『危険な関係』 座談会

 
【 最終回 (99.12.23放映分) 】
 
「はい、皆様お元気でしたでしょうか八重垣悟です。いつもなら毎週木曜日にUPしていた当座談会なんですけれども、今回はですね、最終回で次がなかったことと、年末何かとバタバタしてたことが影響して1日遅れ。暮れも押し迫った大みそかに更新という忙しい状況になってしまったんですけれども。」
「しょーがねーやんよぉ年末だったんだからぁ。まぁとにかくコレが最終回。しゃきしゃきバリバリ参りましょう。ところで最近カウンタの回転がどうも早いと思ったら、何ですか豊川さんのファンサイトからも、おいで下さってる方がいるらしいよヤエガキ。」
「えっ、ほんとですか?」
「うん。何かさ、豊川ファンの方に読まれるかと思うと…緊張するよね。」
「緊張しますね。いえ、でも普通にいかなきゃ駄目ですよ普通に。」
「ちょっと深呼吸しようか。ね。はい吸ってー、吐いてー。」
<<息の音、数回>>
「さてと、んじゃまぁ早速いくべーかね。前回のおさらいは飛ばして…しかし何度見てもこの海岸のシーンには、さまざまな疑問が沸いてくるよねぇ。」
「ほんとですね。結局最終回にも、智子さんの見たかったベッドシーンはなかったし。」
「あたしが見たかった、って言うのやめてくんないかな。ナンかそれにだけ興味持ってるみたいじゃん。まぁでもさ、このドラマが始まった最初の頃には、そんなシーンを予定してるって話はアチコチで読んだんだけどもね。」
「それがなんでなくなったんでしょうね。」
「さぁねぇ。まぁシロートには判らない、いろんないきさつがあるんだろう。うん。」
 
■双葉会病院■
「やっぱスガーリは梅田じゃなくて梅本管理官だったね。」
「そうでしたね。エンドロールでも確認しました。」
「梅本たちに向かって『自分は都築だ』って言ってるのに、いまひとつ信じてもらえない雄一郎。困るだろうねこれは。そんならいったいどうすりゃいいんだって感じだろうね。」
「『あいつ、ゲームに乗ったんだ…』っていうつぶやきはよかったですね。またそれを聞いて『ゲーム…』と繰り返す梅本もいい。誰かを殺して自分がその人間になりかわるという前代未聞の犯罪の動機としては、金とか恨みとかよりむしろ、これはゲームだって言われた方が納得できるかも知れませんね。その方がふさわしいというか。」
「実に現代的な事件だよ。うん。」
 
■都屋社長室〜みどりタクシー〜新児のアパート■
「そろって仰天してる役員たち。彼らの心中お察ししますだよねー。」
「秘書はいなくなるは社長はいなくなるは、そしたら今度は殺人事件で社長が重要参考人…。『いったい何がどうなってるんだ』ってわめきたい気分じゃないですか?」
「そして同じくオブチ君もびっくり。あんな真面目な『魚ちゃん』が、殺人事件の重要参考人だとはね。こういうのを『寝耳に水』っていうんだろな。」
「新児の部屋からは、どうみても女のものである長い髪の毛が採取されて、彼の容疑は着々と固められていきますけど、こういう時に大家さんて立ちあわないんですか?」
「いや、所有者は立ちあうと思うよ。まぁそこまで厳密にやらなくていいシーンだろうけど。」
「夜道を帰ってくる有季子は…これ、考えてみれば大変だったでしょうね、帰り。」
「いえたねー。あの海岸がどこだったのかは知らないけど、ああしてイロイロ盛り上がることが可能なスポットであるからには、国道のそばとか駅の近くだとか、間違ってもそんな場所じゃないことだけは確かだろぉ。そんなとこに有季子はひとり、置いてかれちゃった訳だからねぇ。」
「現実問題として困りますよね。この疲れきった表情はそのせいかも(笑)」
「そうか歩き疲れたのか、なるほどね。するとそこへ、さすがはドラマだというタイミングのよさでやってくる車。これについてはひなつ様から『わざわざ来なくたって携帯にかければいいのに』って、もっともなご意見が出てる。」
「確かに(笑)まぁ説明つけようと思えばつきますけどね。」
「そうだね。有季子はもう梅本に辞表を出してはいるから、すぐに来いと命令されても拒否することはできる。だから『有無を言わさずつれてこい』って、梅本は部下に言ったのかな。」
「ちひろの死体、と聞いてショックを受ける鷹男を、ここで有季子は見つめますよね。この表情は何なんでしょう。むしろ同情に近いような。」
「うん。鷹男がちひろを探していたのはただの単純な義務感じゃない、とは女なら一発で判ったろうからね。そういう時って普通は嫉妬するもんだけど、前から新児に惹かれている有季子の心にとって、鷹男は正直なとこ、戦友的な位置づけになってるんだろうね。しかも彼女はすでにこの時、新児と心ばかりか体まで重ねている、という。」
「でも総括的な話になりますけど、このドラマって、最初の構想よりもだんだん恋愛色が薄まっていったんじゃないかって感じしません? この鷹男も、内心では有季子を一途に想い続けてるってキャラでもない訳ですよね。」
「うん。鷹男のちひろへの気持ちは、ストーリーだけ見れば単なる責任感のみとも思えるんだけどね。でも『都築雄一郎のことを徹底的にあばくまでお前には会わない』とさえ言ってた鷹男が、その舌の根も乾かないうちに有季子に会ったのは、ちひろが失踪したからでしょ。あの病院の庭で『俺のせいだ』って言う鷹男をじっと見てた有季子の目。ああいうシーンを見せられるとね、ごくごく単純な責任感だけだとは、やっぱどうしても思えないよ。」
「有季子を乗せた車が走り去ったあとの、壁にズルズル背中をこすってしゃがみこむ鷹男はよかったですね。フラッシュバックするちひろの笑顔の美しさが、象徴的だと思います。」
「このシーンの吾郎はいいよね。しゃがみこむのももちろんだけど、最初に有季子に『おかえり』って言う時の表情、深みがあってすごくよかった。」
 
