「なあ、恭弥」
ふと思いついた口調で、ディーノが雲雀を呼んだ。雲雀は「今度は何?」と思いながら顔を上げる。
「最近、テレビのコマーシャルでやってる歌あるだろ? 『1万年と2千年前から』ってヤツ」
「そういえば、そんな歌もあるね」
「あれ、同じことを恭弥に言ったら、恭弥はどうする?」
わくわくした目で、ディーノは雲雀の返事を待つ。雲雀は醒めた目でディーノを見つめ返した。
「あなたも僕も、1万2千年前から生きているわけ、ないでしょ。ありえないね」
きわめて実際的な言葉に、ディーノはがっくりとうなだれた。確かに、生きているのは22年前からだ。雲雀にいたっては、20年も経っていない。
「恭弥……」
「だってそうでしょ。出会ったときからって言われたら、さすがにちょっと考えたけど、まるでありえない年数を言われちゃね」
ため息混じりの雲雀の言葉は、文句のつけようもなく、正しい。けれど、もっと違うところにあったディーノのロマンは、粉々だ。
「そりゃそうだけど…。じゃあ、『1億と2千年経っても愛してる』?」
「なんでまたそんな途方もない年数なの?」
「さっきの歌の続きだよ。オレは、絶対恭弥だけを愛してるぜ。恭弥は?」
「バカなこと言わないで。そんなに長く生きてないでしょ」
粉々のディーノのロマンは、さらに追い討ちを受けて、さらさらと流れていく。ショックで情けない表情をするディーノに、雲雀は言わずにおくつもりだった一言を仕方なく口にした。
「でも、死ぬまでの間の何十年かくらいなら、約束してあげてもいいよ」