桜月夜

 寝支度を整えた土方は、窓辺で月を見ていた。

 湯治の効果と、の助けもあって、傷はかなり回復している。あと少しで前線にも出られるようになるはずだ。

 宇都宮で負傷してからの数か月、療養のために戦列を離れることは土方にとってもどかしいことだった。なのに自棄も起こさず、ここまで療養を優先して過ごせたのは、の存在が大きかった。

 負傷し意識を失った土方が、目を覚まして最初に見たのは、泣きはらした顔で看病するの姿だった。まるでこの世の終わりのような悲愴な顔で覗き込まれ、土方が目を覚ましたと知って、また泣かれた。あの顔を思うと、自棄を起こすことはできなかった。

 動けるようになるまでは日光の近くで療養し、いまは会津で斎藤と合流して、若松の旅館で療養している。その間、はずっと甲斐甲斐しく土方を看病して、片時も離れなかった。

「土方殿、もうお休みになっては」

 襖で仕切られた隣室から、寝支度を済ませたが入ってきた。眠る前に、いつになく夜更かしをしている土方の様子が気になったのだろう。

 土方が手を伸ばすと、は寄ってきて、土方が立ち上がるのを手伝う。本当は動き回るのに、もうそれほど介助を必要としていなかったが、いまはに触れたかった。

 の肩を借り、敷かれた布団まで歩く。土方は腰を下ろしながら、横になるのを手助けしようと身をかがめるの肩を引き寄せ、もろともに布団に倒れ込んだ。

「きゃっ」

 驚くが我に返る前に、土方は身を起こして、を組み敷く。はきょとんとした顔で土方を見上げていた。

 自分の状態がわかっていないに覆い被さり、土方は口づける。びくりとの肩が震えた。

 の唇を啄みながら、土方はの寝間着の裾に手を掛ける。寝間着の裾を捲り、腿を撫で上げると、は反射的に膝を閉じた。

 ようやくは、自分がいまなにをされているのか気付く。そして、土方がなにを求めているのかも。

「ふ…ぁっ」

 口づけの合間に悲鳴を上げたの顎をもう片方の手で捕らえ、薄く開いた口腔に舌を差し入れる。そうしながら、の脚を開かせ、その間に身体を割り込ませた。

 口づけにすっかり意識を奪われているは、唇を食まれ、上顎を舌で撫でられ、初めて感じる快美に戸惑うばかりだ。決して嫌なわけではない。けれど、どのように振る舞って、土方にどう応えればいいのか、わからない。

「…ぅん……」

 口をふさがれたが鼻でうめく。戸惑うに構わず、土方はの口内を思うさまに蹂躙した。すくむ舌を捕まえて、容赦なく絡め合せる。くちゅくちゅと水音がして、口の端からどちらのものともわからない唾液が零れる。

 の手は、最初に組み敷かれた時のまま、土方の肩にかかっている。だが、押し戻すでも縋るでもなく、それはただひたすら困惑していた。

 が抵抗しないとわかって、顎を抑えていた土方の手が離れ、の頬を優しく撫ではじめる。頬を撫で、額を撫でた土方の手は、さらに上に動いて、の髪を絡めながら頭を撫でる。

 頭を撫でられながら口づけられる心地よさは、強張っていたの体から力を奪うには充分すぎた。

 すっかり息が上がってしまったの唇を解放した土方は、そのまま唇を這わせて、耳や首筋を吸い上げる。はその刺激のひとつひとつに、ぴくりぴくりと身を震わせて反応した。

「声出していいぜ」

 低く告げて、土方はの腿を撫でていた手を寝間着の帯にかける。慣れた手つきで帯の結びを解くと、緩んだ袷に手を差し入れて、ぐっと胸元を大きく開いた。

 の豊かな乳房が月明かりに曝される。土方は乳房を掬うように揉み立てながら唇を首筋から乳房に這わせる。その道筋には、赤い痕が点々と残された。

「あ…っ、あ……はぁ……」

 吐息なのか喘ぎなのかわからない啼き声がの唇から零れる。誰にも与えられたことがない刺激が、感じたことがない快美になって、を襲っていた。

 の頭を撫でていた土方の手が離れ、身体をなぞりながら、秘所にたどり着く。触れた途端、は「やぁっ!」と叫んで逃れるように身をよじった。だが、土方はの腰をぐっと押さえつけて、逃げを許さなかった。