■警視庁〜海岸〜化粧室〜会議室■
「梅本管理官、かっけーわぁ…。男も女も関係なく有季子のパワーを認めてるっていうか、こいつならやれるだろうって判ってるっていうか、…理想的な上司だね私なんかにすれば。」
「でも警察官て、自分の指紋をどこかに登録しておくんでしょうか。『お前の指紋も出てきた』って言うけど、よく有季子のだって判りましたね。指紋に性別はないでしょうし、仁美の指紋だってあったろうし。」
「あ、それは私もひっかかった。もしかして梅本さん、本心は有季子のことも疑ってんじゃないのかなって。」
「いや、案外そうかも知れませんよ。有季子の能力は認めつつも感情で目を曇らせはしない。そういう怖い上司なんですよ。」
「うーんますます理想的だ…。気に入ったぜ梅本(笑)」
「新児が車を乗り捨てた海岸、これはどこなんでしょうね。」
「有季子とイロイロ盛り上がった場所とは、全然違うところだろうね。」
「そりゃそうでしょう。あれからあちこち走り回って、都屋に戻れる程度のガソリンしかなくなった頃に、新児は車を降りたんですよきっと。」
「あ、それっていい解釈かも。車に関してはプロだもんね新児は。完全にカラになるまで乗り回しはしない気がする。そういうとこ、すごく几帳面だよ多分。」
「シートに置かれた上着の内側の、Y.Tsuzukiの縫い取りが悲しいですね。あの服を脱いだとき新児は、都築雄一郎の名前も脱ぎ捨てたんでしょう。」
「しかし有季子は何でカオ洗ってんのかね。捜査会議の前に気合入れてんのか?」
「洗うとどうしても化粧崩れしますよね。洗っても落ちないメイクってあるんですか? …って智子さんはノーメイクの人ですよね。失礼。」
「いや私だって昔はさ、それなり各種塗ったくったよ。でもさぁ、何かメンドー臭くなってきてねぇ。化粧なんてあんまり意味のないことに思えてきた。うん。」
「まぁ個人の考え方ですからね。別にどっちでもいいとは思いますけど。せめてもうちょっと小綺麗に…いえ何でもありません。で、この捜査会議での有季子の立場は、梅本という強力なバックに守られて復権を果たしたってところでしょうね。」
「ほんとほんと。へっ、どーせアタシはこぎたないよ。あの感じの悪い同僚いたやん。捜査二課のさ。あいつなんかにしてみりゃあ、有季子の復権はムカつくだろうけどね。」
「そういえば話を聞いている捜査員の中に左ききがいましたよ。メモ取ってる手が左だった。」
「相変わらずよく見てんねヤエガキ。でもって梅本は最初に“都築雄一郎”の写真を映し、次に“魚住新児”を映すんだけど、2人の顔が何とおんなじ。思わずどよめく捜査員たちの中にあって、大沢管理官も黙っちゃいなかったね。」
「ののさん殺しの件ですか。やっぱり持ち出してきましたね。」
「そうそう。しかしこのスライドだかプロジェクターだかの写真は、会議の前にあらかじめセットしてあるんだろうに、ここでタイミングよくののさんの写真が映し出されるのは腑に落ちないなー。『ちょっと待って下さい』と言ってる以上、有季子は今ののさんの話には触れないつもりだったんじゃない?」
「まぁそうでしょうけどね。あんまり細かいこと言ってもキリがないですよ。ドラマの虚構性です。」
「まぁな。重箱のスミだけどさ。んで大沢は有季子を『お前は同僚を殺した男を逃がす気か』と責める。現実に捜査会議の席で、曲がりなりにも管理官たる男がこんな感情的なこと言うかはともかく、有季子のさ、『死ぬ覚悟をしてると思います』っていう唐突なセリフ。これって多分彼女の直感が言わせた言葉だよね。体を知った者だけに判るシックス・センスっていうか。」
「ああ、そうでしょうね。大沢に反論する言葉を探しているうち、はっきりと捉えられた直感でしょうか。」
「ここでオープニングタイトル、12分44秒。さすが時間拡大の最終回、プロローグにもたっぷり時間とったね。」
 
■警察署前〜ロビー〜マシン室■
「ここでさぁ。私、ヤーな予感がしたんだよなー。もしかして新児はこのガキに刺し殺されるんとちゃうか?って。」
「この時点で予想がついたんですか? 大当たりじゃないですか。」
「多分さぁ、ミヤベの息子が新児を殺す、ってプロットが決まったの、けっこうギリギリになってからだと思うのよ。だってほらこの息子って、登場したのが前回だし、しかもその前の回のおさらいのシーンにいきなり挿入されてる。だからかどうか、伏線の張り方がすごくありがち。『都築雄一郎ってお父さんの会社の社長なのか』って確かめるあたりがさ、これは伏線ですよって言ってるみたいでバレバレなんだよねー。」
「僕が気になったのはですね、細かいことだって自分で言っといてアレなんですけど、ここで暁(あきら)が有季子に差し出すフロッピー、あの剥き出しはちょっと…ねぇ。危なすぎますよね。」
「言えた言えた! あんなんで重要証拠がロードエラー起こしたらどうすんのよね。ケースに入れなさいケースに。各種記録媒体の中で、フロッピーは一番信頼性が低いんだから。」
「あとはミヤベさんのパソコンがMacだったら…とかも考えたんですけど(笑)」
「(笑)したらウィンドウズじゃ読めねーもんね。共通互換のフォーマットでもしてありゃ別だけど。」
「こういうのを“あら探し”っていうんでしょうね。やっちゃいけないコトですよ(笑)」
「その通り(笑)でも楽しいんだコレがな! はっはっはっ!」
 
■雄一郎の病室■
「これさ、雄一郎もさ、パスポート申請書のコピーなんぞより、昔の父親の話とかさ、本人じゃなきゃ判んないことを話して聞かせればいいのにね。都屋の役員…それこそ松宮さんあたりが聞けば判るだろうし、子供の頃の雄一郎なら知ってる人もいるんでしょ? あとはそうよ、綾子とか。電話で話はしてるんだもん。」
「でも警察はおそらく、この男が都築雄一郎だとしたら、つまりは経理部長殺しの容疑者な訳ですから、さらに慎重を期してるんだと思いますよ。」
「ああ、それはあるかもね確かにね。」
 
■署内の一室〜公園■
「あのね、八重垣くんね。私この最終回がオンエアされた翌日のカナペで『着地大失敗』って書いたやん。」
「ええ。」
「あん時はホントにそう思ってさ、暗澹たる気持ちだったんだけど、何度か見返してるうちに気づいたの。これは着地失敗じゃなくて、着地直前のパフォーマンスで失敗してるんだって。」
「パフォーマンスで、ですか。」
「そう。どういうことかっていうとつまり、変に緊迫感を増そうとしてヘンな演出入れちゃったんだね。最終回になってじたばたしたっていうか、クライマックス直前をサスペンスタッチに盛り上げようとした…。
このドラマさ、途中からサスペンスものっていうより人間ドラマの様相を呈してきたじゃない。新児という主人公にそれだけの立体感と存在感があったんだよね。だからこそ客寄せ的なベッドシーンもやめたんじゃないかと、私はそう思うんだけど。」
「そうですね。ヘンな小細工は豊川さんに似合わないですよ。」
「なのに、ここへきてそれをやっちゃったんだな。ヘンな小細工をさ。視聴者の目を離させまいとして、オモチャを与えようとした。それがこの、妙に刑事モノっぽいサスペンス調の伏線ね。中でも最大の失敗がこのシーン。梅本と有季子の会話。」
「フロッピーから印刷した資料を見せられた梅本は、有季子に『都屋の件はこっちでやるからお前は魚住を探せ』って言いますよね。このあたりがまずいんですか?」
「まずい。大いにまずいぞ。ののさん殺しは大沢の仕業だとか、魚住が死ねばその罪も彼にいく、だから絶対に生きてつかまえるんだとか、最悪大沢が魚住の命を狙うかも、とか…そんなセリフを入れたのが失敗だったね。
だってさ、これらは全部いわば“逆伏線”…ことごとくに外れちゃう、叶うことのない狙いだよね。それをこんなに思わせぶりに力説しちゃうと、視聴者の期待はドーッとそっちに傾いちゃうんだよ。
『おおっ、いよいよクライマックス! ふんふん、これは多分、最後に新児は大沢の罠にかかって殺されかけるんじゃないか? そこに間一髪でボンドガールのように飛び込んできた有季子が、彼を庇って撃たれながらも「あなたは生きて。生きて立派に罪をつぐなって魚住新児に戻るのよ!」とか叫ぶんじゃないか!?』って、そんな気がしてくんのよ。
そういう俗っぽい、でもインパクトがあるといえばたっぷりある、娯楽色の強い判りやすいラストに導くのかと思いきや、かなり文学的で思い入れの深い、『そうか…。しんみり…。はー(溜息)』って感じのラストだったでしょう。
そんな渋いラストの前に、カラフルなアメ玉置いちゃダメだってば。俗っぽい方が人間、強く印象に残っちゃうんだから。例えればお茶席に出されたチリソース味のピザみたい。そんな味のキツイもんを先に食べさせたらさ、お濃茶(こいちゃ)のしっとりした甘さなんか判る訳ないじゃん。舌がマヒしちゃうよ。それと全く同じことが、この最終回では起きたんだと思うね。」
「なるほど…。つまり今までこのドラマ全体を包んでいた、象徴的で深みのある空気と、それにふさわしい余韻のあるラストには全然合ってない伏線を、ここへ来て張りすぎたってことですね。」
「そうですその通りです。しかもこの梅本の、『大沢が魚住の命を狙うかも』なんていうセリフにかぶせて新児の背中なんか映すもんだから、これからどんな衝撃的なラストが新児を待ち受けているのか、こっちゃイヤでも期待するちゅーの。ああもう全く、悔しいなぁ…。せっかくの上質な空気をさ、妙なアトラクションでぶっ壊された気分だよ。
これねぇ、お父さんが死んで悲しみにくれていた暁が、有季子の訪問をきっかけにフロッピーのことを思い出して、中身を自分で調べたってエピソードにすりゃいいのにさぁ。でもって暁は『都築雄一郎…?』とか何とかつぶやいて、部屋に積んであるマンガ雑誌の山の中からあのボーダーを引っぱり出して、食い入るように写真を見るとかさ。そうすれば不幸なこの子の悲劇性も高まって、新児の最期がすごく納得のいく雰囲気になったと思うよぉ。ほんとに最後の最後でさぁ。視聴者の目を惹こうとして失敗したんじゃないだろか。」
「だとしたら残念ですよね。残念ていうか、もったいない。ここでの新児の背中はすごく寂しそうで、いい感じですもんね。」
「そうなのそうなの。セリフもなく表情も映さず、背中だけで語る新児の心。もうね、このドラマはね、豊川さんが全てを支えてたと声を大にして言い切るね私は。この最終回を何とか着地にもってったのは、1から10までどころか15万5千くらいまで、豊川さんの力だと思うよ。」
「無言の説得力って奴なんですよね。どんなシーンにも豊川さんはそれがあった。この公園でブランコを揺らしながら、子供みたいに足で砂をこすりますよね。たかがこれだけのことなのに、切ないですよねぇ。」
「うん。ブランコを『こぐ』んじゃないんだよね。『揺らす』なんだよね。楽しそうに遊ぶ子供たちと新児の背中の対比…。あのさ、さっき言った『サスペンスタッチの余計な伏線』がこの最終回にとって不要だったんだって気づいてからはさ、私、それを意識して気持ちからはずして、見るようにしてみたのね。そうするとまぁアナタ、素晴らしいんだよねこの最終回。
つまり極論すればさ、要は豊川さんだけ見てりゃいいのよ(笑)キャラクターがストーリーに優(まさ)ってる。となきち総長がおっしゃってたけど、今のこの、役者としてアブラの乗りきった豊川さんを、心底使いこなせるドラマってのはないのかねー! ほんとにもったいないと思うよ。うん。」
「そういうのはTVじゃなく、映画とかじゃないと無理なのかも知れませんね。」
「銀幕のスター。そうあるべき人なのかな、豊川さんは。」
 
