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ルージュの宝物

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 
ルージュは暗闇の中を走っていた。
しかしその身体のいたるところに傷を負っている。
 
こんなところで・・・こんなところで負けるわけには!
 
身体が言う事をきかない。いつしか意識を失い、倒れこんでしまった。
 
・・・・・・アイシャ・・・・・
 
ルージュは自分の無力を恨んでいた。
大切な存在一つを守れない自分。
 
アイシャ・・・今頃どうしているだろう。
どんなに怖い思いをしているだろう。
あたしが守ってやらなきゃ何もできない小さな子供なのに・・・
 
絶対許せない。あたしの大切なものを奪ったあいつら・・・
 
守れなかった・・・自分一人じゃ守れなかった・・・
 
もう何も信じられない・・・
 
   もう・・・
           誰も・・・
 
再び目を覚ました時、ルージュは満天の星空の下にいた。
その星空をぼうっと眺めながら・・・
 
スペースコロニー・アーク。
 
思い出されるのはあの日の記憶。
エメラルドを巡る攻防。
星の運命を賭けた戦い。
そして自分に何かを気付かせてくれた彼の事を。
 
ルージュはゆっくりと起き上がった。
そして何かに導かれるようにして再び歩き始めた。
エンジェルアイランドの自然は眩しい朝日を浴びて輝いた。
ナックルズは眩しさをこらえて果物を取っていた。
普段なら強い陽射しが苦手な彼はこんな時間に行動しないのだが。
ナックルズは取った果物を抱えて、彼がこしらえたであろう
洞穴の奥へ入っていった。
洞穴の奥には質素なベッドとテーブルがあった。
しかしベッドには先客がいるようである。
ナックルズは果物をテーブルの上にゴトンと置いて再び外へ出ようとした。
 
「うーん・・・」
「!」
「あ・・・あれ?あたし・・・」
「気がついたのか」
「あっ!あんた何・・・!」
「よう。ひさしぶりだな」
「あ、あんたあたしが寝てる間にヘンな事しなかったでしょうね?」
「冗談じゃねぇ!外でぶっ倒れてるお前をここまで運んできてやったんだぞ!」
「余計なお世話よ!あたしはあそこで野宿してただけなんだから!
 それに何よこの果物は?あたしがこんなに食べるとでも思ってるの?
 失礼しちゃうわ!」
「だ、誰がお前にやるって言った!?」
「あーら、素直じゃないんだから」
「そりゃこっちのセリフだっ!」
「ま、せっかくだからもらってあげるわ。あたしに食べられる方が
 果物も幸せでしょうしね」
「お前なあ〜・・」
 
ルージュはベッドから降りようとした。
 
「痛っ!」
「大丈夫かっ!?」
「さ、触んないでよ!・・・ちょっと足くじいてるだけよ」
「言い訳したって無駄だぜ。お前、傷だらけじゃないか。何があったんだ?」
「・・・・・・あんたに話しても笑われるだけだわ・・・」
「じゃあお前こんな所に何しに来たんだよ?俺に用があるんじゃないのか?
 それともまさかまたマスターエメラルドを・・・」
「そんなもの、とっくに・・・」
「じゃあ、話してみろよ」
「・・・」
 
ルージュは再びベッドに横たわり目を閉じた。
 
「こんなあたしにも命よりも大切なものがあるの。
 アイシャっていうの、小さな子供よ」
「アイシャ?お前、妹がいたのか?」
「ふふ・・妹なんてとんでもないわね」
「??」
「あたしは昔、ある組織に雇われて、有名な資産家の持つ宝石を盗んだ事があるの」
「その宝石、まさか・・・」
「そう・・カオスエメラルド。ま、あたしにとっては簡単な事だったわ。
 さっさといただいて報酬ももらって、それでおしまい。
 だと思ってた・・・でも・・・
 その組織は口封じのためにその資産家の夫婦を・・・」
「殺ったのか!?」
「・・・そして残ったのが、アイシャ・・・その夫婦の子供」
「な、なんて奴らだ!」
「あたし・・・こんな事になるなんて思ってもみなかった。
 あたしが、あの子の一番大切なものを奪ったのよ・・・」
 
(ルージュのバカ!大嫌いよ!)
(あたしの父さんと母さんを返して!)
(あたしの一番大切なものを、返して!!)
 
