そういう話なのかよ真澄ー!」
「いたっ。ぶつことないでしょ拓ぅ。わっかんないですよぉ? あっちの2人が何してるんだかはぁ。」
「お、そういえばおばはんがおらんな。広樹となんぞしけこんどるんかいな。おいエツ! 見にいこ見にいこ!」
「いや、見になんていきませんよ。僕の趣味じゃありませんから。」
「何や興味ないんか? それともお前、見たら勃つ、ゆうんちゃうか。」
「勃… 勃ちませんよそんなことでは!」
 部屋にエツの声が響いたその時、肩をぐるぐる回しながら広樹がリビングに入ってきた。
「あっれぇ。いつの間にこんなに増えたんですか? 僕が呼んだのは真澄っち先輩だけですよ。」
「やあ広樹、久しぶり。」
「あ、八重垣先輩じゃないですかぁ! どうしたんですかこんなとこでぇ。」
「君こそ何してるんだよここで。肩をどうかした?」
「えー? いやもう大変だったんですよ、マッサージさせられて。」
「え、マッサージって第4秘書の?」
「そう。ティーナ先輩の。背中が凝ってコチコチだからって、ずっとやらされてたんです。」
「ほぅ。背中が凝っとったんか。おばはんのことや、そこだけじゃないやろ。」
「ええ。肩と腰と足と腕と…。脱ごうとするの止めるのが一番大変でしたけど。」
「やっぱスケベなおばはんやな。お前も脱げぇゆわれなかったんか。」
「言われました。」
「どしたんやそれで!」
「脱ぎませんでしたよもちろん。当たり前じゃないですか、ソープ嬢じゃないんですから。…ところで皆さん、おなかすきませんか?」
「そやな。小腹がすく時間やな。エツ、ちゃちゃっと出前取ったれ。」
「エツってね…。僕が第1であなたが第2なんですよ? どうしてそう簡単に人をエツ、エツ…。ちょっと君、手伝ってくれるかな。」
「え? オレ?」
「そう。第1同士ってことで協力してくれ。」
「なっ、ちょっ、やっ…おいっ八重垣八重垣八重垣! おま、なにトランプ配ってんだよっ!」
「いやこの人数だったらババぬきかなって。ご指名なんだから拓が手伝うべきだよ。なぁ広樹。」
「そうですね♪」
「ンだよその四分音符はよ! おめー、下っぱ! お前そんなに八重垣が好きかっ!?」
「好きですよ。一番信頼できる先輩ですから。んね♪」
「ねー♪」
「てめっ、サトル! この浮気も… ぐえっ!」
「いいから早く来てくれ。寿司屋に電話だ。」
「てってったってっ離せ離せ! なんでてめぇにヘッドロックかまされなきゃなんねぇん… いてぇーっ!」
「…なんやエツ、気に入ったみたいやなあのにぃちゃんを。」
「面白いコンビでいいじゃなぁい♪ さっさっやろうやろうババぬき! ひとりでソリティア、つまんなかったんだもん!」

( もしかしたら続くかも知れない・笑 )