■病院〜公園・鷹男と仁美■
「これ、仁美は双葉会病院を…辞めるんですかね、辞めさせられるんですかね。」
「多分さぁ、日本独特の『辞めざるを得なくなった』って奴じゃないか? 『彼女はどうやら犯人を知っていて警察にマークされているらしい』なんて知れ渡ったら、いかにドクターの信頼が厚い婦長でも、病院の経営側が彼女を切りにかかるでしょお。これが現実の冷たさよ。」
「村八分じゃないですけど、そういう『迷惑をかける奴は出ていけ』みたいな意識こそが、実はいじめの根本原因だと僕は思いますね。この体質は日本人みんなが持ってるんだな。」
「そもそも『和を以て尊しとなす』と言ったのは、日本のスーパーウルトラ大スター・聖徳太子だからねー。これはいわば、和を乱す者は悪であるって理論じゃん。もちろんそれで正しい面もあるけど、悪い面もたくさんあるよね。」
「この若い看護婦さん…桜庭さんですか。彼女が泣いてるのは、自分が刑事に『婦長のところに来ていたお客さん』、つまり新児のことを教えたから、婦長をつらい立場に追い込んでしまったって意識なんでしょうね。」
「でもまぁ何はともあれ、こんなふうにポロポロ泣いて送ってくれるのは嬉しいもんだよ。この子は仁美から看護婦としての大切なことを、いっぱい教えてもらったんだろうね。」
「仁美が、まるで魂が抜けたような状態なのは、自分が辞めることよりも、新児が犯人だってことの方がショックなのかも知れませんね。ドア越しに雄一郎に謝ってますしね。」
「でもさぁ、仁美はもう十分すぎるほど、罪ほろぼししてると思うよ。だって雄一郎が回復したのはひとえに仁美のおかげな訳じゃない。」
「だけど果たして雄一郎は、それが判る男でしょうかね。」
「ほんとは判るんだと思うよ。だってさ、ちひろが持ってたあの写真て、そもそも雄一郎の手帳に挟んであったんじゃん。死んだ母親との思い出をいつも持って歩いてた雄一郎は、実は思いやりのある優しい人間なんじゃないの。仁美に笑いかけてた無垢な顔。あれが彼の正体なんだよきっと。」
「ああ、そうかも知れませんねぇ…。いい笑顔でしたよあれは。」
「ところでここでの鷹男なんだけどね。私としてはすっごく嫌だなこういうキャラ。もちろん吾郎が云々じゃないよ。純粋に『河瀬鷹男』ってキャラがね。何でこんなセリフ言わせるんだろうと思って。」
「新児がどこに行ったかを仁美に聞く、その聞き方ですか?」
「うん。前回のラストで鷹男はさ、車に牽かれそこねた仁美のバッグに入ってた、新児とさやかちゃんの写真を見てるじゃない。それを胸に抱いて泣きくずれた仁美を知ってるじゃない。たとえ犯罪者だろうと何だろうと、この人は魚住新児を愛してる。それを知っていながら『魚住が行きそうなところ』とか『あいつあなたに会いに来た』とか『どうしてもあいつを許せない』なんてセリフを…残酷なんて上等なモンじゃない、鈍感で無神経なセリフをさ、平気で吐ける男にしてほしくないよ鷹男を。5つ6つのガキならともかく。
愛する人が罪を犯した、仁美は今どんなに辛い? 自分の憎しみにとらわれて、それを思いやれない人間はサイテーだよ。仁美がちひろを殺したっつーなら敵討ちしたっていいけどね。…ッたくもー井上さぁん。ちと後味悪いぜこのシーン…。」
「でもそれは井上由美子さんと智子さんの、まぁ、言ってみれば感性の違いなんですから、しょうがないんじゃないですか?」
「そうなんだけどねぇ。でもさぁ、ここで鷹男を無神経な男にして、何かメリットあんのかなぁ。ちひろの死を知ってカッとなって、新児の行き先を仁美に聞きにきたようなものの、辛そうな顔を見たら何も聞けなくなっちゃって、そこで仁美は問わず語りに言う。『あなたが何を聞きに来たのかは判るけど、あの人がどこへ行ったかなんて知らない。私が知っているのは、あの人が私と娘にはとても優しかったということだけ。』…こんな感じじゃまずいのかね。え? ヤエガキ。あんたはどう思う。」
「どう思うって振られても…。まぁ確かに仁美の胸の痛みが伝わってきて、彼女がますます可哀相になりますけれどね。」
 
