「そういえばさ」
今日も今日とて、雲雀に逢いに来た並森中の応接室で、ディーノはふと浮かんだ疑問を口にした。
「恭弥、どうしてオレのこと、名前で呼ばないんだ?」
「…!!」
風紀委員の書類に目を通していた雲雀は、その瞬間、心底驚いた顔で硬直する。そんな雲雀の反応に、ディーノも驚いた。
「だってさ、オレは会ったときから恭弥のこと恭弥って呼んでただろ? でも、よくよく思い返すと、オレ、恭弥に名前で呼ばれたことない気がするんだよな」
「あなた」と「ねえ」と「ちょっと」は記憶にあるけど、と、ディーノは指を折って挙げていく。
「恭弥。オレのこと、名前で呼んでよ」
どんな理由で名前を呼んでくれないか、ディーノは知らなかったけれど、自分から言えば雲雀は拒むまい、と思っていた。しかし。
「そんなハレンチなこと、僕にしろって言うの!?」
ディーノに掛けられたのは、そんな雲雀の怒声。羞恥で頬を真っ赤にしているところまでは、予想と同じだというのに。
「誰があなたの名前なんて呼べるの? ふざけないで!」
ドカドカッとトンファーで殴りつけ、雲雀は応接室からディーノを叩き出した。予想に反した激しい反応に、ディーノは呆然と廊下に座り込む。
それは「恥ずかしくて名前なんて呼べるわけがないでしょ、バカ」と解釈するのだと教えてくれたのは、しばらく経ってから通りかかった草壁だった。