 そこは熱く潤み始めていた。だが、土方を受け入れるには、まだ足りない。滲み始めている蜜を指に絡めて、土方はそのすぐ上の敏感なところに触れる。

「ぁん…っ」

 びくん!とが身を震わせる。土方は敏感なところを撫でながら、もう片方の手は、変わらずに乳房の柔らかさを味わう。そして、先ほどとは違う理由で息を上げるの唇に口づけた。

「んん……ぁ…ん……」

 再び口腔を貪られて、の舌がおずおずと土方に応え始める。わけもわからないまま、は快美に馴らされ始めていた。

「はぁ…っ」

 ちゅぱ……と音を立てて、土方の唇が離れる。解放されたは大きく息をした。見上げた土方の目に、熱がこもっていることに気付く。いままで一度も見たことがない目だ。はそれを何と呼ぶのか知らなかったが、それは間違いなく、情欲を湛える雄の目だった。

 なにかを問いかけようとして、何をどう問えばいいのかわからず、は言葉を飲みこむ。その代わりに、腕を伸ばして、土方の首に回した。なにも言われなくても、土方にはそれで充分だった。

 の秘所に土方の指が差し入れられる。そこは敏感なところをくすぐられているうちにすっかり潤んでいて、男の指とはいえ1本くらいするりと飲みこんだ。

「え……? ……ぁ……」

 びくりと震えたの身体を柔らかく抑えつけ、ちゅぷちゅぷと音を立てながら、土方は秘所をかき回す。は荒い息を零しながら、されるままになっていた。時折、快いところを刺激されて、「あんっ!」と高い声が零れる。やがて指はもう1本増え、の狭い秘所を押し広げながら擦り上げた。

「あん……あ…っ、あ……」

 啼き声を上げることが恥ずかしいとか、考える余裕はもうに残っていなかった。土方の指にいいように啼かされて、秘所を解される。がくったりとなると、土方はたっぷり濡れた秘所から指を抜き、自身の猛りを押し当てた。

「最初だけ痛いからな」

 言うなり、の腰を両手で押さえてひと息に最奥まで押し入る。の喉から、声にならない悲鳴が漏れた。の指が土方の背に食い込む。

 しっかりと潤んでいた秘所は、土方自身を拒むことなく受け入れた。けれど、慣れぬそこは、きつく土方自身に絡みつく。そして、は全身を強張らせて、初めての痛みに耐えていた。

 すこしきつい体勢ながら、土方は伸び上っての唇に口づける。すっかり口づけに馴らされたは、痛みから逃れようとするかのように土方の口づけを受け止めた。

 乳房や腹を撫でながら口づけを繰り返しているうちに、の身体から余計な強張りが抜けていく。脚が自然に投げ出されるのを確かめてから、土方は腰を動かし始めた。

「あん……んぅ……ん……あぅ……」

 揺すられて漏れる声は、土方の唇に食まれてくぐもる。思うさま舌を絡められ、逞しい熱に穿たれて、はなにも考えられなくなっていった。




 が目を覚ましたのは、陽が上り始めるころだった。

 すぐ隣に、土方が眠っている。土方の寝間着はしどけなく乱れて、素肌の胸板が露わになっていた。

 意識を手放すように眠ってから、それほど時間は経っていないような気がする。土方は何度もを愛して、離してくれなかった。いまも、土方の腕はを抱き寄せるように回されている。

 かろうじての肩にかかっている寝間着は、完全に前が肌蹴ている。見えている肌には、無数の赤い痕がついていた。緩くひとつにまとめていた髪はすっかり解けている。これだけ近ければ、あられもなく乱れたこの有様は見えないだろうけれど、居た堪れないことに変わりはない。

 身仕舞をするために起き上がろうとしたら、ずきりと下腹が痛む。腰もすっかり立たなくなっていた。おまけに、土方の腕がずしりと重い。は仕方なくまた身を横たえると、寝間着を掻き合わせた。

 そっと手を伸ばし、土方の頬に手を這わせる。肌のぬくもりが手に伝わってきて、土方は生きているのだと、は実感してため息を零した。

 生きている。土方は生きている。もう心配いらないくらいに回復して、目の前で眠っている。

 身体を土方にすり寄せ、頬を土方の胸にぴたりとつけて、土方の背に腕を回して、は土方が生きている実感を味わう。

 よかった。この人が生きていて。

 まだ完全に傷が癒えたわけではないのに、激しく体を動かして、怪我が悪化したりはしていないだろうか。そんな思いが脳裏をかすめないではなかったが、それよりもいまは、土方のぬくもりを、存在を感じたくて、は土方の腕の中でもう一度目を閉じた。


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