■路上・有季子〜都屋社長室■
「最初見た時さ、有季子を尾行(ツケ)てるのは的場刑事か、もしくは大沢に指示されたヒットマンか!とかって思ってたんだけど、後になって考えるとこれ、多分ミヤベの息子だよね。これもどうかと思うなぁ…。いくら尾行が苦手とはいえ、現職の刑事があんなガキに尾行されて気づかないなんてさ。これもやっぱ変に緊迫感を煽ろうとする、余計な伏線の1つだよなー。」
「一方の都屋では、またまた役員たちが右往左往している。この役員たちって扱いようによってはちょっと面白いキャラですよね。トリオロス・アミーゴ的じゃないですか。」
「言えたかも知んない。『あいつは一体何者なんだ』って、そんなこと男3人で話し合うのも間が抜けてんもんね。『つい2日前まではここにデンと座っていた』って言って机をドンと叩くのがいいや。するとちょうどそこに、ディレクターにQ出しされたのかってタイミングのよさで現れる綾子。まるっきりあれだよね、『太陽にほえろ』の山村刑事みたいだね。いつも最高のタイミングで1係の部屋に入ってくんだあの人。」
「『パタリロ!』にもそんなネタがありましたね。」
「おっと(笑)さすがはオタッキー八重垣。ちゃんと押さえてんな。」
「綾子を呼び戻したっていうか、彼女に事の次第を連絡したのは結城なんでしょうね。よくもまぁコロコロと主人を変えるよなこの男も。」
「でも多分ね、綾子は自分が追放された日の結城の態度は忘れてないと思うよ。どっちに付くのが自分に有利か、いっつも測ってる風見鶏オトコ。綾子にもやがて、それなりの扱いされるでしょお。彼女も別に真剣に結城に惚れてる訳じゃあんめぇ。」
「じゃあお互い様ってところですね。」
「ここで笑ったのはさ、綾子に『本当に誰も気がつかなかったのか』って聞かれて言い訳してる役員たちに、『偽物に敬語を使うな!』って言う松宮さんね。妙にリアルでおかしい。」
「新児が欲しかったのは金と権力だけだって綾子は主張しますけど、松宮さんは違うんじゃないかって言いますよね。そりゃそうだよな、他人になりかわるなんてハイリスクな行為を、普通は金ほしさだけじゃやりませんよ。」
「やんないやんない。やる訳ないそんなの。」
「綾子は社長席にどっかり座りこんで、『社長には専門知識なんかいらないことがこれで判っただろう』って言いますよね。ひょっとして都屋の次期社長は綾子になるのかな。」
「かも知んないね。唯一新児を偽物と見破ったってことで、株主たちに評価されそう。カナダの別荘は手に入ったし邪魔な役員どもは総入れ替えだろうし、ミレニアム天国だね綾子はね。」
「机の表面にはねかえる光がいいですね。権力の象徴って感じで。」
 
■墓前・新児■
「ここもまたセリフのないシーン。ここってさやかちゃんのお墓なのと同時に、『魚住家之墓』ってあるからには新児のお父さんやお母さんも眠ってるんだよね。」
「そうか。昔と今の新児の家族が、みんなここに眠ってるんだ。」
「枯れた花と汚れたぬいぐるみは仁美が供えたもんだろうけど、私さぁ…駄目なんだこういうの。ポンと置かれた雨ざらしのぬいぐるみってキツすぎるよ。たった独りでここに置かれてるあのキリンの子供が可哀相になっちゃう。人間の形した人形は何とも思わないんだけどね。動物…特に鳥はダメ。涙出てくるマジで。」
「智子さんの前世って鳥だったんでしょ? あひると会話ができるんでしたっけ。」
「いやあひるじゃなくてニワトリ。膝の上にニワトリ抱いてさ、寝かしちゃえるよ私。特技:鳥を寝かしつけること(笑)手乗りなら100%寝るね。」
「変な特技もあったもんですねぇ。」
「まぁそれはどうでもいいとして、新児のさぁ、この汚れたGパンのおヒップがいいわねぇ…。このジャケットなんてさぁ、よれよれで埃臭くって、大してあったかくもないだろうけど、このスタイルの新児は実に魅力的。男性本来の色気みたいなのを感じるよね。30過ぎないとこれは出せないんだ。女性でいえば山口智子さんとか飯島直子さんの魅力ね。小娘や青二才には出せない色香。キミも頑張りたまえよ八重垣。充実した高密度なフェロモン。」
「フェロモンを頑張るんですか(笑)判りました、努力します。」
 
■新児のアパート〜夜道■
「余計な伏線パート2。新児の部屋での有季子と大沢の会話。こんなんがあるせいで視聴者は、ののさん殺しの犯人が誰なのか、どうやってそれが明らかになるのか…そっちを期待しちゃうんだって。『私、逃げませんから。』、『そうか。気をつけろよ。』のやりとりを聞いて、有季子の身にも危険が及ぶのかと思っちゃう。全くもってとんでもない気の持たせ方だよ。これじゃあ全部が『肩透かし』になっちゃうよね。」
「肩透かし…。うん、それなんですよ、この最終回に感じた正直な感想は。」
「だよねー。でもそれはひとえに、こういう火曜サスペンス的な味つけによって、通俗的な、より強い刺激をラストに求めた結果だからね。このシーンはさ、有季子が新児の部屋に入って来てね、大勢の鑑識たちの念入りな捜査を見て絶句するまででよかったと思うよ。前回有季子は、新児がどんな人間なのか『この部屋を見て判ったの』って言ったじゃん。その部屋が鑑識たちにいわば『荒らされて』いるんだ。有季子の胸はしめつけられて当然でしょお。」
「そうですね。そういうシーンにした方が統一はとれたと思います。」
「夜になって、赤いパイロットランプを闇に光らせているパトカーのすぐそばを、ポケットに手をつっこんで歩いていく新児。大して現金も持ってる訳じゃないだろうし、この寒空にどこで眠るつもりなんだろうね。体に新聞巻きつけて寝るとあったかいっていうけどさ。」
「暗闇にひっそり振り返る新児のシルエットにさえ、存在感がありますよねぇ…。」
「これね、今気がついたんだけど、この最終回で新児はまだ一言もしゃべってないのね。わーわー言ってるのは回りの人間たちだけで、当の本人は影のように押し黙っている。すごく象徴的な演出で、こういうのはいいと思うけどね。」
 
■新児の部屋・有季子と鷹男■
「別にさぁ、鷹男を嫌う訳じゃないけどさ、でもこの部屋には来てほしくなかったなぁ。これってつまり私の視点が完全に新児の側に立っちゃってる証拠なんだけど、この部屋は新児の内面ていうか、人に知られない素顔な訳じゃん。毎朝コーヒーたててパンのお弁当作って、そういうinsideな世界だよね。そこに有季子がいる場面で、新児以外の男に来てほしくない…。何かすっごくそう思った。新児の心に土足で入り込まれるみたいで。」
「立場ないですね鷹男も(笑)でもここでまた思わせぶりな演出がされてますよ。家宅捜索のあとをきちんと片づけてやってる有季子は、誰かの足音を聞いて耳をそばだてる。ノブが動いて扉があき入ってきたのは―――って、これじゃあ誰でも、来たのは新児だと思いますよね。」
「そうなんだよね。ッとにもぉここまできて、しつっこく余計な演出すんなっつの。いちいち肩透かし喰らってると、しまいに腹が立ってくるつーに。」
「あと、前後しますけど『さやかちゃん基金』の…ビラなんですかねこれは。これについては智子さんどう思いますか。実際にあったっていうその、友達にカンパしてもらった人の話を前回話したばかりだったから、僕はちょっと驚いたんですけど。」
「あたしも驚いた(笑)まさかスタッフ、ココ見てんのかよとか馬鹿なこと考えちゃったよ。でもさ、魚住新児が金を欲しがっていたことを裏づけるこんな重要な資料を、捜査してた大沢たちは押収していかなかったのかね。」
「写真には撮ったんでしょうきっと。でもこの紙がここにあったってことは、実際に募金は行われたんですかね。でも結局7千万円も集まらなかったと…。」
「いや、ビラは作ったようなもんの実際に活動はしなかったって気がするね私は。だってもしも活動してたとしたら、誰ひとり協力しないなんてことはぜってーないと思うもん。たとえ10万か20万だけでも、集まりはしたと思うよ。とすればその有り難さにさ、この頭がよくて感性の鋭い夫婦が気づかないはずはないよ。たとえ千円札1枚だって、この世に金の成る木はないんだから、それはその人が何かと引き換えに、やっと手にした報酬じゃん。それを自分たちのために手放してくれた。こんな幸せが他にあるもんか。そう思ったら『底無しの無力感』なんて感じる訳ないと思うんだ。特にあのしっかり者の仁美は落ち込む新児を励まして、何があっても離婚なんかするはずない。私はそう思うけどね。」
「じゃあこの資料は…作ったはものの活用しなかった。もしくは…そう、間に合わなかった…?」
「そのへんは解釈次第だけどね。間に合わなかったってところじゃないかな。だったら新児が底無しの無力感を感じてもおかしくない。運命まで自分たちを見放したんだ、みたいな。」
「第1回めの座談会で言いましたけど、つくづくツイてない男ですね新児は。」
「そうだよねぇ…っておいおい、ここで話そうとしたのは新児のことじゃないよ、テーマは有季子と鷹男の会話。」
「あ、そうでしたね(笑)ええとねぇ…。1泊30万のスイートルームっていうのはいくら何でも無理だと思いますけどね。だって30日で900万ですよ。普通のサラリーマンの年収じゃないですか。僕より多いですよ。ふざけんなだよ全く。」
「ねー。そうだよねぇ。帰国してすぐの間くらいはさ、会社で手配してくれるだろうけど、せいぜいそんなの1週間程度で、あとは社宅に放り込まれるよね。」
「ええ。そうじゃなきゃいけません。ずるいですよ。いいことないよそんなことしてると。」
「それこそ芸能人とかね。どっかの石油王ならイザ知らず…。でもこのシーンで1つだけ意味があったのは、鷹男の言った一言…『俺があいつだったらさ、死ぬまでにそれだけは結論出したいな。』これを聞いて有季子は、新児が向かうだろう場所は双葉会病院だって判ったんだね。」
「何かに気づいた表情の有季子と、『え?』って様子の鷹男がいいですね。有季子は自分の気づいたことを鷹男には言わなかったんでしょうか。」
「言わなかったんじゃないの? 新児が双葉会病院に現れるかも、なんて聞いたら鷹男は黙ってないっしょ。仁美の悲しみを無視してまで、行き先を聞き出そうとした相手だよ。」
「ですよね。それに有季子も、今となっては他の男と一緒に新児に会おうなんて思わないだろうし。」
「そう思うと気の毒かもね、鷹男ちゃん(笑)」
 
