応接室に入ってきたディーノを見て、雲雀は眉間にシワを寄せた。
予告なしの訪問はなにも今日に限ったことではないし、特別に変わった服装もしていない。顔だって毎朝ちゃんと洗っているし、髪だってちゃんとセットしてきた。ディーノには、雲雀に顔を見るなり渋い顔をされる心当たりがない。
「なに、恭弥? オレ、なんか変?」
自分の身なりを確かめても、特におかしなところは見つからない。訊ねると、雲雀はあごに手を当てて考え込む。
「なんだよ、恭弥。気になることがあるなら、言えって」
「回って」
「え?」
「いいから」
仕方なく、ディーノはその場でくるりと回る。その様子を、雲雀はじっと見つめていた。
「これでいいか?」
「もう一回」
狐につままれたように、ディーノはふたたびくるりと回る。
「3回回って『わん』」
「………わん」
「ああ」
言われるままに3回転したディーノを見て、雲雀はようやく得心顔で頷いた。
「なんだよ、恭弥。もったいぶらねーで、言えって」
「あなたが、何かに似てる気がして、考えてたんだ」
「で? オレは何に似てたんだ?」
「ラッシーに似てた」
ラッシー。インドの飲み物。もとい、自分を売った飼い主の元へ戻るために何百キロという旅をしたコリー犬。
考え事がひとつ片付いた雲雀は、とてもすっきりした表情で、御満悦の笑みを浮かべたが、一方のディーノは、金色でゴージャスと言われたことを喜ぶべきか、犬に似ていると言われたことに落ち込むべきか、悩んだのだった。