ヒバリをさがせ!

 その日は朝からすでにおかしかった。

 登校する道すがら、風紀委員と黒服の姿をやたらと見かける。

「なんかあったみてーだな」

「うん、なんだろうね」

 山本が首を傾げる横で、綱吉は悪い予感がしていた。絶対、なにかが起きている。それも、自分とまったく関係なくはない、なにかが。

「10代目。ウロついてるのは跳ね馬のとこの奴ですよ」

 辺りを睥睨していた獄寺が、見知った顔を見かけて、声を上げた。綱吉はぎくりと立ち止まる。

 ディーノの部下と風紀委員。ということは、つまり、この状況の発生源は、考えるまでもなくディーノと雲雀だ。

 がっつりと、自分の知人が渦中だった。綱吉は内心で、もうどんな事態になっていてもおかしくないと予測する。もっとも、それがどんな事態かというところは、まったく見当がつかないけれど。

「お、ツナ」

 少し先の辻で数人の部下と話していたディーノが、綱吉たちに気付いて手を振る。ディーノの指示を受けた部下が走り去り、ディーノは綱吉が自分のところまで来るのを待っていた。

「おはようございます、ディーノさん。…朝から、どうしたんですか?」

「おはよ、ツナ、獄寺、山本。実は、恭弥を探してるんだ。連絡しようにも、オレ、携帯番号もメールアドレスも知らねーもんだから、こーして人海戦術で」

「昨夜は一緒じゃなかったんすか?」

 すぱーんと発せられた山本の質問に、横で聞いた綱吉と獄寺がぎょっとする。どうせ訊くなら〝今朝〟にしとけよ、とは、獄寺のつぶやきだが、どちらにしたって同じことだ。ここでそう訊ける山本は、本当にすごいと、綱吉は心底思う。

「一緒だったけど、朝メシ食った後、自宅に寄ってから学校行くって言うから、一旦別れたんだよな。で、このザマってわけだ」

 慣れているのか、どうとも思わないのか、ディーノはさらっと山本に答える。そこは流すのかと、綱吉は驚いた。ディーノと雲雀にすっかり振り回されている。

「ボス。向こうの交差点で、恭弥っぽいのがいたらしい」

 かかってきた電話を聞いていたロマーリオが、電話を切りながらディーノに声をかける。

「よっしゃ、すぐ行く。じゃ、ツナ。恭弥見かけたら、教えてくれ」

 そう言い残して、ディーノはロマーリオと共に走り去った。

「結局、跳ね馬がなんでヒバリを探してるのか、わかりませんでしたね」

「そうだね、獄寺君」

 呆気にとられたままディーノを見送った綱吉は、山本の「やべ、遅刻」というつぶやきで我に返ると、慌てて走り出した。



「沢田!」

 校門で服装検査をしていた草壁に、綱吉は呼び止められた。いったい何事かと、綱吉はビクビクしながら立ち止まる。

「あ、あの、なんでしょう?」

「委員長を見かけなかったか?」

「い、いえっ、見てませんけど」

 草壁に話しかけられることなど、ほぼ記憶にない綱吉は、草壁の大きなリーゼントがぶつからないよう距離を取りながら返事をする。

 草壁は、全体像は一向に知らないながら、雲雀とディーノとロマーリオと綱吉は、切り離して考えない方がいいと認識しているようだった。でなければ、綱吉に雲雀のことで話をする理由がない。

「見つけたら、大至急知らせてくれ」

「はっ、はいぃっ!」

 町中の風紀委員は、雲雀を見つけるためなのだと、このとき初めて理解できた綱吉は、おそるおそる言ってみる。

「あのぅ。ヒバリさんなら、ディーノさんたちも探していたので、協力すればすぐに見つかると…」

「ダメだ」

 即座に、草壁は言い切った。その様子だと、ディーノと協力するつもりはないらしい。

「あの金髪のイタリア人より先に、委員長を見つけなくてはならない。協力なんて、できるはずがない」

「…はぁ」

「理由は? ディーノさんとこは人数多いし、別に手伝ってもらうくらい、どうってもんでもねーんじゃねーの?」

 話を聞いていた山本が割って入ると、草壁は少し渋い顔をした。逡巡する様子からすると、あまり答えたい質問ではなかったらしい。

「手伝えってんなら、そのくらい教えろよ。10代目に頼みごとして、質問には答えらんねーってのは、おかしくねーか?」

 獄寺も下からすくい上げるような目つきで草壁を睨む。草壁はひとつため息を吐くと、重い口を開いた。

「今日の委員長は、非常に危険なのだ。特に、あのイタリア人に見つかっては、どうなるものか、見当もつかない。早急に所在を把握して、御身の安全の確保と、以降の警戒態勢の完備が、いまの風紀委員の最優先最重要項目だ」