■病室・新児と雄一郎■
「このシーンてさ、最終回の中で新児が実際に言葉を発する唯一の場面なんだよね。」
「そうですね。新児が部屋に入ってきてすぐ、ビクッと身を引いた雄一郎は素直でいいと思います。」
「やっぱ恐怖は残ってるよね。ほら前回もあの親切な運転手さんの白手袋を見て、パニックになったくらいなんだから。」
「『お前を道連れにする気なんてないよ』と聞いてひとまず安心したのか、急に態度がデカくなりますね。」
「うん。言うことがいちいち俗物だよねコイツ。目の前にいる、不気味なほど穏やかな新児の態度に不審とか感じなかったのかな。」
「感じたのかも知れませんけど、とにかく雄一郎って男は新児をギャフンと言わせたくてしょうがないんでしょう。」
「だろうね。精一杯『俺はお前より上なんだ』って突っ張ってる雄一郎は、ある意味滑稽かも。『俺の人生とお前の人生の違いを聞かせろ』って言われたあと新児は、ゆっくり笑うようにまばたきをして『何から聞きたい』って問い返すんだよね。あくまでも下手に出て、決して逆らわずに。」
「新児が1つだけ反論した、看護婦の話にはハッとしましたよ。見てた訳じゃなくても新児には、仁美だったらそうするだろうって判るんですね。」
「さすがは元夫婦だよなぁ。言われて一瞬黙っちゃう雄一郎もいいね。ほんとは優しい奴のくせに。父親と別れた寂しい家庭に育って成績もよくなくて、やっとの思いで這い上がって得た財力のせいで、雄一郎は人の心に素直に感謝できなくなっちゃったんだろうね。」
「そう思うと、哀れですよね雄一郎も。」
「そんな雄一郎の言いたい放題を最初はただ黙って聞いてた新児だけど、ちひろを殺したことを告げたあたりから立場は逆転するね。自分を殺そうとしたばかりか、秘書の女まで殺してる男が目の前にいると判って、雄一郎もさすがに悪寒がしただろうし、しかもそのことを顔色ひとつ変えず淡々と語られることの怖さ。」
「単に、金や権力を自慢してるのとは訳が違いますからね。『殺したよ』って言う時の新児の横顔が、逆光の中にアップになるのがすごく象徴的でした。」
「新児の雰囲気がさ、だんだん凄味を増してくるんだよね。グーッと温度計の目盛りが上がるみたいに濃くなっていく。穏やかな笑顔を浮かべたまま、冷酷無比な悪魔に変わる。『教えてくれ、俺はなぜ彼女を殺したんだ』っていう質問は、雄一郎の足元に口をあけた奈落への入口だったんだね。」
「そんなことに気づきもせず雄一郎は、『お前は俺とのゲームにも人生にも負けたんだ』と言い放ってしまう。まさに天に吐いた唾ですね。」
「『自分のやってしまったことを聞いてもらいたかった。話せる相手はもうお前しかいなかった』って、聞きようによっては美しき友情の言葉は、実は呪詛に近いんだよね。それを明かす前に新児は、有季子のことを話して聞かせる。ここでのセリフはシェイクスピアばりに詩的だね。
『女がいるんだ。名前がなくなった俺でも追い続けてくれる女が。だから俺は逃げる。安らうことも休むこともなく、永遠に幸せに触れることもなく、逃げ続けるんだ』…。」
「人を殺して、名前を捨てて、そんな新児にとって最後に残ったのは、ハヤミ・ユキコという“あの女”だったんですね。疑惑と憎しみと悲しみに駆り立てられながら、追って、追われる『危険な関係』―――つまりこれがタイトルの意味なのか。」
「全くもぉこのドラマは、タイトルの説明まで豊川さんにしてもらっちゃったか。でもってここで新児は雄一郎に、さっきの呪詛の真義を明かす。『俺とお前は一緒じゃないか。だからお前に会いにきたんだよ。』正に呪いの矢だよねこれ。うっすらと笑った顔が、悪魔―――いや、ある人の言った通り『メフィストフェレス』って言った方がいいか。天国と地獄を自由自在に行き来できる者…。」
「有季子という存在が新児にはあったけれど、『この世はラベルが全てだ』と信じていた雄一郎には、それ以外に何もなかった。だから彼に新児を呼び止めさせたのは、ひょっとして孤独への恐怖かも知れませんね。」
「白い光を背中に受けて振り向いた新児は、今やもう全く別の存在になり終えていた。『誰だ魚住って。』…このシーンの迫力だけは、最初のオンエアで見た時からビデオを見返してる時まで変わってないね。てゆーかこのシーンはさ、最終回に施された『通俗的な安っぽい伏線』をアタマっから打ち消してる。ここだけ重量感が違うもんね他のシーンとは。」
「何ていうか、ここだけ空気が『映画』ですよね。それくらいの完成度があるシーンだと思います。」
「新児が出ていったあと、ベッドの上で独り笑う雄一郎。この男にはもう何もない。唯一誇れる立派なラベルは他人の血で汚れてしまった。次に自分に貼られるのは『殺人者』という禍々しいレッテル。」
「さっき『お前は人生に負けたんだ』と言った自分の言葉が、ここで天から降りかかってくるんですね。」
「しかしさぁ、もう1度総括的に振り返ってみても、ここでの豊川さんはもぉ独壇場って感じだね。工場の跡地でドンパチやるような即物的で判りやすい『対決』じゃなく、かくもスタティックでロジカルな対決に、有無を言わさぬ説得力を与えてくれた。この場面がなかったらさ、『危険な関係』の最終回は墜落どころか空中分解だったよ。『さんざ思わせぶりした結果がアレか!』ってブチ切れたかも知んない。」
「チープな伏線が束になってかかってきても、豊川さんの存在感には負けるってことですね。」
「そういうこと。最後の最後まで唸らされました私は。」
 