「そうか・・・それでお前は責任を感じて、その子供を引き取って育ててるのか」
「アイシャはあたしの事憎んでる。当然よね。どんなに優しくしたって
 あの子の心の傷は癒されないのよ」
「でも悪いのはその組織だ。お前は雇われてエメラルドを盗んだだけなんだろ?」
「・・・あの子には怒りをぶつける相手が必要なのよ・・・
 それにあたしがやらなかったら誰があの子の面倒をみるっていうの?
 とにかく今のあたしにとってはアイシャが全てなの・・・」
「それで、そのアイシャがどうしたんだ」
「奪われた。あいつらに・・あの組織に・・・誘拐された。
 きっとあの子をエサにしてあたしをおびきよせて、
 あの子ともども消すつもりなんだわ。おそらくまた、口封じのために」
「何だって!?それじゃ早く助けないと、アイシャの命も危ない!」
「そんな事わかってる!助けに行ったわ、罠だとわかっててもね!
 それで・・・このザマよ。あたし一人じゃ何もできやしなかった・・・」
「そうか。それで俺に協力してほしいってわけだな・・・」
「笑いたければ笑いなさいよ。わかってるわよ。こんな事言っても無駄だって事はね。
 あんたはこの島を離れられないんだから」
「・・・」
 
本当に、何でこんな所に助けを求めに来たんだろう。
あたしの話なんか信じてくれるはずはないのに。
助けてくれるはずはないのに。
 
「お前の傷が治ったら、すぐに出発しよう」
「!あ、あんた何言ってるのよ!あんたがいない間にマスターエメラルドが
 盗まれるかもしれないのよ!?」
「助けてほしいんじゃなかったのか?」
「だ、だけど!」
「エメラルドが盗まれても後で取り返せばいい。砕け散っても欠片を集めれば元に戻る。
 でもお前の大切なものは、一度砕け散ったら元に戻らない」
「でもあんた・・・エメラルドを守るのがあんたの使命なんでしょ?」
「そうだ。俺の使命だ。でも・・・そんな事よりも俺は・・・
 守るべきもの、大切なもの、それを踏みにじる奴が許せないんだ!!」
「・・・」
二人は組織の本部へと侵入した。
一人だった時の苦戦がうそのように、二人は快調に突き進んでいった。
やがて二人は中央の一室へと足を踏み入れた。
組織の首領らしき男がゆっくりとこちらを向いた。
 
「久しぶりだなルージュ君。元気そうでなによりだ」
「ええ、あんたたちの歓迎のおかげでね。で、アイシャはどこ?」
「心配はいらないさ。彼女は奥の部屋でおとなしくしているよ」
「お前が首領だな!すぐに人質を渡すんだ!」
「おやおや、人質とは人聞きが悪い・・・我々は両親を失った可哀想な子供を
 責任持って保護してやっているだけだがね」
「その両親を奪ったのはお前らじゃないか!」
「ふふふ・・確かに殺ったのは我々だ。しかしその全責任はルージュ、
 君にある事を忘れてはいないだろうな?」
「何!?」
「・・・・」
「我々はルージュにこう頼んだのだよ。エメラルドを盗み出し、そして
 その事を気付かれないように、偽物とすり替えて来いと。
 ルージュはエメラルドを手に入れた。しかし、偽物とすり替える事ができなかった。
 その失敗のためやむなく我々は手を打ったのだ。
 ルージュがもし失敗しなければ、アイシャは今も両親と幸せに暮らしていただろうな」
「・・・本当なのか?」
「・・・・・・・・・・今奴が言った通りよ・・・」
 