「なんか…物々しいですね」

 雲雀がどういう風に危険なのか、さっぱり見当もつかない綱吉は、とりあえず素直な感想を言ってみた。

「沢田は、まだ今日の委員長を見ていないから、そう言えるんだ。…呼び止めてすまなかった。もう間もなく予鈴が鳴る。早く教室へ入れ」

 草壁の口調には、苦いものに混じって、悲壮な覚悟が漂っていた。



「なんすかね、副委員長のあの様子」

 昇降口で靴を履き替えながら、獄寺は校門の風紀委員を振り返る。いつのまにか、風紀委員はバリケードさながらに門を固めていた。意地でもディーノを校内に入れないつもりなのだろう。学ランリーゼントの集団が立ちふさがる様は、異様な迫力を醸し出している。

「ヒバリ、またなんかやったんじゃねーの? あいつ、ほんと目ぇ離せねーのな」

 あっけらかんと笑う山本は、本当の意味での危険が迫っているわけではないと思っているかのようだった。実際、本当に危険ならリボーンが知らせに来るだろうから、それほど心配することもないのかもしれない。

 風紀委員だけが警戒している雲雀の危険にアンバランスなものを感じながら、綱吉は靴を下駄箱にしまった。

「君たち、早く教室に入りなよ。咬み殺されたいなら別だけど」

 予鈴とともに雲雀の声がして、3人は慌てて振り返る。そこには、女子の旧服を着た雲雀が立っていた。

 女子の旧服。それは、紺のセーラー服だ。旧服の頃の規定では、紺のセーラー服に臙脂のスカーフ、スカートは膝丈のプリーツスカートで、紺のハイソックスとなっている。ただし、丈が合わなくなったせいかそれともワザとか、雲雀はそれを全体的に短めに着用していた。上着は腕を上げただけで腹が見えること確実だし、スカートは股下数センチだ。肩には風紀の腕章をつけた学ランを羽織っている。

 即座に、草壁が言うところの『非常に危険』を理解して、綱吉たちはがっくりと肩を落とした。確かにこれは危険だ。非常に危険だ。だが、方向性はものすごく間違っている危険だ。

「ディーノさんと風紀副委員長が探してたぜ」

「草壁にはもう会ってきたよ。草壁も君たちも、人を見るなり、なんなのそれ?」

 山本の言葉に、雲雀はイライラと応えた。自分のセーラー服姿と、きわどすぎるスカート丈が原因だとは、露ほども思っていないらしい。

「つーか、ヒバリ。てめー、そのカッコで風紀の巡回行ってきたのかよ?」

「悪いかい? 女子服だけど、ちゃんと規定通りだよ。文句言われる筋合い、ないと思うけど」

 紺色のスカートとの対比で余計に白く見える太ももから、必死に目を逸らす獄寺を、雲雀はじろりと睨んだ。

「あの、ヒバリさん、今日はどうして女子服なんですか? いつもは男子服着てましたよね?」

「本当は今日だって男子服の予定だったんだよ。なのに、ストックがみんなクリーニング中で、着れる制服がこれしかなかったんだ。制服は制服なのに、君たちが騒ぎすぎなんだよ」

 もちろん、クリーニング屋は咬み殺してきたけどね。と付け加えた雲雀に、ディーノのアンテナにひっかかったのはそのときか、と綱吉は納得した。

 はぁ、と3人がため息を吐いた昇降口に、チャイムが鳴り響く。

「本鈴、鳴ったね。じゃ、覚悟はいいかい?」

 雲雀はすちゃりとトンファーを構えた。


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