■病院・新児と有季子■
「そしてその『チープな伏線』のパート3がここ。この、階段を下りてくる新児と上がっていく有季子ね。ただ歩くだけのシーンにこれだけ秒数割いてさ、結局行き違うだけの2人。
いいんだよ行き違うこと自体は。全てが無意味に打ち消されてしまう、それが真の破滅なんだから。新児にののさん殺しの濡れ衣がかぶせられないよう、早く逮捕しろという梅本のはからいも、もしかしたら一緒に逃げてもいいと思ってる有季子の気持ちも、永遠に逃げ続けようという新児の決意も、何もかもが一瞬にして儚く散ってしまった…。そういうラストは悪くないよ。
でもねー。その直前に至ってねー。ドアをあけた後ろに立ってるのが誰なのかをしょっちゅう思わせぶりしてたあの小細工手法を、引きずるんじゃねぇって言いたいよ。往生際が悪いっていうか思い切りが悪いっていうか…。この階段のグルグルシーン見せられたら、誰だって2人は階段の途中で鉢合わせするんだって思うやん。運命の皮肉と新児の悲劇を、さぁ、今こそ歌い上げるぞというその寸前までさぁ、こんな意味のない演出するんじゃねぇよ。こういう小つまらないパフォーマンスで大失敗してんだよ。」
「確かに、警備員が巡回してる通用口らしきところに無事新児が現れた時、『何だよ』と思いましたからね。そんな思わせぶりに時間取るなら、むしろここで2人が『出会えなかった』ことを、もっとドラマチックに強調した方がよかったんじゃないでしょうか。」
「同感! その通りよ八重垣! これさ、2人の歩いてる階段は全然別なんだって判るような演出にすればよかったんだよね。スローモーションとかオーバーラップとか使ってさ。BGMにそれこそ『over the rainbow』でもかけて、…下りてくる新児、上っていく有季子。すれ違う2つの人生と運命。もしここで出会っていたら2人は、全く違う道を行ったかも知れないというのに、ああ全てが儚く崩れてしまう。波に洗われる砂の城のように。―――こういう雰囲気には出来なかったんかい中江先生よぅ。」
「うん…。そんな感じだったらこのあとの新児のシーンにも、綺麗にマッチしたでしょうからね。…で、階段を上り終えて廊下を歩いていく有季子は、何かに慌てている看護婦の姿を見て『あれ?』って顔しますよね。これはやっぱり雄一郎に何かあったと見ていいんでしょうか。」
「多分そうじゃない? 首でも吊ったか窓から飛び降りたか。着替えもなくあの格好で逃げるはずはなし、もう1度昏睡状態に戻るのも都合よすぎるし。」
「せっかく助かったのに、仁美が聞いたら悲しむでしょうね。」
 
■病院の廊下〜工事中の道路■
「2つのシーンが切り替わって交互にあらわれるけど、ここはもう新児オンリーでいくよ。廊下の方は歩いてるだけだから(笑)」
「誰かにツケられてることは新児も気づいたみたいですね。さっきの双葉会病院のシーンで、中に入っていく有季子のことをじっと見ている影がありましたけど、あれは暁だったんですね。」
「そうだね。昼間から彼女をツケて病院にたどりついて、そしたら新児が出てくるのを見つけたと、そういうことだと思うよ。」
「自分をツケてくる足音に新児は気づいたけれど、まさかいきなり刺されるとは思わなかったでしょうね。」
「驚きと激痛と運命のアイロニーに言葉を失っている主人公・新児を、かくも凄絶に表現している豊川さんに対しては、この暁役の子のストレートさはかえっていいかも知れないね。中途半端に芸達者な役者さんよりさ、『お芝居なんて全然してませ〜ん』ていう直球。声変わりしたばっかみたいな掠れ声は、それだけで十分に『若さの狂気』を思い起こさせるし。」
「得な役っていうか、そのまんまですよね(笑)」
「台本棒読み、ただし熱演っていうね。でもよかったと思うよ暁。さも今時の中学生で。」
「新児を襲った運命のアイロニーか。つくづく皮肉ですよね。都築雄一郎の名も魚住新児の名も捨てた『彼』は、本物の都築雄一郎の罪をかぶって、偽の都築雄一郎として死んでいく。」
「父親を殺された少年の『純粋な怒り』っていうのは、犯罪には違いないけども、見ようによっては人間としてまっとうな感情だもんね。いやいやだからといって人を殺していい訳じゃないよ。そこは暁も間違ってるけども、少なくとも自分の秘密や権利を守るために人を殺すよりはずっと人間的。
そしてその『純粋な怒り』が新児を裁いた。法律でも陰謀でもない『人間の感情』が彼を殺した。それが判っているから新児は、暁に向かって『やめてくれ、人違いだ』とわめかなかった。自分の腹に深くささったナイフを確かめて、満足したかのように笑った。傍らには最後に愛した女のおぼろに美しい横顔がある。…最後の瞬間の新児は、もしかしたら幸せだったかも知れないね。」
「『over the rainbow』がここでも効いてますね。座った姿勢で息絶える新児は、天使の前で膝まづいてるみたいに見えました。」
 
■カタストロフ(終焉部)〜町並みなど■
「夜のうちに、1人の悲しい男が死んだ。そんな些細なことには気づかぬ顔で、朝日が昇り街は動き出す。新宿駅、客待ちタクシーの行列、都屋の店舗と本社、主を失った社長室、ガランとしたアパートの部屋。かつてここに誰かがいたと告げるのは、流し台に置き忘れられたブルーのコーヒーカップだけ…か。」
「ずいぶん文章が謳ってますね(笑)確かに音楽的な映像だと思いますけど。」
「映像もそうだけどここでのナレーションね。Gジャンとカシミアのコートの話。これは今までの全ナレーションの中で、筆頭の出来だと私は思うねー。今まではさ、妙に情緒に流れて意味を持たない、駆け出しの少女マンガ家のネームみたいなセンテンスだったのが、今回は違うよコレ。今までの文章はアシスタントが書いてたんじゃないかって疑いたくなるほど。」
「『カシミアのコートを盗んだのは、本当は古いGジャンのよさを確かめたかったからなんだ』っていうのが、まさに新児の本心を語り尽くしてる感じですよね。」
 