ルージュの目から悔しさがこぼれ落ちる。
 
「そういうわけだ。アイシャの両親を奪ったのはルージュだ。
 そんなお前がアイシャを育てようなど、できるはずはないのだ」
「うるさいっ!アイシャを本当に大切に思ってるのは、このルージュだ!
 確かにルージュに責任があるかもしれない・・・だとしたら
 それをつぐなうのもルージュしかいない!」
「・・・」
「そこまでアイシャと暮らす事を望むか・・・いいだろう。私も考えよう。
 ただしもちろんただで返すわけにはいかない。何かと交換といこうではないか」
「何かと・・・交換?」
「そうだ。とはいっても、子供一人の人生に関わる事だ。並大抵のものでは釣り合わない。
 そうだな・・・例えば・・・
 カオスエメラルドよりも遥かに巨大なエメラルドが存在すると聞く・・・」
「!!!」
「マスターエメラルドと呼ばれるものだね。それと交換するなら
 アイシャは返そうではないか。どうだね?ガーディアン君・・・」
「ど、どうしてその事を・・・」
「ふふふ、ルージュ、君が今までどこで何をしていたかは手に取るようにわかっているのだよ」
「・・・ちっ・・くしょうッ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいだろう」
「えっ!?」
「マスターエメラルドはお前らに渡す。だからアイシャを返してくれ」
「バカっ!何考えてんのよ?あんたがあれ程必死に守ってたエメラルドを
 こんな奴らにあっさり渡すって言うの!?」
 
首を掴むルージュの細腕をナックルズはそっと握って、首から離した。
そして心配するな、と言うかのように微笑んで見せた。
 
「さあ、アイシャを返してくれ」
「ふふ・・・物わかりのいいガーディアン君で良かったよ」
 
首領が合図を出すと奥の部屋から小さな女の子が出てきた。
 
「アイシャ!!」
「・・・ルージュ?」
「アイシャ!無事だったんだね!」
「助けに・・来てくれたの・・・」
「そうだよ・・・アイシャ・・・無事で良かった・・・」
「ルージュ・・・おねえ・・・ちゃん・・・」
「アイシャ!?」
「おねえちゃん!!」
「アイシャ・・あたしの事を姉さんと・・・
 さっき聞いてたでしょう、あんたはあたしのせいで・・・」
「いいの・・どんなにルージュを嫌いになっても父さんと母さんは帰ってこない・・・
 そんな事はわかってた。わかってたのに・・今まで意地悪して、ごめん・・・」
「何言ってるの、あんたが一番辛かったでしょうに・・・」
「あたしはもう大丈夫。父さんと母さんがいなくたって・・・
 あたしの事大切にしてくれる人がそばにいるから・・・」
 
ルージュは腕の中の温もりを二度と離すまいと思いきり抱き締めた。
やっと取り返した・・・いや、今やっと手に入れた、一番大切なものを。
 
「・・・・ぐすっ」
「・・・ナックルズ・・・」
「あ、ああ。よ、良かったじゃないか・・・ぐすっ」
「あの・・あたし・・・あんたに何て言ったらいいのか・・・」
「気にすんなって!マスターエメラルドの事なら、こいつらが大事に守るだろうさ。
 あ〜〜っ!やっとガーディアンから解放されたな!肩の荷が降りてスッキリしたぜ!
 おっとそうだ。エメラルドがなくなれば島が落っこっちまう。
 早く島のみんなに伝えてやらないとな!先に帰らせてもらうぜ!
 ・・・アイシャの事、大切にしろよ。じゃあな!」
「・・・あのおにいちゃん、ヘンな笑い方してたね」
「バカ。嘘つくの下手なんだから・・・」
 
そして浮遊島エンジェルアイランドは今は海に浮いている。
エメラルドの祭壇にはもう何も残っていない。
以前と変わっていないのは、赤い髪のハリモグラが見守っていることだけだった。
数週間後。
 
「気を付けてね、おねえちゃん」
「大丈夫よ。・・・大陸の南西300kmの島に巨大な宝石が安置されている・・・
 確かな情報ね」
「ねえ、おねえちゃん。おねえちゃんは悪い事するんじゃないよね。
 大切なもの、取り返しに行くんだよね」
「そうよ。だからそれまでいい子で待っててね」
 
漆黒の闇の中、白い身体が空を切った。
彼女の名はルージュ・ザ・バット。狙った獲物は逃さない―――


いかがでしたでしょうか。 このお話は、Rukaさんからメールをいただいた事がきっかけで考えました。 Rukaさんのメールがなかったらこのお話はできなかったんです。 Rukaさんに感謝。(^^ でも私は「LOVE」は書けません(^^; それでもそれなりに、二人のいい関係が表現できればと思いました。 オリジナルキャラのアイシャは最初考えた時は妹でした。 ルージュは妹のために宝石を集めていた・・・と考えましたが それじゃ宝石じゃなくても良さそうだったので(^^; アイシャの名前は、大体予測がつくと思いますが、アイシャドーから取りました。 ルージュがルージュなんで。安直ですね。(笑)
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