■編集部〜路上〜町の病院〜都屋スーパー〜歩道■
「河瀬鷹男くんの処女作。仕上がったみたいですね。」
「都屋は都屋で、綾子新社長のもと大胆な金儲け作戦に出た、と。駅前の再開発を今の時期にやるなんてかなり注目されるだろうし、多分成功するよこのプロジェクト。」
「新社長はやっぱり綾子なんですか?」
「いや知らない(笑)知らないけどそういうことにしとこうよ。お金が大好きな女だから、案外利益に敏感かも知れないし。」
「女っていえば、この編集長が鷹男を見る目が、何となく惚れ惚れしてるように見えるんですけど。」
「鷹男はやっぱ、男としても一回り大きくなってるんじゃない? やけにカッコいいって言われて『そうかなぁ』って笑う顔に、以前より余裕を感じるもん。」
「彼も何かを乗り越えた…いや、乗り越えつつあるんでしょうね。」
「でもタイトルが『虹』つーのはどうだかな。『危険な関係』の方が私はいいと思う。本にしたって売れると思うよ。『虹』じゃ童話か詩集みたいだよ。」
「この編集長に反対されて、出版時には『危険な関係』に変えるんじゃないですか。」
「あ、それもアリかもね。しかしここに入るナレーションは、これまたアシスタントが書いてるぞ(笑)何だか小学校の道徳の教科書みたいじゃん。『1つしかない自分の人生を大切にいたしませう、マル』って感じ。」
「仁美がいるこの病院は、どこかの大きめの町医者でしょうね。内科外科小児科、何でもありの。」
「仁美は懲戒免職にはなってないだろうから、再就職には困らなかっただろうね。こんないい看護婦さんが面接に来たら、雇わない院長はいないと思うよ。」
「受付らしき机に新児とさやかちゃんの写真が挟んであるってことは、仁美は診察以外のほとんどの業務を一手に引き受けてやってるんでしょうね。」
「忙しいけど充実した、患者さんとも心の触れ合ういい職場なんじゃないかな。その証拠に仁美の笑顔、元に戻ってるやん。」
「いい笑顔ですよね。この笑顔で大抵の病気は治せますよ。」
「そうだね。いい医者より貴重な、いい看護婦さんだよね。世の中には意地の悪い看護婦ってのがいるからさ。」
「僕は滅多に病院行きませんから、行くたんびに新しい診察券作ってますよ(笑)」
「何よりだよそれが。健康第一! でもって心なしか晴れ晴れとした顔の鷹男は、都屋スーパーで花を買う。シクラメンが出てるってことはまだ冬なんだよなー。500枚という原稿を鷹男はいつ仕上げたんだろう。」
「以前から少しずつ書いてたんじゃありません? 推理しながらまとめてた分もあるだろうし。」
「いいよなフリーライターは。書く時間がたっぷりあってさ。会社勤めしてたらぜってー無理だぜ。」
「歩道を行く鷹男の前に見えるのは、空にかかる虹と車椅子の女の子・藤城夏恵。もしかして夏恵は時間があるとこうして、新児の車を待ってるのかな。」
「多分そうなんだろうけど、この虹はもぉいい加減にしろだよなー。冬場の東京の空気がどれくらい乾燥してると思っとる。もぉ唇ガサガサ静電気パリパリ。虹なんて出る訳ねぇだろぉー!みたいな。」
「いえ、この虹は一種の心象風景でしょう。実際の空には出ていなくても、鷹男の目には見えたんです。」
「まぁそういうことだろうね。空にかかる虹が見えたから、彼は夏恵に花をあげたのかな。1輪の真っ赤な薔薇の花を。」
 
■葺合警察署〜タクシーの中、有季子■
「このあたりのシーンはね、初回オンエアの時はもう、割り切れなさもここに極まれりって気分で見てたけど、着陸直前のパフォーマンスを省いて見るようになったあとは、けっこうしんみり胸に迫ったね。
魚住新児を殺した犯人が暁だってことは、その後の捜査でおそらく解明されたんだと思う。だから有季子は少年課にいるんでしょ。まさか『TEAM』のラストがすごくよかったからって訳でもあるまい。」
「でも、多分視聴者も一番気になる『ののさん殺し』の犯人については、結局中途半端なんですよね。」
「全くもってその通りなんだけど、多分新児のせいにされて、真相は永遠に闇の中だよ。大失敗のパフォーマンスをバチッと切り捨てるとね、このラストはいきあたりばったりじゃない、こうしたくてこうなった結末なんだなと思う。有季子はもう、以前のようにキリキリとトンがってはいない。彼女は彼女なりに心の整理をつけたんだよ。」
「葺合署って、そんな僻地でもなさそうですよね。頭に『警視庁』ってあるからには都内でしょう。でもタクシーで『市役所まで』って言ってますから、これは都下ですかね。日野とか田無とか…。」
「有季子は飛ばされたんじゃなく、自分から転勤を希望したのかもね。暁の件で考えたんだよきっと。これからの自分のやるべきことを。」
「なるほどね。無理なく推論できますねこのへんは。」
「うん。次の、タクシーのシーンもなかなかいいよ。」
「感じのいい老ドライバーですよね。ここで初めて有季子は、新児の車に乗った時のことを思い出すという、この演出は正解でしょう。今まで心に封印していた涙が、ようやく有季子の頬を流れたんじゃないでしょうか。」
「有季子が思い出す記憶の中には、視聴者初見のものもあるじゃない。実はその映像が、けっこう意味のあることだったんだね。最初のオンエアでは『何なんだよ、このダラダラと訳判んねー回想は!』とか思ったんだけど。」
「そんなに評価が変わったんですか。失敗したのはパフォーマンスだって判っただけで。」
「うん。不味(まず)いのはサラダじゃなくてドレッシングだったの。だからもう1度葉っぱを集めてそのまま食べてみたら美味しかった。まぁ言ってみりゃそんな感じかな。」
「面白い例えですね。」
「あの時の新児はさ、自分の車に乗ってきた女性客が、何とも余裕のないツンツンとがった雰囲気で、時間に縛られプレッキャーに追われて笑顔を忘れていると知った。だから、書類に目を落としている彼女に、いきなり天気の話を振ったんだよ。『毎日こうやっていると空模様が変わるのが判る。街が全然違って見える。』
最初は『へーぇ』と興味もなさそうだった有季子が、次にトンネルを抜けた時には思わず窓の外を見た。虹が見えたのかどうかは判んないけど、有季子の表情はそこで優しいものになる。ほんのつかの間のことだったけど、新児は有季子に安らぎをあげた。バックミラーでその様子を確かめて、新児は嬉しそうに笑ってる。音の消えた世界に、曲のない『over the rainbow』が流れて、七色の光のかけはしに向かって、新児のタクシーは走っていく…。
なんかねぇ、3度めに見たとき、グスッとか来たね私。言葉じゃなくて映像が、新児の魂は救われたんだと繰り返し繰り返し言ってる気がして。
彼は有季子が言ったように、誰かと取り替えのきくような人間じゃなかった。ただの客と運転手の関係であっても、相手の心を読んで出来る限りの快適な時間をプレゼントしようとしていた。季節のうつろいとともに色を変える町並みの風情を愛し、はやっている店とそうでない店を見分け、この駅前はもっとこんな風にすれば住みやすくなるのにと考えていた。彼の車に乗った人は、みんな安心して目的地へ着けた。新児はそんな、素晴らしい男だった。彼は悪魔じゃない。こんなにも優しい笑顔を持った、寂しい天使だったのです。―――」
「へーえ…。何か、予想外だな、こんな展開の座談会になるなんて。」
「ねぇ。初回オンエアの時はどうなることかと思った(笑)でもね、今はいいドラマだったと思えるよ。エンドロールの最後に見せる新児の笑顔と、テーマ曲の歌詞がぴたっと重なってね。有季子も立派にヒロインだったな。鷹男もちひろも仁美もののさんも、みんなこの街に生きる天使たちだった。…な〜んてな(笑)」
「夏恵はどうですか。都築雄一郎なんか知らない、唯一、魚住新児だけに恋をした車椅子の女の子は。」
「そうそう、彼女だけは新児の中に天使しか見てなかった人。ちゃんと生きていればきっといつの日か、あの時と同じ優しい声で『乗りますか』と言ってくれる新児に会える。そう信じている彼女の胸にも、1人の天使が降り立ったんだと思うよ。」
「最後のあのウィンカーの音、よかったですよね。自分を待つために点滅してるランプの音。どこか人間の鼓動にも似てますよね。」
「うん。よかったねあれは。暗転して少しの間、音だけが残ってるのもよかった。」
「―――はい、という訳で第11回、最終回の座談会を以上で終わりたいと思います。本当にお疲れ様でした智子さん。」
「いやいや八重垣くんこそお疲れ様でした。無事に終了できてよかったねぇ。何より気分よく終わることができたのが、ほんにめでたいことですよ、うんうん。」
「本当にそれが何よりですよね。すっかり豊川ファンになったんじゃないですか?」
「はい(笑)もぉ今後は彼から目を離さないぜ。映画にドラマに、くまなくチェックする。まずは1月、『千年旅人』を見にいって、感想はまた『カナペ・バリエ』にUPしまっす。ビールのCMも始まるらしいし。」
「豊川さん以外の出演者たち…紀香さんもよかったし、涼子ちゃん最高でしたよね。もちろんイナガキもよかったですよ。こまかな表現が本当に上手くなったと思います。」
「いやー、やっぱののさんでしょお。以外にラブリィだった松宮さんもいいわ。」
「えーと、それではここでですね、座談会本編を終了しまして、引き続き番外編ということでですね、スペシャルゲストをお招きしているんですけれども。」
「えっ、スペシャルゲスト? それはもしかして、パスポート持参で真冬の津軽海峡を越えた、当座談会ネタ集め担当の…?」
「はい、北の国からミレニアム、トマコマイのひなつ様です。どうぞ!」
<<『タンホイザー序曲』のファンファーレ>>
「ども。どうもこんにちは初めまして、ひなつです。」
「ひなっちゃーん! いやーホントに来てくれたんだぁ! すんませんねぇ遠いところご足労頂いて。ほれ八重垣、ぼっけらこいてないで茶をもて茶を。ティーだってばティー!」
「ああ、はいはいすいません。少々お待ちを…。」
「今日は大丈夫でした? 雪で空港閉鎖とか、そんなことになってるんじゃないかなと心配してた。」
「閉鎖になんかなってないですよ。もう、どうしてその寒地ネタ好きかなぁ…。」
「そういえばアタシ、ひなつ様に4500円借りっぱなしだよね。あれっ5500円だっけ?」
「え? ああ、コンサのパンフとか?」
「そうそう。利息なしで立て替えて貰ったまんまの奴。あとで精算するからね、これが終わったら言ってね。」
「いえ、今精算されてもあれですから(笑)今度また、王子の舞台でお会いした時にでも。」
「はいどうぞひなつさん。粗茶ですが。あとこちらはお茶うけに、きんつばと芋ようかんを。」
「あっすいません! いやーん八重垣くんに入れてもらったお茶なんて、恐れおおくて飲めないですぅ! 頂きます。」
「ええどうぞどうぞ(笑)こっちに七福神あられもありますけど、これはまぁ、おみやげってことで。」
「えーそんな、そこまで気を使って頂いて…。ひなつ、カンゲキです。」
「しっかしひなつ様もメールと実物で雰囲気違うよねー。私は一緒でしょ、多分。」
「んー…… ノーコメント(笑)」
「巧いですね、かわすのが。見習わなきゃな僕も。」
「ちょっとぉヤエガキ。あたしのお茶は?」
「そこにお急須ありますから勝手に入れて下さい。ところでひなつさんのご自宅って、お庭に枯山水があるんですよね。」
「いや、だからそれはそうじゃなくて。違うんですよ、枯山水のようなものがあるっていう…。」
「なんだそうなんですか? 僕はまた、牧場主のお嬢さんか何かだと思った。」
「やだぁ、そんなんじゃないですよぉ。父に言っときますぅ、牧場主と思われてるよって。」
「おいこら。そこで2人して盛り上がってんじゃないよ。そろそろ行くよ番外編の本題!」
「ああはいはい。えーと、恒例の『トリプルT賞』発表ですね。」
「まぁ恒例ったって、今回が2回めなんだけどな。いろんなTV誌とかでドラマ大賞だの何だのやってる、あれにあやかって当座談会からも、何か賞を差し上げようというコンセプト。」
「賞品も賞金もありませんけどね。えー、それでは皆様お待たせしました。今回の『トリプルT賞』はひなつ様に選んで頂きました。ただしですね、豊川&稲垣両氏は、最初から審査対象外とさせて頂きました。」
「そうそう。このお二方がいらしたんじゃ、独占状態になるのは目に見えてるからな。それじゃあ面白くないんで、それ以外の方からってことにいたしました。」
「はい、それでは私ひなつが、謹んで発表させて頂きます。ドラマ『危険な関係』、最優秀演技賞は、仁美役の床嶋佳子さん!」
「いえ〜い、はーくしゅーっ!」
「うんうん、納得の審査結果ですね。続いては最優秀キャラクター賞です。フィギュアスケートでいうところの、これはプレゼンテーション・メリットのようなものです。」
「最優秀キャラクター賞は、やっぱりコレは『ののさん』です! 彼をおいて他にはいないんじゃないかと思います。」
「これも納得だね。同意見の方、多いんじゃないかな。」
「続いては『ひなつ特別賞』。さぁひなつさん、こちらの賞はどなたに?」
「はい、篠原涼子ちゃんですっ♪」
「ああね、やっぱりね。よかったもんね彼女。」
「はい。鷹男にとって気になるコになっていくにしたがって、私にとっても気になる存在になっていきました。そして何といってもあの第7話。魅せてくれましたよねぇ…。」
「そうですね。僕も大賛成です。さてそして最後に、今回は『最優秀品物賞』というのを設けさせて頂きました。このドラマにはですね、魅力的な小物・乗り物がたくさん登場しましたので、その中のどれか1つに、賞を出してしまおうという突飛な企画です。」
「実はこれが一番悩んだんですよ。ノミネートされた皆さんがそれぞれ素晴らしかったんで。」
「選ぶのって大変ですよね。ビストロのゲストの苦労が判ったんじゃないですか?」
「判りました。でももしあれに私が出たら、どんな料理であろうと王子のいる方を勝たせちゃうとは思うんですね、ええ。」
「なるほどね。それでは発表して頂きましょう、最優秀品物賞は!」
「第7回で脱げ落ちた、ちひろの靴。」
「靴、ですか。新児の自転車とかののさんのガムとか、並みいるライバルを押しのけてあの靴が。」
「はい。あれで、ちひろが自転車の後ろに乗せられてるのに気づいたというのもありますが、まるで2度と誰も拾うことのない『シンデレラの靴』のようでもあり、悲しかったです。」
「なるほどねぇ。シンデレラみたいだというのは、この座談会でも出た話でしたね。やはりあの第7回に感動した方はたくさんいらっしゃるようで、あのシーンはTV史に残る、名場面だったと思いますね。…以上、『トリプルT賞』の発表でした。受賞者の方々にどうぞ、今一度盛大な拍手をお送り下さい!」
<<拍手音>>
「はい、という訳で全ての予定を終えまして、この座談会も幕を下ろそうとしています。また何かの機会にこうやってね、受け身でドラマを流し見るんじゃなく、細部までこだわった『鑑賞』をね、してみたいと思うんですけれども。」
「だけど当分やんねーぞ(笑)今回はもぉほんと参った。Y2Kなんて騒ぎと重なったせいで、あたしゃ正直死ぬかと思った。寝ながらタイプしたことが一体何度あったことか。」
「ねぇ。実際にやる方は大変ですよねきっと。ほんとにお2人ともお疲れ様でした。ありがとうございました。」
「いえいえ、ひなつさんにもね、毎回鋭い切り口のネタを提供してもらって、本当に助かりました。またいつかサポートをよろしくお願いします。」
「いえこちらこそ。また呼んで下さい。」
「それでは皆様、3か月間おつきあい下さいましてありがとうございました。またいつかこんな形でお会いしましょう。パーソナリティーは私、八重垣悟と、」
「物心ついてから初めて、オンタイムで紅白を見られない大みそかを過ごす木村智子、そしてスペシャルゲストは!」
「あ、はい、えーと、ひなつでした。」
「ぶぶー! おいおい何か面白いこと言ってよ、面白いことをぉ。」
「えー…。私、駄目なんですよそういうのぉ…。冒険できないタイプなんですからぁ。」
「いいや、そんなことはないっ。キミには無限の可能性がある。はい5秒前! 4、3、2、1!」
「えーとっ! 日本じゃねーとか人間の住むとこじゃねーとか智子さんに好きなこと言われてますけど、関税なんかかからずに立派にカロン・セギュールのある、北海道のひなつでしたっ!」
「すっげー! 最後をビシッと決めてくれてありがとぉ!」
「それでは皆様、ご機嫌よう。…せーの、」
「「「よいお年をー!」」」
 

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